第三十八話 除霊
「墓っ!? いやでもこれ・・・・・・他の墓と、形も大きさも全然違うし。てっきり敵の武器か何かと・・・・・・」
勝太郎の反響定位では、これを墓石と認識できなかったようだ。よく見るとその奇抜な形の墓石の周りには、花立てや、墓前の線香立てもあり、よく調べれば視覚できなくても、墓と判るはず。
だがどうやら勝太郎は、敵を仕留めるのに焦っていたようだ。
「違うわよ! 何てこと、お世話になってるお寺の物を壊して・・・・・・」
「ああ、別に大丈夫だぜ。元々これ、その辺にあったそれっぽい石を、適当に置いただけだし。敵国の無縁仏のために、墓石代まで払えねえっていうかねぇ・・・・・・。ていうかディークの兵士は、まともに埋葬しなくていいって言ってたし、そんなにカッカしなくてもよくないか?」
「それはまあ、そうだけど・・・・・・」
伊助の言葉に、ラチルはやや口ごもる。だがその間に、亡霊達の次の手が行われた。
「おい! 石が浮いたぞ! さっきと同じだ!」
先程勝太郎が破壊した墓石の無数の欠片。それが突如浮き上がったのである。誰かが持ち上げたのではないし、何かで引っかけたり、吊り上げたりしたわけじゃない。
見た目は誰の力も借りずに、まるで風船のように、十ほどの大きめの墓石の欠片が、空中に浮き上がったのだ。
言うまでもないが、墓石の石材は、全て空気より重い素材。このようなこと自然にはあり得ない。
「浮いた? 誰かが持ち上げたんじゃ・・・・・・ああ成る程、ポルターガイストだったのか」
この現象を視覚で認識できないのは勝太郎。彼がこれまで何度か遭遇した、気配の感じない者が、椅子や剣を持ち上げて、投げつけてくる現象。これが今、大勢の人の前で、その真相が披露されていた。
そして勝太郎が、その現象を認識したときに、即座に走り出した。
一番小さい物だけでも、野球ボール以上の大きさがある石の欠片。それが一斉に、その場にいる僧達に向かって、飛ぼうとした。
ババババババッ!
だが石が飛ぶ前に、突撃した勝太郎の、無数の拳の乱撃が、その石の欠片達を、シューティングゲームのように次々と撃ち落とす。
石のかけらは、更に細かく分解されて、また周囲に飛び散った。だが全てを仕留めきれずに、一つの欠片が、水奈子の方に向かって、弾丸のように飛んできた。
カキン!
だがその攻撃も、あっさりと防がれる。水奈子の前に、ラチルが立ち塞がり、抜いていた剣を一閃。
その墓石は、果実のように綺麗に真っ二つに割れて、地面に落ちた。そして一気に、またその場は静まりかえる。
「はっ! ホーリーライト!」
「ホーリーライト!」
我に返ったラチルとウィリアムが、その砕けた墓石に、神聖魔法の光を浴びせた。さんさんと輝く、神々しい光が、それらの墓石に当てられ、その中にいる者を浄化しようとする。
「もう飛んでこないか?」
「もしかしてこれで終わりか?」
光が収まって数秒ほど。更に細かく砕かれた欠片が、その後再び動くことはなかった。果たして今ので、亡霊を駆逐できたのであろうか?
「判らないわ・・・・・・あまり手応えは感じなかったけど・・・・・・」
「ええ、恐らくは全てを除霊できてはいないでしょうね。それにあの亡霊は、恐らく幾重ものディーク兵の魂の集合体です。私達が、さっき会ったので、全てとは思えませんね」
ラチルと水奈子が、それぞれこれで終わったということを否定する。
「それにこれで彼らの魂が、安定して留まれる場所はなくなりました。これから先、彼らがどうなるか・・・・・・。もしかしたら浮遊霊となって彷徨ううちに、暴走してかえって厄介なことになるかも知れません・・・・・・。お墓に時間をかけて、ゆっくりと昇天の供養ができれば良かったのですが・・・・・・」
勝太郎が行った、墓石を壊す行為。どうやらそれは、あまり良い結果を生まなかったようである。
翌日になって、村中は少しばかり騒ぎになっていた。昨夜の事件のすぐ後で、寺に再度警官達が訪れ、即座に村中に緊急のお触れが出されたのである。
「おい聞いたか・・・・・・去年のあの異人共の亡霊達が、また現れたって!」
「聞いたに決まってるだろうが、情報遅いんだよお前・・・・・・。生きてるディークの逃亡犯だけでも怖いのに、今度は死んでるディーク人かよ・・・・・・」
「除霊はいつできるのかしら? もしかしたら別の村に出てくるかもって、話しがあるけど・・・・・・」
「他所からも僧達が派遣されてくるって話しだぜ。こっちも厄除けの魔具をまた買わなきゃな。誰かに取り憑かれておかしくなったら、すぐに取り押さえるように注意しないと・・・・・・。でも俺が取り憑かれたらどうしよう?」
村中に広がる幽霊話。現代日本だったら、もしかしたらこれは只のオカルト話で済んだだろうが、こっちの世界では、実害が起こりうる物理的な問題だ。
実際に以前以上に、警官達が村中を巡回している。異人の指名手配犯だけでも、まだ解決せず厄介な事態なのに、今度は上位の凶暴化した亡霊の出現。黒神村は、去年の死体騒ぎ以上に、厄介な事態に陥っていた。
一方の天勝寺の方も、少しばかり騒ぎになっている。寺の本堂から、境内までに、大勢の人々が、一列に並んでいる。
新年のお参りのような寺の風景。だが彼らのお参りは、新年の安定を祈るためではない。亡霊の脅威から逃れるためだ。
「結構な人ね。まさかこんなに騒ぎになるなんて・・・・・・」
「ていうかあの人のお祓いって、本物の幽霊に効くものなのか?」
「失礼だなお前・・・・・・あんたの世界じゃどんなか知らんが、院主さんの白魔法の腕は、そこそこだぜ」
勝太郎の疑問に、伊助が少しムッとして答える。この行列の行く先には、占い師のように椅子に座り、人々に祓いの魔法をかけている水奈子がいる。
彼らが村人と手を取り合い、その身体にかけている魔法は、死霊が人の身体に、一定期間憑依しにくくなる魔法である。例のディークの亡霊に、憑依されて暴走するのを防ぐために、人々はこの寺に集まっているのである。
「ごめんなさい・・・・・・多分私のせいよね? 今まで大人しくしていた亡霊達が、いきなり暴れ始めたのは・・・・・・」
「ああ、それは気にするな。まだ昇天してない亡霊が残ってたからには、いずれこうなったし。あんたのおかげで、祓い料金でボロ儲けだしなぁ」
最後の方は、かなり嬉しそうな伊助。この祓いは有料で、結構な金が本堂に集まっている。去年のディーク兵死体処理による寺の損失も、これで少しは取り戻せただろうか?
「でもまあ・・・・・・あいつがお前を狙っていたのは、間違いないよな。聖者ってのは、そんなに、あの国にとっては重要な存在なのか?」
「一般の方には、そう教えられていたかも知れませんね・・・・・・。何しろ聖者ってのは、教義の上では、女神ロアの加護を直接受けた存在ですから。でもどうしてラチルさんだけを狙って、私の元には来なかったのか判りませんが・・・・・・」
「そういやあいつ、ラチルを姫様とか言ってたな・・・・・・。誰かと間違えてるのか? 例えばルシアとか・・・・・・」
「それは・・・・・・どうでしょう? 金髪碧眼ですし、確かに似てなくもないですけど・・・・・・」
ルシアとは一年前に、この津軽王国を侵攻しようとした、ディーク王国軍の幹部にて、ディーク心聖王王国の姫君の一人である。
彼女は王国随一の召喚士で、彼女の力によって、大艦隊はこの津軽の近海に転移してきたのだ。だが艦隊は謎の軍艦によって壊滅し、ルシア王女も“真澄”という名の英雄に討ち取られている。
「そうなのかしら? じゃあやっぱり、私がここにいるのは、よしたほうがいいかしら? このままだと村の皆にも、また被害が・・・・・・」
「う~~ん、別に気にしなくていいと思いますけどねぇ? さっきも言ったが、あいつらいずれは何か悪さしただろうし? むしろまだ残っている霊がいることが判って、幸いしたって感じだし?」
伊助のフォローしてくれるが、ラチルの表情は晴れない。この騒ぎを起こしたことに、相当な責任を感じているようだった。
「勝太郎さん・・・・・・私をディークに連れて行ってくれませんか? 少し早いですけど、私はこの寺を少し離れた方がいいと思うんです・・・・・・」
どのみちいずれは、残りの聖者救出のために、ディークに行く予定だった。だが彼女はその時を、早める決断をする。
「ラチルさん、アマテラスに永住したかったんじゃ?」
「勿論いずれはそうするわ。でも今はまだ駄目よ・・・・・・勝太郎さん、お願いできますか? もし勝太郎さんに都合が悪いなら、私の方からこの村から出て・・・・・・」
「ああ、別に俺はいつでも構わないよ。まああっちに行ってディーク兵に見つかって、無駄な騒ぎを起こしちまっても・・・・・・まあ、その時はその時だな。あっ! だったらあいつも連れていくか?」
勝太郎がもう一人、ディークに連れて行く予定だった人物を思い出す。予定が早まり危険が多いが、彼女をこの高原に置いていくわけには行かない。
「あいつって・・・・・・例の借金取りに追われてるっていう?」
「ああ。そういえやあいつ、お前らにも会いたがってたし、今から会いに行くか?」
それからまもなくして、荷造りした勝太郎とラチルとウィリアムは、早速転移で、ジェーンのいる高原へと飛んでいった。




