表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

非リアの高校生活

 時は2100年。日本という国はおよそ100年前のそれと比べて色々なものが変貌を遂げたらしい。真っ先に挙げられるのはなんといっても医療技術だ。寿命は流石にどうにもできないが怪我や病気はすぐ治せてしまう、そんな時代がやってきていた。とりあえず傷害保険とかいう概念は消失してしまったな。つまり、我々学生は怪我を気にせず部活に打ち込めるようになったのだ!




 ――まあ俺には関係ないけど。



 田舎から都会の高校にやってきてもう2週間が経つ。大半が中高一貫の持ち上がりのために、できあがっている人間関係に俺は馴染めなかった。いや、一貫とか関係なく俺は馴染めないか。


 ぼっちルート。これが俺――旭トウヤの日常。いつ頃からかは思い出せないが、気がついたら、ずっとこのような生活を送っていたように思う。結局、この3年間も1人で何をするでも無く消費してしまうのか……。


 そう思っていた。この《自我》が発現するまでは。《自我》とは、全国の、主に学生に発現したといういわば超能力。気がつけば俺にもその能力は宿っていて、それで面白い遊びを思いついたのだ。それをこれからお見せしよう……。




 学校からの帰り道。俺は1人で下校していた。クラスの誰とも話していないから当然だが。そのまま家には帰らず、近くの公園へと足を運ぶ。景色が綺麗で静かな所。デートスポットとしては申し分ないだろう。


 つまり、リア充という生き物の巣窟だ。そこへ堂々と入っていく。周りは誰も気にしない。リア充は非リアについてなんとも思わないから、とかそういう理由じゃない。そもそも俺だって場違いな所にいるのはなんとも言えない辛さがあるし、デートスポットをソロで探索できるほど強いメンタルは持っていない。


 ただ彼らに俺は見えていない。それだけだ。そしてこれが俺の《自我》――《不可視》だ。今は《不可視ん条約(ノー・アグリッション)》と名づけた技を使っている。これはこちらが攻撃する素振りを見せない限り、視認されないというもの。この状態のまま、適当なところで立ち止まり、辺りを見渡す。


 ベンチに1組、ブランコに1組、小道を歩いているのが……2組か。流石はデートスポット。リア充しかいない。カモが多くて嬉しい。そんなことを思いつつ、腰の2挺のハンドガン――当然ながらエアガンだが――に手をかける。


 この瞬間、《不可視ん条約》は解除されるので、すかさず《不可視》を発動させる。名前はまだ決めていないがこっちが本命だ。


 《不可視ん条約》との決定的な違いは何をしていても姿が消えるというところ。そして、足音までもが消せてしまうというところだ。つまり、どれだけ動いても位置がバレる事はない。


 ただし、30秒くらいしか使えないし、しばらくしないと発動してくれない。このインターバルは今一つ自分でも掴めない。なんともけったいな能力だ。だからのんびりはしていられない。まず、ベンチに座っているカップルへ凶弾を飛ばす。


 俺の改造エアガンの《(あや)》と《真奈(まな)》には睡眠薬入りのペイント弾が装填されている。それを顔面に喰らわせた後、返す刀でブランコにいるカップルにも発射する。当たったかどうかを確認せずに小道のカップルめがけて俺は駆け出す。射撃練習は小学校から趣味でやっている。外すハズがない。


 残りのカップルは何者かが潜んでいることに気づいたようだがもう遅い。手が届くくらいまで近づいて、的確に、素早く、無駄なく撃ち抜いてその場を立ち去る。


 ちょうど《不可視》が時間切れとなったので《不可視ん条約》を使用する。これで、そのうちリア充達が見るも無惨な姿で発見されるという寸法。


 ――リア充に屈辱を味あわせる。これがたまらないんだよなあ。高校に入って、《不可視》が発現してからもう何回もやっている。これは高校3年間を全て使う価値があると思う。


 やはりこんなことができる都会は最高だ。《自我》は全ての子供が持っているわけじゃないから、犯人探しなんてとてもできない。おまけに《不可視》の性質上、アシはつかないという自信がある。この絶対にバレない安心感は何とも言えない。こんな青春も悪くないな、明日はどこで襲撃しようかとか考えていた、その時だった。


「なあ、あっ……!?」


 右足に突如鋭い痛みが走った。飛んできた方向へ即座に《綾》を向ける。しかし、発砲する暇はなく途端に倒れて体が言う事を聞かなくなる。


 なんだ? 足に何かが刺さっているのか? 見るとそこには小さい針。薄い金色は夕日に照らされ視認しづらかった。恐らく、これが痛みの原因の正体。犯人の得物。こいつは犯人を突き止める手掛かりとなるはずだ……。


 なんとか針を引き抜き、握り締める。体はこれ以上動かない、ただ頭だけが必死に動いていた。


 ――どうして針が?まさかリア充の逆襲?あり得ない。完全に眠らせたハズだ。


 じゃあ通りすがりの誰か? そんな馬鹿な。俺はまだ誰にも見えていないハズ。どうして攻撃できたんだ?そもそも何のためにこんな事を?


 どれだけものを考えても疑問が浮かんでは消えるだけ。それ以外は何も閃かない。いや、1つだけ最悪の事態を思い出してしまう。


「《不可視ん条約》がっ……」


 さっき俺は針が刺さった時に反撃しようとした。あれは条約破棄に他ならない。つまり今、俺の姿は大衆に晒されていることになる。公園にいる人間はペイント弾で倒されたリア充、犯行に使われたエアガンを持っている俺。こんなところを誰かに見られでもしたら……。


 というか俺はここで死んでしまうのではないか?そんな考えが頭をよぎった途端に、血の気が引いていく。周りの景色が黒に侵食されていき、意識が遠のいていく。ああ、ここで俺の人生は終わるのか。


 くそ、最後に走馬灯くらい見せろよな……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ