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第五十一話 和風SF都市

「領主が死んだぞ! やったーーーこれで馬鹿高い税は終わりだ! アマテラスのサムライ様万歳!」

「ええい、もう兵士なんてやめだ! あんな豚野郎に俺たちはもう仕えなくていいんだ!」

「倉を空けろ! 領主館の瓦礫も探せ! あそこには山ほど食べ物があるはずだ!」

「ピッグの取り巻きも愛人も全部殺しちまえ! 今こそ積年の恨みを晴らすときだ!」


 さて二人のサムライと二人の脱走聖者の反乱によって、この土地の領主が撃たれるという大事件が起きた今日という日。

 街の者達は恐れるどころか歓喜に震えていた。数年前までアマテラス人を野蛮人・凶悪な敵と名指していた事実など何のその。皆が一様に、顔も知らないその反乱者達に感謝の言葉を叫んでいる。

 城壁の扉も開け放たれ、大勢の難民達がこの街に流れ込んでいる。元々街に住んでいた者達も、領主館を初めとした政府施設に、餌を探す蟻のように、一斉雪崩れ込んでいた。


「待て、誤解だ! 私もあの領主が恐ろしくて今まで・・・・・・ぎゃぁあああっ!」


 その歓声の中には、街の貴族達の悲鳴も聞こえた気がした。だが生憎それに救いの手を差し伸べる者はいなかった。







 さてそんな街の様子を、城門の上にある櫓から、高みの見物をしている一行。

 かつて銃を構えて、外にいる難民達を脅していた兵はもういない。領主が死んだと聞いて、彼らは大喜びで、家族のいる街へと帰っていた。


 屋根がなく、外の様子が良く見通せる、石のブロックで組み上げられた場所。城壁の上を通る通路を、ただ広くしただけのように見える、簡素な作りだが、作りはしっかりしていて、とても頑丈そうだ。

 しかも外側に面する、柵の真ん中には、旧型のカノン式の大砲まで設置されている。本来ならばこういった大砲は、城壁の上の各地に大量に設置されていそうだが、ここでは予算をケチったのか、あるのは城門側の数基だけだ。


 さてそんなもう誰にも使われないだろう城門の見張り櫓で、一行はさてこれからどうするかと言った感じで、騒がしい街の様子を見学している。


「おうおう・・・・・・見えなくても街がどうなってるのかよく判るぜ。まるで革命でも起きたみたいだな・・・・・・」

「実際に革命だろ? まあ次の指導者が全く決まってないから、この後相当な混乱が長続きするだろうが・・・・・・」


 真澄は今後のこの街のことを考えて、哀れんでそう口にする。領主がいなくなれば、その子供が継ぐか、または王政府から新しく任じられた者が派遣されるのが普通。だが今回の場合はどうだろうか?

 あの領主の血族を、民衆の誰一人として受け入れまい。あるいはもう、今現在惨殺中の貴族達と一緒に、既にこの世から消されているかもしれない。

 そしてディーク本国は、果たしてこの街の現状に気づけるかどうか? 恐らくはこの国の現状からして、この街は見捨てられるだろう。例え新任の領主が来たとしても、その人物が信用に値するかどうか不明だ。


「何だか皆随分喜んじゃってるけど・・・・・・すぐにそれも絶望に変わると思うと滑稽ね。城の倉には、もう大した量は残ってないのにね」

「確かにな・・・・・・判っちゃいたが、領主がいなくなったからといって、そう簡単に事が片付くわけがないな。これはもう一肌脱がないと・・・・・・」

「えっ? ちょっとまだここに関わる気?」


 この街を救う気など微塵も無いラチル。そのためか、勝太郎の言葉に、大分うんざりした様子で問いかけた。そしてそんな彼女の様子など気に留めず、ラチルが真澄に提案してくる。


「ここの人達を幾人か、ハンク村にまで送れないでしょうか? まだ後千人ぐらいなら、受け入れができると聞いてますが・・・・・・」

「それはやめた方がいいな・・・・・・。誰を選ぶかで、また暴力沙汰が起きるし、そもそもあんなに離れた所へ、そんな人数どうやって運ぶんだよ?」

「何だそのハンク村ってのは?」

「ああ・・・・・・私達が、魔人と政府に追われている人達を、匿っている村さ。今は私達の仲間の一人の、ロビンって奴が、村を魔人から守っているはずだが・・・・・・・。そういえば最近様子見に行ってないな。結構遠いし・・・・・・あっ、そうだ!」


 そこで良いことを思いついたようで、真澄が勝太郎に問いかける。


「なあ勝太郎。お前さっき転移魔法が使えると言っていたが・・・・・・だったら弘後町まで飛べるか?」







 場所は戻ってここは津軽王国の弘後町。そこに勝太郎達一行は訪れていた。ついさっきまで、遙か彼方ディークという異国の地にいたのに、ここでまた急にこちらに戻ってきた一行。

 ただし場所は、いつもの黒神村ではなく、そこより遥かに大きな町であり、以前勝太郎が、ジェーンへの貢ぎ品を買いに行った町である。


「へえ・・・・・・やっぱり黒神村とは、賑やかさが全然違うわね」

「商業の町なんだから当然だろうな。まあ俺には、人の気配の数でしか、町の繁栄具合が判らんが」


 アマテラスで初めて、黒神村以外の集落を訪れたラチル。その町の賑やかさに、あちこちに目配せしていた。

 その町は、黒神村同様に和風建築が立ち並ぶ、中世日本のような町並み。ただし人や建物の数は、それより圧倒的に多い。

 現在彼らが歩いているのは、町の中央街道。そこには大勢の人々が行き交い、ある者は両側にある数軒おきにある、何かしらの店や施設に出入りしていた。黒神村の家屋や商店も、決して小さくはない。こちらもそれぐらいの大きさの建物が多くあったが、中には三階建てから五階建ての、かなり大ぶりの建物が、かなり目に入ってくる。


 街の人々は殆どが鰐人族。中には鶏人などの別の種族や、ディーク人と同じ純人の姿もある。服装は殆どが和装で、この中でラチルとルチルの衣装は、かなり目立つ。

 道行く人から、彼女は多少注目を浴びるが、さして変に思われる様子はなく、皆愛想良く彼らの脇を通っていった。今日はあまり見かけないが、ここでは異人の姿を見るのは、さほど珍しくないのかもしれない。

 並び歩く人々の表情はほとんどが明るく、あのアドレーの街とは、あらゆる意味で正反対だ。


「えっ、あれって? 何でしょう?」


 中世日本と似ているようで、建物の大きさなどが微妙に違っている街。その街の中の、街道の真ん中を走るある者に、ルチルが思わず声が上げる。

 この街道には人以外にも、人や物資を載せた乗り物が、時折行き交っているのが見える。それは馬ほどの大きさもある、巨大な軽鴨が引っ張る馬車などだ。いやこの場合は鳥車と言うべきか。そのチョ〇ボのような生き物は、充分ファンタジーな存在で、勝太郎の故郷の者が見たら、大層驚くだろう。


「ルチルが言ってるのって、あの馬鹿でかい鳥? 確かに珍しいけど・・・・・・何あれ?」

「何だ? 何かあるのか?」


 今度はラチルも、目を丸くしている。どうやらルチルが指摘したのは、あの巨大軽鴨のことでないらしい。

 勝太郎も二人が見やる方向を見るが、そもそも目が見えないので、それが具体的に何なのか判らない。


 ブォオオオオーーー!


 低めのエンジン音を立てて、ゆっくりと街道の間を通るそれは、一台の馬も鳥も人も轢いていない不思議な乗り物であった。


「エンジン音? この音は・・・・・・ああ、あれはバイクだな」

「バイク?」

「俺の世界にもよくある、機械の乗り物だよ。何だよ、この国も異世界と交易してたのか?」


 勝太郎が反響で認識した形状と、その動きから、彼はそれを故郷にあったのと同じ自動二輪車と認識した。


「まあこっちの世界では呼び名が違うかもしれんが。俺の世界では、あれと似た感じの乗り物が、どこでも誰でも持ってたもんだ。しかしエンジン音が低いな。もしかして完全電池式か? 随分とハイテクな物だ」

「へえ、勝太郎さんの世界って、あんなのが沢山あるんだ・・・・・・」


 ちなみに勝太郎のその認識は、目が見えないせいで少しズレがあった。

 街道の真ん中を、人にぶつからないように注意しながらゆっくりと走る二輪車。道行く人も、邪魔にならないよう、親切に道を空けているので、こんな所でも事故は起きていない。


 だがその二輪車、何と宙に少し浮いていた。形状は確かに、勝太郎の故郷にもある二輪車と似た感じの、白い機械乗用車だ。だが人を乗せた機体は、地面から僅か十数㎝程、何の支えもなしに浮き上がっている。


 しかもその二輪車(?)は、タイヤが前後ろとも回っていない。いやそもそもそれがタイヤなのかも謎だ。

 本来タイヤは縦についているものだが、これは横側に円盤のように付いている。しかも地面に面する裏面から、何やら光る煙のような物を噴出している。それが動力なのか不明だが、その二輪車はタイヤの動きなしで走っているのだ。


 その浮遊する乗り物は、明らかにこの和風ファンタジー名世界には似つかわしくない、近未来SFのような代物であった。


「ああ、実は去年程から、ここも奈々心国と交易を始めたらしいな。数ヶ月ぶりに帰ってきたが、確かに変わった物が増えてきてるな」


 そう言ってる真澄も、こういうのは初めて見るらしいが、別段驚く様子はない。彼女は姿が遠くなっていく浮遊自動車を、ずっと目で追っているルチルの様子を見やった。


「何だルチル? ああいうのは欲しいのか?」

「えっ? えっと・・・・・・それは・・・・・・」


 この少女にしては珍しい関心事に、真澄が意外に思っている中、ラチルがまた新しい珍物を見つけた。いや実はさっきから遠くから見えていたのだが、今になって関心が高まってきたようだ。


「それじゃあれは何? 変な塔があるけど、あれは物見櫓かしら?」

「いやあれは電波塔だ。あのテレビという機械に情報を送るのに必要だそうだ」

「えっ? ここって電波塔があるのか?」


 ラチルが指差す方向にある建物に関して質問し、それに関する真澄の返答に、勝太郎が少々驚いた。

 ラチルが指差す、ここから数百メートル先の位置にあるのは、高さ数十メートルほどの一本の塔。それは魚の骨のような、すかすかの塔本体の天辺に、丸いお皿のようなパラボラアンテナが複数設置してある、何とも近代的な電波塔があるのである。

 勝太郎はこの町に何度も来たが、ここにそんな塔があるとは、今まで全く知らなかったようだ。


『はいこちら津軽局より電気報道ニュースです! 現在ディーク神聖王国と、周辺諸国での国境に関して。現地取材からの情報だと、やはりまだディーク討伐軍は沈黙を守っているようです。ディーク国内による魔人の脅威は、未だに残っており、しかも現在も被害が拡大している模様。魔人によって脅威にさらされていながら、その魔人のおかげで、未だに国土が攻められているという皮肉な状況は、今後もしばらく続きそうです。一方つい先程届いた情報ですが、ディーク国内の〇〇地方のピッグ領主が、“大翔(ひろと)”と思われるサムライに倒されたという情報が・・・・・・』


 さてそんな町の一カ所から、一体に響き渡る随分大きな人の声が聞こえてきた。ラチルらもこの声に気づいて、聞こえてきた方向に目を向けると、真澄が指差してそれも説明を始めた。


「ほらあれが例のテレビだよ」


 それは一個の大型テレビであった。広い街道同士が、横に交差する中央通り。その一角の何の建物か知らないが、大型の四階建ての建物がある。

 その頂上付近の壁に、大きなテレビが、広告看板のように貼り付けられている。渋谷のビルテレビと比べると随分小さいが、この規模の街の人達から見れば、情報を聞き取るには充分な大きさだ。


 実際にそのテレビの映像と声に興味を持った者達がいくばくか、その付近で足を止めている。そして現在テレビに映っているニュースキャスターらしき、中年の鰐人男性の声を聞いていた。


「へえ・・・・・・あれがテレビね。寺の子供らが使ってた電子ゲームってのと、似た感じなのね」

「あれとはまあ、似て非なるものだが・・・・・・まあそんな感じだ。ていうか電子ゲーム? そういうのはまだ田舎には出回っていないって聞いたが?」


 ちなみに寺の生徒達が使っていたゲーム機は、カーミラが個人的に渡した物だが、そのことはまだ真澄には言っていなかった。

 そしてディークには決してなく、黒神村でも見なかった風景に、ラチルは魅了されるように見渡していた。その感動が大きかったのか、テレビの映像は見ているが、肝心の今報道されている報道の内容は、全く耳に入っていない。


「この国にテレビニュースとはな。前にこの街に来たときには、あんなテレビの声なんて聞かなかったが・・・・・・」

「ああ、どうもあのテレビがついたのは、つい最近らしい。あの電波塔もな。去年辺りからこの国は変わり始めてるよ。奈々心国とていう異国の国と交易が始まってからな」

「列強国だけじゃなかったのか・・・・・・」

「まあ、とりあえず今はここの領主に会いに行くぞ」


 この国の変化は今はどうでも良く、早速ここでの本来の目的へ向ける。彼女らが向かう先は、この街と周辺地域を収める領主の元である。


「なあ・・・・・・あてがあるって言われて、ここまで連れてきたが、結局どうする気だ?」

「ああ、まだ話してなかったな。今から領主に会って、アドレーの奴らにあげるための食糧を買ってくるんだ」


 転移自体は簡単に出来るため、弘後まで行くと言って、碌に話しを聞かずにあっさり了承した勝太郎。そして語られた、あの町民・避難民を助けるための打開策がそれだった。

 軽く言っているが、かなり凄い内容である。総勢六万人にも及ぶ人間の食糧を、一個人で買い取って、あちらに渡すというのである。


「買うって・・・・・・そんなお金どこにあるのよ? ここの領主が、関係ない異国の人のために、食糧を恵んでくれるとは思えないけど?」


 その疑問を真っ先に口にしたのはラチルであった。あちらの国の事情は、この国とは全く関係のないこと。それどころか一年と数ヶ月前に、この国に侵略を仕掛けた国だ。そちらを助けてくれる義理など、あるはずがない。


「だから譲ってもらうじゃなくて買うんだよ。金なら充分ある」

「はあ? あの人数分の食糧を? 何でそんな金あるのよ?」

「一年半前に、この国をディークの侵略から救った礼金が、まだたんまりあるからな」

「「えっ?」」


 これにはラチルと勝太郎二人が、同時に疑問の声を上げた。真澄の傍らのルチルは、何らや苦笑いしているようだが。


「そういやまだ話してないこともあったな。実はな・・・・・・」


 そう言って語るのは、かつて津軽王国からディークを救った、護衛艦ゲンイチの活躍劇であった。



真澄とルチルがかつてしたことを詳しく知りたい方は(知らなくても全く問題ありません)、前作「冥界を出たら万能武器になった男」を見て下さい。

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