第四十八話 源一
それは壮絶な戦いだった。傍から見ると、一方的な虐殺に見えてしまうぐらいの。
何百もの弾丸、魔人達を眼球ごと粉々に砕き、瞬く間に群れを殲滅した。
白い硝煙を銃口から黙黙と上げる機関銃が今向いている先には、銃弾によってバラバラになって倒木した樹木が積み重なり、その木片にかつて魔人であった灰色の泥がペンキのようにベチャベチャと付着している。
「終わったのか・・・・・・しかしこのファンタジー世界で機関銃とはな・・・・・・」
あの巨大な銃器が、小さな勾玉に縮小されるのを感じて、勝太郎が呆れ気味にそう口にする。
この世界にも銃を持った兵士はいたが、これはそれの比ではないレベルだ。
しかもその銃が、不思議な力で、小さくなったり形を変えたりしているのだから、これはもうファンタジーなのか近代兵器なのか、全く見当が付かないものだ。
ちなみに勝太郎には視認できないが、先程まで真澄の足下に、地面を埋め尽くすまでに積まれていた、機関銃の薬莢は、現在霧になったように見る見ると消滅している。
「とりあえず・・・・・・さっきの話しに戻るか?」
目の前の惨劇を気にせずに、一行は早速、先程中断になった話しの続きを始めるのであった。
避難民達が落ち着いた頃、彼らがいる所から少し離れた所にいる林の中。先程の銃撃で、荒れ地化した所のすぐ側で、一行は話しをしていた。
「このゲンイチっていう石はな。異世界の奈々心国の魔術師が、実験を兼ねて作った魔道具だよ。何でもあいつらの世界にあった、色んな種類の武器の、形と能力をコピーするらしい。今さっき魔人を皆殺しにしてやったのは“ブローニング銃”ていう、異世界の武器だそうだ」
「ブローニングね・・・・・・聞いたことがあるようなないような」
「こいつを作ったカーミラって女は、こいつを試験的に作ってな、私はそれを使って実戦に出して試験するのが私の役目だ。偶然この石を拾ったと思ったら、何か知らん内に、そういう話しになったんだが、私はそれなりに楽しんでるな。あんなふうに化け物共を、この力で駆逐するのは、えらい楽しいもんだ」
「成る程カーミラね・・・・・・」
ブローニング銃に関しては、記憶が曖昧だった勝太郎。だがこれの制作者であるカーミラの名前には、とてもはっきりと覚えがあった。勝太郎がこの姿になった、そもそもの根源たる女の名前である。
「ちなみにこれと似たような力を持った奴が、もう一人いるんだが。そいつは今、訳あって別行動中だ。ロビンっていう、色んな生き物に化けられる奴だ」
(あの中二女・・・・・・色んな所で変な実験してるんだな)
最初は奇怪に思ったこの真澄という人物だったが、カーミラの名を聞いた途端に、彼は全てに納得してしまった。
もうあの女が出てくれば、どんなおかしな事があっても、全て理解可能な気がするのだ。
「あなたがその物騒な武器で、戦いを楽しんでるのは判ったけど・・・・・・でもどうして、そんなあなたが、今聖者と一緒にいるの? あなた元々アマテラスの人でしょ?」
次に質問を投げかけたはラチル。ゲンイチという石の特異性はともかく、このルチルという少女に関しては、それとは別の意味で疑問が出る話だ。これに関しては、ルチルの方が応える。
「いえ私が真澄さんと会ったのは、アマテラス大陸の方です。そこの津軽という国の、弘後町でこの方と巡り会えたんです」
これまた聞き覚えのある名前が出てきた。津軽とは今現在、勝太郎達が滞在している国の名前である。
あの国は広大なアマテラス大陸の、ごく一部を支配している小国に過ぎないのだが、随分狭い巡り合わせである。
ついでに言えば、弘後町とは、少し前にジェーンの為に天幕など物品を買いに、勝太郎が訪れた町である。
この後のラチルの説明はこうだった。
彼女は二年近く程前に、ディーク神聖王国のあるゼウス大陸から、海を越えてアマテラスの津軽王国に渡ったのである。別に脱走などではなく、国の命令で、アマテラスにロア教の布教する宣教師として赴任したとのこと。
だがそれは建前で、ルチルは本人も知らぬ間に、ディークのアマテラス侵攻のための工作の、手伝いをさせられていたらしい。
ルチルはその土地で、早い時期に真澄と出会い、彼女と共に旅を続ける中で、ディークの本性に気づいたのだという。
「それから私は、もう二度とディークには戻らない筈でした・・・・・・ですが少し前に、新聞でディークでの聖者達の境遇を知って・・・・・・」
「それで自分の仲間達を救おうと、この国にもう一度来たと・・・・・・経路は違うが、ほとんどラチルと同じだな」
おおよその互いの事情を話し、両者はようやく納得する。面白いことに、このような全く同じ取り合わせ、同じ目的で動いている仲間がいるとは、互いに思いも寄らなかっただろう。
「そういやお前ら、名前よく似てるよな? 名字も全く同じだし、もしかして生き別れの姉妹か?」
「ええ、それはあり得るわね」
「ええ、多分そう思います」
若干冗談交じりの勝太郎の言葉に、意外な聖者二人の回答であった。
「私の名字は母親のものらしいわ。会ったことはないけれど、どうも私の父は、随分沢山の女に手を出して、生まれた子を色々自分の利益に利用してたみたい。私が聖者の訓練を受けて、現地で実績を上げたことで、そいつは随分でかい顔をしてたって聞いたことがあるわ。何とも腹立たしい話しよ・・・・・・」
ラチルの説明に、ルチルも深く頷いていた。ただの偶然かと思ったら、随分と生々しい話。だが貴族社会では充分有り得る。
この説明の後で、またしばし重い沈黙が始まった。近くの木陰で、聞き耳を立てていた避難民も、随分興味ありげな様子である。
まあいきなり姉妹かもしれないという人物、今日唐突に出会ったのだから、このような空気も仕方ないが・・・・・・。その空気を破って、真澄が声を上げる。
「まあ姉妹かどうかはともかくとして・・・・・・とりあえず互いの目当ての相手に会えたんだからだ万々歳だな。それでお前らはこれからどうする? 私らはこれからも、引き続き聖者捜しの旅を続けるが。こっちもルチルとのことで、そいつらとは縁が出来ちまったし」
「ええ、それは私も同じよ。いや本当に幸運だったわ。まさかこの国に戻ってきて、一日も経たずに、こんなことがあるなんてね。・・・・・・でも次の聖者の居場所には、全く心当たりがないの。真澄さんとルチルには心当たりは?」
そういうラチルの呼称は、真澄にはさん付けだが、ルチルに関しては呼び捨てである。もう既に、相手を妹だと確信しているのであろう。
それはそうと当面の問題に、話しは切り替わる。仲間が増えたはいいが、さて次の手がかりとなると、また一から調べ直しが必要だ。
そもそもこの国の聖者の、具体的な人数だって判らないのだ。
「ああ、それに関しては、私らも多少は調べ上げてる。どうも今聖者は、王都に集められてるみたいだな。どうやら魔人の数が増えすぎて倒しきれなくて、王都の守りを優先し始めたみたいだな」
「何だそれ? それじゃあ地方の奴らは見殺しか?」
「そうだな。その置き去りにされた所の兵も、魔人は聖者にしか倒せないって戯言を信じてるせいで、碌に戦いもせずに民を捨てて逃げる有様だし。多生戦ってれば、目が弱点だって、普通気づきそうなもんだがな。実際外国の方の奴らも、大部分気づいてたし」
それに関しては勝太郎達も同感だった。あんな判りやすい弱点、何故今日まで気づかないのか?
勝太郎は魔人と戦った回数は、まだあまり多くない。先程の魔人の群れと戦ったときも、偶然目に攻撃が当たって、死んだ魔人がいるかどうかも、目隠ししている彼には、中々識別できないが。
「つまりこの国の兵は、それだけ微塵も戦ってないって事でしょ? 本当に馬鹿馬鹿しいわ」
「そうだな・・・・・・まあ通りかかった船だ。今ここで追い詰められてる奴らぐらいは、どうにか助けられないかって思ってる。だがそれをどうすればいいのか・・・・・・」
「どうするもこうするもな・・・・・・今民を締め出してる領主を倒せばどうにかなるって話しでもないだろう? やはりこの辺りにいる魔人を一匹残らず潰すしかないよな。えらい手間になる話しだが・・・・・・」
「えっ?」
突然話しが、ここの避難民を助ける方向に流れている。それにラチルが唖然とした。
こいつら聖者を助けるのが目的じゃなかったのかと。その話には、ルチルも参加し始めた。
「全部倒しても、また新しい魔人が増殖しては意味がありません。魔人が増える元凶である、この国を覆う、人々の負の思念をどうにかしないと・・・・・・」
「負の思念を出ないようにする・・・・・・。それって国そのものを変えるって事だよな? そりゃ国を滅ぼすよりも難しいぞ。俺政治とか経済とか、全然知らないし。お前らはどうにかできるのか?」
「それは私らが、この国を統治して、民を豊かにするということか? 無茶言うな。私は戦い以外には、何の能も無いんだぞ・・・・・・」
「そうですね・・・・・・私も政治学は習いましたが、とてもそんなことできる自信がありません。これをどうにかするには、今の王を倒して、別の有能な王を建てることですが・・・・・・それができる人がいるかどうか・・・・・・。そもそもディーク王家に、真面目に民の為に働こうなんて、考える人がいるかも・・・・・・」
ラチルが除いた三人で、この国の治世と未来に関して、真剣に話し合う二人。
立場上は一般庶民のこいつらが、何をそんなスケールのでかい話しを・・・・・・と思ってしまいがちだが、生憎勝太郎と真澄には、そういった話しができるだけの物理的な力があった。
ただし一人だけ、ラチルの方は、この話しに置いてけぼりのようだが。
(何で? どうしてこんな当たり前みたいに、ディークの愚民を救おうなんて話になるの? ・・・・・・もしかして私がおかしいのかしら?)
そんなラチルの様子に気づいてないのか、それとも意図的に無視しているのか、二人は続けて話し込む。
「要するにこの国の現状をどうにかするには、この国をまともに治世できる人間を上において、その上で魔人達を殲滅することか。後は他国の援助もいるな。どんな奴が王になっても、ここまでボロボロになった国を、自力でどうにかすることはできないだろうな・・・・・・」
「最後の方、ディーク王家を改善するより難しくないか? この国、これまでの所業で大陸中の国から恨みをかってるんだろ?」
「恨みどころか、もう復讐が始まろうとしてるぜ。今までディークに虐げられてた国が、いつでもこの国に攻め込めるよう、国境で軍を敷いてるところだし。まあ今は、魔人達のせいで様子見のようだが」
「それは魔人よりよっぽどやばくないか? へたすりゃディーク以外の国も、巻き添えをくうぞ」
何とこの国は、魔人と周辺諸国の、二重の脅威にさらされていた事実。
もし勝太郎達が、他に何の対策もせずに、ただ魔人を殺すこと続けたら、諸国がこちらに一気に攻め寄せてくる。その結果どうなるだろうか?
相当な壮大な虐殺・略奪・国民奴隷化が始まるかもしれない。しかもそれによって、ますます国が負の思念に包まれ、魔人達が一気に復活し、その他国の兵達も脅威に晒される。
「何とまあ救えない状況だよ。まあ・・・・・・そもそもこの国がやらかした自業自得だけどよ」
「そっ、そうよ! だからこんな国奴ら放っておいて、早く聖者捜しをしましょうよ!」
「はあ・・・・・・」
途中で話に割り込んで、動向を元に戻そうとするラチル。それに勝太郎は、怒るわけでもなく、何かだ疲れたようで嘆息した。
「ラチル・・・・・・これはお前にとっても、見過ごしていいことじゃないんだぞ? まあともかく、お前の望みに協力するんだから、お前も俺の望みに協力してくれよ。無駄なあがきになっても構わないからよ・・・・・・」
「うう・・・・・・判ったわよ。でも無理なことになったら、すぐに諦めてよ・・・・・・」
結局の所、勝太郎なしでは事を進められないラチルは、渋々同意することとなった。




