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第五十七話 魔女との再会

(しまった・・・・・・俺としたことが、また迷子か・・・・・・)


 先程二つ目の討伐軍の指揮官を、人質にして天勝寺に送り届けた勝太郎。その彼は、今現在この大陸で二回目の迷子になっていた。

 勝太郎には、今この場がどこであるのかも判らない。どうも平原のようであるが、そこがどの辺りにあるのか、近くに山・森・集落などがあるのか、それすらも判らない。

 彼の優れた反響定位でも、付近の風景を全て知ることなど不可能である。近くに人らしき気配もない。時折近くを、鳥と思われるのが飛んでいるのは感じるが、鳥では道を聞くことはできないだろう。


「おおーーーーい! 誰かいないか!? ここはどこなんだ!?」


 勝太郎の助けを呼ぶ声が、一帯に悲痛に響き渡る。何故こんな事になったのか?

 彼らは津軽王国のテレビ放送から、諸国のディーク討伐軍が動き始めていることを知った。そしてその報道から聞いた、おおよその地区へと転移したのである。


 以前魔人狩りの時に、真澄の飛行機に乗って、魔人の多い地区へと向かって、ディーク各地を巡り巡っていた。そのおかげで、結構広範囲に渡って、ディークの各地に転移できるようになっていた。

 今回の件でも、勝太郎は以前行ったことのある地区で、次の討伐軍拠点に一番近い位置に転移し、そこから討伐軍に殴り込む気でいた。

 そのやり方は、一回目と二回目は上手くいったが、三回目で失敗してしまったのである。勝太郎は今、自分がどの方向にいるのか? 討伐軍に近づいているのか遠ざかっているのか、それすら判らない状態であった。


(参ったな・・・・・・これならラチルとルチルのどちらかに残ってもらえば良かったよ。軍に突撃するのに、一緒にいると危険だとか、足手纏い呼ばわりしておいてこの様か・・・・・・。しょうがない、一旦天勝寺に戻って・・・・・・)

「何だ勝太郎・・・・・・お前ともあろう者が、もう帰るというのか? このまま誰の助けも借りずに迷い込み続ければ、お前が止めようとしている憎悪にまみれし軍は、直にディークの村落を襲い、力のない民達が屠られていくだろうが、それはお前の望むところではなかろう?」


 突如聞こえてきた謎の女の声。勝太郎の感覚でも、近くに寄るまで気づけなかった、只者でない者の出現。

 だが勝太郎は別段驚きも怯えも一切しなかった。彼は平静に、その声の主の方へと向いた。


「何だカーミラか・・・・・・だが丁度良かった。お前、リノーの軍隊がいるところまで案内してくれよ」

「命の恩人との突然の再会だというのに、何という無礼な態度よ。もっと他に聞くことがあるであろうが?」


 その無理して老齢の魔女を演じている若い声の主は、勝太郎に今の肉体を与えて転生させた張本人のカーミラであった。

 そして初めて会ったときと同じく、勝太郎は大して驚きもせずに、さっさとこちらの要求を言い出してきた。


「そうか、じゃあカーミラ。どうしてお前がここにいるんだ? お前の実験には、今充分協力してるつもりだが、俺の行動に何か不備でも?」

「いや、別に不備などあろうはずがない。むしろお前の働きのおかげで、今まで多くデータが取り得た上に、実に多くの命を救う異形を成し遂げたのだ。むしろ感謝して然るべきと思ってな」

「じゃあさっさと俺を、そっちに連れて行ってくれ」

「全く節操がない・・・・・・まあよかろう。私と共に来るが良い。ああ、だがその前に忠告しておこう。今お前が向かおうとしている所には、実は私の実験の協力者が一人いるんだが・・・・・・」

「協力者? お前と同じ魔道学者か?」


 言いにくいことでもあるのか、カーミラは勝太郎の問いを無視して、言葉を続ける。


「状況によってはお前・・・・・・その者と対立することもあるかもしれん。このような定めを生んでしまったのには、私にもいくつかの落ち度があったが・・・・・・。だがそうなった場合でも、その者と無理して戦うこともないぞ。それで良いデータを取ろうとか、恥知らずなことをこちらは企んでおらぬからな。まあもしぶつかることがあっても、その刀を与えたお前が負けることがあるはずがないが・・・・・・」

「はあ・・・・・・そんで結局誰だ?」

「では共にいこう! お前の仲間も、遙か彼方で戦っている! お前も彼らの期待を裏切らぬように、己の信念の元で戦い抜くが良い!」


 無理矢理つけたような激励の言葉で、勝太郎の問いを遮り、彼の手を取るカーミラ。何となくだが、罪悪感のようなものが感じられるのは気のせいか?

 そしてそのまま二人は、今回はカーミラの転移によって、件の目的の地へと飛んでいった。






「うん? おお着いたのか?」


 気がついたら、周りの空気が変わっているのに勝太郎は気がついた。どうやらカーミラに転移してもらったらしい。

 そう判るのは空気だけでなく、ある方角から聞こえる音もあった。


「では後を任せよう。さらばだ!」


 そう言ってカーミラの気配が消える。どうやら転移でまたこの場から去ったらしい。


「おう、ありがとうよ。さて・・・・・・」


 もう本人には聞こえないだろう礼を言うと、勝太郎は早速その音のある方向へと向かっていった。

 彼の耳には聞こえてきたのは、無数の足音である。ヌーやバイソンの暴走などではない。明らかに人間の足音だ。

 その数は、勘で判断して、二千人以上。武器や鎧の金音も、同時に聞こえてくる。多勢で動いているせいか、移動速度はあまり速くないが、これは確実に、国境を越えてディーク本土を襲撃する、諸国の中の一国からの、報復進軍であろう。

 勝太郎はその軍の行進の音源に近寄り、ある程度近づいたところで足を止めた。


(気づかれてないよな・・・・・・)


 距離数百メートという所で、その音を聞き続けていた勝太郎は、不安げに軍の音を様子聞きしていた。

 勝太郎は今、恐らくは林の中であろう所にいる。その中の木陰に、そっと身を隠している。だが相手の軍勢から、これできちんと隠れられているかどうかは不明だ。

 何しろ目が見えないので、相手からの死角の位置を、きちんと確認できない。しばらくして軍勢の動きに乱れはないので、どうやら気づかれていないようだと、勝太郎は安堵したが、すぐに次の問題に直面した。


(さて・・・・・・敵の指揮官はどこだ?)


 それが一番の問題であった。もし視認できていれば、身なりや乗り物、はたまた旗などを見て、ある程度指揮官又は幹部の位置を確認することはできただろう。

 だが勝太郎には、音でしか相手を認識できないため、見た目で指揮官を判別することは不可能であった。


 これまで二カ所で、ディーク侵攻軍の指揮官を捕らえてきた勝太郎。それは相手が、部下達に向けて、大きな声で演説しているのが聞こえたからだ。

 その声の主の足音を便りに、上手く捕まえたわけだが。しかし今回は、そういったものはもう終わっているようで、誰も何も喋ってはいない。既に進軍が始まってしまった段階であった。


(俺が迷って出遅れたせいだけどな・・・・・・しょうがないな。いっそ適当なところにぶつかって、派手に暴れてみるか? 傷つける奴は、できるだけ少なくしたかったんだが・・・・・・)


 部隊内で騒ぎが起きれば、それを鎮めようと、部下に指示を与える者がいる筈。それが最高指揮官なのか、それとも一小隊の隊長レベルなのかどうか、きちんと区別できるか判らないが、今はその手しかない。

 勝太郎は隠れるのを止めて、今まで同様にその部隊に突進していった。ただし今回は狙いなどつけずに、適当な所にぶつかるはずだ。

 勝太郎と部隊の距離が、最初の半分ぐらいに縮まった。まだ相手が、勝太郎に気づいた様子はない。このまま奇襲のように、軍への激突が始まろうとした。


(むっ!?)


 その時だった。部隊のいる所とは、別方向から、こちらに向かって急接近するものがいることに気がついた。

 足音からして、恐らく相手は人型。ただしその動きは速い。それは今の勝太郎の走行速度に匹敵するほどだ。


(カーミラが言ってた奴か!?)


 カーミラが含むように言って、そして結局詳しい事を話してくれなかった、自分の邪魔をするかも知れない存在。この驚異的な走力に気がついた勝太郎は、即座にそう判断した。


(やる気か!? だったら迎え撃つ!)


 部隊への接近を中止し、大地を足先で削って急停止し、勝太郎はその、もう目と鼻の先にいる者へと、臨戦態勢をとった。


 ダン!


 勝太郎の判断は正しかった。相手は名乗りもせずに、先手を打ってこちらに攻撃してきたのだ。相手の正拳突きと思われる攻撃を、勝太郎は右腕を盾にして防護する。

 そして相手の拳を受け流し、今度はこっちが相手に右拳を突き出した。相手はそれを、驚くべき跳躍力で、後方に飛び跳ねて躱した。


「なっ、何だ!?」

「おい、あそこ!? 人がいるぞ!」


 この一連の事態に、部隊の者達も気づいたようだ。彼らが今、どっち側を向いているか不明だが、声からしてこちらの戦闘を指しているのは間違いないようだ。

 指揮官を見つけるために、その声をいちいち聞いている余裕はない。勝太郎はそっちの目的を後回しにして、今自分に殴りかかった者に話しかけた。


「随分なことだな。いきなり殴ってくるなんてさ」

「先にあいつらを殴ろうとしたのは、お前じゃないか? 僕はそれを止めてやっただけだけど?」


 聞こえてきた声は、かなり若く、恐らくは少年の声。勝太郎の少々不機嫌な口調の問いに、相手は小馬鹿にしたように応える。まあ確かに、先に他者に暴行を加えようとしたのは確かであるが。


(この声・・・・・・それに反響で捉えた体格からして、まだ子供か? だいたい今の自分と同じぐらいか)


 実際はいい年の勝太郎であるが、カーミラに貰った今の新しい身体は少年の者である。目が見えている者からすれば、これは不良少年同士の殴り合いに見えるだろうか?

 とりあえず一旦拳を引っ込めて、まず話し合いと勝太郎は話を続ける。


「止めるも何も、あいつらこれから何しようとしてるか、判ってるのか? あいつらは・・・・・・」

「このディークっていうゴミみたいな国に仕返しして、この国の人間を殺しまくったり、奴隷にしたりしに行くんだろ? そんなこと知ってるけど?」


 相変わらず小馬鹿にしたような口調の謎の少年。これに若干勝太郎も苛立ってきた。


「だったら何で止める? このままだと山ほど人が死ぬぞ?」

「逆に聞き返すけどさぁ~兄弟。何で止めなきゃいけないんだ? 死んで同然のゴミ共を始末するだけだろ?」

「(・・・・・・兄弟?)死んで同然なのは、この国の王政府と教会の奴らだろう? 一般市民は関係ないし、あいつらもう皆、この国の間違いを知ってる。国の蛮行を責めるのは構わんが、直接傷つけるのは論外だろう。・・・・・・なんていう一般論を口にしても、聞いてくれなさそうだな」

「ああ、そうだな。そんな人権馬鹿みたいなこと、今時誰が相手にするかってんだ」


 長々と説得しても意味がなさそうだ。ラチルはこの国などどうなろうが知らないと言った態度だったが、この謎の少年は直接ディークへの報復活動に協力しているようだ。


「お前は・・・・・・ディークに恨みでもあるのか?」

「いやねえな。僕もお前と同じで、この世界の生まれじゃないしな」


 相手が拳を振る動作を認識すると、勝太郎もやむを得ず、再度格闘再開を始めようとしたときに、外野からまた気になる声が聞こえてきた。


「あれは・・・・・・大翔様だよな? もう一人は誰だ?」

「あれは今噂の目隠しサムライか? しかし何か似てないかあの二人?」

「確かにな。一人は目隠しているせいで判らなかったが、言われてみると似てるぞ。兄弟かあいつら?」


 気がつけば大部隊の進軍は一時停止していた。別にそういう指示が出たわけではなく、自然と皆こちらに注目し、動きが止まっているようである。

 数百人分のガヤガヤとした話し声。その中のいくつかに、勝太郎は気になる会話が聞こえてくる。


「お前まさ・・・・・・ふごっ!」


 次の攻撃は相手側が先制した。何か言おうとした矢先に、謎の少年の拳が、勝太郎の顔面にめり込む。

 以前オーガ型魔人に殴られたときに匹敵する激痛が、彼の鼻と額から一気に伝わる。しかもその衝撃で、勝太郎の足下が、まるで地面をこするように移動し、彼は数メートル後退する。

 話しが切れたと思って攻撃したら、また話しをしようとしたことに、少年は呆れかえる。


「何だよお前~~まだ話すことがあんのかよ?」

「ああ、ていうか仕掛けるなら、先に言えよ!」


 喧嘩のルールなどという意味のない主張をしながら、勝太郎は鼻を赤くして喋っている。幸い鼻血は流れていないようだ。


「ええと・・・・・・“弘人”って言ったか? お前まさか、俺と同じ顔してんのか?」


 この時点で、カーミラが言っていた協力者とは具体的に何であるのか、ほぼ全てが簡単に判る話しであった。

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