004 ざまぁという名の多忙な日々
今回と次回は、そこまで重要な話じゃありません。著者のちょっとしたテーマが話の題材になっております。
ネタをあまり盛り込めませんでしたので………真面目な話しになってしまっています。
私の浮気騒動の翌日には、学友たちを金のなる木とするべく招待状などの書類仕事に追われた。
ローズ様の様子は政務中は無表情な事が多いので読めないが、普段より近くに居てくれている気がする。
「ローズ様、昨日はお話出来ませんでしたが、ローズ様がお気にされていた元侍女の行方が分かりました」
沈黙に耐え切れなくなった私はご機嫌取りも兼ねた話題を口にしてしまった。
これが後ろめたい男の性か………。
「え?」
突然話しかけられた事で驚いたのか、素のローズ様が顔を出す。
「私が『白い花の舞姫』と初めてお会いした夜会のきっかけをくれた侍女は、侯爵閣下の手によって想い人と共に暮らしております」
私の言葉を理解されたのか、徐々にまた瞳に涙が溜まっていくのが見える。2日連続で泣かせてしまう事になるとは、私はどうも恋愛に不向きなようだ。
「申し訳ありません。本来であれば先にこの事もお話しておくべきでした」
「いえ、ラインバルト様のお心遣いが嬉しくて………」
そんな風に言ってくれる彼女を大事にしたいと改めて思ったと同時に私からいつの間にかローズ様を抱きしめていた。部屋には元私付きの侍女がいたが、そっと部屋を出て行くのが分かった。
「不安にさせて申し訳ありませんでした。今後は2度と不安にさせないように事前に必ずお話させて頂く事を誓います」
「はい。私に教えて下さい。貴方の気持ちの全てを………」
あぁ、私の方が彼女への距離をおいてしまっていたのかと気付く、昨日の今日でもずっと側にいてくれてたのに………。
もう私の気持ちを伝える方法などひとつしかないだろう………。既に私の目にはローズ様の瞳が映っている………。
「ラインバルト様。陛下より先触れの使者が到着いたしました」
………………………………例によってローズ様の甘い吐息が口にかかる。心の中で頭を抱えるが陛下の使者に罪はない。
「分かった! すぐに向う」
扉の前で待機しているであろう先触れの到着を知らせてきた部下にそれだけ返事を告げると、ローズ様の額にキスをして、自分の気持ちを落ち着かせる。
誰の邪魔か知らないが次は邪魔はさせない!
「ローズ様、申し訳ありません。これで次回までの楽しみとさせて頂きます」
顔が赤くなってしまっている彼女の髪を撫でながら身体を離すと、ようやく相手も落ち着いてくれたようだ。
くそっ! 本当に誰の陰謀だ!!
「陛下の使者をお待たせする訳には参りません。ローズ様の侍女の件は戻り次第お話させて頂きますので、ここでお待ち下さい」
ハッキリ言って離れるのは惜しい。惜しい所ではない。今度はあれだ。デートをしよう。この件のお詫びも兼ねて。
そう考えながら陛下の使者の待つ謁見の間へと急ぐ。
謁見の間に着くと父の姿が見当たらない。父の執務室はこの部屋のすぐ近くだ………私より遅れるとは考えにくい。
「今日はあなたへの用件です。あの人は今日は不要です」
義母が私の疑問に答えてくれるが、物凄く不機嫌そうだ。これはあれだ………。父は別館の方にいらっしゃるという事だ。
臨戦態勢のはずなのに、当主が館を離れるってどういう事だ………。さすがに笑えないので、後でぶっとばそう。盛者必衰。油断は家族でも許さない。けして八つ当たりではない。
「分かりました。義母上、後でちょっと捕縛してきます」
「えぇ、縛ったまま渡してくれれば、外に吊るしておくわ」
ハートウォーミングな家族の会話も大事にしたところで、陛下の使者をお迎えする。
「陛下よりこの度の働きもまた見事であるとのお褒めの言葉を預かっております。つきましては、次の段階へ移す許可も頂いております。詳しくは第1王子殿下が正式な書類を持って1週間程で到着予定となります」
先触れってこういう事か………。もう嫌な予感しかしない。
次の段階とは私とローズ様の婚約だ。これを国内外に大々的に公表する。元祖国は対外的にはローズ様はまだステイフォン家のご令嬢のままだ。この婚姻を知らせる事で、王家と組んでいた公爵派の派閥も離間させて、さらに国を混乱させる策だ。まあ、本命の一歩手前の策だ。
「畏まりました。第1王子殿下の受け入れ準備を整えさせて頂きます。陛下へは、滞りなく準備は進めておりますとお伝え下さい。後ほど正式な書簡をご用意します」
陛下からの書状を受け取り、こちらも返事をした事で会談は終わりだ。あとは陛下の使者をもてなして、その間に書簡を用意する。この辺は何も問題がない。
問題があるのは、隠しキャラと思われる新たな我が国の第1王子の来訪だ。本当に嫌な予感しかしない。
私の浮気事件のせいで用意も対策も何も出来ていない………。本気で頭を痛める問題が発生した。馬鹿父の問題と合わせても、予定外の事が起こりすぎる………。やはりこの世界は間違いなく現実だ。油断はしない。
とりあえず、ささくれ始めている心をローズ様に癒してもらおう。そうしよう。
「ただ今戻りました。ローズ様」
陛下の使者の対応は義母に任せて、部屋へと戻る。ローズ様は既に手紙に必要なものを用意してくれていたが、先に大事な用事を済ませなくてはならない。
「おかえりなさいませ。ラインバルト様」
そう返事をしたローズ様の細い腕を掴んで引き寄せて腰に手を回す。驚いた彼女だが、すぐに身を委ねてくれる。
「新たな我が国の第1王子が一週間ほどで正式に私とローズ様の婚約を認めて頂く書類を持ってきて頂くことが決まりました。その時に同時に婚約発表をさせて頂きたい」
ローズ様の瞳だけを見つめて、強い意志で告げた。
「この1ヶ月以上の時間がとても長く感じました………。貴方が私の側から離れていくんじゃないかと必死に貴方の側にいました」
だから、昨日はあんなに絶望的な表情をしてたのかと気付かされた。これまでの彼女は捨てられる人生を歩んできたのだ。その事に配慮できていなかった自分に苛立ちしか感じない。
「ローズ様。婚約をしたら、貴方の名前を呼び貴方の唇を奪わせて頂きます。どんな邪魔が入っても絶対に辞めませんので、覚悟しておいて下さいね」
そう告げて、彼女の額に今日2度目のキスをする。
「貴方はいつも一方的で強引なのですね」
「えぇ。婚約したら、半年後には婚姻を結んで頂きます。絶対に逃がさないので諦めて下さい」
気の利いた口説き文句など知らん。私は私の素直な気持ちを伝えただけだ。ストーカー? 相思相愛の場合は精々重い男くらいだ。
「はい。病めるときも、健やかなるときも、貴方を信じて付いて行きます」
そう言って、私の手を握ってくれる。私の言葉を覚えていてくれていたのは嬉しかったが、かなり恥ずかしかった。
それでも、今回は誰にも邪魔されずに手を握り合ったまま抱きしめ合っていた………。
「そろそろ陛下の使者殿へお渡しする書類を用意しなくてはなりません」
お互いの心音が落ち着いたのを見計らって、声を掛ける。ローズ様も落ち着いた表情で、ゆっくりと離れてくれた。
そして、気付いてしまった。気付きたくない事実に気付いてしまった!
この屋敷で最も気をつけていた気配が扉の後ろにいるのを! しかも今回少し扉が開いてやがる!!
「ごほん。ちょっとミーナ君。そのまま入ってきなさい」
ローズ様が離れたのを確認したところで、問題児を呼ぶ事にする。当然ローズ様は気付いていなかったのでびっくりされていた。その姿も可愛い。
「ひゃい!」という声と共に、やはり我が家の最終拡散兵器であるミーナが姿を現した。
「ローズ様、申し訳ございません。私は急ぎ陛下の使者への書状を仕上げなくてはなりません。今入室してきた侍女のミーナを補佐にお付けしますので、仕事が終わるまでその者をこの部屋から出さないようにお願いできますでしょうか?」
問題とは常に発生する出来事である。油断とはすなわち死を意味する。この場合は死因は羞恥死だ。
私の意図を理解してくれたのか、ローズ様が拡散兵器に本棚の整理を手伝わせている。私はその間に書類を急ぎ仕上げる。私には他にもやらなくてはいけない事が沢山あるのだ。
「ミーナ君。私の許可なくこの部屋を一歩でも出たら分かっているね?」
陛下の使者へ書簡を渡しにいく間も油断できない為、ローズ様が見ていない隙を見計らって、親指で首を横向きに切るように合図を行ないながら、そう告げた。これで分からないようなら本当に処分だ。
義母とのお茶を楽しんでいた陛下の使者に無事書簡を手渡す。それと同時に義母に合図を送る。
「我、父、捕縛、行く」
「半殺し、まで、許可」
使者を到着してすぐに帰す訳にはいかないので、一泊していってもらう予定だ。陛下の使者に見つからない場所に吊るして貰わないといけない為、この合図のやり取りは必須だ。
陛下の使者に気付かれないように上手く許可を得て、素早く退出する。半殺しだから………腕の一本くらい大丈夫だよね? どうせ奴の今の仕事はサインだけだし。利き腕さえ残せば大丈夫。
「1時間後にある人物の捕縛に行く! これは実践訓練も兼ねている!! 抜かりないように支度して待機せよ!!」
訓練をしていた部下兼元学友たちに、用件だけ告げてまたすぐに去る。後ろから「浮気男」だの「ハーレム野郎」だの聞こえる。恐ろしい噂の拡散速度である。本当に早めに処分の必要があるな。
出来るだけ急ぎ部屋へ戻るとローズ様が真っ赤な顔をされて、こちらを見ていた。………ミーナ君は大人しくしているという事が出来ないのかね?
「あの、ローズ様。一体その侍女から何をお聞きに?」
そう投げかけても「え?」「あっ」「その」としか回答をくれない。そのローズ様の可愛らしい態度に私は1つの結論を下し、暗殺を警戒して常に身に着けている腰の剣を手に取る。
「ミーナ君。私にこのまま切られるのか? それともこっそり食事に毒物を盛られるのか? 寝ている間にそっと寝首をかかれるのか? どれでも好きなものを選ばせてあげよう」
私の目が笑っていない事に気付いたのか、拡散器ことミーナ君の顔色が凄い勢いで青くなっていく。
「この後の予定が詰っている。出来るだけ手早い方法をこちらとしては希望する」
「待って下さい!」
私の様子に慌てて、ローズ様が私と拡散器の間に身体を割り込ませる。
「わ、私がラインバルト様の普段の様子をお聞きして居ただけです」
そう言って拡散器ことミーナ君を庇う。どうやら、私は本当にローズ様に甘いようだ。
「ミーナ君。今回はローズ様に免じて見逃そう。私は普段からの君の活動に疑問を持っている。前回のお仕置きで理解したと思っていたが通じなかったようだから、告げておく。今のままだと私が次期当主になった時点で命はないと思え!」
ローズ様の前で、このような事はしたくなかったが、私も貴族だ。譲ってはならないところがある。
私の言葉にミーナ君も凄い勢いで顔を縦に振っている。
「ミーナ。これ以降の退出は許可する。ローズ様お付きの侍女を呼んできてくれ」
怖がらせたくなかったが、結果としてローズ様を怖がらせてしまった。
「ローズ様。驚かせて申し訳ございませんでした。出来れば先ほどの約束は、私たちだけの秘密にしておきたかったのです」
「はい。私も嬉しさのあまり不注意でした。申し訳ありません」
本音交じりの可愛い返事に、色々と気持ちが抑えられなくなりそうだがここは我慢の男の子だ。
ローズ様も貴族としてあの侍女がマズイ行動を取っている事は理解されていたようだし、後は誤解が生まれないようにするだけだ。
「怖がらせて申し訳ありません。私を許して頂けるのであれば、貴女を抱きしめる許可を頂けませんでしょうか?」
私の言葉にローズ様は怯えさせてしまったにも関わらず、その身を預けてくれる。抱きしめた時には震えてはいなかった。
「貴女の元侍女のお話をしておりませんでした。私は直接お会いしておりませんが、侯爵閣下によって保護されております」
一言一言を出来る限り丁寧に告げる。
「今は想い人と結婚して夫もおりました。ローズ様との面会については既にお約束を取り付けております。どうか一度私と共に足を運んで見ませんか?」
「はい。ありがとうございます。是非お願いします」
そう応えてくれたローズ様の笑顔を見て安心した私は、ローズ様を抱きしめたまま、その面会の予定を話し合った。結果、現状では婚約後に伺う事になった。
その時に一緒に夜蝶の君を迎えに行きたいと告げると、反対されずにすんなり賛成された。この辺の感覚はまだ私には分からない。
「ラインバルト様、ローズ様。参りました」
話終えたのを見計らったようなタイミングで、扉をノックされた。
うん。元私付きの侍女は本当に優秀だ。今度彼女たちの婚姻についてもローズ様と相談しよう。
「忙しいところ呼び立ててすまない。ローズ様へ隠し事をしたくないので、私とミーナの件であった事をお伝えしておいて欲しい」
私からも簡単な説明はしたが、関わった事があり、ローズ様から信頼を受けている2人からも説明をしてもらった方が良いと考えた為、元私付きの侍女にそうお願いをする。
あっさりと「かしこまりました」と返事をくれた。私の意図もある程度、理解してくれるありがたい人材である。
「2人はよく尽くしてくれている為、幸せな婚姻先を考えている。それとなく希望を聞いておいて欲しい」
元私付きの侍女2人に聞こえないように、こっそりとローズ様に耳打ちをしてその場を離れる。我が家の抱える問題はまだ残っている為だ。まったく、忙しすぎて嫌になる!
-後書き-
ご心配お掛けしました。どうやらインフルではなく一時的な風邪のようでした。
まだ少し微熱が残っていますので落ち着き次第、感想のお返事は順次返していきたいと思います。
ちょっと風邪の事で真面目なお話。
一時的に38度後半になった時は死ぬんじゃないかと弱気になりました。
そんな時に支えてくれたのが、ウィダーINみたいなゼリー飲料でした。
頭につけて熱を取るのもよし。ちょっと温くなったら飲みやすくなるので栄養補給にもよし。
そこそこ賞味期限も長いので、防災グッズの中にも入れておこうと思ったくらい便利でした。
飲み終わったら水とか入れられるしねε(*'-')з




