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009 ざまぁという名のヒロインEND

前回は挨拶がありませんでした。ご無沙汰しております。

物語は進んでいませんが、ちゃんと書いているよ?



「どう! 私の姿は!!」


 早々に問題を片付ける為に、閣下へ日程を伝えてから別宅へお邪魔している。

 そして、一番どうでも良い問題を最初に片付ける事にした。


「見惚れた? あなたがメイドさんが大好きなのは知っているのよ!!」


 とっくにお気づきだろうが、この馬鹿な発言をして侍女の衣装に身を包んでいるのはヒロイン役(偽)のユリア改めユーリだ。

 そして、出会いがしらのこの変態の発言の意味は理解している。それを説明する為に、先に、閣下から手渡された。あの前世に使われた文字で書かれた手紙の内容をお伝えしよう。





『やっほー。この文字を使えば、あなただけに伝わるのよね? 私かしこくない?』


 下手な暗号など使った手紙を送ろうと思う時点で、アホだ。

 閣下じゃなかったら、下手したら拷問されるだろう事に気付かなかったのだろうか? そして、賢い(・・)くらい漢字を使ってくれ。


『あなたがメイドを側室にする話は聞いたわ! そして、あなたがコスプレ好きな事もね!!』


 自信満々にメイドと表記しているが、メイドと侍女は違う事だけは伝えておこう。前世のような専門の喫茶店で働くような方々ではない。この世界の侍女の方の名誉の為に弁明だけさせてくれ。

 侍女は、立派な職業だ。屋敷の管理をするのに一定数の人数が必要なくらい、まともな職業だ。一部はそういう趣旨で雇われていない者も当然いるが、屋敷と屋敷に住む者の管理と手助けをしてくれる誇りの持てる仕事だ。


「痛い! 何するの!!」


 手紙の内容を思い出して、目の前にいるあの女にデコピンをかましてしまったが、私に罪はない。


『この世界では、コスプレの考え方がないみたいだから、あなたの希望を叶えられるのは私だけだと思うの』


 これを身から出た錆というべきなのだろうか? 過去に我が家の拡散器メイドのミーナをおしおきした際に不用意な発言をした事が、こんな事態を引き起こすなど、誰が思いつくだろうか?


 そして、お前は元中学生だったよな? しかも入院してたんだろ? 看護師さんとかもそういう目で見ていたんじゃないよな? こいつの中身がだんだん不安になる。


『だからお願い! 私をあなたの妾にして!』


 賢い(・・)が書けないのに、なんで()が書けるんだよ………。


『あなたは良く見たらカイン様に似て格好良いし、優しいから、私はあなたを選びたいの!』


 私はノーサンキューだ。私にも選ぶ権利くらいはあると思う。


『コスプレ好きでメイド好きな変態でも私なら大丈夫。だから私をここから連れ出して!』


 前世の世界での現代知識の歪というやつだろうか? 男がみんな全てそういう考えだと思われているなら心外だ。まあ、ローズ相手だったらどんな格好でも問題ない事だけは否定しない。私も男の子だからな!


 と、こんな内容の手紙を渡されて、閣下にあの場ですんなり答える事が出来なかった理由は分かってもらえたと思う。………私の欲望の方じゃないぞ?





 手紙の内容はさておき、目の前のこの馬鹿を何とかしなくてはならない。

 これから閣下も忙しくなる。何かの拍子に逃げ出さないとも限らない。何せ予想を斜め上にいく発想の持ち主だ。


「おまえは、あんな手紙で本当にお前を迎えに来ると思ったのか?」


「え? じゃあ、なんでここにいるの?」


 ようやくデコピンの痛みから立ち直って、のん気な顔で返事をする。

 そして、そんな事は決まっている。


「おまえを処分する為だ。私との契約を破り、閣下の温情を無下にする者に、これ以上情けをかけてやるつもりはない」


 最初は、私の言葉を疑問顔で聞いていたが、私の表情と殺意に気付いてから顔色をどんどん変えていった。

 うん。良い具合に単純なところが役に立つ。


「お前の望みどおり、連れ出してやる。この場所以外におまえが生きていける場所などない事を教えてやろう」


 出来るだけ、黒い顔を意識して告げてやる。


「待って! なんでもする。だから殺さないで!!」


 人が聞いたら思いっきり誤解される状況だが、周りにいるのは閣下が用意した人材だけだ。こうなる事は事前に閣下に伝えている為、誰も割り込んでこない。いい感じに見て見ぬ振りだ。


「既に約束を破っているおまえのいう事を、なぜ信じられると思う?」


 そう言いながら、わざと目に付くように腰にかけている剣に手をかける。


「だ、誰か助けて!」


 周りの人々に助けを求めるが、誰も動かない。


「な、なんで誰も助けてくれないの!」


「なんだ? そんな事も分からないのか?」


 悪ノリが過ぎるのは分かっているが、限界まで追い詰めないと意味がない。まあ、少し楽しんでやっている事は認めよう。


「私が『貴族』だからだ」


 そう言い切って、剣を抜く。この時の為に、しっかりと用意した光を見事に反射させる鏡面仕上げの剣だ。こういうのは雰囲気が大事だ。

 光が反射するようにわざとチラつかせる。


「ひっ!」 


 目の前で人が切り捨てられたところを見たことがあっただけに、その時の光景を思い出したのだろう。

 完全に足元に水溜りが出来ている。計画を野外で実行して良かった。


「おまえの手紙の通りに私はやさしいからな。ちゃんとやさしくしてやる」


 そう告げながら、ゆっくりと近づいていく。


「いやぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!」


 思わず耳を塞いでしまった程に大きな声を上げて、逃げてしまった。まあ、良い………計画通りだ。


「すまない。場を汚してしまった。片づけを任せて構わないだろうか?」


 私はまわりにで見て見ぬ振りをしてくれていた侍女たちに声を掛ける。彼女たちも叫び声がうるさかったのか、少し耳を塞いでいた。


「本当にこの場で切り捨ててしまうかと思いましたので、安心致しました。この場の始末はお任せ下さい」


 迫真の演技が出来た事は満足だが、周りの者たちまで驚かせてしまったのは失敗だった。素直に皆に謝罪をして、あの女の後を追った。





「閣下。その者は外へ出たいと希望しました。説得できなかった以上は、生かしておいては危険です。お約束どおり、その者をお渡し下さい」


 あの女の追って、屋敷の中に入ると立ちはだかる将軍閣下とその足にしがみ付いているあの女の姿があった。

 閣下の登場は、本来はもっと後のはずだったが………。本当に女性には甘いようだ。


「この姿を見る限り、出て行きたがっているようには見えんが?」


 その言葉に閣下に怒りを感じる。そして、本来の予定と本来の台詞とも違う行動に、本気であの女を庇う気でいるのが分かる。


「手紙の内容はお伝えしたとおりです。その者が着ている服が証拠でございます」


 私が言葉を発するごとに、ビクッと反応するあの女の反応が面白い。閣下を裏切って私に色仕掛けをしてきたのだ。私は手を緩めるつもりはない。


「その者が侍女の服で私を出迎えてきたら、閣下を裏切る気であると先にご説明しておいたはずです。そして、その際は引き渡して頂ける事もお約束頂いていたはずですが?」


「そうは言っても、あの悲鳴を聞いたら、さすがに放っておけんじゃろ?」


 確かに大きな悲鳴だと思っていたが、屋敷内にまで聞こえているとは思わなかった。閣下の目は妥協点を示せてと言っているように見える。

 やれやれ、ここは閣下の茶番に付き合ってあげる事にしますか………。


「いかに閣下とて私の剣は止められません。立ちはだかるなら、その女ごと斬って捨てます。元よりそのように警告も致しておりました」


 私の殺意と言葉に、あの女は閣下の足にさらに強くへばりつく。

 ………冷静に考えれば、離れないと閣下はあっさり切られる事になるのに、本当に考える事をしないやつだ。


「まあ、良いじゃろう。好きにするがよい。ユーリに私の気持ちが届かなかったのは私の責任だ。共にむこうで家族を築くのも一興じゃろう」


 この言葉は閣下の本心だろう。だが、私がこの場で閣下を切らない事も分かって発言しているのが分かる。

 閣下が不在になれば、『裏切る予定の中立派』との密約もなくなる。その交渉の中心人物をリステル家の者が切れば、信頼など一瞬で無くなる。ちょっと前の脳無し(リチャード)王子がとった行動と同じ事だ。


 ただ、この閣下の言葉に反応したのはあの女の方だった。

 震えや怯えが消えて、足元から閣下を強く見つめている。何か閣下の言葉に琴線にふれる何かがあったようだ。


 試してみるしかなさそうだ。閣下も予定を変更したのだ。これくらいは多めに見てもらおう。


「分かりました。どうかお覚悟を」


 久しぶりに加減しない殺気を2人に向って放ち、一歩ずつ距離を詰める。


「ま、待って下さい!」


 閣下の足元で震えているだけだったあの女が、立ち上がり閣下と私の間に両手を広げて立ちふさがった。


「わ、私だけで………。侯爵様は見逃して下さい。お願いします」


 そう告げてくるあの女ことユーリの姿に、私も閣下も驚きを隠せない。あの一瞬で何がこれだけ彼女を変えたのか分からない。

 閣下も私のアドリブとユーリの豹変した姿に、完全に固まっている。理解の範疇を完全に超えてしまったらしい。


「で、出来れば、その………苦しまないようにしてくれると嬉しいです」


 私と閣下が戸惑っている間に、既に覚悟を決めてしまったユーリに2人して焦る。


「た、頼む。ユーリだけは見逃してやってくれ!」


 こんなに慌てている閣下の姿は初めて見る。そのおかげで私はさらに混乱して言葉が出ない。


「いえ、侯爵様はこの屋敷に住まう者にとって大事なお方です。私はその侯爵様の優しさに気づけなかったのです」


 なんか痴話げんかのようなノリで話が進みそうな気配がする。


「とりあえず、お2人共落ち着いて下さい」


 私も剣を鞘に納めて、自身も落ち着く為に、そう声を掛ける。もう予定も何もあったものじゃない。


「侯爵様は私を手篭めにしようとしている方だとばかり思っていました。でも、本当は私を家族のように思ってくれているのだと気づきました」


 ふむ。感情が高ぶっているのか………。凄い情熱的に見える。


 なるほど、『家族』の単語に反応したのか。前世では家族に殆ど会えないような状況だと言っていた。この世界では、典型的な貴族社会に放り込まれたのだ。当然、そこに家族の愛なんてなかったのだろう。

 それに比べれば、私は家族を失う事はあったが、暖かな家族に囲まれていた。


「違う! 私がもっとしっかりと言葉で伝えていなかったのがいけないのだ! 責任なら私にある! 切るなら私だけを切ってくれ!」


 閣下も感情の高ぶったユーリに釣られて、訳の分からない事を言い出した。

 まあ、閣下の場合は女性に対しては言葉よりも、言葉どおりの肉体言語を使ったのが原因だろう。


 とりあえず………。


「ぬぉっ!」 「痛っ!」


 2人にはデコピンでかまして落ち着かせる。私はもう落ち着いた。私たちの予定外のやりとりに心配していたこの屋敷の者たちの姿も見える。


「とりあえず、今回の件は閣下の顔に免じて、これで済ませましょう」


 私の声が届かない程、いまだに呻っている2人に再度殺気を放つと、2人はピシッと姿勢を正した。


「すまぬ。感謝する」


「ごめんなさい。もう侯爵様を裏切るような真似はしないと誓います」


 2人は揃っておでこをさすりながら、そう答えてきた。まあ、ちょっと強い威力で放ったのは自覚しているので、その辺も目を瞑ろう。


「では、2人でこの後ゆっくりと良く話し合ってくださいね。私はこの後にも用がありますので、ここで退席させて頂きます」


「あぁ、すまなかった。ローズ嬢にも宜しく伝えておいてくれ」


 勝手に盛り上がった2人を放置してさっさと立ち去る事にした。あの様子ならユーリも改心するだろう。


「侯爵様。服が汚れてしまいます。わ、私は粗相をしてしまいましたので………」


「何構うものか。おまえを愛している。おまえには私の子を生んで欲しい。この私の愛を受け取ってくれるなら、私を名前で呼んでくれぬか?」


「はい。侯爵様………いえ………………様………」


「ユーリ!!」


 立ち去る私の背中で、なにやら劇が繰り広げられているようだ。

 見送りのはずの侍女も、劇に夢中で私を見送る者はいない。………空しい。

 噛ませ犬は、発情期の2匹を放置して早くローズに会いに行くとしよう。



-後書き-

私はお蕎麦はかつお出汁で食べるのが大好きです。


前回の話の後書きで、少し触れた赤と緑ですが………。

イタリアン風な漬け汁で、うどんと蕎麦を食べさせられました。本当にどんな苦行ですか? と思える程でした。


好きな方は申し訳ないのですが、あれはアカンです(╥ω╥`)


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