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ただの馬鹿キャラは苛立ち。お馬鹿キャラはスパイス。という事を知った。この事に気づくきっかけを下さった感想を頂いた方に感謝です。

そして、一発芸のような短い言葉で笑わせて下さった感想をくれた数名にも感謝です。皆様の方が私よりセンスがあると思うので、是非何か作品を書いてみてください。最初は上手く書けないかもしれませんが、文章を書いたり作っていくうちに色々な発見がありますよ! 

そして一喜一憂したり恥ずかしさに身悶えする私の気持ちも是非知ってください!みんなも巻き込んでやる!



 夜会での活動目的を順調に果たしつつ、学園生活も充実させる為により一層ヒロイン役(偽)の動向に注意を払う。

 学園の中庭でお昼寝イベント(仮)では爆睡した挙句、眼鏡ストーカーにさえ発見されないまま夕刻を迎えたり、同じく学園内の中庭で繰り広げられるお弁当イベント(仮)は何故かアツアツのおでんモドキを用意して必死に食べる王太子以下取り巻きたちの涙ぐましい姿が報告として上がっている。


 設定的には乙女ゲーの舞台じゃなかったのか? ヒロイン役(仮)が原作に忠実に動いているとするならば、乙女ゲーじゃなくて完全なクソゲーだぞ!

 乙女ゲーとしてのの強制力も念のために警戒してはいたが、攻略対象であったはずの次兄が亡くなっている時点で、そんなものは存在しないとは思っていたが、ヒロイン役(仮)の残念具合により、間違いなくこの世界が現実である事を確認出来た。

 

 確認が済んでしまえば、後は計画を練るだけである。

 本物のヒロインであるクリスティナ嬢の望みでもある悪役令嬢にされるローズ様の解放………つまり婚約破棄が最終目的だ。


 その為の一番の難題が残念ヒロイン役でもあるユリアだ。

 あいつに任せておくと、きっと色々と失敗する。下手をすればローズ様や攻略対象者たち全てを巻き込んで盛大な自爆をしかねない。そして誰もいなくなったなんて結末は見たくない。


 ちなみに王太子一行の行動は監視しなくても耳に入ってくるようになった。その上、月に2度ほど仮面舞踏会にお邪魔をして下衆でナイスな噂話を収集しているので、得られる情報に事欠かない。

 仮面舞踏会が裏舞台であるなら、通常の夜会は表舞台だ。その表舞台では噂が上がっていないが、裏舞台では完全に王太子一行の馬鹿っぷりは広がっている。本当になんで国が動かないのか理解が出来ない。王家も完全に頭の中がお花畑だと考えた方が良さそうだ。


「申し訳ありません。お伺いしたい事がございますので、お時間を頂いて宜しいでしょうか?」


 この丁寧な口調で話しかけてきたお嬢様は、『人生の墓場ランク』の4つ星を獲得しているなかなか上位のお方だ。


「はい。構いません」


「あっ。こちらをお使い下さい。剣の授業の後で汗をおかきになられておりますでしょうから、汗を拭いて頂かないとお風邪を召されてしまいます」


 うん、このご令嬢は誰だ? 前回お会いした時は「あなたは黙って私の聞いたことに答えればいいのよ!」とか言っていたはずだ。その台詞がなかなかに高得点だった為に4つ星を獲得していたと記憶している。

 差し出された高級でもなんでもない安物のタオルに本音が見え隠れする。演技をするならもう少し頑張ってもらいたいものだ。まあ、一応ちゃんと礼は言っておいた。


「お聞きしたい事というのは、ラインバルト様と貴方様が次回参加する特別な夜会についてご存知であればお伺いしたいのですが………」


 最初に声をかけてきた時と違い、小声に変えてそっと尋ねてくる。うん、もう少し頑張ろう。せめて本題の前にもう1つ話題を振ろう。完全に面倒だってバレちゃうよ。

 それとあからさまに弱々しく振舞っても遅いからね! それに特別な夜会って仮面舞踏会でしょう? 完全に目的が捕食じゃん!!


「私は特別な夜会に参加する事はございませんが、今週末は私の従者としての仕事はしなくて良いと申し付かっております。このような情報で足りますでしょうか?」


「え、えぇ。十分ですわ。お忙しいところありがとうございました。剣の稽古頑張って下さいね」


 そもそも今週末は夜会に参加の予定はない。もちろん特別な方もだ。だから従者の仕事は頼んでいないので嘘は言っていない。

 しかも今週末に行なわれる特別な方の夜会は、普段私が行くような仮面舞踏会よりも大人な目的の夜会だ。何が起こっても自己責任だ。4つ星お嬢様には頑張ってきて欲しいものである。


「おいおい、あの4つ星変わりすぎじゃないか?」 「大丈夫だったか?」 「一体何をされたんだ?」


 豹変した4つ星お嬢様の様子から学友たちが心配して声を掛けてくれる。

 適当に話を盛って、焦って手段を選ばなくなってきている事を告げると、めでたく5つ星に昇格していた。まあ、来週学園に来れるかは分からない。昇格が無駄にならない事を祈ろうと思う。


 こんな感じでモブにはモブの苦労というものがある。

 それを癒してくれるのは仮面舞踏会だ。主にダンスと愚痴を言い合う場の方な! 大人の方じゃねぇぞ!!


 それと大変残念な事に見事に5つ星に昇格したお嬢様は学園を辞め、どこかの商人に嫁いでいった。ふっ。またつまらぬ者(お馬鹿な人)切って(ざまぁ)しまった。頑張って幸せになれよ。




 

 なんだかんだで最終学年になって3ヶ月が経った頃、私は6回目の仮面舞踏会に参加していた。


「リステル家の婚約者の噂話はご存知ですか?」


 仮面舞踏会での噂で家名を出すのは暗黙の了解で禁止されている。

 6度目の参加にも関わらず。毎回、偶然(・・)必ず顔を合わせることになったエンターテイナーにナンパされていたご令嬢とのダンスの最中、耳元で囁かれるように尋ねられた。


「えぇ。もちろん。『妖精の姫君』の事ですね。存じ上げております」


 『妖精の姫君』は本物のヒロインであるクリスティナ嬢の事だ。社交界もとても良い呼び名をつけると感心するばかりだ。

 ちなみにヒロイン役(偽)の呼び名は『野に咲く可憐な乙女』らしい。命名者が王太子で呼んでいるのもそいつらだけの為、社交界では『噂の毒婦』という正式名称が定着している。どう考えても手遅れのはずなのに、なぜまだ学園に残っていられるのか分からない。


(わたくし)にも同じ年の妹がおります。そして、妹の幸せを姉として願っております。その妹がもし『妖精の姫君』と同じ立場だとしたら、(わたくし)は次期当主様とご婚約頂きたいと思うのですが、『仮面の貴公子』様はこの考えをどうお思いになりますか?」


( 隠して~。お願いだから色々と隠して~ )


 ダンスを踊りながら必死に回りに声が聞こえないように距離をとる。すぐ近くには中立派貴族の筆頭である、とある侯爵家のご当主様がダンスを踊っていらっしゃるのだ。私が必死になるのも理解いただきたい。


「私が『妖精の姫君』と婚約を結べる立場であったとしたなら、私は『妖精の姫君』がご自身で選ぶべきだと考えます」


「それがお家争いの元になるとしてもでしょうか?」


「はい。何が幸せかは本人しか分からないと思いますので………」


「そうですね………」


 私の返事に気落ちしてしまった様子を見せた為、少しダンスのステップを早めて私に注意を向けさせる。


「それに『妖精の姫君』が選んだ家族を信じるというのはどうでしょうか?」


 上手く意図が伝わってくれると助かるが、素直に大丈夫だと言ってあげられない自分のヘタレ具合が恨めしい。


「確かに、妹が選んだ相手の家族であれば、上手く行くかもしれませんね………」


 まだ不安は拭いきれていないようではあるが、そこそこ意図は伝わったようだ。


「時に『仮面の貴公子』様にお兄様はいらっしゃいますか?」


( お願い~隠して~。 もうこのお嬢様、本気で隠す気ねぇよ! )


 普通尋ねるなら、(あに)と限定せずに兄弟(きょうだい)とするのが普通だ。つまり、そういう事だ。

 そして、お気づきかと思いますが、私のダンスのお相手はローズ様だ。


 あの本物のお馬鹿でエンターテイナーは、完璧な当て馬でもあったのだ。本気でその多才が惜しまれる。


「はい。『白き花の舞姫』と妹君の仲と同じくらいには、兄との仲が良いと自負しております」


 『白き花の舞姫』は私が付けたローズ様の仮面舞踏会での呼び名だ。今では、この名前で仮面舞踏会の場では通じるくらいに広がった。

 ちなみに由来は、仮面のデザインに白い花がモチーフに使われていたからだ。毎回デザイン自体は違うが白い花のモチーフだけは変えてなった。そして、最初に約束したダンスで会場を魅了した事から舞姫が追加された訳だ。王妃になるべく教育を受けたのだからダンスが上手いのは当然と言えば当然だが………。


 なぜ『白き花の舞姫』がこの事を話題に上げたのかは理解している。辺境伯の次期当主として指名を受けている人物が婚約者候補となっている公爵令嬢を差し置いて仮面舞踏会で遊び呆けている。そして長男でありながら次期当主になれなかった長兄がその公爵令嬢と婚約するのではないか?という噂が社交界で広がっているからである。


 ここで計画通りとニヤリと笑い所ではあるが、その公爵令嬢と仲が良い(訳じゃない)王太子を婚約者に持つ姉としては笑うに笑えない状況だ。

 おそらく自身の今後が明るくない事は既に理解していると思われる。そんな彼女がせめて妹だけでも幸せになって欲しいと願っているだけの事である。


 外から見れば跡継ぎ争いが勃発しそうな家に、その妹が嫁に行くかもしれないのである。心配するなというのが無理な話であった。今も不安を胸に抱いたままの彼女の姿を見ればその思いは嫌という程伝わってくる。

 自身の婚約者からも蔑ろにされているのだ。本人にとってそれがどれ程苦痛な事かを分かっているが故に暗黙の了解を破ってまで聞いてきたのだろう。


 実際のところは、長兄が私に対して頭を下げてまでクリスティナ嬢を譲って欲しいと願い出てきている。

 クリスティナ嬢の様子を見ても、完全に長兄に対しては恋する乙女状態だ。これで私と婚約したらそれこそ完全に悪役になってしまうわ。と叫びたいが叫ぶ事は出来ないし、教える事も出来ない。


 2重生活苦のストレスを解消する為に来ていた仮面舞踏会で、今ここに至って、重大な選択を迫られてしまったようだ。


「少し踊りすぎたようで暑くなってきてしまった。ご一緒に夜風でも当たりませんか?」


 通常であれば、夜遊びしませんか?の意味になるこの言葉を敢えて使う事で、彼女の反応を確かめる。彼女の立場、そして私への信頼………そして彼女が私をどう思っているのかが、これで分かる。


 恥ずかしながら、毎回、彼女が仮面舞踏会に来る事は知っていた。彼女の正体も最初の仮面舞踏会の時には気付いていた。通常の夜会で挨拶をしたりして面識は何度かあったのだ。気付かないはずはない。

 それに王権派の………我が家から見ても断っても全く問題ない家からの夜会の招待日が、必ず仮面舞踏会の日と重なっていたのだ。断れば私は仮面舞踏会に行くと探りを入れているような招待状に気付かないはずもない。


 本当に恥ずかしながら、私は恋をしているのかもしれない。王太子の婚約者であるこの悪役令嬢に………。 

 

「少しであればご一緒させて頂きます」


 そういって私の手をとってくれた。少なくとも夜会で遊び歩いている放蕩息子としては思われていない事に安心する。


 完全に人目を避けたバルコニーで連れ出した彼女を見つめる。月の光の中でも映える彼女の瞳は、苦難に立ち向かう色をしていた。

 まあ、モブである私に簡単に恋愛イベントが来るとは思っていなかったさ! 知っていたさ!! それでも………。


「どうか私だけは信じて頂けませんか? 貴方の妹君の幸せを私も願っております。それ以上に貴方の幸せも私は願っております」


 私の言葉に先程までの瞳の色が様子を変える。落ち着いて考えれば、妹を人質に何かしらの交換条件を出されるかも思われてもおかしくない状況であったのだ。自分のヘタレ具合だけでなくポンコツ具合にも嫌気がさす。


「この場でお約束させて頂きます。もし、貴方が絶望の淵に立たされるような時がくれば必ずお迎えに上がります。その時はどうかこの手を再びとって頂けますでしょうか?」


 キャラ作りの成果なのか。この幻想的な夜景の広がる景色のせいなのか。それとも彼女の瞳を見つめたせいなのかは分からないが、熱くなっていた胸のうちをそのまま言葉に出来た気がする。

 当然と言えば当然の反応で、彼女は完全に困惑している。あれだ………恋は盲目とはよく言ったものだ。そんな姿も心を揺さぶるだけだった。


 王太子の婚約者? そんなもの知らん!


 最初は家の事情、そして彼女の能力に目を付けて助ける事を考えていたが、今は自分の為に彼女を助ける。

 恋に落ちたのだ。障害は多ければ多いほど燃えるというものだ。 


 どうせ反乱を起こすのだ。一緒に攫っていってやるよ!


「この場でのお返事は不要です。この夜会に参加するのも今日で最後に致します。あなたを不安にさせない為に………そしてあなたを助ける為に」


 それだけ告げると手を引いて共に会場に戻る。さすが王妃教育を受けているだけあって彼女は戻る頃には表情をいつもの顔へと戻していた。

 その反応に脈が全くなさそうな気がするが、それはそれ。これはこれである。その後の事など助けてからで良いのだ。


 会場で彼女へ一時の別れを告げて立ち去る。恋愛ごとに現代知識のチートは役には立たない。だが彼女を助ける為には役に立つのだ。

 今回は領民を助けるという大義名分はない。完全に私利私欲だ。





 ハイテンションのまま屋敷へと帰宅する。普段よりずっと早い帰宅になってしまった。

 まあ、そのテンションも長くは続かない。


 その日の夜は自分の行いを振り返って、悶えた事は言わずともというやつだ。


 あれだ! 私も人の事は言えなかったな! 長兄ごめんよ! 何度もからかって!!



-後書き-


本編の最後となる部分を恋愛模様を頑張って書いていますが、難航しております。

自分で書いて自分で身悶えています。はっきり言って私が私を気色悪いと思っています。

そんな内容を公開していいのか?と自問自答をしておりますが、ここで公開することを宣言して逃げ場を自ら放棄したいと思います。


本編は11月30日の更新を持って完了する予定です。話数が増えて12月にずれ込む事はあっても、連続投稿は変わらない予定です。

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