表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/81

第七十一話 万能魔獣

 さて王宮のとある地下室。あの大量の魔人の素を保管したその場所で、一人の男がとうとう行動にとろうとしていた。それは国の発表では行方不明となっている、あの教皇であった。


(ようやく準備が整ったか。今こそこの国を、ロア教の・・・・・・いやこの私の元に取り戻すとき。女神の神託という名の、私の指示を持たずに、勝手に聖王を名乗り、国を蛮族に売り渡したあのゴミ女に、今こそ鉄槌を下すときだ! いやあの女だけではない! この売国を歓迎している国民共に、相応の数の死を持って思い知らせてやらねば! 女神ロアがいようがいまいが、ロア教こそがこの世の全てであることを、今一度この力を持って知らしめてやろう!)


 魔人のプールの前で、小さく笑いながら、まだ眠っている魔人を生み出そうとする教皇。彼の強大な魔力が、周囲の魔方陣を急速に発動させる。

 そして魔人のプールの水面が、気味悪く揺れ始めたときだった。


「ワン! ワン!」


 何故かその場で聞こえたのは、犬の鳴き声だった。通行者に吠える番犬のような声が、この広い地下室に、反響して小気味よく響く。


「何だ? 軍の犬か?」

「グルルルルルルッーーーー!」


 教皇が地上へ続く通路の方へと向くと、やはりそこには犬がいた。それは先程、真澄が勝太郎に紹介した、あのロビンである。

 辿ったのは臭いか魔力かは判らないが、どうやらここで何か起こっているのに気づいたようである。恐らくは普通の犬には、そのようなことできないであろうが。


 今にも噛みつかんと、威嚇の唸り声を上げるロビン。それに一旦魔術の詠唱を止めた教皇が、めんどくさそうな顔をする。


(軍犬にあんな犬種がいただろうか? まあ、外の奴らに知られると面倒だ。ここで始末するとしよう)


 教皇が足下の魔道杖を拾い上げる。そして即座に、ロビンに向けて魔法を放った。

 相手はもしかしたら普通の犬ではなく、召喚獣の可能性があるので、手加減なしで撃つ。発せられるのは炎の球。普通は神官が使う魔法ではないそれが、ロビンに目掛けて飛ぶが。


 だがそれが撃たれる直前に、ロビンの身に異変が起こった。それは魔法が発射され、それが着弾するまでの一瞬の出来事。

 ロビンの身体が、瞬時に光に包まれ、一つの光の塊となった。そしてそれが急激に巨大化・変形し、別の者へと変じていく。

 それは真澄の持っている、ゲンイチの変身現象と全く同じものであった。


 ボン!


 この地下内に、決して小さくない爆発が起きる。さすがは教皇と言うだけあって、そのちからは絶大で、人間なら五体が原型留めず、木っ端微塵になる威力。

 だがその爆発の後で、煙の中から姿を現した者は、しっかりその原型を留めていた。


「グオオオオオオーーーー!」


 そこにいたのは中型犬ではなく、何とヒグマであった。

 全身が赤褐色の毛で覆われた、屈強で巨体の肉食獣の姿。死んだふりをしても、頭から囓ってきそうなどう猛な姿。別に補足するまでもないが、これはロビンが変身した姿である。

 今の魔法攻撃の直撃は、多少は効いたようで、身体の一部の体毛と皮膚が焦げており、ロビンの泣き声には痛みによる怒りの感情も感じられた。


(姿が変わった!? このような魔法生物聞いたこともないぞ!? 津軽王国の者が連れてきたのか!? おのれぇ~~蛮族共の国のくせに、こんな高度な魔法生物を作るとは、何と許せんことだ!)


 教皇は再度魔法を撃とうとするが、すぐに巨大熊になったロビンが、こちらに向けて突撃する。

 巨体に似合わぬ素早い動き。それに気づいて、瞬時に自分で相手がするのは危険だと悟った教皇は、別の手に出た。


「聖なる守護獣たちよ! この私を守れ! ぐっ!」


 ロビンの豪腕と鋭い爪が、もうすぐ目の前まで迫り、教皇に振り下ろされる。教皇は咄嗟に、魔法結界を放って、その攻撃を防護する。

 結界越しの衝撃が、教皇の身体に強く響く。その一撃でその結界が、ガラスのように今にも砕かれそうな程弱くなっていた。

 ロビンの攻撃が、再度教皇に振り下ろされようとした。後一撃を受ければ、結界は簡単に破られ、教皇の身にその爪が、深くその身を切り裂いたであろう。


「グォオオオオーーー!」


 だがその攻撃を横から止めに入る者がいた。その者の振るわれる手を、ロビンは後方飛びで躱す。

 教皇を守るかのように立ちはだかるそれは、何と魔人であった。これまで勝太郎達も何度も戦ってきた、オーガ型魔人であった。


 いったいどこから姿を現したのか? 見ると教皇の背後にある魔人プールの水面の各所が、まるでアメーバのように動き、盛り上がっている。

 まるでタケノコが地上に芽を出したかのように、水面から突起状に述べてくる謎の盛り上がり。それらがどんどん形を変えて、先程動揺のオーガ型魔人や大蛇型魔人へと変じていく。

 そしてそれがプール水面を、地面を歩くように移動し、ロビンの元へと近づいてくる。どうやら教皇は、このプールの一部の液体を魔人に変えて操ったようだ。


「グウッ!」


 不利な状況を悟ったロビン。戦いを避けて、即座に身体の向きを反転させて、地上へと続く廊下へと走って行った。


「逃がすな! 地上を出る前に、奴を始末しろ! まだこの部屋のことを知られてはいかん!」


 教皇の命令を受けて、魔人達が一斉にロビンを追って走り出した。その動作速度は、ロビンよりずっと遅い。

 そして地上への道は、迷うことのない直線上の一本道。これでは命令通りに、ロビンが地上に出る前に、彼を捕まえるのは不可能であろう。


 地上の者にここを知られまいと、無茶な命令を出した教皇。ロビンを追った魔人達が、地上を出たときに、今まで以上の騒ぎを、王城内に巻き起こすことになった。






 それから十数分後の交易の町の、外ヶ浜町。勝太郎はそこまで行ったことがないので、転移でそこに行くことはできない。

 だがその代わり、そこは村からそれほど離れていない所なので、徒歩でもさほど苦労なく行くことができた。


 以前はディーク艦隊侵攻で、真っ先に脅威にさらされ、大混乱に陥った町。だが今はそんな過去の事実など、微塵も感じられない、以前以上の賑やかさを見せる町となっていた。

 多くが和風の装いの町ばかりのアマテラスだが、この地ではゼウス大陸の国(ディークとは無関係)との交易を盛んに行った影響で、洋食店等の洋風の建物や、洋装の者やゼウス人の姿をよく見かける。中には和装をしたゼウス大陸人の姿も、かなり多く見られた。


「さてここが外ヶ浜町でいいんだよな? 弘後と違って、テレビの音は聞こえないが・・・・・・」

「ああ、そうだここで間違いない。私の実家はあっちだ」


 真澄に連れられて、勝太郎が向かったのは、金持ちの商家の家が建ち並ぶ、上級住宅街。その中で比較的大きな規模の庭園と屋敷を持つ、とある豪商家の門前にまでやってきた。


「前より蔵が一つ増えたな・・・・・・あの事件の後、店が潰れるかと思ったら、しぶとく生き残りやがったか・・・・・・」

「そういう言い方はよせよ。これからディークの復興の件で、こっちは頼む側だぞ・・・・・・」

「ああ、判ってるよ・・・・・・」


 和風な大きな屋敷門の前に立つ二人。そこで呼び鈴を押し、使用人が玄関に出ると、その者は真澄を見て、大層驚いていた。


「真澄様!? ええとすぐ旦那様をお連れして・・・・・・」

「別にいい。私らこれから家に入っても構わないか?」

「ええ、勿論ですよ! 旦那様も、真澄様のことを、ずっとお待ちです! さあ、どうぞ!」


 使用人に連れられ、家の中に上がる二人。大層な豪商らしい、綺麗な庭園が見える中、二人は屋敷の入り口に足を向けていった。


「勝太郎・・・・・・ここから先、私と父さんとで、少々込み入った話になる。もしかしたら・・・・・・・かなり見苦しい場面を見せるかも知れないが・・・・・・」

「ああ、いいさ気にしなくても。俺もきちんと立ち会ってやるよ。俺もちゃんとディークの方での協力者に、顔を見せておかないとな。まあ、俺は顔見えないけどな♫」


 やがて神妙そうな顔で、屋敷の居間に座り込む真澄の父と対面した。互いに口を開きにくい状況での、一年と数ヶ月ぶりの親子の対面である。この雰囲気を見て、勝太郎は思った。


(和解仕掛けの親子の話し合いは、かなり長引きそうだな・・・・・・。ラチルのいるディーク王城に戻れるのはいつになることやら・・・・・・。まあ向こうに急ぐ要件もないし、別にいいよな)






 さてそれから一時間後の、ディーク王城にて。勝太郎が旅発つまで、机の上の書類と、嫌々で戦っていたラチル。だが今は、もっと危険な者と、別な戦いを繰り広げていた。


「ちょっと! 勝太郎さんと真澄さんは、まだ帰ってこないわけ!?」


 王城内のとある庭園で、ラチルの怒声が鳴り響く。ラチル達が今戦っているのは、何と魔人であった。

 以前は真澄の乗るロボットが暴れて、滅茶苦茶になったその庭園。そしてそれが更に追い打ちをかけるように、新たな戦いで崩壊度が増している。


「ホーリーレーザー!」

「ホーリーレーザー!」

「ホーリーライト!」


 ドン! ドン! パンパン!


 ウィリアムを含めた多人数の聖者達が、神聖魔法を次々と撃ち放つ。他の兵士達も、銃や魔法を撃ち続け、あるいは刀剣で魔人達と格闘していた。


「ラチル様、危ない!」

「でりゃあ! 私は大丈夫よ! そっちも戦いに気をとられないで!」


 横側からラチルに襲いかかって来た大蛇型魔人を、ラチルが光の剣で眼球ごと頭を切り裂く。ここだけでなく、王城の各地で、聖者や兵士達が、魔人達と戦っていた。

 爆音が各地で鳴り響き、城内入り込んだ魔人を吹き飛ばした影響で、王城の各地がどんどん欠けていく。


 ダダン! ダダン!


「くそっ! まさか私達が来た後に、こんな奴らが来るなんて!」


 とある津軽王国の兵士が、自動小銃で小鬼魔人達を撃ち抜いていく。

 その小銃は、真澄が使っているゲンイチのコピー体ではなく、本物の銃器であった。しかも89式とはデザインが異なる、更に性能が上がった改良版である。

 この戦いには、異世界からの輸入武器を持った、津軽王国の兵士も参加していた。


 彼らは文官達の護衛が主な任務であったが、まさかこんな予定外の敵と戦わされて、大層迷惑な思いをしているだろう。

 彼らに目を撃ち抜かれた魔人が、そのまま溶けて倒れ込む。その足下にあるのは花壇。かつては美しい花が咲き怒っていた花壇は、これまでの戦闘で踏み荒らされて滅茶苦茶だ。更にその踏まれて背が低くなった草花に、溶けた魔人の死骸の泥が流れ込んで、見る影もなく汚れていく。


 彼らが戦っているのは、小鬼型や大蛇型など、比較的低級の魔人達。だがそことは別の、最初に魔人が現れた地区では、もっと強大な魔人達が現れ、それをロビンが相手をしていた。


「グォオオオオオオッーーーー!」


 ヒグマの姿になったロビンが、三匹のオーガ型魔人を、その豪腕で払いのける。熊と魔人の、三対一の格闘戦が、その地下への階段付近にある、堂塔周辺の幅広の通路で行われていた。


 あるとき突然、この王城内に魔人達が現れた。ロビンが城中に響き渡る、警告の声を発したことで、城内の者はいち早く異変に気がつくことになる。

 もしロビンが教皇の企みを見つけ出していなかったら、城内の者は教皇の反旗結構の時まで、一切気がつかずに不意を打たれていたかも知れない。

 オーガ型などの上位魔人をロビンが相手をし、彼に対処しきれなかった、無数の下位魔人の群れが、王城内に蟻の大群のように広がっていく。それをラチル達、聖者と兵士達が応戦している状態だ。


 ロビンは既に二体のオーガ型を倒している。最初は三体現れ、それをロビンが二体倒したが、後から地下から、更に二体追加して現れ、結局最初に戻った状態。

 ロビンと魔人の戦いは、今のところロビンが推しているが、彼の身体にも連戦での生傷が増えてきている。このままどんどん、新手がきりなく現れたら、彼の体力はどこまで持つだろう?


(勝太郎さんに真澄さん・・・・・・この大事なときに、何もたもたしてるのよ!)


 やりきれない状況に、ラチルは大層ご立腹。支配者である津軽王国との連絡・輸送は、ほとんど勝太郎に任せっぱなしであった。

 そしてこちらから、重要戦力でもある、勝太郎と真澄に連絡をとる手段がない状況。一時は平和を取り戻した王城内は、突然魔人との大戦争が始まり、一気に危機的状況に陥っていた。


(そういえば真澄さんの実家に行ってるんだっけ? 帰ってくるのはすぐだから、ここまで時間がかかっているとなると、やっぱり真澄の父親と何か揉めてるのかしら?)


 いつになったら帰ってくるか判らない、勝太郎と真澄。今はとにかく、彼らが戻ってくるまで、この戦況に耐えるしかない。ラチルは勝太郎を信じ、聖王御自ら魔人と剣を交え続けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ