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第三十六話 河童

「おかえり・・・・・・ていうか遅いわよ!」

「せっかちだな・・・・・・少し話しをしてただけじゃないかよ。子供じゃあるまいし、いちいちと・・・・・・」


 さて転移で帰還した勝太郎。場所はあの商店街の入り口付近。勝太郎が突然消えたり現れたりするのを見ても、もう村人達に驚く様子を見せる者は少なくなった。

 彼は先程、この商店街で食べ物を買い、そして今転移で送り届けたのである。


「しかし・・・・・・結局勝太郎様は、誰をお匿いに?」

「ああ、親の借金に追われた、若い女だ。ジェーンって言う」


 前は思わせぶりに秘密といった割に、あっさりと今白状する勝太郎。まあいちいち秘密にするのも、飽きたのかも知れないが。


「どうやらゼウス大陸の方に逃げたいらしくてな。それで向こうの様子が落ち着くまで、俺が秘密の場所に泊めておいてるんだ。それで今度、また転移でゼウスの様子を見に行くんだが・・・・・・俺一人じゃ、あそこの様子を上手く観察できん。だからお前達も、一緒に来て欲しいんだが、頼めるか?」

「ええ、それぐらいなら構いませんけど・・・・・・」


 どのみちいずれは、ゼウスに一時的に戻る気でいたのだ。断る理由もないが、ラチルもウィリアムも、どこか腑に落ちない様子だ。


「ねえ、勝太郎さん・・・・・・どうしてその女を、ここまで手間をかけて助けて上げるの? 食べ物まで自腹で支払って・・・・・・」

「そんなの、俺の目の自由のために、善行を積むために決まってるだろう? それに前にも言ったが、相手がいい女なら、そういうの関係なくやる気が起きるしな」

「いい女・・・・・・私よりも?」

「ああ、顔触った限りじゃ、そうだったな」


 ラチルが口をへの字に曲げる中、次にウィリアムが問いかけてきた。


「あの勝太郎様・・・・・・そのジェーンという人は、もしかしてゼウス大陸の方の異人なんですか?」

「いんや。確か親の片割れが、異人だって言ってたが、本人はこの国の奴らしいぞ」

「じゃあどうしてゼウス大陸に逃げようとするんです? 普通なら、この大陸の、別の国の国境を越えたがりそうですけど・・・・・・」

「うん? そういやそうだな?」


 ここに来て初めて、ジェーンの動向に不審が投げかけられた。戦乱などがたびたび起こり、色々不安定なゼウスに渡るよりも、天下太平のアマテラスの別国に逃げ込む方が、逃亡が容易で安全なはずである。


「まあ、親が異人だから、親の故郷に行ってみたい気分だったんじゃね?」


 だが勝太郎は、それに特に気にする様子もなかった。


「つかぬ事を聞きますが・・・・・・その人の見た目はどんな感じでした? 体格とか髪の色とか・・・・・・」

「結構背の高い純人の女だったぞ。腰に刀を差してたから、武門の人かもな。髪の色は分かんないよ、俺目隠してるし」

「まあ、そうですよね・・・・・・」






 さてその後一行がどうしたのかというと、割と単調で味気ない時間を送っていた。勝太郎はラチル達を連れて、林の中で特訓を、夕方頃まで続けた。その特訓がどんなものかというと・・・・・・


「おい・・・・・・何かヒラヒラしてるの捕まえたけど、これ蝶だよな? それとも紙切れが飛んでただけか?」

「いいえ蝶でいいわよ」


 藪や枝葉で囲まれ、近くには池もある、多くの命が息づく自然の森。鹿などの大型の動物は見当たらないが、鼠や小鳥以下の小さな動物ならば、すぐに見つかる日本の里山のような美しい場所。

 勝太郎はそこで、生物採集をしていた。反響で物体の形を辿る勝太郎には、空中を浮かぶ極薄の物体が、蝶なのか紙切れなのか、視覚で判別できない。

 こうして生き物を捕まえては、ラチルに見せて、自分の捕まえたものの予測が辺りなのかを確かめていた。こうして、周辺の物体の、細かい形状を読み当てる特訓中である。


 結果今のところ、全問正解である。蟻や枝葉を捕まえては、このようなことを、何度も繰り返し、当然のごとく二人は飽きすぎてつらい様子である。

 だがその次に捕まえた者がきっかけで、その眠そうな顔が、一気に覚めることとなる。


「おい、そっちの水の溜まった場所(=池)で、何かヌメヌメした、臭いのきつい、でかいのを捕まえたけど・・・・・・これは大ガエルでいいよな?」

「えっ!? 何それ!?」

「そうなのかしら・・・・・・? アマテラスのカエルって、こんななの?」


 今まで全問正解だったのに、ここにきて外れが起きた。勝太郎が首根っこを掴んだ、ニホンザルと同じぐらいの大きさの生き物。

 それは体型は猿に似ているが、全身がウナギのようにヌメヌメした表皮で覆われ、卵の腐ったような悪臭を全身に漂わせる。手足の指に水掻きがついていて、カエルに似ていなくてもないそれは、何と河童であった。


 ジタバタと藻掻くその生物を、首を傾げながら見つめるラチル。当然勝太郎が、自分が今UMAを捕まえていることなど、気づけるはずもないが・・・・・・

 ちなみにこの大陸には、こういった変な生き物が、よく見かけられる。もし勝太郎が目隠しを取って、これを見たら、そのファンタジーな様子に喜んだかも知れない。


「とりあえず勝太郎・・・・・・臭いきついから、後ですぐにお風呂に入ってよ・・・・・・」


 河童の粘液の悪臭が、全身に纏わり付いた勝太郎。そろそろ時間も頃合いだったのと、この件もあって、一行は寺に戻ることとなった。






 その、勝太郎は一人で風呂に入っていた。以前ラチルも入った、あの小規模の銭湯レベルの湯船に、勝太郎が全裸で浸かっている。


(やれやれ、ようやく風呂に入ったが・・・・・・確かに臭いきつかったよなこれ。河童ってこんなに臭かったのか?)


 勿論この時にも、勝太郎は目隠しを外しておらず、彼の視界には未だに真っ黒である。ただこの部屋の気温と湿度が異様に高いことと、自分が水温の高い水の中に浸かっている感覚に関しては判る。

 この身体になった直後は、風呂に入るのも手助けが必要だったが、今は一人でも問題なく入浴可能だ。


(うん? 急に風呂場に何かが浮いているのが感じる・・・・・・これは俺の羽か?)


 勝太郎は風呂場の水面に突如現れた、細長い薄い物体を拾い上げて、そう予測する。

 実は勝太郎は、転生した時点から、今まで一度も、自分の姿を見ていない。言うまでもないが、彼の前に鏡などを置いても、彼にはただの壁と変わらない認識しかない。


 一応の今の自分の身体が、以前と違うことは判る。体つきが前より小さくなったことが判るし、足指の感覚が三本分しかなく、しかもその指が異常に大きくなっている。

 頭に何か角のようなものが生えているのも判るし、自分の両腕にフサフサした羽が生えているのも判る。


 だが彼は、その自分の身体の変質を、明確に視認することができない。そのため、こういったものを見ると、何とも不思議で、自分自身が不気味な存在に思えてくる。


(いつになったら、この目隠し取れるんだろうな・・・・・・。早くこの世界見てみたいよ・・・・・・)


 気持ちのよい湯船の中で、そんなことをぼんやりと考えていた時だった。ある意味この時を待っていたと思われる、異変が起きた。


(風呂桶が!?)


 突如浴室に置かれていた、数個の風呂桶が、何者かに持ち上げられた。以前同様に、その持ち上げているものの気配は判らない。

 そのために、勝太郎には、まるでその風呂桶が、中に浮いているように感じられる。勝太郎は即座に、湯船から飛び出す。無数の水飛沫が、雨のように辺りに飛び散っているのが感じられた。


 バシッ! バシッ!


 以前同様に勝太郎目掛けて、勢いよく飛んでくる風呂桶。そして勝太郎は、それらを全て受け止めてみせる。

 目隠ししてのこの芸当、もう達人の領域を越えているのではないだろうか?


「うらぁ!」


 勝太郎はまた以前と同様に、その風呂桶が持ち上がった方向に攻撃を加えるが、今回も結局空振りであった。


(どこにいる!? まだ部屋から出てないよな!?)


 以前と違い、この浴室の扉はきっちり閉めている。例え敵が、どんなに気配を隠すのが上手くても、扉を開ければ、勝太郎にも判るはず。だがその予想を、即座に裏切る事態が起きた。


 カタカタカタ!


「誰だ!?」


 突如浴室の外、更衣室の方から、不審な音が聞こえてきた。その音には聞き覚えがある、刀の鍔が震える音である。

 しかも楽器のように、しつこく何度も振るわれている。浴室の扉はまだ閉まっており、これが敵だとしたら、どうやってここから出たのであろうか?


(俺が使うのと同じ、転移魔法か!? だが逃がさんぞ!)


 勝太郎は即座に、浴室から飛び出し、更衣室に飛び出した。湯船から上がったばかりで、水浸しの身体が、更衣室の床を盛大に塗らす。

 勝太郎がその音が鳴る方向を辿ると、そこにはさっき勝太郎が着替えの際に、自分の刀を立て掛けて置いた場所であった。どうやら以前のラチル同様に、刀を抜いて勝太郎に斬りかかろうとしたようだ。


(馬鹿め! その刀は俺にしか扱えない作りの魔剣なんだよ! そこにいるな!)


 勝太郎は即座に、その刀の周囲に蹴りや拳を突きつけた。以前のように、うっかり外さないために、その刀の周囲を徹底的に攻撃した。だが・・・・・・


(何でだ!? この辺りにいるはずだろ!?)


 だがその攻撃は全部外れた。鞘に収められた刀は今、空中に少し浮き上げっている。敵はまだ、その刀を手に持っているはずであった。

 あれだけ周囲を攻撃を加えれば、敵がどの位置にいようと、必ず当たるはずである。だが何故か1発も当たらない。これはどう考えてもおかしかった。


 カタン!


 そうしている内に、床から数㎝程の距離で持ち上がっていた刀が、床に落ちる。当然その刀を落とした者の気配も、辺りにはない。

 勝太郎が、これはどうしたものかと考えていた頃、風呂場の外の方、寺から慌ただしい音が聞こえてきた。


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