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新しい短編として書き上げる予定でしたが、気付いたら2万文字を超えた為に適度に分割して投稿する事に致しました。完結まで書き上げてはおりませんが、この作品が完結するまで他の作品には手を出さない予定です。




 異世界転生。ラノベやアニメなどに少しでも興味があったなら一度は見たり聞いたりした事があるだろう。

 私は今まさにその異世界転生を経験して、異世界で必死に生きている。


 どれくらい必死かというと………。


「ラインバルト様。ようやく敵が退いていきました。遭遇戦であったとはいえ、こちらは装備に助けられて損傷は軽微です」


「分かった。敵にこちらの動きが知られた以上はこの作戦を強行するにはリスクが高すぎる。こちらも撤退しよう」


 そう、戦場に出て命のやり取りをするくらいには必死だ。





 私が転生をしたのはとある国の伯爵家。しかも辺境伯という隣国との最前線地の3男として生まれた。

 家族は父が1人に母が5人。そして、兄弟が全部で13人を超える大家族だ。


 兄弟が13人とは言ったが、現在は12人だ。次男は半年前に亡くなった。とても立派な人であった。

 それでも悲しんでいる余裕は我が家にはなかった。ここ数年は小競り合いばかりが続いているとはいえ、戦争状態の隣国と争いは続いている。

 亡くなった次男の変わりに戦場に立つ事になったのが、3男である私という訳だ。


 辺境伯と呼ばれるだけあって我が家は武官の家系だ。男はもちろんの事、母は武官でない人もいるが、姉も妹も幼い頃より剣を持ち鍛錬を重ねてきた生粋の武官だ。


「姉上、ただいま戻りました。作戦は失敗です。申し訳ありません」


「いや、構わない。元々時間稼ぎをするのが目的の補給路襲撃だ。お前が遭遇した敵は工作部隊のようだった。何かこちらに仕掛けられる前に止められた方が有意的だ。よくやった」


 前線地に立てられた砦に帰還した我々は、すぐに砦の責任者である姉に報告を入れる。


「それに敵を一部逃がしたのも良い判断だ。補給路が狙われていると分かれば、護衛の兵を増やすか、補給路を変更するか。どちらにしても我々の有利に働くだろう。このままいけば、お前の策通りに予定の地点へ追い込めるな」


 私は亡くなった次兄に代わって戦場に立って半年は経っただろうか。

 次兄や姉が戦っていた間は、自身の鍛錬を欠かさず、いずれ自分の部隊を持つ事になる為の新兵育成も担当していた。


 転生と言えばチートについてだが、特別な力を授かるような事はなかったが、私は転生自体がチートであると思っている。

 長い歴史の中で生み出されてきたそれは、試行錯誤の繰り返しの末に誕生した物が殆どだ。転生者はそれやそれに近い結果を知っている。それだけで本当にチートであると思う。


 物心つく前から、戦争をしている事を知った。

 私が生まれた時は比較的内地か、王都の屋敷のどちらかで安全に育てられたのだと思う。この時は戦争がどんなものかを良く考えていなかった。本当に馬鹿だったと思うが、家族の暖かさがあった為に今の自分になれたとも思う。


 父が辺境伯を継いだのは、私が5歳の時であった。祖父が亡くなったからだ。この祖父は私が生まれた後に何度か様子を見に来ていたのを覚えている。暖かく、厳しい笑顔を向ける人だった。

 弟や妹が生まれた時にも必ず顔を出していた。それが大変な事だったことは今なら分かる。簡単に前線から離れる事など出来ない。


「お前たちが戦わなくて良い世界を作ると約束する。だから健やかに育ってくれ」私や下の弟妹たちが生まれるたびに、そう告げていた祖父の姿は忘れられない。

 亡くなった次兄もそうだ。「お前が戦場に出る前に敵は俺が全て叩き切ってやるから、お前はそうしてのんびりしていろ」と気遣ってくれていた。

 そんな祖父と次兄を討ったのは、戦争国でもある隣国の好戦派のとある貴族だ。そして、今の私の戦略目標でもある。


 普段は内地で生活しているらしく、戦場にはなかなか姿を現さない。

 こちらが優位な状況になる時に出てきて、場を荒らして去っていく。私には戦争を長引かせる目的を持っているとしか考えられない。必ず討つ必要がある人物()だと思っている。


 そんな仇を戦場に頻繁に出させるようになったのは亡くなった次兄の功績だ。次兄は勝ち続ける事でようやく相手を引き摺り出した。次兄のおかげで相手も国内のでの立ち位置が悪化したのだろう。

 最後の最後で同程度の損失を出しつつも、こちらは次兄を失い、相手は負傷した。


 相手は負傷した事に腹を立て戦場に残っていた。その直後に私が初戦を迎え、見事に初陣を飾った。そのおかげで相手は戦場から去る機会を失った。もう逃がすつもりはない。


「そろそろ一気に攻めるのも良いか。相手も今回なにかの策を失敗した事で士気が一段と下がるだろう」


「姉上。急いだり、相手を甘く見たりするのはおやめ下さい。私も敵を討ちたい気持ちは同じですが、兵たちの命はそれ以上に大事です。私たちのように家族を失う者を減らす為にも、どうか慎重にお願い致します」


「そうだったな。すまない。あやつを討てる機会を得ているかと思うと抑えられなくなる気持ちがある」


 仇相手は、私だけの獲物ではない。家族全員揃っての獲物だ。だが実際に姉上と亡くなった次兄とは戦場を共にしていた時間が長い分、感情を抑えるのが厳しいのだと思う。


 私は知っている。歴史というものを、優勢を覆すのはいつの時代も油断、慢心、驕りからであった。

 相手を追い詰め、止めを刺すまでは気を緩めない。剣の腕を磨き、用兵術を進化させ、装備をより良いものへと改良してきた。攻めるのではなく守る事を重視して現代知識を持て余す事なく使ってきた。


 今なら同規模の戦闘であれば正面からも打ち勝てる。だが、それで勝利するのは一時的な勝利だけだ。

 私には分かる。歴史の戦争が終わる瞬間を。


 戦争は政治だ。利益よりも損失が圧倒的に上回れば終わる。その為にも圧倒的な勝利である殲滅戦を行なう。既に戦場での命のやりとりは何度も経験した。

 殲滅戦の結果、数千の敵の屍を築く事になっても、何年も小競り合いが続く事による互いの被害より少ない。そういう免罪符もある。


「特に中央からの増援がなくなってきている現状は損失しない事が優先です。あと少しです。あと少しで逃がさない準備も整います。いましばらくの辛抱をお願いします」


「分かった。これまでお前は目に見える成果を上げてきている。おかげで一時下がっていた士気も今では上がっている。それも私も何となくだが、お前の策が成功するような気がしている」


 前世では、伊達にゲーマーであったりアニメや小説を読み漁っていた訳ではない。歴史上の節目に節目に出てきた策を念入りに半年かけて準備してきたのだ。例え失敗したとしても敵を逃す数が少々増えるだけ。

 既に包囲殲滅戦の包囲は完了している。あとはより狭い範囲へ誘導していくだけだ。範囲網が狭まればこちらの守備は厚く出来き、敵は機動力を失い、動きがさらに鈍くなる。


 仮に一点突破を謀っても通路を分断して二重で殲滅する場所に相手は既にいる。


 あとはこちらの損害を少しでも減らす為に、相手の士気を奪い、目に見えないように徐々にその首を絞める事だ。


 あと少し………本当にあと少しだ。





 という感じで病んでいったが、結果として敵討ちは為った。

 直接この手で敵を討つ事は叶わなかったが、今は私の部隊に合流した元次兄の副官で次兄の親友と呼べる人物がその首を取った。


 そして、予定通りに国境付近に展開していた敵部隊の半数近くの敵を討つ事に成功した。4割は討てば圧倒的大勝利と言えるのがこの世界の戦争だ。残りも完全包囲に気付き次々と降伏してきた。実質この国境線は我が国が勝利したと言える。


 国境での争いに終止符を討った殲滅戦から領内に戻った我々を待っていたのは、必要最低限の金銭だけであった。

 半年近く中央からの支援も滞った状況での勝利の見返りが、わずかな金銭だけであり、通常であればとても考えられないほどの扱いであった。


 それでもあとは休戦調停を行い、いくばくかの領土分割で土地を得て、しばらくの休戦期間は平和になる。今いる子供たちや生まれてくる子供たちが育つ15年程は何とか持つだろう。

 残りは国の仕事だ。初陣から9ヶ月。成人まであと3ヶ月を切った時期に、ようやく我が国の貴族が通う学校に1年と少し遅れで入学する事となった。


「あなたがリステル領からいらした男爵家のご子息ですか?」


「はい。そうですが、失礼ですがどちら様でしょうか?」


 リステル領とはその国境線を守る辺境伯が治める土地の名前だ。つまり私の家の領地だ。

 ラインバルト=リステルが私のフルネームだ。別に野郎の名前だから無理に覚える必要はない。ただ、故あって今は臣下の男爵家で同年の子息の名前を借りて学園に通学している。


「失礼しました。私はユリア。アトラルディ家のユリアと申します」


 そして、これが本当の次兄の(かたき)と出会いであった。


「子爵家のお嬢様でしたか。大変失礼をしました」


 ユリア=アトルディ。この学園にいる者ならその名前と悪評を知らぬ者はいない。この国の王太子を誑かしているとされる悪女だ。それが噂ではない事は、学園に通って1週間も経たずに事実を確認している。

 もっとも、誑かされている王太子も、その王太子を放置している王家も最早同罪だ。


「気にしなくて大丈夫ですよ。ここは学園ですもの。身分なんて関係ないわ」


 確かにこの学園は校則として身分を問わずを謳っている。しかし、校則と国法のどちらが優先されるかなど言わなくても分かりそうなものだ。

 あくまで、互いに身分にあった付き合いをして問題を起こさないように。というのがこの校則の意図だと気付かない者がいるとは思わなかった。


「そんな事より、お聞きしたい事があるのですが宜しいですか?」


「はい。もちろん構いません」


 国の根幹とも言える身分制度をそんな事と言えるとは、噂どおりの人物のようだ。ただ、身分を偽っている私に接触してきた点については警戒が必要だ。


「カイン様が学園にいらっしゃるのは、いつになるかお分かりになりますか?」


「カイン………様ですか?」


「えぇ、カイン=リステル様です。ご存知ありませんか?」


 突然に出てきた名前に一瞬言葉が詰まってしまった。カイン。その名前は次兄の名前だ………。

 次兄はこの学園に通わずに国と領民を守る為に、ずっと戦場にいた。このあからさまに媚びるような女と出会う機会があったのだろうか?

 戦場では、近寄った来た女に暗殺されたり裏切り者へと唆されたりするのが常だ。次兄も戦場で過ごし、その事を良く知っている。聡明な次兄が、そもそもこんな女に関わるはずはない。


「カイン様の家は、私の寄り親にあたりますので、存じ上げております。ユリア様はカイン様とお知り合いなのでしょうか?」


「やっぱりお話に聞いたとおりカイン様の関係者様でしたのね。私は直接お会いした事はありませんが、聡明な方だと聞いているので一度お会いしたいと思っておりました」


この返事に私も言葉を詰まらせる。王太子と親しいところを嫌でも何度か目にしている。そんな王太子の寵愛を受けるような者が、さらに他の男に会いたいなどと言うとは、近づいて我が家を貶めようとしているのかと疑いたくなる。


「それでカイン様はいつ頃、学園にいらっしゃいますか?」


 なんだろう。この違和感は、まるで次兄が学園に来るのが決まっているかのような対応は………。私の正体に気付いているのか? 気付いているなら次兄の事も知っているはず………。何かがおかしい。何がしたいんだ? この女は。


「カイン様は半年以上前にお亡くなりになりました………」


 考えが纏まらない中でなんとか返事を返すと、目の前のユリアと名乗った少女が豹変した。


「カイン様が亡くなった!? じゃあ、逆ハールートはどうなるの!!」


 逆ハールート? この女は何を言っているんだ?


「あ、いえ、ごめんなさい。大きな声を出してしまって。まさかカイン様が亡くなっていたなんて知らなくて驚いてしまいました」


 私の驚いた顔を見たのか、また猫を被ってお淑やかなように振舞う。それでもこの女の本性は先程の一瞬見た。その事実から、今後はこの人物に対して本音を見間違う事はない。


「いえ、カイン様が聡明と王都でも噂になっていたのであれば、寄り子の家の者として誇らしく思います」


「そ、そうですね。あの方はとても優秀だと聞いていたので、お会いできずに残念です」


 次兄がなくなっている事で予想以上に動揺している様子を隠しきれていないこのユリアという女。その後は、当たり障りのないやりとりをして、すぐにその場を去っていった。

 去り際に「お助けキャラといい、勝手に攻略キャラが死なないでよ。私の逆ハーをどうするのよ」という独り言を聞き漏らさなかった。戦場で僅かな音の聞き分けが生死を分ける事もあったから、耳には自信がある。


 『お助けキャラ』『攻略キャラ』『逆ハー』『ルート』これだけの単語があれば嫌でも分かる。あの女も転生者だ。

 そして、この世界は乙女ゲームと酷似した世界であるという事だ。


 この事を知っても、1つだけ確信がある。あくまで酷似した世界であるという事だ。

 私は知っている。戦場で人同士が争い、血を流した事を。あれがゲームなどと間違っても思えない。


 あの女は、このゲームとは思っていないにしても現実とも思っていない。そして、この国を混乱させている要因を作っている。

 実際に、逆ハーなんてしようものなら、貴族同士の諍いに発展するに決まっている。ここが学園であるから、多少甘く見てもらっていると勘違いしていたが、逆ハーなんて企める状況を許しているこの国は本当に終わっている。

 

 奇しくも予想以上の出会いを果たしてしまった私は、考えをまとめながら本来の目的を本格的に活動する事を決めた。


-後書き-

11月14日に初投稿時点で最低4000文字を1話として4~5話分のストックがあります。これを毎日放出していきます。放出終わるまで完結を目指して頑張ります。

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