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第七話 ディーク神聖王国

「ルーカスさん! ご無事ですか!?」


 司令室を出て、一旦宿舎に戻ろうとするルーカス。途中の廊下で、彼はとある人物に、後ろから声をかけられた。

 それは十一~十二歳ほどの少年であった。


 銀髪青眼で、実に端正な顔立ちをした美少年。平凡的な顔立ちのラチルと違って、こちらは大人となれば、確実にイケメンになるであろう外観。

 この砦にいるのは大人ばかりの中、何故か子供がここにいる。少年兵だとしても幼すぎる。


 服装も、その辺の王国兵や騎士とは、少し異なっている。

 彼は白いシャツ・赤いネクタイ・青い短パンを履いている。そしてその上に青い法衣のようなマントを纏っている。頭には白いベレー帽のような帽子を被っている。

 そして手には魔道系王国兵が持っていたのとは、少し外観違う、金色の豪華な装飾がかけられた魔道杖を装備していた。

 その外観は、ファンタジー世界観の魔道士と僧侶を、組み合わせたような外観だ。


「ウィリアム様……大丈夫ですよ。この通り傷一つない」

「しかし謎の敵兵に襲われて、足を折られたと……?」


 少年=ウィリアムは、このルーカスに本気に心配した様子で詰め寄っている。そしてルーカスは、何故かこの遥かに年下の男に、目上のように敬語で話していた。


「ああ、だが我らの優秀な治癒魔道士のおかげで、このとおり傷一つなく回復した。もう心配する必要もございません。それよりもウィリアム様も、きちんと休養をとらねば。先日の魔人との戦いで、かなり消耗されたと……」

「それなら大丈夫ですよ。私はこの通り、もう全快しましたから! それに、魔人によって平和を脅かされている民のことを思えば、あの程度の戦いで音を上げてなんていられません! それよりもルーカスさんこそ、普段から大丈夫なのですか!? 民を守るために、あちこち走り回って、幾度も戦いを繰り広げられていると……」

「それも大丈夫ですございますよ。ウィリアム様と同じく、民のこと思えば、大したことではありませんし」


 まるで親のように、優しく語りかけるルーカス。どうやらこの少年からは、相当な信頼を得ている様子。

 最も、民のことを思えば~~などは、先程の顛末を知るものからすれば、あまりに胡散臭い話しであるが。


「しかし……その敵はいったい? ルーカス様の部隊を一人で倒してしまうなんて、ただ事じゃありませんよ。何が狙いで? そういえば事が起こった、アラン村は無事でしたか?」

「それがまだ確認が取れていません。何しろ事が起こったのが、つい先程なので……。私めも、その敵から村人を守るために、懸命に戦いました。その間に、多くの村人達が、避難しましたが、果たしてその敵から逃れられたかどうか……」

「そうですか……ロアのご加護の元で、無事守られているのを、願うばかりですが……」


 ルーカスの言葉を、素直に信じているウィリアム。途中ですれ違った王国兵が、何故かそれを馬鹿にするようにほくそ笑んでいるが、彼がそれに気づく様子はない。


「私に何か出来ることは……」

「それはお考えにならなくて良いですウィリアム様! 人間の敵の相手は、同じ人間である我らが役目! ウィリアム様は、世界を闇で蝕む魔人達の討伐をお願いいたします。……ですが、この件のことで、かなりの兵力が動かされるので、ウィリアム様の護衛が減らされる可能性が……」

「それなら大丈夫ですよ! 護衛ならいりません、これからしばらくは、私一人で行きますから!」

「しかしそれでは……」

「大丈夫ですよ! というか……少々心苦しいことを言ってしまいますが……。魔人相手だと、護衛の兵が足手纏いになることが多々ありまして……」


 何やらバツが悪そうに答えるウィリアム。どうもその“魔人”という者の相手は、彼でないと駄目な話しであるらしい。


「そうですか……では後で騎士団長に、この話しをいたしましょう。ウィリアム様、どうか無理はなさらないように……」


 そう言って敬礼した後、二人は別方向に歩いて行く。ウィリアムの方は、先程以上にやる気を高めて、無邪気な子供そのものの様子で、勢いよく次の任務へと向かっていった。


「おいおい昨日の女どうだった!? やっぱり抜けたか?」

「確かに抜けたけどよ~~あいつかなりがめつくて、相当ここだけじゃなくて、金も相当絞られちまったぜ・・・・・・先月の給料半分近く取られちまったぜ」

「はははっ、それじゃあ当分娼館はお預けだな。お前より先に、こっちがあそこの全部の女マスターしてやるぜ!」


 だがその道中で、耳に入った言葉に、ウィリアムは足を止める。

 近くの部屋から聞こえる、王国兵隊達の何気ない日常会話。その会話に首を傾げながら、ウィリアムはルーカスに問いかける。


「ルーカス様・・・・・・前から気になってたんですが・・・・・・よく兵士の方々が口にしてる・・・・・・娼婦でしたっけ? 女性とお金で身体の関係を持つのは、どうもロアの清廉を求める教えに反しているような?」

「(こいつこの年で、娼婦の意味を分かってるのか!?)・・・・・・ええと、それは日頃の良き行いによって、多少は許されるものなのです! 多少身を汚すことがあっても、その後の善行によって、すぐにその穢れは洗い流されるので、何も問題はありません! そのため女神ロアも、許容なさっておられるのです」







 さて場所はあの廃教会へと戻る。しばし一息ついた後で、ラチルは勝太郎に、ある物を渡してきた。


「何だこれは? 感触でもちょっと判らないんだが……何だかパサパサしてて、何かの葉っぱか?」

「白菜よ……ごめんなさい、私料理とかできなくて、これ丸ごとなんだけど……」


 勝太郎とラチルの手に握られているのは、生の白菜である。まだ成熟しきってないようで、少し小さい。そしてその葉っぱの塊を、ラチルは果物のように、生のまま食べていた。


「おいおい……まさか野菜を生で食ってるのか? いくら料理ができないからって……。せめて果物とか買えなかったのか?」

「この村では、果物とか売ってないのよ。元々食糧難だったそうですし、それにこれは買った物じゃないわ」

「何だと? じゃあこれは、どこで手に入れたんだ? ここじゃ白菜が、その辺の道ばたにでも生えてるのか?」

「いいえ……畑から、こっそり盗りました」


 嫌な予感して聞いてみたら、案の定悪い予感は的中していた。この娘は畑荒らしであった。


「おいおい……さっきはあんなに、義を大切にするようなこと言っといて……何やってんだあんたは!?」

「仕方ないんですよ! この村の人々の、慈悲心が足りないのが悪いんです! 私はあんなに、皆のために戦って上げてるのに、誰も何の礼もしようとしない! それどころか疫病神扱いですよ!」

「どんな功績を上げたか知らんが、そんなの当たり前だろ!? どうりであんた、村の奴らから、えらい嫌われてたわけだ!」

「それは関係ありません! 私が嫌われてるのは、それより前からよ!」


 勝太郎の攻めるような言葉に、ラチルは話しを脱線させるような流れで反論していた。それには言い訳というより、悔しげな感情が見える。


「それより前から? 何があったってんだ? 盗みが肯定される程のつらい過去でもあったっていうのかよ?」


 相変わらず責める口調だが、その言葉にラチルは、すぐに落ち着きを取り戻し、勝太郎に冷静に顔を向き合わせる。それはまるで、よくぞその質問をしてくれた、という雰囲気だ。


「ええ……本当に色々な事がありました……。私の……この国の全てを狂わせた、酷い出来事が……」

「不幸自慢の過去話が始まる前に、これ返すな。俺はよほど体力を消耗しない限りは、何も食べなくても生きられる身体なんで」


 そう言って手渡された白菜を、ラチルに差し返す。興味はないが、とりあえず義理で聞いてやると言った態度の勝太郎。

 返された白菜を受け取ったラチルは、白菜の葉をモリモリ食べながら、話しの続きは始めた。


「勝太郎様は、この国についてどのぐらい知ってますか?」

「うん? あまり知らないな。アマテラスじゃ、かなり荒れてる国みたいに聞いたが、あまり詳しく聞かなかったし。目隠ししている俺じゃ、新聞だって読めないしな。まあ冥界の方で、全員地獄行き確定の酷い宗教があるって聞いたが・・・・・・」

「(冥界?)そうですか。じゃあお話しするわね。この国は、女神ロアを讃えるロア教という宗教を、国教としているわ。ロア教を崇拝する国は他にもあるそうですが、ディーク神聖王国は自国こそがロア教の総本山の国で、この世で最も崇高な国だと自称してたの。そしてこの国は……そのロア教の教義を、自分の都合のいいように散々改変して、他国に向けて多くの侵略と略奪を繰り返していたのよ……」


 白菜を一旦手において、苦々しい表情で語るラチル。その話しに、勝太郎は無言で表情がよく判らないままに、黙って聞いていた。


「私は直に見たわけではないのですが……その横暴はとても非道いもので、多くの国や部族が、ディークの食い物にされ、奴隷として働かされたり、富を全て奪われて飢え死にしたりしたそうです。何でも女神ロアに選ばれたディーク人こそが、この世で人として認められた存在で、他国の者は全て獣以下の存在だから、どれだけ虐げても、神の名の下に許されると……。そうやって多くの国々を植民地にして、そこから奪い取った富で、ディーク神聖王国は大きく栄えきたの。そしてその蛮行を、教会が言うことだから正しいと、多くの民が讃えていたそうです」

「まあ、権力を持った宗教だと、ありがちな話しだよな。でもお前も、その蛮行を神に許された行為だと、認めていたんじゃないのか?」

「まさか! そんなことしてる訳ないでしょう!」


 勝太郎の指摘に、ラチルは少し怒った風で、完全否定した。


「でもお前、さっき司祭だって……」

「確かにそうだが、認めてなんかいない! それどころかつい数ヶ月前まで、この国がそんなことをしてるなんて、全然知らなかったのよ!」

「うん?」


 おかしな話しに首を捻る勝太郎。植民地から奪った富で栄えていた民が、そのことを知っていたのに、宗教の橋渡し役である司祭が知らなかったなどと、普通はあり得ない話しだ。


「私達は少し……特殊な立場で、この国の概要を詳しく知らされずに、今まで生きていたのよ。この国と教会が“神聖魔法”と呼んでいる、光属性の魔法の育成を、閉じられた世界でずっと行われ続けていたの。そしてその術を習った後も、“仕事”の時以外は、全く外に出ていなくて、新聞とか余計な情報も一切与えられずに生きてきたんです」

「仕事? あんたら司祭の仕事ってのは、そんなおかしなものなのか?」

「違うわ……光魔法の力が必要な、一部の司祭だけよ。何でも光の魔法は、心の清い者にしか使えないそうで。それでこの国の闇を知らされずに育てられてきたの」

「心が清い? あんたが?」


 今までの説明で、一番違和感がある発言。

 武器を持たない民衆に激怒して剣を抜いたり、こうして村から食糧を盗む者に、そのような事を言われても、ある意味では不思議に感じる話しであった。


「何だか失礼な言い方ですね……言っておきますが、あれはあの愚かな村人達の方が悪いんですよ! ……とにかくそんな私達の生き方が、大きく変わる事件が起きました。この国が急速に弱体化して、信仰の力を完全に失ったんです。ある事件がきっかけで、この国は軍事力の半分を一気に失ったわ。それに乗じて、各地の植民地で、一斉に反乱が起き、領土の殆どが奪い返されたんです。そしてそれと同時に、ロア教の虚偽教義が国中に伝わって、宗教権力で力を支えていたこの国は、今急速に弱体化してるわ。それでもかつての権威を取り戻そうと、今度は植民地ではなく、自国の民を奴隷のように扱い始めた……」

「それでさっきみたいに、村から略奪を……そこに俺が急に現れたわけか……」


 おおよその話が分かって納得する勝太郎。まだその国が軍事力を失った事件が何だったのかとか、ロア教のインチキが民に知られたきっかけは何かとか、語っていない部分が多い。

 だが勝太郎は、自身の正体をまた詳しく話していないことの憂い目からか、それとも単に興味がないだけなのか、それに関して詳しい言及はしなかった。


「ええ……全く愚かな人々です。あの王国兵隊達の醜さはとてつもないですが、その被害に遭っている村人達も、それに次ぐぐらい愚かですよ。今まで他国の何の罪もない人々を虐げる行いを、選民思想の自惚れから賞賛しきっていたのに……自分が弱い立場になると、一転して自分が罪のない被害者のように装って……あの方々は、未だに自分達も彼らと同罪であることに気づいてないわ。それどころか、今日みたく、自分を救ってくれた者を、感謝しないばかりか、あのように罵声を浴びせる始末ですよ・・・・・・。今日のことは、目の前で行われている行為に、せめてもの慈悲で命がけで戦ったのに・・・・・・私としても間違った行いをしてしまったものです」


 略奪者である王国兵だけでなく、被害者である村人達にも、強い敵意を見せるラチル。彼女にとっては、この国の者達は、政府も民衆も、五十歩百歩だったようだ。


「小次郎が言ってたのはそれか・・・・・・。まあ、とにかくお前の話は大体判った。それでお前は今どうしたいんだ? 俺にこうして話しをしてきた辺り、何か頼みたいことがあるんじゃないのか?」

「えっ、ええ・・・・・・その通りです。今日初めて会ったばかりの人に、いきなり頼み事というのも、かなりお恥ずかしい話しですが・・・・・・どうか聞いていただけませんか? ・・・・・・コジロウ?」


 繰り返し謎の発言をする勝太郎に少し困惑し、そしてこちらの本音を言い当てられて、少々焦りながら、ラチルは彼の言葉を肯定した。


「確かに恥ずかしい・・・・・・というより、何か滅茶苦茶な話しだな? お前にとって俺は、正体も考えも判らない、全く謎の怪しい人間の筈だぜ? そんな奴に、いきなり頼み事なんてな。他に頼れる人がいなくて、孤立無援で、もう見境をつける余裕もなくなったか?」


 この問いにラチルは無言だった。ただ恥ずかしげに俯く姿は、その問いの肯定を意味していた。


「まあとりあえず・・・・・・そっちの頼みを言って見ろよ。お前は何が望みだ? ディーク神聖王国を潰すことか? それともこの国から逃げることか?」



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