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第四十一話 女戦士の決着

 さてそれから数分ほどして、ラチルとジェーンの戦いはどうなったのかというと・・・・・・まだ決着が付かずにいた。二人は全力で剣をぶつけ合い、もしくは魔法を撃ち合い、全力でぶつかり続けている。


(うわぁ・・・・・・いつまで続くんだろこの戦い? やっぱり手を貸した方がいいかな?)


 最初はラチルの身を案じて、状況を見ていたウィリアム。今はもう大分落ち着いて、ただの野次馬のような感覚で様子を見ている。

 勿論決着が長引いているからといって、ラチルの身が安全になったわけではないので、彼はいつでも助太刀できるように身構えていた。


 この高原には、凄まじい剣戟の金属衝突音が未だに鳴り響く。そして魔法の流れ弾によって、破壊された大地や岩が、各地に見られる。戦いが長引くにつれて、この美しい景観はどんどん壊れていっていた。


 何千合とぶつけ合い続けた二人の魔法剣は、耐久度が限界近く、刃毀れがどんどんできて既にボロボロだ。

 それは武器だけでなく、本人達もそう。ジェーンの身体には、多くの切り傷や打撲の傷が付いている。一方のラチルも、自身の回復魔法でも直しきれない生傷が、どんどん増えている。

 だが傷の量と深さは、ジェーンの方が大きいようだ。攻撃を受けた回数は、実はラチルの方が多い。だが彼女は回復魔法が使えるので、隙を突いて自身の傷を治しているのだ。


 そのためか、戦況は少しずつ、ラチルが押してきているように見える。そしてそこに、光の粒子をまといながら、何もない空間から、突如この場に飛び込んでくる者が現れた。


「おう、帰ったぞ~~あれ?」


 その現れた者は、薬袋を持って、この場に転移してきた勝太郎であった。どうやら河童の騒動の後で、彼はようやく任務を終えて帰って来れた様子。


「ああ、勝太郎さん遅いですよ・・・・・・うわっ!」


 危うく忘れるところであった待ち人の登場に、ウィリアムは喜んで、彼が転移した場所に駆け寄るが・・・・・・少し近づいた瞬間に、彼は顔を引き攣らせて一歩引いた。

 信頼している恩人に対し、まるでゴミ山でも見るように、青ざめた顔で、鼻の穴を指で押さえながら離れていく。


「この臭い・・・・・・勝太郎さん、また河童と遊んだんですか?」

「遊んだわけじゃないよ。人命・・・・・・いや獣命救助で大変だったんだ」


 河童の粘液を全身に浴びた勝太郎。その付着量は、昨日の比ではない。薬屋に行ったときは、果たして店員からどのように見られたのだろうか?

 その彼の持つ、紙製の薬袋も、彼の持つ手から付いた粘液が、ベトベトに付きまくって濡れている。

 そしてその粘液から発せられる臭いが、その薬袋も含めて、勝太郎の全身から漂っている。果たしてこの袋の中の薬は、まだ使えるのだろうか?


「ところで・・・・・・何か凄まじい音が聞こえるんだが。あそこで激しく打ち合っているのは誰だ? 魔力らしき力が感じるし、どうも二人が持ってる長いものは、魔道剣みたいだが?」

「ええと・・・・・・あれはラチルさんとジェーンさんが、今戦ってるんです・・・・・・」


 勝太郎の問いに、ウィリアムはやや戸惑い、そして迷いながら、短めに事実を口にする。そしてその返答に、当然のごとく勝太郎は首を捻った。


「戦うって・・・・・・何でだよ!? あの呼吸音の荒れようといい、ちょっと稽古しているようには見えないんだけど!?」


 勝太郎には二人の鬼気迫る姿を、直接視認することはできない。だが打ち込みあい続ける剣撃の威力と、その全力を出し切っている荒れた息から、これは明らかに穏やかな状況を察していた。


「ええと・・・・・・ちょっと勝太郎さんには、きついお話になりますが・・・・・・」


 迷いながらも、結局ウィリアムは、ここで起きた状況と、ジェーンの正体を、その場で包み隠さず説明した。


「えっ・・・・・・ジェーンが異人の指名手配犯? マジか?」


 言葉はあっさりめだが、勝太郎は相応に動揺しているようだ。口元が引き攣り、背筋が固まっている。剣戟が未だに鳴り響く中、勝太郎は結構ショッキングな事実に呆然としていた。


「本当ですよ・・・・・・あんな強い魔力を発しているような人が、借金取りを恐れて逃げ回りますか? ・・・・・・第一あの人の言うこと、今まで一度も怪しまなかったんですか? 私の場合、勝太郎さんからあの人の話聞いた辺りから、かなり疑ってましたけど・・・・・・」


 知らぬとはいえ、今まで犯罪者を匿ってしまった勝太郎。それにウィリアムは責めるような口調で問う。確かに彼女の言うことは、最初から違和感ありまくりで、普通ならば疑念に思うのが当然であろう。


「いや・・・・・・だって話しじゃ手配犯は男って聞いてたし・・・・・・」

「だから今まで、あの人の事を、全く疑わなかったんですか? いくら何でも鈍すぎ・・・・・・いや、考えてみれば勝太郎さん・・・・・・私に言われるまで、魔人を人間だと思って話しかける人でしたね・・・・・・。それじゃあ仕方ないか・・・・・・」

「うわっ、酷い納得のされ方・・・・・・確かにあれは俺も間抜けだったと思うけどよ・・・・・・」


 色々痛い指摘をされているが、勝太郎には何も反論できない。目が見えないから仕方がないという言い訳は、ある意味視覚障害者を馬鹿にしているように感じるので、口にすることはできなかった。


「でもその点を別にしても・・・・・・どうして勝太郎さん、あの人にあんなに世話を焼いたんですか? あんな風にわざわざ天幕を買って上げたり、さっきも言われるがままに薬を買いに行ったり・・・・・・あれじゃ人助けって言うより、ただの主人と奴隷に見えますけど?」

「いや・・・・・・前にも言ったろ? 薄幸の美人を助けるって展開に、ちょっと興奮してまって・・・・・・」

「あなた、いずれ悪い女に騙されますよ?」

「お前、さっきから台詞が生々しいぞ!? 本当に少し前まで、世間を何も知らなかった箱入り息子かよ?」

「そりゃあ私だって、少しは世間を学んでますよ。つい最近になって、祖国が詐欺師だったと知ったばかりですしね・・・・・・それに砦にいたころからも、女性に貢いで騙されたと言ってる騎士の話しを何度か聞いて・・・・・・ていうかこんな話ししてる場合じゃない! ラチルさんを助けて上げて下さい! さっき私が手をかそうしたら、何故か拒まれて・・・・・・」


 うっかり忘れてしまっていたが、今ラチルは強大な敵と戦い続けて、かなり危険な状態なのである。

 さっきまで呆れ顔で勝太郎を見ていたウィリアムは、慌てて近くの一騎打ちの戦場に目を戻す。だがその直後に、二人のゼウスの乙女の決闘は、終わろうとしている所であった。


 ガキィン!


 さっきまで聞こえていたのとは、すこし異なる金属音と、発生していた。

 ジェーンの剣が、ラチルの剣に弾かれて、ブーメランのように回転しながら飛んでいき、そして近くの勝太郎が買ってきた天幕に激突。結構値が張った天幕は、スッパリと布が切られ、使い物にならなくなる。

 そして剣はその地面に衝突し、剣身の風の魔力が消え失せながら、転がっていく。その剣身の刃は、もういつ折れても不思議じゃないぐらいにボロボロであった。


 ザシュッ!


 そして剣が弾かれた直後に、ラチルは更に二撃目の剣戟を加え、ジェーンの腹を切り裂いた。

 剣に魔力を蓄えて放たれた必殺の剣戟。彼女のボロボロの服と、腹の皮が切り裂かれ、そこから血が噴き出した。だがラチルの魔力が弱っているためか、それとも激戦の末に、剣の切れ味が落ちたのか、その切り傷はさほど深くはない。

 剣を奪われて、腹部を負傷してジェーンは、その場で尻餅をついて倒れ込んだ。その姿を見たラチルは、疲れ切った顔でありながら、歓喜のようすで笑っている。

 一方のジェーンは、自分を見下ろすラチルのその顔を死の恐怖で怯えんが見上げていた。


(よかったラチルさんが勝った・・・・・・えっ?)


 そのままジェーンを捕縛して終了かと思ったら、そうはいかなかった。ラチルの剣身の魔力が、再び溜められ始める。彼女に向かって、二撃目の必殺の魔法剣を放つ気なのだ。


(何してんだよ!?)


 その行動にウィリアムが止めの言葉を叫ぶ前に、勝太郎の足が先に動いた。その直後に、魔力を溜め終わった、ラチルの魔道剣の剣身が、ジェーンの脳天を、薪割りのように叩き割ろうと振り下ろされた。


 ダン!


 その直後に聞こえた音は、幸いジェーンの頭が叩き割れる音ではなかった。腹から血を流し、尻餅をついて動けないジェーン。そして彼女に剣を振り下ろしたラチル。

 その二人の間に、勝太郎の姿が割って入っていた。どうやら間に合ったようだ。


(はあ・・・・・・勝太郎さんの方が速かった・・・・・・)


 ジェーン殺害が止められたことに、安堵するウィリアム。しかもそれだけでなく、ラチルも、彼女の持つ剣も、一切傷つけずに、その攻撃を止めている。

 どうやったのかというと、振り下ろされる前にラチルの正面に現れた勝太郎が、その剣を両手で挟んで止めたのである。俗に言う真剣白羽取りだ。

 神聖なる白き光を纏った剣身を、勝太郎が素手の掌で、特に苦痛無く挟んで止めている。しかも勝太郎の腕力もあって、その剣はあっという間に勢いが止められていた。

 別に剣撃が勝太郎に当たっても大丈夫だったろうが、そんなことをしたら、逆に既に耐久値限界の、ラチルの剣が砕けていた恐れがある。


「勝太郎さん!? ちょっと間違えてるわよ! 敵はそっち!」


 これに驚き、そして困惑し、そして忠告するラチル。剣身に纏わり付く、神聖魔法の力は、コンセントを抜いた電灯のごとく、あっさりと消えていた。

 その忠告の内容を聞くと、どうやら以前の王国兵と村民の治療を間違えたように、勝太郎が敵をご認識したと思っているらしい。だがその忠告に、勝太郎が首を横に振った。


「別に間違えちゃいないぜ。確かに戦ってる二人の区別は、俺にはつきにくかったが・・・・・・俺が前に買ってやった、鈴を鳴らしてるのがお前だろ?」

「えっ!?」


 この言葉に再度驚くラチル。今まで描写しなかったが、ラチルはずっと、あの商店街で買った鈴を身につけていた。

 その鈴は、戦いでラチルの身体が揺れ動く度に、盛大に金音を鳴らしていた。だが剣戟音が高すぎて、周りにその音は、全く聞こえていなかったであろう。

 だが勝太郎の聴覚には、その音を聞き分けていた。敵味方を間違えないようにという名目で、買ってもらった鈴。だがまさかそれが、こんな形で利用されるとは、ラチルには全く考えもしなかっただろう。


「判って・・・・・・何で!? ああ・・・・・・そうか。勝太郎さん、その女は・・・・・・」

「それももう知ってるよ。ディーク兵の指名手配犯だろ? さっきウィリアムから聞いた」

「じゃあ、何でよ!?」


 相手が敵と知って、彼女を助けた勝太郎。その行為にラチルは激怒するが、勝太郎はむしろそれに呆れていた。


「何でも何も・・・・・・それはこっちが聞きたいよ・・・・・・。お前今こいつを殺そうとしただろ? 警察に渡そうとかしないでよ・・・・・・」

「ええ、そうよ! そいつはディークの侵略兵よ! さっき話したけど、そいつは本当に救いのようないクズ女よ! こんな奴にすぐに殺してしまわないと・・・・・・」

「何だよそのやばい考えは? お前本当に元聖女か?」

「聖女なんてとっくに引退したわ!」

「まあ、そうだけどよ・・・・・・だからって今のは完全に問題外だ。こいつが法で裁けぬ悪人だってなら判らなくもないが・・・・・・そうでもないだろ? ここは前に戦ったディーク領じゃないんだ。まともな法律があるこの土地じゃ、下手すりゃお前が警察に捕まるぞ」

「くっ・・・・・・」


 呆れながら正論を口にする勝太郎。実際にこいつは、別に法逃れができるような力はない。ここはディーク神聖王国ではないので、ディーク人を加護しようとする勢力もいない。

 むしろここは彼女の敵国内であり、逮捕される証拠は十分で、このまま警察に引き渡しさえすれば、全てが解決する事案である。特に最後の方の忠告には、ラチルも反論できずにいた。


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