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第六話 廃れた聖地

 その建物は、三角屋根が長く伸びた、黒い屋根と白い壁の建物である。

 村内の家屋と比べると、かなり大きいが、宗教施設としてだと、少々小さめだ。まさに田舎教会の汎用例と言って良い外観の教会である。

 その教会の中に二人は来訪してきた。木製の人三人分は通れる大きなドアを開けて、二人は中に入る。


「ここは何だ? 箱みたいなのがいっぱいあるが、倉庫か?」


 目隠ししている少年は、それが少し大きい建物だと判るが、それ以外のことは何も判らない。彼が箱と称しているのは、恐らくこの教会の中に並べられた、礼拝客用の椅子であろう。


「ここはアラン教会という所よ。今は誰も使ってないので、私はここで寝泊まりしてるの……」

「へえ、教会か。この感じからして、やっぱりキリスト系な感じかな? しかし荒れてるな……窓なんて開けっ放しで、ビュウビュウ風が吹いてるし……」

「そうね……確かに荒れてるわね……」


 何やら暗い雰囲気で肯定するラチル。実際の所は、ここは荒れているどころではなかった。

 この教会の壁は、外も中も、多くの落書きが書かれている。“ゴミ司祭出て行け!”“ロア教は皆死ね!”などといった、過激な文字が各所に描かれている。

 そして教会の窓は、石でも投げられたのか、ほとんどが割れていた。

 中に並べられている椅子も、大半が破損しており、奥に鎮座してある、女神像と思われる石塊は、元の形が殆ど判らないぐらいに、ボロボロに壊されている。

 また奥の教壇など、いくつかの地点に、血痕と思しき、赤い汚れが付いていた。


 そこはかつて、相当過激な暴動が行われたと思われる悲惨な光景。もしこれを、あの王国兵達が見たら、どう反応しただろうか?

 そんな人が寝泊まりするには、衛生上以外にも、あまり心地よくない場所である


 カツン! カツン!


「あの・・・・・・さっきから何故、そんな音を立てているのですか?」


 ここまでの道中で、ラチルがずっと気にかかっていたことがあった。この少年は、さっきからずっと、足音をわざと立てたり、拍手のように両掌を叩いたりして、しきりに音を立てているのだ。この教会の床だと、とりわけその音が大きく聞こえる。

 その行動の意味が判らず、その上その音に少しやかましいものを感じていたラチル。ここに来て、ようやく彼女はその事を問いかけた。


「だってしょうがないだろ? 前に舌打ちして歩いてたら、寺のガキ共に泣かれたしよ。かといって白杖は、色々嫌な思い出があって、使いたくないんだよな・・・・・・」

「はぁ・・・・・・そうなのですか・・・・・・」


 少年の言っていることの意味が、さっぱり判らないラチル。ともかく今はそのことに追及するのはやめておいた。

 そして教会の中の壊れていない椅子に、少年とラチルは座り込んだ。


「私の名は、さっきもご紹介しましたね。では貴方のお名前を窺っても?」

「ああ、俺の名は山田 勝太郎だ。山田が苗字で、勝太郎が名前な。出身は日本っていう国だよ」


 早速自己紹介する少年=勝太郎。といっても、名前と出身地を言っただけで、実際ここの最大の謎である、この男の正体は、それだけではさっぱり分からないが。


「ニホン……聞いたことのない国ですが、それはアマテラス大陸内にある国なのですか? 見たところ、勝太郎様は“サムライ”のようですが?」

「いや……そんなのじゃないよ。俺の国は島国だし。まあこの世界に来てから、アマテラスには色々世話になったがよ。ついさっき、魔法でそこからこっちに飛んできたところだ」

「(この世界?)……ええ、そうですか。それでやはり転移でどこか遠いところから来たんですね? 判りました……」


 相変わらす謎の発言を繰り返す勝太郎に、ラチルは少々怪訝に思いながらも、説明を始める。


(獣人で、その上この服で、アマテラス人じゃないって……この人の国って? まあ世界も広いんだし、そういった土地もあるのかしらね? 私だって世界のことなんて、最近まで碌に知らなかったし……)


 本当はこの勝太郎の正体を探るべきだろうが、相手の強さと先程助けられた借りも含めて、何となくこっちが礼儀をとるべきな気がした。


「とりあえず、ここはどの辺りなんだ? 確かこの世界には大陸が二つあって、西に獣人が住むアマテラスで、東に純人が住むゼウスだったよな? じゃあ、ここはやっぱりゼウス大陸なのか? 俺にはお前らが獣人なのかどうかなんて、よく判らんが」

「ええ、そうですよ。私も、さっきあそこにいた人達も、全部純人です。ゼウス大陸の、ディーク神聖王国領内の、アラン村という場所ですよ。」

「そうかい。・・・・・・しかしアマテラスにゼウス、ギリシャと日本の神が、対になってるのは面白いよな」

「はぁ・・・・・・」


 また何か意味不明な単語が出てきたが、やはり今回も、ラチルはスルーすることにした。

 正直かなり不安が広がったが、これも用心と、彼への今後の事を考えて、あえて警戒心を押しとどめる。


(もっと詮索したいところもあるけど……今後の関係のために、あまり探りすぎない方がいいわね。幸運にも巡り会えた、本物の救い主様だし……)


 相手に悪印象を与えないよう、色々考えた後で、ラチルはふと思い立ったように、勝太郎に語りかける。


「とりあえず私、お腹が空いたから、ちょっと食事にするわ。血を流したあとって、結構栄養が必要になるし……。勝太郎様も、何か食べます?」







 一方のこの教会とは数十キロ離れたとある場所。あの村のように、豊かな森林で囲まれた場所ではなく、何やら殺風景な荒れ地で覆われた土地。

 その土地には集落はないが、それ以上に大きな存在が見える。それは高さ十メートル以上の塀で覆われた、巨大建造物群。ディークの国旗が掲げられた砦である。


 数十㏊の面積を、幾つかの塔を区切りに曲がりながら、広く囲っている、石造りの頑丈な塀。

 その塀の天井には渡り櫓があり、そこには兵が弓や鉄砲を撃つための銃眼や、カノン砲の砲台が設置されている。

 いつ敵が来てもいいように、常に多勢の王国兵達が、見回りに配置されている。


 塀の内部には、大小様々な建物が設置されている。最も大きいのは、三角屋根で巨大な長屋のような形の、五階建ての大型建造物。

 それが横に長く伸びていて、そして縦一列に十以上も建ち並んでいる。恐らくこの中に、司令室や兵の宿舎があるのであろう。


 他に馬を飼育するための馬舎や、武器を貯蔵するための巨大な倉など、多くの建物が点在している。

 さてそのディーク軍の拠点の一つと思われる砦に、ある一部隊が帰還した。先程アラン村で搾取を行うとして、勝太郎に返り討ちされて、ルーク率いる部隊であった。


『はあっ!? アマテラスのサムライにやられだと!? 何でこんなところに、来るんだよ? 海までかなり距離があるぞ!?』

「判りませんが、それが事実のようです。私もどう対処すれば・・・・・・」


 砦内の司令室にて。金がかかってそうなカーペットやソファーが設置され、他に多くの装飾品が飾られた、成金の家のように、無駄に煌びやかな部屋。

 堅固な外観の砦としては、あまり似つかわしくないその部屋で、司令の椅子に座る者が、部屋の中に映し出されている人物と対話していた。側にはあのルーカスもいる。


 その人物は、騎士服を着ているが、少々肥満体型で、あまり戦いに出れるような人物には見えないが。

 この人物が、この砦に配属されている兵や騎士達を束ねる、ディーク神聖王国の武将の一人でり、この砦を統括する騎士団長であった。


 そして今この部屋に映し出されている、半透明な鏡のような存在。それは空中に映し出された、映写機で移された画面のような、魔法のテレビ電話である。

 その映像に映し出されているのは、この騎士団長以上に肥満体型で、成金のような無駄に豪華な貴族服を着た中年男性。彼はこの辺一帯を収める領主である。

 ついさっきこの砦に寄せられた緊急の情報を、この魔法の映像通信で、今領主に報告しているところなのだ。


『おいおい・・・・・・もっと詳しく報告しろよ』

「はい。ルーカス! 領主様に、先程した説明を、もう一度だ・・・・・・」


 騎士団長に急かされて、この部屋に立たされていたルーカスが、領主の映像の前に歩み出る。


「本当ですピック様……見たこともない種でありましたが、あれは確かに獣人でした。そしてあの衣服といい、腰に差してある剣の形といい、あれがアマテラス人であるの明白かと。もしかしたら転移を使ったのかも知れません。あの大陸は、どうも色々常識外れは所があるようでしたし・・・・・・。突如現れて、我が国旗に向けて、あのようなことをして……どうやらあちらから真っ向から宣戦布告をしたのではないかと」


 この報告に、このピッグという名の領主が、明らかに怯えているのが判る。


『マジかよ……まあ一年前にあれだけのことがあったからな。いつこちらに攻めてきてもおかしくないが、こんな所に来るなんてよ。てことは、まだ大勢こっちに送り込まれてくるのか?』

「その可能性は高いかと。早急に対処するために、あの魔人の使用を急ぐことを要望します」

「ルーカス、何を言っている!? あれは危険すぎる! ただでさえ魔人のせいで、この国がこんな有様だというのに・・・・・・」

『いや、別にいいんじゃない? いっそ出した方が面白そうだし』


 ルーカスの提案に、騎士団長が慌てて制止を上げる。だが領主の方は、実にあっさりと、この提案に許可を出した。


「そんなっ! 危険すぎます! もしあれも暴走などしたら・・・・・・」

『だったらまた、あの聖者の小僧に始末させればいいじゃん。面倒事はさっさと片付けてくれよ! 俺今、仕事で急がし~から、もう切るぞ』


 そのままスイッチが切れるように、領主の見にくい顔を映した映像が、瞬時に消滅する。後に残された司令室の騎士団長は、歯痒い顔である。


「(仕事なんて、全部家臣に任せきりで、いつも女と遊んでるのに、何を・・・・・・?)仕方ない・・・・・・これから緊急会議を行う。とりあえず・・・・・・領主様の命令通りに、あれの起動を用意しておけ・・・・・・」


 自分でも人のこと言えない不満を、頭の中で呟く騎士団長。そして手早く戦争を引き起こす話しが進んでいく。

 勝太郎が行ったことは、村人達が危惧した以上に、事を大きくしているようであった。



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