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第六十話 ヒドラ

「とうとうここまできおったか、たった四人討ち取れないとは、何と軟弱な近衛共よ」


 だだっ広い王座の間。そこの玉座に全く恐れることなく、畏怖堂々と聖王が座り込んでいた。

 この騒ぎで、聖王がどこかへと逃げてしまうのはないかと危惧していたが、それは無用の心配であったようだ。他は皆逃げたのか、又は聖王自ら下がらせたのか不明だが、この王座の間には聖王一人しかいない。


「お前が聖王か? お前に頼みたいことがあってきた」


 真澄は初めて見る、この国の最高権力者に、礼法など一切取らずに声を上げる。

 眼前の聖王は、ここまで追い詰められているというのに、全く恐れる素振りが見えない。強固な目でこちらを見る様子は、まるでラスボスのような風格があった。

 国がここまでボロボロになっているのに、未だに贅沢三昧をしていると言うから、余程の低能者かと思ったので、これには真澄たちも意外であった。


「頼みだと・・・・・・ふっ、この私に聖王の地位を明け渡せと言うことか? そのようなこと・・・・・・」

「別にそんなこと言わないよ。この国の王の座なんて、全く興味ない。ただあんたには聖王として、やって貰いたいことがあるんだよ」

「ほう・・・・・・言ってみろ」

「まず・・・・・・この国に駆けている圧政と重税をいますぐ止めろ。王都の倉にある物資も、すぐに困窮している地域に救援物資として届けろ! そして旧植民地の奴らにすぐにこれまでの所業を謝罪して、休戦協定を結べ。あいつらへと弁償はすぐにはできまいが、この先何どれだけの年月かけてでも、しっかり国の罪を償ってもらう。私らは別に、この国を滅ぼす気もない。むしろこれは、この国を救う唯一の道だと思っている。お前にとっても、悪くない話しだろう?」


 要は今の聖王に、これからは善政をしいていけという要求。その内容を簡潔に述べる真澄の手には、小銃が握られており、いつでも撃てるよう身構えている。完全に武力による脅迫である。

 だがこれに聖王は、軽く笑い始める。


「くくくっ・・・・・・何を言うかと思えば、何とも下らないことを。私に野蛮な平民や蛮族を大切にする、偽善の王になれと? そのような汚らしいこと、たとえロアが仰られようがごめんだな」

「ロアが言おうと? ロアの言葉は絶対ではなかったのか?」

「ロアの言葉とは我らディーク王政府の言葉。全ては我らの望み通りに、女神ロアも神託を告げられる」


 要は女神ロアの神託は、全て自分たち王政府が作った出任せだということ。ロア教がインチキ宗教であることを、今ここで聖王自ら認めたのである。

 衝撃の事実・・・・・・などとは誰も思わず、真澄は淡々と言葉を続ける。


「ならば話しは早い。今から女神ロアの神託として、今の政治改正を、全国民に伝えろ。ロアの言葉だと言えば、皆躊躇わずに従うんだろう? どのみち今のお前らには、それ以外に生き残る道はないだろう?」

「ふん、さっきからまるで私が、蛮族共に囲まれて手も足も出ないような言い方だな」

「実際にそうじゃないか? この国にはもう敗戦と魔人のせいで、諸国と渡り合う力なんて微塵もないさ。現にさっきから、諸国がこの国攻め入ろうと動いていた。まあ私の仲間が、その動きを止めてくれているが。それもいつまでももたんさ」

「聖王陛下お願いです・・・・・・私達の言うことを聞いて下さい! 私達を騙してきたあなたたちは、私達は一切許してませんが、この国の苦しめられている民達は、何としても救いたいと思っています! 諸国を支配するのでなく、諸国を共存する以外に、民を救う道はないんです!」


 今まで黙っていたルチルが、真澄の言葉に続いて、叫ぶようにして語る。彼女からは聖王に対する憎しみは多分に含まれながらも、自分同様に国に騙され、今苦しめられている民の為を思って、彼女は力強く懇願した。

 だがその意思は、生憎聖王の心を動かさなかったようだ。


「やれやれだ・・・・・・民を救うか? 本気でそう思うのだったら、この私の神聖なる計画に協力するんだな。お前達は魔人共を駆逐してくれた恩もある。今ならば裏切り者と蛮族共も、ありがたく我が国の軍に迎え入れてやっても構わんぞ?」

「寝ぼけたことを言うな! 貴様の部下など死んでもごめんだ!」

「もういいわよ! この男、もう自分の国の現状すら理解できないぐらい狂ってるわ! さっさと殺してしまいましょう!」


 真澄以上にラチルも激怒しており、彼女は剣を聖王に向ける。すぐにでも斬りかからんと、構えだしたが・・・・・・


「狂ってなどいないさ。私の計画は単純だが実に完璧だ。どれだけ人間の兵が衰えようが、私らには魔人という、最強の武器があるのだから」

「魔人だと?」


 聖王は以前にも宰相に話した、魔人による植民地奪還計画を、意気揚々と語り出した。だがこの内容に、一行はますます聖王に対して、凶人を見るような目を向けていた。ラチルが心底軽蔑した目で語り出す。


「あほくさいわね・・・・・・一度自分の国をボロボロにしておいて、どうして次は成功すると思うのかしら? 言っとくけど今まで、私が見てきたあんたが言う新型の魔人。どれもこれも欠陥品ばかりだったわよ。皆、自分が召喚した魔人に、あっさり殺されてたしね」

「ふん、戯れ言を・・・・・・例え真実だとしても、それは扱った者の使い方が下手だっただけだろう。魔人達の生産は既に始まっている。まもなくディークはこの大陸の覇者となり、何れは西の蛮族共の大陸を制圧し、そして最後には蛮族共が手を結んでいるという、異界の国さえも我が手中に収める。この世の全てを我が神聖なるディーク神聖王国が支配するのだ!」


 魔王のように高笑いを上げる聖王。どうやら自分の計画は失敗しないと、絶対の余裕があるようだ。そんな彼に、真澄は攻めるでもなく、諭すような口調で語り出した。


「残念だがそれは無理だ。この大陸はどうかは知らんが、少なくともアマテラス大陸を制覇するなんざ、魔人をどれだけ作ろうが不可能だよ。今あの大陸の国々が、どんな風に変わっていっているか、本当に何も知らないんだな・・・・・・」

「変わった? さて知らんな。まあ下等な蛮族共が何を得ていようが、我が神聖なる王国の敵ではないわ!」

「下等なのはお前の方だ。お前が自慢している魔人なんかより、もっと凄い力を、アマテラスの国々は持ち始めてるぞ。大陸間の海を、一日で通れる飛行機械。巨竜を一撃で葬れる砲を持った自動の車。列強国は、そういった武器を次から次へと、異世界から輸入している。更にはそれの製造法も習っているという。そう遠くない内に、アマテラスはそういった武器を、自力で作れるようになるだろうな。私の持ってるゲンイチは、そういった武器の力をコピーする力を持ってるから、私自身もその力をよく知ってる」


 真澄の持っている魔具のゲンイチは、そういった異世界の武器の姿と能力をコピーする力。それは即ち、異世界の武器には、今まで真澄が使っていたような恐ろしい力を持った武器を、今アマテラスの国々は大量に入手していることだ。

 更に言えば、ゲンイチが変身した武器は、あのロボットを除けば、全て向こうの世界では旧型となっている代物である。

 以前一行が食糧を買いに赴いた弘後の街。アマテラスでは弱小国である、勝太郎達の拠点がある津軽王国でさえ、あれほどの文明の変化が起きていたのだ。現在の列強国が、どれほどの力を持っているか、見当も付かない。


「教えてやろうか? 一年と少し前に、お前の差し向けた大船団を、一日も経たずに壊滅させた謎の軍艦の話し・・・・・・」

「軍艦? あれは海入道とかいう、海の魔物に沈められたからだと聞いたぞ?」

「確かにそいつにやられた奴もいるが、大部分は私が潰した。私が異世界の“あきづき”という軍艦を使って、奴らを撃沈したんだ。お前がアマテラスに喧嘩を売れば、一隻で大艦隊を沈められる船が、何十隻とこの国に攻め込んでくるが・・・・・・」

「くはははははははははっーーーー!」


 真澄の説明を遮って、聖王が盛大な笑い声を上げた。別に今の話しを聞いて、驚きも恐れもせずに、帰ってきたのはただ、真澄を盛大に馬鹿にする笑い声であった。


「お前は頭が悪いな! まあ蛮族であれば、低知能なのは当然であろうが! そんな見え見えの嘘で、この私が恐れをなしてお前らに服従すると思うのか!?」

「低知能なのはお前の方だ。これほどの状況下で、未だに自分らがこの世で一番強いと思い込み続けるという妄想癖。そんな頭のおかしい奴、どうやって国を治められる?」

「そこまで言うなら、その力を見せてみるがいい! 貴様の力がこの私の力を上回るならば、大人しくお前の言うことを信じて言うとおりにしてやろう!」


 聖王は懐から、ある物を取りだした。それを見て、ほとんど予想していた面々は、誰も驚かない。

 それはあの魔人を発生させる、黒い球である。聖王はその黒い球を、このだだっ広い王座の間の真ん中に、勢いよく投げつけた。

 定例通りに、その球は地面に落ちると共に、変形巨大化していった。それは以前の巨人魔人と同じぐらい、いやそれ以上の質量に巨大化していく。それは以前とは違い、人型ではなく、樹木のように幾つにも形が枝分かれして伸びていく。


「「ギャオオオオオオオォーーーー!」」


 この王宮の間に、複数に重なった鳴き声が聞こえてくる。屋内であるために、その鳴き声は嫌というほど耳につく。


 今回現れたのは、巨大な蛇であった。ただしこれまで倒してきた大蛇魔人とは、大分趣が違っている。

 それは和風では八岐大蛇。洋風ではヒドラ。そういうべき形の、多頭数の怪物であった。

 身体の体積は、以前の巨人よりずっと大きい。この無駄に広い王座の間が、この魔人が現ると、急に狭くなったように感じてしまう。

 一本の太く長い胴体から、途中から六本に胴体が枝分かれし、その先には一つ目の凶暴な大蛇の頭がある。その頭一つ一つの口から、一斉に放たれた鳴き声が、複数に重なって鳴り響いているのである。


「何て邪悪な魔力なの・・・・・・今までの奴らとは、格が違いすぎるわ・・・・・・」

「何だこいつか・・・・・・どんな切り札かと思ったら、もう何度も倒した奴じゃないか」


 ラチルと真澄が、それぞれ同じ場所に立ち、そして全く違う感想を口にしていた。

 この魔人の強大な姿に萎縮しているラチルと違い、何故か真澄とルチルは随分平然として、この魔人の姿を余裕綽々と見上げていた。この様子にラチルが、不思議そうに二人を見ている。


「えっと・・・・・・あなたにとってはあれって、もう討伐経験有り?」

「ああ、そうだ。これだけ広ければ、あの巨人も出せるな。行くぞ!」


 真澄のゲンイチが、再びあの巨大ロボットの姿になる。

 聖王が突如現れた鋼の巨人の姿に動揺している隙に、真澄は素早くロボットの胴体を登り上げて、操縦席に乗りこんだ。


「何だあれは? 蛮族共の召喚獣か? まあいい、行け!」


 先程の真澄のゲンイチに関する説明を理解していなかったらしい聖王。多少動揺しながらも、すぐに魔人に攻撃の命令を出す。

 幸いというか、今回は魔人が主人を襲うことはなかったようだ。ヒドラ型魔人は、六つの口を開けて牙を向け、真澄の乗るロボット頭部に襲い来る。


「わざわざ戦いの舞台を用意してくれたこと、これだけは礼を言うぞ!」


 最初城内に入ったときに、ロボットや戦車では乗りこめずに、戦力大幅減少で少し困ったことになっていた真澄。

 だがこの王座の間では、このロボットが動ける分の広さが充分ある聖王の絶対的余裕のおかげで、その危惧は払われたといえる。


 ロボットの腕が素早く腰の刀に触れる。今までの戦いでは、ほとんど使われなかったロボットの得物だ。今回の相手は人間ではないどころか、生き物ですらないので、全く迷うことなくその武器を使うことができた。

 刀の柄を握り、そのまま素早く居合切りのように、その巨大な刀を抜き放つ。その動きは、巨人魔人や目の前のヒドラ魔人のようなスローな動きではなく、とてつもなく素早い。

 その巨人の白刃が、ヒドラたちの牙がこちらに届く前に、横からなで切りにされた。


 ザシュウウウゥ!


 その一閃で、ロボットの目の前まで迫ったヒドラの首を、一気に四本まとめて斬り払った。

 丸太のように太い蛇の首が、丸太のように真っ二つに斬り払われる。そして斬り落とされた大蛇の生首四本が、大根のようにロボットの足下に、ゴロゴロと転げ落ちた。


 首が半分以下になったヒドラだが、攻撃の勢いは衰えない。斬り残した二本の頭の牙が、ロボットの各部装甲に齧り付いた。

 だがその牙がそのロボットの装甲を貫くことはない。戦車砲にさえ耐えられる、超科学兵器のロボットの身体には、ヒドラの牙は全く通じず。逆にヒドラの牙があっさりへし折れてしまい、老人のような歯のない口で、ヒドラはロボットの身体に齧りつくことになる。


 ザシュウウ!


 ロボットが更に一閃。それによって残り二本も斬り落とされる。勿論これで終わりではない。足下に転がった大蛇の首が、徐々に変形し始めた。斬り落とされた本体と接合して再生する気であろう。

 勿論真澄はそれを許さない。動かなくなった本体を無視して、ロボットは足を上げて、転がっている頭を次々と踏みつぶす。


 グシャ! グシャ! グシャ!


 果実を踏むような瑞々しい音が聞こえてくる。その度にロボットの足が、水田を歩いたかのように、泥で真っ黒に汚れていった。

 眼球を踏みつぶされた頭部は、そこで変形を終えていく。やがて全ての頭部の目玉が踏みつぶされると、頭部・本体全ての動きが停止した。


「なっ・・・・・・何なんだ?」


 この一部始終を見た聖王は、目の前の光景が全く信じられず、口をあんぐり開けて固まっていた。

 目の前に完全に絶命し、灰色の泥となって溶けていく、己の切り札の姿。先程まで余裕綽々だったのに、実にあっさりと立場が逆転されてしまったことが、未だに信じられないようだ。

 そんな彼に、勝利の余韻など何もなく、真澄は冷淡に彼に告げる。


『さあ、私が勝ったぞ。約束通り、私らの要求を聞いてもらおうか?』


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