008 ざまぁという名の仮面戦隊誕生
……………芸人と思われている事に悩んでいる( ᵌ ㅊ ᵌ )
こつこつ書き溜めていて公開できそうな分を先に公開します。3日分だけですが………。
「それでは閣下。アゼレアを迎えにいくまで宜しくお願い致します」
この世界でまた1つ一生忘れる事の出来ない思い出となった日の翌日。あの女の手紙の対策を含めて、私は閣下を見送った。
だが、見送りの本命はアゼレア。私が側室へ迎える事を決めた『夜蝶』の為である。
婚約発表直後という事もあり、領内はお祭りムードが漂っている。ここですぐに迎えに行く訳にはいかず、少し間を置く事となった。
その為、待たせてしまう間は閣下に保護を継続してもらう必要がある。むろん、本人宛の手紙も書いた。正式に側室に迎えたい事や迎えにいく時期をしっかりと記載して………。
「うむ。『夜蝶』には、しっかりとおぬしの晴れ姿を報告しておく」
私の感覚がまだ貴族ではないせいか………この辺の感覚が分からない。自分とは違う女性の婚約発表を報告されて不安に思わないのだろうか?
閣下はからかうような顔をしていないので、相手は喜んでくれる事なのだろう………。本当にここら辺の感性だけは分からない。
「お前たちも、閣下の護衛をしっかり頼むぞ!」
「はっ! クワー=レルッゾの分までしっかり働かせてみせます!!」
クワーは今は泣き戦友の名前だ。己の欲望に負けた者の末路………ただ、それだけだ。
こうして、生き残りの一部は、閣下の領地を繋ぐ交易路の安全確保にまわした。せっかくなので、閣下のお嬢様と婚約の為の点数稼ぎの機会を与えている訳だ。
「「リステル家への忠誠と聖書を胸に!!」」
聖書とは私と部下兼元学友たちの英知の結晶『人生の墓場ランク』の事だ。
閣下は、部下と我々のやりとりを不思議そうに見ていたが、閣下には『人生の墓場ランク』など必要ない話だ。
これまで散っていった『いつもの女性騎士』の被害者たちの冥福を祈りつつ、いまだ婚約を果たしていない10名の精鋭が閣下の領地へと旅立って行った。まあ、1人は向こうに到着したら正式に婚約するんだけどね。
そして、問題は残った半分の10名だ。
前なら、きっと私の婚約に対して文句の1つも言ったと思うが、今日はしっかりと自身の立場が分かっているようだ。
脳無し王子の件で、あまり甘やかしてはいけない事を知った。私の知らないところで問題を起こさせる訳にはいかない。
ここに残っている部下兼元学友は、いざという時に役に立ってもらわないと困る。もう甘い顔は出来ない。今、この領地は臨戦態勢中だ。甘えを出した瞬間に即『死』だ。
「こちらに残ったからと言って、悲観する事はない」
だが、私も鬼でも悪魔でも『いつもの女性騎士』でもない。頑張る部下には褒美を取らせる良い上司でありたい。
「これからは難民が多く流れ込んでくる可能性がある。これからのお前たちの任は領内の警備だ」
難民が増えれば、食い詰めた者たちから野盗化する。難民対策は十分にとってあるが、不足の事態への備えは多くて損をする事はない。
「例えば………だ。商家のお嬢様が不安を抱えて旅をしているとする。そんな時に立派な姿をした正式な私の部隊が姿を見せたらどうなる?」
閣下と共にお見合いという名の戦場に向った元同胞たちを悔しそうに見つめていた者たちに、笑顔が蘇る。単純なところは治っていないようだ。
だが、私と違って、先の見えない状態なのだ。私も覚えがあるので、見逃そう。そう、私と違って!
「商家は旅の間も物を運んでいる。周りの難民たちから向けられる視線に不安を感じているだろう。その不安は我々では理解しがたい程のはずだ」
何名かが、私の言葉に賛同するのか頷いている。説得が上手く行きすぎて、ちょっと不安になる。
「お前たちの任務は領内の警備だ。不安から酔って暴れた者たちを取り押さえたり、盗賊たちを退治したらどうだ? 彼女たちのお前たちを見る目がどうなるかは言わなくても分かるな?」
「「はっ! 我々は警備の任。確かに承りました」」
うん。よい返事だ。だが調子に乗ったら、偶然『いつもの女性騎士』と任務先が同じなったりするかもしれない………。是非気をつけて頑張って貰いたいものだ。
「ここにいる者たちは、4人で1部隊として、さらに新兵を4人つける。それを2部隊編成して8名を警備の任とする。そして、残る2名は………」
20名の部下兼元学友たちの仕事先の割り振りも終わり、ようやく少し余裕が出来た。
え? 残り3名はどうしたかって?
なんでも、『花の香り』と共に『青年』が謎の衰弱状態で見つかる事件が多発しているらしいので、『いつもの女性騎士』と残りの3人で隊を編成してそちらも巡回にまわした。
3人も居ればこれ以上は事件が起こらないだろう。………………………と思いたい。
「ラインバルト様、我々2名は何をさせられるのでしょうか?」
ここに予備………いや任務の追加要因もいるし、噂の件はなんとかなるだろう。
こんな事を考えている私の態度が顔に出ていたのか、怯え気味の部下兼学友が恐れながら聞いてきた。
「2人は、前回の合同訓練時に他の将兵から実力が認められた。なので、他の者たちより高度な任に就いて貰う事になる。平たく言えば幹部候補だ」
私は次期当主としての顔に戻して、説明をする。領内は、依然として人材不足だ。人材を育てつつ計画を推し進めないと、あっという間に人手不足になって私が過労で死ぬ。嫁とイチャイチャする時間も欲しい。
「ファンを呼んで来てくれ」
少し安心した顔をした2人を見て、本題を告げるべく、もう1人の主役を呼ぶ。
2人には馴染みのある名前の人物だ。
「ファンというと………」
「あぁ、学園で私が身分を偽っていた時の名前だ。本来の本人と会うのは初めてだったな」
そう、男爵家のご子息様で、私に散々利用された人物だ。目立たない役割だったが、地味に私を支えてくれていた事を評価して彼も幹部候補となった。
「ファンは来た時に正式に紹介するとして、待つ間にもう1つの話をしておこう。例の約束の件だ」
私の言葉に2人が息を飲むのが分かる。天国か地獄か………。そんな事を考えているのが容易に想像が付く。
「安心しろ。2人には選択権がある」
そう告げながら、2人の前に置いてある大量の書類を指差す。
「ラインバルト様、こちらの書類は?」
「釣書だ。そこから好きな者を選んで良い。事前に学園に居た者は除いてあるが、実際の人物像までは調べていない。よく吟味せよ」
国を裏切った相手のところまで釣書を送ってくる程、どうやらあの国はダメだと貴族たちが判断したらしい。
もしくは戦争になった際に備えて、学園で成果を出せなかった余りを貢物として差し出して、いざという時の保険にしようとしているのだろう。
だが、残念だったな。我々は本性を知っている。
姿絵がいかに美しく描かれていても、その性根は『人生の墓場ランク』に記録されている。そんなお嬢様を育てる家と関わるなど、ごめんだ。
「この中から、本当に好きな者を選んで宜しいのですか?」
喜び勇んで大量の釣書を漁っていた余裕のなかった2人が、目を輝かせて問いかけてくる。
「あぁ、好きな者を選んで構わない。これから来るファンなら、細かい情報を持っているはずだ。同じ幹部候補として情報共有するがよい」
私の言葉に感動しているのか、2人から尊敬の眼差しを受ける。………そう、世の中そんなに甘い話はないという事を学習していないようだ。
「ファン様がご到着致しました。如何致しましょうか?」
「この部屋に直接来るように伝えてくれ」
私の黒い企みに気付かずに、必死に釣書の姿絵を眺めていた2人は、私たちの声に気付いて態度を整えた。
手元には既に避けられた釣書が2~3通ずつ見える。初顔合わせの話題提供は上手く行きそうだ。
「ファンです。お呼びにより参りました」
入室を許可すると、夜会で共に生き残った戦友が姿を現した。そう、仮面姿のままで。
「この室内では仮面を外す事を許可する」
「はっ!」
このやり取りを見ていた2人が顔色を変えるのが分かる。あれだ………そのうち慣れるさ。
「私の異名は知っているな?」
顔色を変えている2人に、その予想は当たっているよ。と声を掛ける。絶望的なその顔には私も覚えがある。無論、従者役を担ったファンにもだ。
ファンも仲間が増えた事に、とても良い笑顔を浮かべていた。
しばらくの間は、3人で活動をして貰う事にする。3人揃った仮面キャラは、もうどこかの戦隊モノのそれと大差ない姿だ。
西洋風戦隊モノがあれば、きっとこんな感じだろうと思う。
まあ、褒美は先払いしたのだ。しっかり働いてくれる事を願おう。
「十字館の進捗状況はどうですか?」
婚約が成った私は内政を重視して政務に従事している。人事の他に、この十字館の話もその中心のひとつだ。
十字館とは、父の元種馬屋敷だ。私の発案という事もあり、命名権は私に与えられた。
………本当はローズ館にしようと思ったが、ローズが少し困った顔をしたので、我が家の家紋の剣を模した十字の大剣を模ったレリーフを作り、その見た目のまま十字館とした。まあ、赤十字とかのイメージが知識としてあったから必然だろう。
「はい。わ、私たちの婚約を機に、騎士たちの婚姻が進んでいます。その者たちが利用を申し出ておりますので、順調に行きそうです」
今も前に送ったペンダントを胸に下げているローズが、照れながら質問に答えてくれる。
その態度に婚姻までの半年がとても長いような気がした。婚約者はどこまで大丈夫なのだろうか? と一瞬考えたが、彼女の期待を裏切るわけにはいかない。己を律せなければならない。ちょっと昼食の後は走ってこよう。無心になる為に。
「それとご提案頂いておりました。制服も仕上がっております」
病院としての活用もイメージしていた為、今後の事も考えて白い制服で統一する事にした。ローズの活躍で作られる十字館に『白い花の舞姫』をイメージして作られた白の制服。この施設が領民にまで広がれば、彼女の名前は末永く残る事になるだろう。
まあ、それとは別になぜか街では衣服の流通が増えている為、この件で仕事を回して経済を循環させる役割にも貢献できた。この計画は良い事尽くめだ。
「分かった。侍女たちを束ねている母上たちに相談して十字館で働く者たちに配ってくれ。追加人員が必要な際はローズの判断で増員して構わない」
「かしこまりました。ラインバルト様」
本当は愛称を呼んで欲しいのだが、この辺はしっかりと公私の区別を付けたいとの事で譲ってもらえなかった。2人きりの時は恥ずかしがって様付けを取ってくれない………。
十字館については、形式上は決定権が私にあるが、実際には女性たちが中心となって運営される形が望ましいと考えている為、事あるごとに人事権などをローズに委任している。
そしてローズは、母たちと相談して侍女を使って環境を整えているので、本当に私はお飾りだ。
「十字館の件が問題なければ、アゼレアを迎えに行く際に同行をお願いしたい」
「アゼレア様をお迎えする時にですか?」
貴族の感覚で言えば、私1人で迎えに行っても問題ない………むしろ当然の事のようだが、私には難しい。
前の話し合いの時に、3人で話し合いたいと告げていたとおり、2人の前で己の不誠実だけは詫びた上で、2人を不幸にしない事を誓うつもりだ。
これが私が精一杯考えた誠意だ。きっと2人は許してくれると思っているが、きっと私は自分を許さないだろうと思う。
この矛盾をずっと抱えていく覚悟は決めている。だからこそ、1つのけじめとしてその機会を頂きたいのだ。
「私の気持ちは伝えたとおり、自身の不誠実を悔いております。これはローズ様がお許しになっても、ケジメをつけたいのです。どうか私の我侭にお付き合い下さい」
予想通り、ローズ様は困った顔をされている。その顔から、ローズ様の中ではこの問題は既に終った事なのだと分かる。
「ついでという訳ではございませんが、ローズ様の同行はこちらが本命です。ローズ様の元侍女との面会のお約束を果たさせていただきたいと思います」
私の気遣いに気付いてくれたのか、今度は優しい顔を向けてくれる。この領に来て本当にローズ様の表情が豊かになったと思う。
さあ! 私の浮気、側室問題とローズ様の過去の思い出と、ついでに馬鹿なヒロイン役(偽)問題のケリを付けに行こうか!!
-後書き-
赤と緑について。
最近は忙しい事もあって1食100円程度の赤と緑のお世話になっています。
うどん派だったのですが、最近おそばも美味しいと感じるようになりました。
ただ、具は断然『お揚げ派』です。てんぷらは、少し胃にもたれるような感じがしてきたので年でしょうか?
皆さんは、赤派? 緑派?
これをリアルで話したら………まさかあんな事に巻き込まれるなんて思ってもみませんでした………。
明日に続く。
まあ、紺派へ鞍替えしようと思っているので、どちらを選んでも私は裏切り者です(*˘︶˘*)