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第三十三話 異世界との関わり

 さてそのころあの三人は、村の商店街を歩いていた。夕方に入り始め、先程勝太郎が来た時よりも、人の数が増えた、和風建築立ち並ぶ商店街。

 各々の商店の建物は小さめだが、どれも二階建てであり、裏側に庭がある様子。行き交う人々も、結構綺麗な身なりで、生活が豊かそうである。

 またそれとは別に、刀・銃・魔道杖を持った、警官の姿もチラホラ見かけた。こちらは別に、いつもこの辺りにいるわけではないようだが・・・・・・。


 そして店のジャンルも、野菜や魚などの必要最低限の物資を売る店だけでなく、飲食店や服屋・装飾店などもある。規模は小さいものの、そこはまるで都の風景のよう。

 日本人がイメージするような、田舎の雰囲気はそこにはない。それだけこの村が、いやこの国全体が豊かと言うことなのであろう。

 最も、この村には名物となるものはなく、三人が見学するような所は、ここぐらいしかないのだが。


「色々売ってるわね・・・・・・でも商品に何て書いてあるか判らないけど」

「そもそも私達、この国のお金持ってませんから、買い物は無理ですよ」


 元々ディークの方でも、一文無しだった二人。この国で何か買えるようにするには、あの寺か、もしくはこの国のどこかで働かなくてはならないのだ。


「ああ、金なら俺が持ってるぞ。カーミラから、かなりの額もらったからな。まだ余裕はある。何か買ってやろうか?」

「えっ? ええと、いいのかしら? でも・・・・・・」

「遠慮はいらんさ。足りなくなったら、また後でカーミラにせびればいいし」

「そうなの? それじゃあ・・・・・・」


 買って貰えると言われても、急に何を買えばいいのか判らないラチル。どうしようかと、各々の方向の店を見たときだった、ラチルはふとあることを口にした。


「そういえばさっきから気になってたんだけど・・・・・・さっきから村の人達、いやに私達の事見てるわね・・・・・・」


 さほど人口の多くない村だが、この商店街は常時、一定の人が集まる場所。そこに言ってみると、村人達が妙に、ラチル達に注目しているのが判る。

 ラチルが自分に視線を向ける者に振り向くと、その人はすぐに目線をこちらから外していた。特に何か言いたいことがあるわけでもないようで、誰も彼女らに話しかけようとはしない。


「まあ、ここは住民殆ど顔見知りの村だからな。そんなところに、見慣れない顔が歩いていたら、そりゃあ目に付くだろう。まあ、俺は村の奴らの顔なんて、一人も知らないけどな」

「いや、多分そういうことじゃないと思いますよ・・・・・・ほらあれ見て下さい」


 ウィリアムが指差す方向には、この商店街の道中にかけられた、大きな立て札方の掲示板。そこには、今日配られた新聞の表紙や、とある人の顔が描かれた張り紙があった。


「見てって、俺には見えないんだけど・・・・・・」

「ああ、そうでした。あれ、さっき聞いた、異人の指名手配犯の顔が張ってあるんですよ」

「ああ、その話しか・・・・・・」


 さっきも伊助から聞いた話しを思い出して、勝太郎は納得する。最もその張り紙の顔に、見覚えがあるかどうかなど判るはずがない。彼はこの世界に来てから、人の顔など一度も見ていないのだから。

 ちなみにこの村は、他所の町や村と、積極的に交流しているため、知らない顔が歩いていること自体は、特に注目するようなことではない。


「そういやさっきから、武器らしき者を持っている奴を、よく見かけるな。あれは賞金稼ぎか何かかな?」

「いえ、皆同じ服を着てるから、多分兵隊か何かだと思いますよ。もしかしてあれが、噂に聞くアマテラスのサムライですか?」

「ううん・・・・・・まあそうなんだろうな。この世界じゃ、侍ってのは、アマテラスの武人の尊称らしいからな。・・・・・・でもこの国の侍は、すごい弱いって話しだけどよ。何でもここは、大陸の端っこの小国だからな・・・・・・」


 最後の方、誰かに聞かれて不愉快に思われないよう、後半の方はかなり小声で喋る勝太郎。あの侍達=警官達は、ラチル達には特に警戒する様子はなかった。


「それで結局何買うのか? さっきも言ったが、別に遠慮する必要はないし」

「それじゃあ・・・・・・あれ」


 ラチルが少々恥ずかしげに俯きながら、ある方向の店を指す。だが勝太郎が、その店が何なのか判らなかった。


「あれって・・・・・・あそこに何があるんだよ?」

「装飾店みたいですね。色々変わった物が、棚に並んでますし」


 さっそくその店の前にやってくる三人。その店には、様々な置物や、扇子・唐傘・お面などが置かれている。何故か和風的でない、ネクタイやサングラスまであった。

 ラチルはそういった物には目もくれず、ある棚の商品に即座に飛びついた。


「これっ、これよ! やっぱりあったわ!」


 ラチルが指差した物。それは棚の中の片隅に置いてあった、鈴が並んでいる場所であった。

 お洒落用と思われる、金や銀などの光沢のある色合いの、各種様々な鈴。切れ込みのある空洞の球体に、音を鳴らすための金属片が入った、和風独特の体鳴楽器である。


「そこに何があるんだ? 何か小さい球っぽいのがあるが・・・・・・」

「これは鈴よ。さっきお寺のほうにもあったでしょ。確かにこういう店にもあるのね」


 そう言って、手に持った鈴を、一つずつ鳴らすラチル。その鈴の音は、各々の大きさや形、その他職人の腕によるものか、それぞれ発せられる音に違いがあった。


「それじゃあこれ! 私とウィリアム君で二人分!」


 大きさや形が異なり、音にもかなりの違いある二種類の鈴を、即座にその中から取り出し、店員に見せるラチル。そうして最初に言われた通りに、それを勝太郎に購入してもらった。






 カラン! カラン!


「これが私ので、こっちがウィリアム君のね。ほらこういう音よ、覚えてね」


 店から出てくると、二つ買った鈴を、ラチルとウィリアムで分け合い、何故か勝太郎にそのような事を言ってくる。これに勝太郎は、当然のごとく、首を捻る。


「ああ、覚えたが・・・・・・いったい何がしたいんだお前?」

「いや・・・・・・昨日あってから、ずっと思ってたんだけど、勝太郎さんが目が見えないのって、すごい大変だなって・・・・・・。だから目が見えなくても、私達がすぐに判る目印があればいいって思って。ほら勝太郎さんが今付けてる手錠みたいに・・・・・・」

「何でそんなこと急に気にするんだよ? そりゃあその鈴を鳴らしてれば、お前がいるかどうかすぐに判るが・・・・・・別にそんなことしなくても、普通に声かければ、すぐに判るぞ? 今までだって、それで不便はなかったろ?」

「いや、でもいつもそうできるとは限らないじゃん! それに・・・・・・勝太郎さんに何か買って貰えるって聞いて・・・・・・最初に思いついたのがこれだったし・・・・・・。勝太郎さんには、いつでもすぐに、私の事を気づいて欲しいと思って・・・・・・」


 そう言いながら、やや恥じらいの表情を見せるラチル。最もそんな表情は、勝太郎には判るはずもないが。


「まあ、お前がそれがいいって言うならいいが・・・・・・じゃあ、そろそろ行くぞ。もう夕方時だし・・・・・・」

「あら? 確か勝太郎さん? またここで会ったね?」


 そこで急に話しに割り込んできたのは、見覚えのない、村人と思われる、買い物袋を持った青年であった。

 それは先程、勝太郎が一人で買い物に行ったときに、道案内を頼んだ村人である。


「ああ、さっきは世話になったな。お前のおかげで、こっちもまた人助けができた」

「人助け? そういやさっき、随分食べ物を買ってたけど、もしかしてそちらの異人の方々に?」


 青年が彼の傍にいるラチル達に目線を向けてそう言う。見知らぬ人物の介入で、二人が呆然としている中、勝太郎は首を横に振った。


「いや、こいつらとは関係ない。あれは別の女にやった」

「女? へえ・・・・・・。じゃあ、色々と元気でな」


 別に用があるらしい青年は、話しを長引かせず、さっさと別れていく。ただし途中で、ラチルに対して、思わせぶりに目線を向けていたが。

 それほど重要な人物でない者との、些細で短い会話。だがその内容は、ある女にとっては、かなり重大なものであったようだ。


「ねえちょっと・・・・・・女って何? さっき言ってた隠し事のこと?」

「えっ? ああ、さっきも言ったが、隠し事だから言えるわけないだろ? まあ・・・・・・何か言える事があるならな・・・・・・悪者に追われるお姫様を匿うってシチュエーション、結構そそられるなぁ~~て感じだな♫」

「そう・・・・・・」


 自分が今していることを、部分的にあっさりばらす勝太郎。明るく冗談ぽく口にする勝太郎。それとは対称的に、ラチルの反応はやけに冷たく、どこか怒りを含んでいるように感じられた。







 それから数時間ほどして、日が大分下がり、世が薄暗くなる時間。初日の村と寺の見学も終えて、三人は夕食となった。

 初日は結構暇な時間を送っていたが、後日はそうはいかないだろう。院主から話しを付けて、明日からはラチル達も、寺の雑務の手伝いをすることになるからだ。

 彼女の望みである、全ての聖者の奪還が果たせば、ラチルはこのアマテラスに定住する気でいる。その時のために、この国で働く術を学ぶべきと、彼女から積極的に頼んだのである。


「「いただきます!」」


 宿坊のあの部屋で、ラチルとウィリアム、そして勝太郎が、寺から与えられた食事をとる。

 本当は寺の者全員が、一緒に食事をとるのが普通だが、客人であり異人のこの二人には、それがあまりに窮屈であるため、こうして勝太郎と三人だけでとっている。

 お膳の上に乗せられた料理は、刻んだキャベツの上にエビチリを乗せた皿・豆腐とワカメの味噌汁・何の動物の者か判らない肉の焼き肉丼。

 そして飲料として、硝子製のコップに入った牛乳であった。結構ボリュームのある夕食である。


「朝にお昼に頂いた食事もそうでしたが・・・・・・鬼神教のお寺のお食事は、肉が多いんですね。ディークでは野菜が中心でしたけど」

「いや、これは別に宗教の違いと言うより、人種の違いだろ? ここにいる奴皆、鰐の獣人だからな。肉食派が多いそうだ」

「ああ、成る程・・・・・・」


 鰐は肉食動物。それを考えると、簡単に納得したウィリアム。

 しかしそうなると、鶏の獣人であるらしい勝太郎は、肉食ばかりで良いのか?と思ったが、本人は特に問題なく、焼き肉丼を平らげている。

 すると今度は、ラチルが勝太郎に問いかける。


「ところでこれ、何の肉なのかしら? 美味しいけど、何か豚とも牛とも違うような?」

「何でも近くの狩り場っていう、生ものの採掘場でとってきた、魔物の肉らしいぜ。どんな魔物かは知らんが」

「狩り場? 何よそれ?」


 普通ならば、動物がいる山林のことを指しそうだが、今の言い方を聞くと、どうもそれとは違う気がした。


「何か無限魔とかいう化け物が、無限に湧いてくる洞窟のことだよ。そこにいる奴らから、化け物の皮とか骨とか肉とかを獲って、この国の資源にしてるそうだ。お前の国にも、確かあるって聞いたけど? 確かそっちじゃ、聖魔の域とか言われてるんだっけ?」

「ああ、あれね・・・・・・」


 これもまた、あっさりと納得するラチル。狩り場=聖魔の域とは、アマテラスだけでなく、ディークの各所にも、大量に出現した、謎の領域である。

 そこは常に、幾種類もの魔物が、徘徊しており、そこに入り込んだ者に襲いかかる。その魔物は、何度殺しても、少し時間が立てば、また新しいものが湧いてくるため、決して減ることはない。

 そのため、その魔物の死体から採れる素材は、ほぼ無限に採取できるのである。


 かつてアマテラスとディークは、両大陸とも深刻な資源不足に悩まされていた。だが突如、各所に出現したその狩り場のおかげで、その重大な問題は、ほぼ解決されている。


「そういえばあれって、確か女神ロアが、人々に与えた恵の地だって、神殿の奴ら言ってたけど、今思えば完全に嘘よね・・・・・・。結局あれは、正体不明の奇怪な領域だし・・・・・・ゼウス大陸の奴ら、そんな得体の知れない者に頼り切ってる訳だけど・・・・・・」


 何かよいことがあると、すぐに自分たちの政治や宗教に、都合の良いように、人々に公表する風潮が、ディークにはあった。

 そしてそれが全て嘘だと判ると、すぐにその神聖な地とされていたものは、一気に得たいが知れないものになるわけだが・・・・・・


「このアマテラスじゃ、その正体は分かりきってるぜ。確かゼウスでも、その話しが流れてきてるらしいが・・・・・・」

「えっ? そうなの? じゃあ狩り場って何?」

「最初は肉の話しをしてたのに、どんどん話しのスケールがでかくなっていくな・・・・・・。まあいいか。その辺のことも、お前らにも説明した方がいいし、ちょうど機会か。あの狩り場ってのは、異世界から来た、ゲーム好きの高位能力者が造ったものらしいぜ。確か春明って言う名前だったな」

「えっ、それって・・・・・・?」


 その名前を聞くのは初めてではない。今日で二回目である。勝太郎が自分の素性を話したときに言っていた、彼に与えられたクローンの肉体の、オリジナルの人物の名前であったはずだ。


「ああ、この肉体の遺伝子提供者よ。そいつが昔自分がした、ゲームに基づいて、この世界を救う代わりに、自分好みのゲームを押しつけて、各地に勝手にその狩り場を作ったんだ。あんな得体の知れない物を、勝手に設置して、結構迷惑そうだが、それで世界が救われたわけだからな・・・・・・」

「異世界の術者が、この世界に来てそんなことを・・・・・・何か変わった人なんですね」

「ていうか異世界人ってことは、もしかして勝太郎さんと同郷だったりするの? そういえば奈々心国って言うのも・・・・・・」


 これまで度々聞いていた、異世界の存在。この世界でも、大昔から実在が信じられていたが、詳しい実体は知られていなかった。

 だがこのアマテラスでは、ほんの数年前から、それは一気に身近な存在になっている。アマテラスの各列強国では、異世界の国=奈々心国と、国交・交易を始めている。

 そこから輸入した異界の品々は、この大陸末端の小国の、津軽王国にも流れてきているのだ。


 流通ルートは異なるが、昼に勝太郎が会った子供らのように、異世界から来た電子ゲームで遊ぶ子も多い。

 そうなるとこの世界に関わる異世界の存在が、全て一つに纏まりそうであるが、勝太郎はラチルの問いに、首を横に振った。


「いや・・・・・・その春明って奴は、俺と同じ日本っていう名前の国から来たらしいが、それは俺が産まれた日本とは違う世界の国だ。並行世界って奴よ。どうも同じような国がある、似たような世界は、他に幾つもあるらしい。ちなみに今この大陸が仲良くしてる奈々心国も、日本と関わりの深い国でな。俺はそっちの方の日本の生まれだ・・・・・・。確かカーミラも同郷だったはずだが」


 どうやら彼の産まれた日本は、今のアマテラス大陸と、かなり近い位置にいるようだ。だからこそ、彼がここに派遣されたのかも知れないが。その話を聞いたとき、ラチルは何かを深く考え込んでいた。


「ねえ、勝太郎さん・・・・・・もしカーミラから依頼された実験が無事に終わったら、あなたは元の国に帰るの? やっぱりアマテラスより、日本の方が良いところだったり?」


 不安げに聞くラチル。実際の所、何か特別な力の持ち主でなくても、旅費と入国許可が手に入れられれば、誰だって勝太郎の故国に渡ることができるのである。


「いや・・・・・・実験が終わった後の事なんて、全く考えてなかったが。でも国に帰るのだけは、絶対にしないぜ。あそこの俺の世間体、最悪だからな・・・・・・。ていうかお前、もしかして異世界に行きたいのか? だったら俺がカーミラに頼んで・・・・・・」

「違うわよ! ちょっと興味があって聞いただけよ。まあ勝太郎さんが帰る気なら、もしかしたらそうなったかも知れないけど・・・・・」


 そう否定して、すぐに話しを終わらせるラチル。その口調は、どこか嬉しそうでもあった。



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