第五十九話 王城撃破
(くそっ、こいつらしつこい! 全部真澄さんの方に行けばいいのに!)
王城の方では二方面での戦いが起きていた。一方は蟻を追い払うように楽勝で、一方ではまさに命がけの戦いである。
ロボットに乗った真澄は、自身に襲い来る兵士達を、次々と蹴散らしていた。死なない程度の勢いで、兵士達を足で払いのける。
ある兵士達が、魔法を使っての跳躍で、機体の各部にしがみつき、そこに剣を突き立てていた。関節部分を狙った攻撃だが、やはりそこも効果はなく、彼らはロボットの手で、虫を拾うかのように摘まみあげられて、遥か彼方に放り投げられていた。
このロボットには、魔法も砲弾も一切効かず、ディーク兵達は手も足も出ないようであった。もし彼女が全員を殺す気で戦っていたならば、この戦場はもっと早く決着が付いていたであろう。
そこから少し離れた所で、ロボットに乗っていないラチルとルチルは、逆に相当苦戦しているようである。
ラチルが剣撃や防御魔法で、こちらに飛んでくる魔法や銃弾を弾き返し、近接戦で斬りかかってくる兵士達を、次々と斬り捨てる。ラチルに守られる位置にいるルチルが、そこから魔法による援護攻撃で、兵士達を次々と光の矢で撃ち抜いていった。
こちらの攻撃には加減というものはされておらず、彼女らに倒された者は、もう何人か死んでいるかもしれない。まあこっちはまさに決死の状況で、手加減などしてる余裕などないだろうが。
一度に相手している兵士は、ラチル姉妹の方がずっと少ない。ただし彼ら二人で、王城の精鋭兵士達を、一度に数十人相手にするのは、相当高難易度戦闘であった。
しかもロボットの相手は無謀と思ったのか、ラチル側に加勢する兵士達が、どんどん増えている。そんな状況で、隣の味方が余裕こいて戦っている間に、絶体絶命の状態にあるラチル達。
「ちょっと真澄さん! こっちはやばいんだし、いい加減に助け・・・・・・」
『おう判った! 今来たぞ!』
「遅いのよ!」
ラチル達が戦っている場が、ロボットの背に太陽が遮られて、一気に薄暗くなる。その姿を見上げたラチル達は安堵し、逆に兵士達は絶望的な顔をしていた。
見るとさっきまで真澄が戦っていた場所では、何百という兵士達が倒れ、武器や建物の残骸がゴミのように積み重なっている。どうやら真澄の方にかかってきた兵士達は、全員倒されるか逃げるかしたようだ。
ズシャ!
落ち葉を足で払うように、ロボットの足がラチルの眼前にいた兵士達を、横から薙ぎ払う。
「「ぐほぉおおおおっ!?」」
一度の軽い蹴りで、一気に十数人の兵士達が、纏めてあちらがわに撥ね飛ばされた。武器や鎧が壊れる音と共に、骨折の音も聞こえた気がしたが、大事がないことを祈ろう。
もう少しで勝てると思った残りの兵士達も、この鋼の巨人の姿を見て、一気に士気を失っていった。
「もう駄目だ! こんな奴ら勝てるかよ!」
「こら、逃げるな! 陛下がどうなってもいいのか!?」
「知るか、あんな馬鹿王! だったらお前だけ戦えよ!」
「そんな無茶な! ああ、逃げるな!」
まさに蜘蛛の子が散る光景。国のために命をも捨てる忠義の騎士達も含めて、殆どの兵士達が、顔を青くして一目散に逃げ去っていく。十数秒後には、この場にはラチル達一行しかない、静かな光景が出来上がっていた。
『割と時間がかかったな。聖王、逃げ終わってなければ良いが・・・・・・』
「真澄さんのやり方が甘いからでしょう? あんな奴ら、さっさと踏み殺せば良かったのに」
『おいおい・・・・・・私らは、この国を救いに来てるんだぞ。まあいい、さっさと乗れ!』
再度ロボットの肩に乗るラチルとルチル。そのまま真澄たち一行を乗せるロボットは、先程説明された王宮へと走って行った。
王城内ではまだ混乱が続いているが、先程よりも比較的人が減ったように思える。そんな人々の上を飛び抜け、邪魔な建物は飛び越えるなり破壊するなりしながら、とうとう一行は王宮へと辿り着いた。
王宮の門はそれなりに大きいが、このロボットが入るには、明らかに足りない高さであったが。
「どうしましょう? この巨人に乗ったまま入るのは無理そう・・・・・・」
ドガン!
ラチルが言っている傍から、王宮の門を蹴破るロボット。薄板のように容易く粉砕された門の向こうへと、ロボットが強引に侵入していく。
邪魔な壁を次々と壊し、入り口付近の大広間へと入り込むが、やはり天井の高さが足りず、頭部が天井の壁にめり込んでいる。
『ふむ・・・・・・この体勢だと、前が全く見えんな。だからといって屈んで進むのも面倒だし・・・・・・』
「いや、面倒というか無理でしょう! ていうか崩れた瓦礫がこっちにも当たってんだけど!? これじゃ私らごと王宮が崩れるっての!」
「そうです! それにそんなことしたら、聖王まで瓦礫の下敷きになるかも知れません! 私達の役目は、聖王を生かして抑えることの筈です!」
ロボットの肩にのっまま、すぐ隣の天井にめり込んだ頭部にいる真澄に、批判的に叫ぶ姉妹。実際この乱暴な屋内侵入で、二人は一度死ぬような思いをしていた。
これに渋々、真澄はロボットを元のゲンイチに戻し、等身大でこの王宮に潜入することになった。
白壁と様々な装飾で彩られた、優雅な王宮内部は、今戦場になっていた。
「ここから先は・・・・・・ぐはっ!?」
銀色甲冑を着た騎士達が、王宮内の通路を走る真澄達に立ちはだかるが、その内の一人が口上の最中に倒れ込む。真澄が小銃に変身したゲンイチで、その兵士の肩を撃ち抜いたのである。
「ホーリーシールド!」
激昂した他の騎士達が、魔法を撃ち込むと、それをルチルが光の結界魔法で受け止める。その隙に真澄が更に発砲し、騎士達を倒していく。
「おのれえ!」
数人の騎士達が、盾を構えてこちらに突撃する。その盾はかなり大きく縦長で、地面近くにまで伸びているので、足下を狙うことができない。
やむえず真澄は、彼らの盾を持っている右腕と思われる部位を狙撃するが。
カカン!
「おや?」
聞こえてきたのはいつもの弾が肉を貫く音ではなく、金属が跳ね返る音。真澄の放った小銃弾は、盾に完全に防がれたのだ。
当たった部位には、僅か擦り傷があるのみで、貫通していない。ルチルの神聖魔法も、同様に全く効果がなかった。
三センチぐらいの鉄板を貫通すると言われる小銃弾。それが効かないということは、この盾は三センチ以上の厚みがあるというか? それとも魔法による特殊な作用があるのかのどちらかだろう。
前者ならば、そんな重厚な盾を持って走れる、この騎士の豪腕ぶりが凄まじく。後者であるならば小銃弾を弾ける程の魔法力を発揮できる、凄腕の魔法騎士ということになる。
どっちにしろ、この王宮を守る近衛の騎士だけあって、一人一人が只者ではない。
「くうっ!」
敵に間合いまで詰められ、騎士の片手の長剣で斬りかかられる真澄。それをすんでのところで躱すが、すぐ隣にいたもう一人の騎士が、同じ長剣を振り下ろす。
ガキン!
結果放たれたのは剣戟音。真澄はゲンイチを放り投げ、腰に差していた刀を抜き放ち、その長剣の一撃を受け止めたのだ。勝太郎達が真澄と会って行こう、初めて彼女がゲンイチ以外の武器を扱う場面である。
重厚な防具で身を包んだ騎士達の動きは、さほど素早くない。だが次々と繰り出す複数人の騎士達が、真澄が斬りかかり苦戦させられていた。
「たりゃあああっ!」
そこへ助けに入ったのはラチルであった。彼女の光の魔力を纏った剣撃が、騎士の一人を背後から切り裂いた。聖者に与えられる高級な業物の魔法剣が、その騎士の身体を鎧ごと切断する。
真澄の方に意識が向いていて、不意を突かれた騎士が、次々とラチルの剣によって斬り倒される。最後の一人が、ラチルの剣撃を盾で防ぐが、その隙にさっきまで押されていた真澄が、横から彼の足を、気功強化された刀で突き刺した。
「防護体勢!」
こちらにかかってきた騎士達を全て倒したところで、玉座へ続く廊下を見ると、そこにはまだ残っていた騎士達が、通せんぼに待ち構えていた。
先程と同じ数人の騎士が、盾を構えてる。そんな彼らを補助するように、十人あまりの魔道士達が、魔法の結界を張って、彼らの防護能力を高めているようだ。
こちらから攻めるのをやめて、完全な守りの一手に入ったようだ。たしかにあれでは、銃弾や魔法を撃ち込んでも、一切効果がないだろう。これを見た真澄の顔が引き攣る。
「ちぃ・・・・・・なるべく殺しは避けたかったが、仕方ないか・・・・・・」
彼女が顔を引き攣らせたのは、敵の力に恐れたからではなかった。非殺傷で敵を無力化することが敵わないことを残念がったのが理由である。
真澄はいつの間にか手元に戻っていたゲンイチを、以前巨人魔人を撃退した、あの110mm個人携帯対戦車弾へと変身させる。そしてそれを躊躇いなく、防護体勢で固まっている兵団に向けて引き金を引いた。
ドオオオオン!
王宮内で残酷な爆音が鳴り響く。構えていた騎士達は、真澄の武器が何なのか理解することなく、あっというまに全滅した。
一人の騎士が構えていた重盾に戦車弾が命中・爆発し、一帯に火と血の雨を撒き散らす。
盾もろとも騎士の身体が砕け散り、周りにいた仲間も、彼と共に爆破に巻き込まれて吹き飛んでいく。
砕けた兵士達の装備と肉片が、この美しく磨かれた壁と床を一気に汚していく。
一人の魔道士の千切れた腕が、ルチルのすぐ足下まで降ってきて、彼女を驚かせた。
「もう敵はいないわね・・・・・・また時間がかかったわ」
「詰めが甘かったか・・・・・・ゲンイチの力があれば、王宮に乗りこむなんて簡単だと思ったが」
思ったより苦戦を強いられたことに、歯痒く思う真澄。ゲンイチの上位変身は確かに強大だ。だが屋内に戦車やロボットを乗りこませないことまでは、頭に回らなかった様子。
ともかくこれで彼女らの進行を防ぐ者はいなくなった。一行は大急ぎで、王座の方へと走り行く。これほどの騒ぎの後で、そこに聖王がいるかどうかは判らないが。




