006 ざまぁという名の王子は呪文を唱えた
おかしい………。
sideストーリーで読者が減る予定だったのに………。
なぜ増えた?(゜∀三゜三∀゜) ?
「我が国の第1王子、リチャード=フォル=ヴィスト殿下のご入場です」
新たな我が国の形式に則るならば、本来であれば、謁見と式典とパーティーは別にするべきではあるが、我が領土は表向きは臨戦態勢中である。
その理由から全てを一纏めにした歓迎式典パーティーとして謁見も兼ねた場を作ることを許されていた。
扉が開き、入場してきた第1王子はあの女曰く、乙女ゲーの隠しキャラだ。しかも、私の嫁であるローズ様に明らかに色目を使った事がある相手だ。
現に、入場中も我が父であるリステル辺境伯よりもローズ様を見つめて入ってきてる。戦争になる予感しかしない。
今更だが、新しく我が国となった国名はヴィスト王国。まあ、細かな歴史や国の詳細などは必要な時が来たら語ろう。
それよりも重要なのが、現状は我々リステル家とヴィスト王家はかなり友好的な関係を築いているが、まだ表立った付き合いとしては2ヶ月も経過していない。問題が起きれば、どう転ぶか分からない関係だ。
「リチャード殿下、このような辺境までようこそいらっしゃいました。約2年ぶりでしょうか? 立派になられた」
父もリチャード第1王子の様子に気付いているようだが、場を和ませようとしているのが分かる。
あれだ………私も母たちが怖くて、振り向けない。平和に解決するならそれが一番だと思う。うん。
「お久しぶりでございます。殿下」
続いて第1王子の来訪理由であり、本日の主役である私とローズ様が挨拶をする。それは私の嫁だ。そんなに見るんじゃねぇ!
私の必死さと違い、無難に挨拶をこなすローズ様に年季の違いを思い知らされる。あの馬鹿王太子が相手だったのだ………嫌でも対応力が上がるというものだ。
「殿下。陛下からのお言葉を預かっておられるとお聞きしましたが?」
挨拶が終わっても、用件を切り出さないリチャード第1王子を不審に思い、早々に本題を話せと促す。父の背後にいる母たちが怖いからではないと信じてる。
「その前に宜しいでしょうか?」
嫌な予感がしていて、この時点で予想していた事態が起こるのは確定のようだ。
「ローズ=ステイフォン様。我が国ではステイフォン家こそが隣国の正当な王位継承の資格があると認めます。あなたは我がヴィスト王国では正式に王女殿下として扱わせて頂きます」
この新しい馬鹿王子は何をやってるんだ!?
確かに、計画ではステイフォン公爵家を正当な王家と認めて、『公爵派』と『王家』の完全に分裂させる狙いの策で、同時に宣戦布告をして、とある軍事拠点を制圧する目的があった。
他国からの王家を勝手に変えるという宣言が、宣戦布告以外に何になるんだって話だ。
当初の予定は1年半後、大規模な軍事作戦と共に実行される予定の策を、この脳みそ空っぽ王子が勝手に公表して台無しにしやがった!
リステル領は常に臨戦態勢である為、即時の軍事行動は可能だ。しかし、この策の中心となる『裏切る予定の中立派』もヴィスト王家も、ひいてはパワーバランスを取るはずに参戦するヴィスト王国内の各貴族が準備も整っていない。
それなのに宣戦布告をしようというのだ………。頭がお花畑を通り越して天国まで行っているとしか思えない。
元々の計画を知らないリステル家の将兵と、たぶん脳みそ空っぽ王子のお付きか、ヴィスト王国の外交官と思われる団体が完全に青ざめている。
彼らは宣戦布告を行なった事を理解しているようだ。私は即座に『いつもの女性騎士』に、この会場と館を封鎖するように指示を出す。ご褒美は与えたんだ。しっかり働いてもらう。
「私は、正当な王女となったローズ様を、私の妻に迎えたいと思います」
私の封鎖指示などの行動は既に眼中にないのか………。天国どころか宇宙の果てまで行ってしまった脳みそ空っぽ王子が、さらに寝言をほざく。うん。さっさと殺ろう。
護身用に常に身につけている剣に手をかけるようとしたところを、ローズ様に制される。
「お断り致します。私はこちらのいらっしゃるラインバルト=リステル様の妻になりたいと思っております」
このローズ様の言葉に殺気立っていた会場の空気が柔らぐ、完全にローズ様のカリスマのおかげだ。
べ、別に照れてなんていないんだからね! という余裕くらいはあるよ。けれど、この脳無し王子が動けば、即座に種無しに出来るくらいの緊張感は持っている。
「このように婚約も果たさぬ内から、すぐに別の女性を口説くような者よりも、私の方がずっとあなたを愛せます」
浮気男については事実だし恥ずべき事だから、何を言われようとも受け入れよう。
だが、脳無し王子も婚約者がいるからね?
「それはリステル家と私の問題です。いくら殿下といえど、口を挟むべき問題ではございません」
ローズ様は脳無し王子の愛している言葉を完全にないものとして、対応している。
………私はこれからローズ様に頭が上がらなくなるような気がする。言葉の節々で私を見つめる瞳から気持ちが伝わってくるので、それも悪くないと思う。
会場の雰囲気も、脳無し王子が振られた事が分かるのか、大分、和んだのが分かる。
まあ、父だけは震えている。その後ろから冷気が漂ってきていますからね。
「初めてお会いした時から、私はあなたを愛してしまっていた。あなたの立ち振る舞いに見惚れ、あなたの踊る姿以外は目に映らなくなった。そんな踊っている相手が憎くなるほど、あなたを愛してしまったのだと気付いた」
完全なストーカー発言だが………。私も覚えがあるから、この事は追求しないでおこう。
他は目に映らないのは本当らしく、その憎い相手がすぐ近くにいるのに完全に無視である。………私も告白の時は、他の事は目に映っていなかったから、これも追求できないな。
あれだ。今更だが、恋は盲目とはよく言ったものだ。昔の自分の姿と重ねると、余裕で死ねそうだ………恥ずかしすぎて!
「私であれば、あなた以外はいなくても構わない。浮気などしません。他の者を側に置かないと誓います。どうか王妃となって私と共に国をお支えくださいませんか?」
………………………………もう何から突っ込めば良いやら。
ヴィスト王国から来た他の方々は完全に失神寸前だ。彼らは現状が分かっているだけより哀れだ。下手をしたら回りの者たちに殺されかねない状況だからね………。
彼らの周りにいるのはリステル家の家臣の者たちだ。脳無し王子は、主家の次期当主の婚約者になる人物を本人の目の前で、しかも本人を侮辱しているのだから、失神寸前も致し方がない。これは止める止めない以前の問題だ。彼らに罪はなしとする事にしよう。
「リチャード殿下には、確か婚約者の方がおられたはずですが?」
「国が勝手に決めた事です。私が愛したのはあなただけだ」
ローズ様は、そういう事を言ったんじゃない………。脳無し王子も婚約者がいるのに他の女性を口説いていると言っているのだ。
遠まわしに私のために怒ってくれている事が分かって嬉しくなる。この点だけはちょっと感謝してやろう。
「そういう事を言っているのではありません」
脳無し王子の勘違いを、ローズ様も呆れ顔で指摘する。
「ならば、ここで宣言します!」
勘違いに気付いたのか。また変な事を言いそうな気配だ。あかん。これはあれだ。フラグ発言や。
「ヴィスト王国第1王子リチャード=フォル=ヴィストは、現在の婚約を破棄して新たにローズ=ステイフォンを妻として迎える!」
あれですね。乙女ゲーの世界の攻略者は、婚約破棄の呪文を唱えないと死ぬ呪いにでも掛かっているのでしょうか?
「これで私の気持ちは伝わったでしょうか? 元の婚約者やここにいる者たちのように、あなたを働かせるような事はしない。私の側にいてくれるだけ構いません」
満足げな脳無し王子に会場中が言葉を失った。私は予想がついていただけに、さっさと片付けようと思った。物理的に。
「私が愛しているのはラインバルト様、ただお1人のみです! あなたの妻になる事はございません!」
動こうとしていた私も、ローズ様の叫び声に立ち止まってしまった。嬉しすぎて、泣けそうだ。
「私の誘いを断る事は出来ません! 私はこの国の王子だ。誰も私には逆らえない!」
これだけの人の目の前で、見事に振られた脳無し王子は、取り繕う事をやめたのか。またアホな事を言い出した。普通にいるよね? 陛下とか?
「リチャード殿下は先ほど、私を王女として認めるとおっしゃってはおりませんでしたか? しかも他国の者と………それでも自国の権力を振りかざすというのですか?」
こうなっても、冷静にローズ様は諦めず脳無し王子を説得しようとしているようだ。
残念だけど、時間切れだ。このままでは父が凍死してしまう。
「ぐっ!」
「ラインバルト様!?」
ローズ様が私の名前を驚きと批難半分ずつで呼ぶが、残念だけどこれ以上は、リステル家とヴィスト王国との間で即開戦の事態が起きかねない。
剣の鞘をさくっと脳無し王子の腹へ叩き込み、さっくりと悶絶させる。うん。多少唾液が飛んだくらいで絨毯は概ね無事だ。これなら使用人たちの掃除も大掛かりなものにならないだろう。
「この者を拘束しなさい!」
「そこにいる者たちが不審な動きをしないように見張りなさい!」
「この屋敷から出ようとする者がいないか、もう一度屋敷中に通達を飛ばしなさい!」
私が号令をかけるよりも早く、母たちの声が会場に響き渡る。声に殺気が混ざっているせいか、衛兵たちの動きに緊張感が漂う。
衛兵に囲まれたヴィスト王国側の人たちは、既に半分白目だ。あと一押しで帰ってこなくなりそうだから扱いには気をつけてもらおう。そっと衛兵に合図を送ると衛兵も理解しているのか合図を返してくれる。あの衛兵たちには後で褒美を取らせよう。
「あなた。分かっていますよね?」
実母の物凄く黒い雰囲気を纏った声に、私も身が引き締まる。背後に立たれている父の股間が汗をかかないか心配になるレベルだ。
「ごほん。陛下の気持ちは確かに受け取りました。我が家の侮辱として、我が家も相応の覚悟があると陛下にお伝え下さい」
悶絶して、たぶん気絶している脳無し王子を無視して、お供で来ていたヴィスト王国側の人々に父がそう告げる。台詞は格好良いが、背中に糸のようなものが見えて、口調も言わされている感がハンパない。
ちなみに足元に転がっている脳無し王子は念入りに拘束されて、みのむし状態だ。
「お、お待ち下さい。これはリチャード殿下の独断でございます! 陛下よりの書状はこちらになります!!」
現実を即時理解したヴィスト王国側の代表と思われる人物が、必死に弁明をする。
「事前の陛下よりの連絡では、リチャード殿下よりその書状を渡されるとのお話であったはずですが?」
完全に操り人形になっている父が、おそらく母の怒りが引かないのを察して追求をする。
弁明をしていた者の顔色が青くなっていくのが分かる。
「父上、そう彼らを責めても解決は致しません。ここは陛下と一度話し合いの場を設けては如何でしょうか?」
母の思惑は分かるので、それに沿った提案をする。私の発言で、冬の寒さが揺らいだような感じがした。
「このまま不用意な発言をすれば、下手したらリチャード殿下は反逆者として扱わないといけませんからね」
ヴィスト王国側の人たちも分かっているのか。口をつぐむ。自身たちの手で国の王子を反逆者にする事は出来ないからね。まあ、もう遅いのだけどね。
既に陛下の命に背いて我が家との関係を悪化させた事。国の政策とも言える王家の婚姻を蔑ろにして、国の意に背いて婚約破棄を宣言した事。どちらも立派な反逆行為だ。
この場の出来事が外に漏れれば、隠蔽の為に我が家の虚言として対立するか。脳無し王子の独断として処分するかの2択しかない。
その決断をヴィスト王国側の者たちに、この場で決断させようというのは酷な話だ。だが、我が家どころかローズ様まで馬鹿にするような態度を許すつもりはない。
「すぐに決断は難しいと思いますので、一度皆様にはお帰り頂いては? 我々もいざという時の為の支度がありますゆえ、時間をあまり無駄にしたくはございません」
我が家は戦うなら全力でお相手するよ?とだけ念のために伝えておく。
元祖国の馬鹿王家が治める国が、他にあるとは思いたくないが、常に最悪を想定しておく必要がある。実際に馬鹿王子が他にも存在した訳だしね。用心に越した事はない。
私の提案に、ヴィスト王国側の者たちは素直に頷く以外に選択肢はなかった。
「そうだ。リチャード殿下の拘束をとると何を叫ばれるか分かりませんね。どうしましょうか?」
私の意図に気付いている母たちは満足そうにしていたが、ローズ様が批難の視線を向けているような気がした。
だが、この場で切り殺しても、特に問題はない。むしろ国元へ帰して、余計なことを仕出かさないとは限らないので処分したいのが本音だ。さらに本音を言うなら、人の女にちょかいをかけるんじゃねぇってやつだ。
私の意図に気付いているヴィスト王国側の者たちは、それはもう気絶寸前だ。
「ここはローズ様の顔を立てて、陛下の判断を仰ぐまで、リチャード殿下の拘束を一切解かないという条件を飲んで頂ければ、解放致しましょう。無論、我が家の影響下にある土地まではお見送りを付けさせて頂きますが」
彼らに選択肢はない。どちらにしても国許に戻れば、罰せられる。例え王子の暴走であっても、止められなかった責任という奴だ。王子を拘束したまま程度の罪が追加されても大して変わらない。
この提案に母たちは、「甘いわね」と言っているような気がしたが、ローズ様の落ち着いた様子を見る限り、これで良いのだと思った。
貴族としては、少々失格なような気がしていたが、私が提案しなければ、父なら戦争を選択していただろう。
こちらは長兄や母たちが、ヴィスト王国内での立ち位置をある程度は確保してくれている。戦争になっても我が領とヴィスト国の首都までの領地を治める貴族たちは静観して初戦で勝った方に付くだろう。
そもそも、軍事力で我が領の周辺を圧倒している。ヴィスト国自体も他の国との国境線がない訳ではない。同等の戦力を整えるのに何ヶ月も掛かるだろう。
その間に、計画を早めて元祖国の一部を奪ってしまうのも良いだろう。討てる手段は無数にある。
将軍閣下さえ説得できれば、閣下を国王として1つの新しい国とするのも良いだろう。
領地は弟に譲って、私とローズ様が補佐をすれば国としての形も早々に整えられる。元より失敗した時はそうする予定だったのだ。準備は最低限出来ている。
閣下もこの状況下ならお嬢様の嫁ぎ先に困らなくなるなら、断られる事もないだろう。
その後すぐに、脳無し王子を完全拘束したまま、重犯罪者を護送する兵士を使って徹底的に監視を付けて、ヴィスト王国首都に向って出発していった。
他にも精神的に追い詰めるように移動の日程を組んだ。早馬を使う伝令役も、先行させずに徹底的に時間稼ぎもして、いざという時の準備を整える時間を稼ぐ予定だ。
『いつもの女性騎士』を同行させて、脳無し王子と同乗させて自由に………もとい徹底監視させる案もあったが、ローズ様の前だったので提案は諦めた。命拾いしたな脳無し王子。
「私の為に、この領を危険に晒してしまい、申し訳ありませんでした」
今後の対策を練るための会議に参加していたローズ様が、会議が終わった後に私だけにそう告げてきた。
「えぇ。まったく貴女の美しさは罪です。ですが、それ以外はリチャード殿下が全て悪いのです。今回の件で貴女が気に病む事はございません」
会議では、誰もローズ様を責める事はなかった。当たり前である。悪いのは脳無し王子以外にあり得ない。
会議の結果は当然、当主の号令の下、軍備を調える事が決まった。
将軍閣下がこちらに付くかどうかは現在不明だが、父が直接出向くと言っていたので、大丈夫であろう。
私は陛下との対談か一戦交える方へ回された。
着々と進む会議にローズ様は罪悪感を覚えてしまったようだ。ローズ様の妹君のクリスティナ嬢はすっかり我が家に染まったのか徹底抗戦を口にしていたのに………。まあ、姉の今までの境遇を知っているがゆえの怒りだと思えば可愛いものだ。
長兄はもちろん徹底抗戦の構えですよ?
「し、しかし、私があの場でしっかりと対応出来ていれば!」
少し顔が赤いような気がする。まあ、罪悪感を感じているようだが、それは必要ない事だ。ここはしっかりと話し合おう。
「母上たちも、既に貴女の事を娘のように思っております。下手したら実の娘より可愛がっておいでです」
これは事実だ。実妹たちは仲が良くなったクリスティナ嬢と共に徹底抗戦の構えだ。戦場に出てくる気満々で装備を点検しているくらいだ。お転婆すぎるからすぐには戦場には出さないけどね。
「そもそも最初の発言からして、我々の計画を無駄にする行為です。最初の発言の時に我が家としては斬って捨てる理由に十分な程でした。それを王家の者が口にした時点で結末は変わりません」
我がリステル家は、前の国で不当な扱いを受けたから寝返ってきたのだ。それと同様な仕打ちをすれば、こうなるのは必然である。
説得しても、まだ罪悪感を感じて自身を責めているローズ様は、心底私たちを心配してくれているのが分かる。
「それよりも重要な事があります」
私の言葉にローズ様が不安そうな顔をする。
「お約束の日が、先になってしまいました」
そう、男の子にも我慢の限界と言うものがある。あんなに人前で堂々と愛していると言われたのだ。これでさらに我慢しろとか鬼か!
「え? あ………その………」
私の意図に気付いたのか、ようやく素のローズ様が顔を覗かせる。
あの月の夜のような景色で再度プロポーズしようと思っていたが、こんな可愛い顔を見せられては、もう無理だ。
「約束を違えて申し訳ありませんが、私が無事戻ってこれるようにお許し願えないでしょうか?」
なんか死亡フラグのような気がしないでもないが、この戦いが戻ったら………よりはマシだろう。
「それで貴方が無事に戻ってきてくれるなら………」
会議も長引き、夜も大分更けた、2人しかいないとある一室で、その預けてくれた身体ごと抱きしめると………。
-後書き-
これだけは言いたい!
メリーさんを生んだのは私じゃない! 読者の皆さんの要望があって生まれた!!
犯人は君たちだ! m9( ゜Д゜)
ついでに次回予告………。
NEXTメリーさん’sヒント!
『 捕 食 』
次回もおたのしみにね! |*•௰• )◜
嘘だよ?




