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第七十二話 外ヶ浜にて

 さてその頃、当の早急な帰還を待ち望まれている、勝太郎と真澄はどうしたのかというと・・・・・・


「どうだ? 外ヶ浜名物の黒氷菓子は。美味いだろう?」

「ああ、そうだな。甘くてヒンヤリして・・・・・・もしかしてこれって、チョコアイスなのか?」

「お前の祖国じゃそういうのか? まあそう言ってくれて嬉しいよ。子供の頃から慣れ親しんだ味だ。本当に久しい味だよ・・・・・・」


 町民・商人・外国人・観光客等々、多くの人達が行き交う、外ヶ浜町の商店街。その一角の菓子屋で、二人は仲良く席に座って、アイスクリームを頬張っていた。

 一目見れば、日本でいうアイスだとすぐ判る外観だが、勝太郎はそれを口にして、初めてそれだと判った様子。

 つい十数分前まで、真澄の実家で真剣な話し合いをしていたが、どうやらそれは済んでいるようである。


「しかし父親との話・・・・・・あれだけで本当に良かったのか? もっと話すべき事があるんじゃないのか?」

「いいや、あれでいいさ。お互い言うべきことは全て言い切った。あれ以上無駄に話を長引かせても、かえって気まずくなるだけさ。まさか楽しく土産話なんか、できるような状況じゃなかったし」

「はあ・・・・・・そうかい。まあ、あれだけの家族の問題が、あんな風に穏便に済んだのは、それで良かったかもな。それでお前は、ディークの件が済んだら、あの家に帰るのか?」

「さあな・・・・・・それはまだ判らないよ。まだもう少し、私にも父さんにも、時間がいるだろうが・・・・・・」


 一連の事件によって起こった、真澄と父親の確執。まだ完全になったわけではないが、どうやらある程度和解の目処は立った様子。

 さてそんなシリアスな会話を打ち止めて、真澄が問いかける。


「それでどうする? 酒井屋の食糧のとりまとめは、まだ数日かかるから、今日ここでの妖は終わったが。このまますぐに、ディークの方に戻るか? 今頃お前の許嫁ラチルが紙の山と睨めっこして、お前を待ってるだろうが」

「う~~んどうするかなぁ・・・・・・。このところ、転移を使い放しで、大分疲れてきたところだし。いっそここで勝手に休暇をつくって、ここで観光でも・・・・・・そういやこの辺りで、食べ物以外で、目が見えなくても楽しめる所ってあるか?」

「う~~む。ああそういえば文化会館があるな。毎日いつも、どこかの延撃とか演奏が行われてるぞ。確かさっきの張り紙で、異世界の奈々心国からの楽団が来ているらしいが」

「異世界の楽団? それは面白そうだな。うん、じゃあどうしようかな・・・・・・」


 勝太郎はしばし考え込む。少し時間をとって、この街で観光をしてみるか。それとも寄り道せずに、さっさとラチルの元へとか戻るか。

 彼らが知らない、ディーク王城での切羽詰まった現状。今ここで、ディークの命運をかけた、究極の選択を、勝太郎は悩み決めあぐねていた。








 さてそんな究極の選択が思考されている中で、王城での激戦は未だに苛烈に続いていた。


「架け橋を下げないで! 絶対に魔人達を、街に出すな!」


 ラチルの指示を聞かずに、王城周辺の濠の橋を降ろそうとする兵士達が現れる。魔人達の中に、飛行能力を持つ者はいない。

 濠の水を泳げるのか不明だが、ともかく魔人を街に出さないためには、橋を上げ続けて、街区画との行き来を遮断しなければならない。


「馬鹿野郎! 聖王様のご命令だぞ!」

「勘弁してくれぇ! 俺はまだ死にたくない!」

「せめて津軽王国の使者だけでも、外に出せないのですか!?」


 逃走しようとして、勝手に架け橋を下げようとした者が、他の兵士達に無理矢理取り押さえられている。


 王城周辺の街は、主に貴族達が暮らしていた高級住宅街。一連の騒動で、この辺りの人口は大分減ったが、だからといって無人というわけではない。

 実際に王城の騒ぎに気づいた者が、既に数十人ほど、濠の向こうの王城に野次馬してきている。これはかなりやばい状況であった。


「はぁあああああっーーー!」


 とある宮殿に入り込み、長くて狭い廊下を、数十の団体で、一気に走り進む小鬼魔人達。その魔人達を、ルチルが飛行バイクに乗って轢きまくる。

 狭い廊下内では、その突撃を躱すことができず、蟻の巣のような行列状で進んでいた小鬼達が、一気にその突撃で轢き倒される。

 地面に倒れ込んだり、壁に叩きつけられる魔人達。廊下の突き当たりで急ブレーキをかけて止まったルチル。そしてすぐに反転し、目の前の廊下を、縦に並んで倒れている魔人達に、魔道杖を突きつけた。


 何発も繰り返し撃たれる神聖魔法の光が、潰れてしばし動けなくなっている魔人達を、瞬く間に殲滅していった。


「はあ・・・はあ・・・・・・これでこの宮殿に入ったのは全部でしょうか?」


 廊下の窓を叩き割り、飛行バイクで豪快に外に飛び出すルチル。この場合家屋の損傷とかは気にしてられない。


(あれ? 誰かいる?)


 飛び出し先の外には、王城庭園の一部である林の中。その林の中を進み、次の魔人の群れを探そうとしたときに、ルチルはある者を見つけた。

 それは林の木の根元に座り込んでいる、一人の人物。どうやら魔人ではないようで、ルチルは安心する。


「大丈夫ですか!? 怪我をしているなら・・・・・・」


 その人物に駆け寄り、言葉の次に回復魔法をかけようと言おうとしたときに、ルチルはその人物が何者かに気づいた。


「あなたは・・・・・・教皇!?」


 それはかつてロア教神官の最高格として、聖者達も含め、多くの人々から崇拝されていた人物。

 その人物が、高価な神官服をボロボロにし、背中から血を流しながら、その木の根元に座り込んでいたのだ。

 教皇はルチルの姿を見ると、怯えるよう前で震える。一方のルチルも、かつての尊敬の眼差しなど微塵もなく、完全な敵意の目で、教皇を睨み付けている。


「何故あなたがここにいるんですか? てっきり王都の外に逃げたと思っていましたが・・・・・・」


 教皇は何も応えようとしない。ただ黙り込んで、ルチルに対して恐怖の目を向けている。ルチルが魔道杖を突きつけて、攻撃魔法の仕草をとると、即座に口を開いた。


「まっ、待ってくれ! 私はもう、お前らをどうにかしようとか思わんから! アマテラスの属国でも何でも許す! だから撃つのやめてくれ!」

「“私はもう”? それってつまり、少し前まで、私達とこの国を、どうにかしようと思っていたわけですか?」

「えっ? あっ・・・・・・いやそういうことではなく・・・・・・」


 自分から勝手に、己の悪巧みの一端を口にした教皇に、ルチルが更に威圧的な態度を示す。魔道杖は、攻撃のふりだけでなく、実際に魔力が溜まり始めて、更に脅しめいた姿勢をとった。


「この場で殺されたくなければ、正直に応えて下さい教皇。この魔人達は、あなたの仕業ですか?」


 言うべき恨み言は多すぎて、逆に何を言えば迷うぐらい。だが今優先して聞くべきは、この魔人達と、教皇との関係。及び事態の収集法であった。


「あっ、ああ・・・・・・私がこの王城地下に溜めておいた魔人の水を使って生み出した・・・・・・」

「それでどうしてあなたが、ここで怪我をして止まっているんですか?」

「いや・・・・・・あの魔人の水を、何だか変な生き物に見られてしまって・・・・・・。それで捕まえようとしたら、逆に魔人を王城の者に見られてしまって、逆に騒ぎになって・・・・・・」

「馬鹿ですか、あなたは?」

「うう・・・・・・それでいっそのこと、今すぐに事を起こそうと、次々と魔人を生み出したら、途中で私の言うことを聞かなくなり・・・・・・」

「はぁ・・・・・・判りましたよもう・・・・・・」


 呆れた様子で、ルチルはその話を打ち切った。制御できなくなった魔人が、召喚者に牙を向けるのは、これまで何度も見てきたために、今更全く驚くことではない。


「それで・・・・・・あの魔人達を止める方法はないわけですね?」

「うっ、うむ・・・・・・地下の施設を破壊しても、恐らくは止まるまい。物理的に破壊して、全滅させるしかないだろうな・・・・・・」

「全滅って言っても、あれらは倒しても次々と湧いてきますけど?」

「やつらは分体だ。倒し続ければ、いずれ分体に分ける質量がなくなって、いずれ本体が出てくるだろうな」

「その本体とは?」

「ロア型という魔人だ。これまでディークが作ってきた魔人の中では、最高戦力だよ。だがまあ・・・・・・この有様だと、起動しても制御できなかったかもしれんが・・・・・・」

「そうですか・・・・・・じゃあとりあえず」


 聞くべき話しを全て聞き終えたルチル。彼は魔道杖の攻撃魔法の魔力を解く。その代わりに回復魔法の魔力を放った。


「待て、何を・・・・・・おおっ!?」


 教皇は背中の痛みが、急激になくなっていくのを感じた。ルチルの治癒魔法が、背中に深く刻まれた引っ掻き傷を、見る見る治癒していったのだ。

 出血した分は取り戻せないが、おそらくこれで、すぐに死ぬことはないだろう。


「お前・・・・・・私を助けてくれるのか?」

「ええ、あなたにはすぐに死んでもらうわけにはいきませんから。事が済んだら、あなたもあの貴族院議員と将軍の方々と同じように、諸国の方にお渡ししなければいけませんし」


 救いの手が差し伸べられたと思ったら、むしろ逆。ディークとロア教に、恨み骨髄の諸国が、彼にどれほどおぞましい処罰を下すか、全く想像できない話しである。

 心底侮蔑しきった目を向けた後、ルチルは再度飛行バイクのエンジンをかけて、すぐに戦地に戻っていった。


「ちょっと待ってくれ! それはやめてくれ! 何でもやるから! そうだ教皇の地位をやろう! そしたら聖王となったお前の姉と一緒に・・・・・・」


 教皇が後ろから何か言っていたが、ルチルは一切気に止めることなく、林を抜けて姉たちが戦ったいる戦地へと高速で走って行った。


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