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第七十五話 ようやく始まる死闘

 そして場所は戻って、未だに戦場となっているディーク王城にて。


「お~しただいま! ・・・・・・えっ?」

「「!!??」」


 いきなり部屋に上がり込むと変に驚かすので、とりあえず王城庭園の適当な所に飛んだ勝太郎と真澄。

 突然転移でその場に姿を現した二人の存在は、現場を一瞬硬直させた。それは飛んできた勝太郎も同じであった。


「えっ・・・・・・魔人?」


 呆然とそう口にしたのは真澄であった。彼らが飛んできたのは、まさに魔人ロアとラチル達が対峙している場の、すぐ近く。


 つい数時間ほど前まで、津軽王国人やディークの文官・兵士が、国の復興のために慌ただしく動きながらも、それなりに落ち着きを取り戻していた王城。だがその王城は、以前以上の悲惨な状態であった。

 庭園も建築物も、破損箇所が激増しており、小規模火災が起きているようで煙が上がっているところもある。勝太郎の優れた嗅覚からは、各所から夥しい血の臭いもした。


 そして眼前の百メートル先には、ラチルと聖者・兵士が血と泥まみれになって立ちすくむ。そして対峙する彼女らに攻撃を与えようと、魔人ロアが目を発行させている最中だった。

 そんな現場を目撃した真澄は勿論のこと。勝太郎も周りの風景が見えなくとも、かなりやばい状況になっているのを、即座に理解した。


「勝太郎さん!」

「「勝太郎様!」」


 絶体絶命の危機の最中に、まさにギリギリのタイミングで帰還した彼らに、ラチル達が歓喜の声を上げた。

 同じくロアの方も、この突然現れた二つの闖入者の出現に、光線を撃つのを一旦止めて、勝太郎の方に多数の目を一斉に向けた。


「何だこれ!? 何がどうなってる!?」

「魔人らしき変な女がいる! よく判らんが、王城が襲われたらしい!」


 真澄は即座に、ゲンイチ小銃を召喚し、ロアに銃口を向けた。するとロアは、最初はラチル達に狙いを定めていた目の光線を、即座に彼らのほうに狙いをつけ直した。


(やばい!?)


 事態を視認できない勝太郎だが、いつも敵の魔道士が、こちらに魔法を撃つのと似たような空気を感じ取った。

 いつもなら魔法攻撃など、避けもせずに堂々と受けるが、今回ばかりは何故か危険なものを感じた。そして小銃を構えようとする真澄を掴み上げて、即座にその場から右横に走り込んだ。


 ドゥウウウウン!


 先程まで勝太郎達がいた地面に光線が直撃。石造りの庭園の歩道が、空爆を受けたかのように派手に爆砕されて、大量の石の欠片の雨を一帯に降らせた。


(何だ!? 今のは魔法か!? 今まで魔法を撃つ魔人なんていなかったぞ!)


 反響で勝太郎が認知した敵の姿は、細身の人間の姿をしていた。だが五メートルもの体高から、充分人でないことが判る。

 だが今までも魔人にはなかった体型と、今の魔法から、勝太郎は若干の動揺が走る。一方で、マネキンのように勝太郎に抱えられた真澄。彼女はその姿勢のまま、小銃の狙いを定め、ロアに向けて引き金を引いた。


 ダダン! ダダン!


 鰐人故の腕力か、反動などものともせずに、片手で小銃を数連発射する真澄。それらの弾丸は、体格が大きくて狙いやすいロアの巨体に、全弾命中するはずだった。

 だが狙いは間違っていないのに当たらない。見えない壁が一瞬半透明に見えて、潰れた鉛の塊が、あちこちに跳ね返る。あの魔法結界が、小銃弾を全て弾き返したのである。


「(防御魔法も使えるのか!? 小癪な奴め)勝太郎、そのまま私を抱えたまま、敵の攻撃を避けてくれ! 私はお前ほど、素早く動けないからな!」

「ああ、判った!」


 再びロアの光線が二人を襲う。勝太郎は真澄を肩車した体勢で、再度その攻撃を回避する。的を外した光線が、向こうの城壁に穴を開けたと同じ頃に、真澄も新しい武器を生み出した。

 今度ゲンイチが変わったのは、110mm個人携帯対戦車弾。即座に引き金が引かれ、榴弾が炎を吹きながら、ロアに向かって飛んだ。

 ロアは見かけによらず動きが鈍いのか、それとも攻撃が当たっても大丈夫と余裕なのか、その榴弾を避けようとはしなかった。


 ドオン!


 戦車の装甲を損傷させるほどの爆発が、ロアの巨体を一瞬その場から隠す。だがその爆発で飛び散ったのは、余波を受けた周囲の石や土埃ばかり。魔人の肉片は、一欠片も飛ばなかった。


(やはり駄目か・・・・・・)


 煙の向こうから、全く無傷のロアの姿が現れる。どうやらあの結界は、対戦者弾の威力でも破れないようだ。


「グオオオオオォーーー!」

 真澄の攻撃が無力化されたのが確認された直後に、別方向から別の者が攻撃を加えてきた。それはヒグマに変身したロビンであった。


「何だあれ!? あれも魔人か!?」


 ロビンの能力のことも、その外見も判らない勝太郎が、ロアに向かって豪腕を振る巨体の存在に驚いている。

 ロビンのヒグマの爪が、ロアの肉体を切り裂かんと繰り出されるが、やはりそれも結界で弾かれた。爪の先端が少し鈍くなったロビン。彼に向かって一つの目が光り、光線が飛ぶ。


 ロビンは体格に似合わぬ素早い動きで、その光線を紙一重で回避した。だがすぐに、別の目から発射された次の光線が、ロビンの身体に直撃した。

 当たった光線は一発だけだったのと、ロビンの巨体故の頑丈さか、大翔の時ほどの深刻なダメージはない。だがそれでも余裕で受けられたとは言えず、ロビンが苦痛に悶え、その身体がぐらり揺れる。


 ロアの目玉が、さらにまた光り出した。今度光った目の数は五つ。つまりさっきの五倍のエネルギーの攻撃が飛んでくるということだ。それがまだ怯んでいるロビン目掛けて、一斉に放たれようとした。


 ドドドドドドドドドゥーーーー!


 だがその光線が発射される直後に、横から銃弾の嵐が襲いかかってきた。その銃弾は先程よりも遥かに重く、そして一気に飛んでくる。

 見るとM2機関銃を構えた真澄が、ロビンに気をとられたロアに、その巨大な銃口を向けて発砲していた。


 バシッ、バシッ、バシッ!


 驚いたことにそれらの弾丸は、殆どがロアの肉体に命中した。巨大な弾丸が、ロアの巨体の各部に命中し、肉に深く食い込み、大量の血飛沫ならぬ泥飛沫を上げる。

 弾丸は貫通にまでは至らないが、確実にロアの身体に損傷を与えていた。別に結界を破ったわけではない。それどころか結界そのものが存在した様子もない。

 それらの機銃弾は、何の障害もなく、ロアの身体に命中したのである。


(やはりな! 結界を張るのと、攻撃魔法を撃つのは、同時にはできないか!)


 ロアの致命的な弱点を見抜いた真澄が、無防備になったロアの肉体に、構わず機関銃を撃ち続ける。百発以上の弾丸が、ロアの肉体に次々と食いこみ、その余波で肉体の各部が弾け欠けていく。

 そして一帯に、大量の黒い液体が飛び散っていく。だがそれらの液体が、ただの泥に変わる様子はない。それどころかそれらの液体がアメーバのように動き出し、ロアの肉体に戻っていき、欠けた身体を補修していった。

 ロアの肉体の各部にある複数の目は、一つも潰れていない。あれ程の弾丸が当たったのに、一発も目に当たらなかったのだろうか?


「おい、どうした? あちらさん再生してるみたいだが、目には当たらなかったのか!?」

「いや、何発か当たったのは見えた! だがその辺りに小さな結界が張って、弾丸が弾いたのも見えたぞ! どうやら、目の周りにも二重に結界があるようだ!」


 ロアの身体を守る結界は、全身を卵状に包む一重目と、数十ある目玉一つ一つにある小型のものとで、二重構成になっていたようだ。

 しかもその各部目玉を守る結界も、機銃弾を弾くほど頑丈であり、そしてそれらは攻撃魔法の直前直後でも、常時張り続けることができるらしい。


(弱点が見つかったと思ったらこれか・・・・・・。身体をどれだけ砕いても、目玉を潰せなきゃ意味がないな。やはりここはあの巨人になって・・・・・・うん!?)


 だがすぐにロアの攻撃魔法が、真澄と勝太郎目掛けて飛んだ。それを即座に回避する二人。だが連続して次の攻撃が、幾たびも発射される。

 今まで撃ってきた魔法よりも威力が劣る細い光線。だが低威力な分、連射性に長けるらしい。機銃弾のように次々と連射されるようにして、二人を襲い続けた。


「おい! あのでかいのにはなれないのか!?」

「さっきからなるように命じてるんだが・・・・・・どうやら派手に揺れてるせいで、あの大物になれるよう集中できないらしい!」


 それらの攻撃を、バレエを踊るような動きで躱し続ける肩車した二人。だがどうやらあのロボットにはなれないらしい。

 そうでなくても、これだけの連射攻撃がされる中、あのロボットの操縦席に乗りこむ隙をつくれるかどうか判らないが。


「らしい? お前が集中できないってことじゃないのか!?」

「いいや、集中できないのはゲンイチの方だ! この不思議な石も、意思のある転生者なんだよ!」


 そんな二人が踊りながら会話している中、攻撃を発し続けるロアに向かって、今度はロビンが横から不意打ちを仕掛ける。豪腕と鋭い爪を突き出し、ロアの身体の目玉の一つを潰そうとするが・・・・・・


 ドゴッ!


 だがその攻撃は払われた。魔法の力ではなく、素手の力で。ロアの身体に飛びかかったロビンを、ロアがそちらを見ない、横向きの正拳打ちを喰らわしたのだ。

 ロビンより腕の長いロアの拳が、ロビンの攻撃が届く前に、彼の顔を殴りつける。さらにそれで怯んだ辺りで、彼の腹を狙って蹴り飛ばした。

 前から魔法で標的を襲いながら、横からの攻撃を肉体的な技でやり返したロア。どうやらロアは、魔法だけでなく、格闘戦にも長けているらしい。


 だがロアに余裕があったわけではない。何度攻撃しても、真澄たちを全く仕留められない上に、横からも敵の攻撃が入ったことで焦ったのだろうか?

 ロアの攻撃が一瞬止む。真澄がその隙に、あのロボットを召喚しようとした矢先、なんとロアの身体の、全身の目玉の半分近く、十数の目玉が、一斉に光り出したのだ。


「うわっ!?」

「伏せてろ!」


 急に勝太郎は、肩車していた真澄を思いっきり投げ飛ばした。戦いで折れたと思われる、近くの倒木の裏側に、真澄の身が放り投げられる。

 常人ならば骨折を起こしてもおかしくない地面との衝突。だが真澄は多少痛がる程度で、即座に言われた通りに、その倒木の裏に隠れるように、そして虫が地面にへばりつくように、姿勢を最大限に低くした。


 その直後に、ロアの全身の目から、一斉に光線が放たれた。某怪獣映画の内閣総辞職ビームのように、幾つもの細い光線が、勝太郎達とロビンがいる方向の、広範囲に一斉に連射的に放たれたのだ。これはどんなに素早く動いても、完全に避けきるのは難しい。


 ドン! ドン! ドン!


 勝太郎はしきりに動いて回避を繰り返すが、全てを避けきれず、次々と光線が当たっていく。それは一方のロビンも同じであった。


「おい、大丈夫か!?」

「ああ、心配するな!」


 光線が何発か当たったが、勝太郎はさほど怯まない。エネルギーが拡散している分、一発分の威力は弱まっているようだ。

 これならば数発当たった程度ならば、さほど深刻な痛手にはならない。その代わり的を外した光線が、遥か遠くの城の壁に、蜂の巣のように無数の穴を開けていたが。


(ラチル達は!?)


 勝太郎は避けながら、ラチル達の方向を見やる。ロアが攻撃を仕掛けているのは、勝太郎とロビンのいる二方向。

 幸いラチル達一行は、事前に危機を察したのか、ロビンのいる方向とは大分離れた位置に移動していた。しかも万一の事を考えて、ラチル含めて防護魔法を使える者は、全員結界を防御中だ。

 この程度の威力の光線ならば、彼女らの結界でも、ある程度防護できるのかも知れない。


「うげっ!?」


 だが安全な位置に移動してもいなければ、防護体勢もとれない者もいた。一人の少年が、カエルのような声を上げて、光線を受けて吹き飛んでいた。


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