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第三十二話 和型警察

 それから数時間ほどして、学校の時間が終わった頃のことである。

 子供達の和気藹々とした声の波が、学校から本堂へ、そして門の方を通り抜けた後の事。学校の仕事に入っていた僧達が、本堂の方に戻ってくる。

 それより少し前に、法事に出かけていた僧も帰宅しており、本堂は、十人ばかりの僧達で、少しだけ賑やかになっていた。


「伊助、勝太郎様達の姿が、お見えになりませんが、どこに行ったか判りませんか? ラチルさん達は、まだ宿坊でお休みで?」


 一旦帰宅した後で、勤行を始めようとした水奈子。その時、他の僧達と一緒に読経をするために、鬼神像の前に座る伊助に問いかける。どうやら墓地での仕事は終わったようである。


「ああ、あのお三方なら、さっき村の方に行きましたぜぇ。村を見て回りたいそうで・・・・・・」

「そうですか。でももう夕方近いですし、早めに帰ってもらわないと・・・・・・」


 カランカラン!


 そんな時に、本堂の前に置かれている呼び鈴が鳴った。振り向くと、こちらから見える、本堂の硝子扉の向こうに、誰かが立っているのが見える。どうやらラチル達に続く、二番目のお客のようであった。


「お客様ですかね? ちょっと出てきますわ・・・・・・えっ?」


 伊助が扉に向かい、その人物を近くで見ると、彼は少し驚いたようであった。


「院主様~何か警察の方々が来てますぜぇ」


 伊助が扉を開け、その来訪者達を本堂内に連れてくる。その者達は、全部六人ほどいた。

 彼らはアイヌのような、白黒の鉢巻きを頭に巻いている。そして赤い襟の白い着物の上に、新撰組のような白い羽織をまとい、脚には黒い軽衫が履かれている。白黒の色合いで、実に目立つ着物である。

 そして彼らの内三人の腰には、刀が差されていた。また刀の他に、右腰に拳銃らしきものを差しているものまでいる。


 また残りの三人は、腰に刀は差してあるが、それは前述した者達より短い、脇差しのようであった。またもう片方側の腰には、拳銃は差されていない。

 そしてそれとは別に、手に長い得物を持っている。それは槍ではなく、杖であった。

 ファンタジーの魔法使いが持つような魔道杖。それに若干和風の装飾が施された感じのものだ。もしかしたら、この者達は魔道士なのだろうか?


 この武器を持った制服らしき着物を来た者達は何者かというと、この津軽王国の警察である。

 ただ彼らの少し張り詰めた様子は、ただ挨拶回りで、寺に来た様子ではないようだ。


「突然の来訪失礼します。こちらの院主様に、お目通りに願いたいが、そちらの方ですか?」


 彼らの先頭に立つのは、六十を超えていそうな、初老の女性警官であった。こちらは魔道士組のようで、他の者が持っているのよりも、若干外観が異なる魔道杖を持っている。

 その女性警官は、本堂内の座敷で、こちらを見ていた水奈子に目を向けて、そう口にする。一方の問われた水奈子も、この女性警官の姿を見て、芸能人にでも会ったかのように驚いていた。


「これは日和姫! 私が院主の水奈子です。しかし姫様が、このようなところに何故?」

「姫と言わなくていいわよ。私の立場は、警察の警視正。そのように言われると、少々背中が痒いのでね・・・・・・」


 老人でありながら、何故か姫と呼ばれた、その女性警官=日和。彼女は、挨拶もそこそこに、水奈子に向けてこの寺に来た要件を伝えてくる。


「すまないがこちらも急ぎの仕事でね。早急に聞き出したいことがある。ついさっきこの寺に、異人を二人引き取ったと聞くが、それは本当かい?」

「えっ? ええ、確かに・・・・・・」


 二人の異人。それは恐らく、ラチルとウィリアムのことであろう。この村では、異人の姿を見るのは珍しい。いや一年前と十年前に、無数の異人の死体が転がってきたが、生きている異人の姿は、殆ど見られない。

 だが国全体の平均から見れば、この津軽王国は海の向こうの異国と交易を結んでいるため、各所に異人の姿を多く見かける。そのため、異人を寺で預かったからといって、別にそんな騒ぐことでもないはず。

 だが何故それで、警察が訪ねてくるのか? 何か問題でも起こったのかと、水奈子も含め、その場にいる総全員が、不安な気持ちにかられていた。


「確かに今朝方、こちらに異人の方々を、引き取りましたが・・・・・・何かあったのでしょうか?」

「いや、それ自体は大したじゃないんだよ。ただ確認したいことがあってね・・・・・・。今朝方この辺りに、異人の指名手配犯が逃げ込んだという旨は届いただろう?」


 それは先程、伊助が勝太郎に伝えたことである。現在警察隊が、この近隣の山林で、その犯人を捜し回っているはずだ。

 人相書きが書かれた手配書も、村中に行き届いているはず。この話に全員が頷いた。


「この辺りで、異人を見かけるのは滅多にないらしいからね。そいつらが、手配犯と別人かどうかを、こちらから確かめたくね・・・・・・犯人は性別不詳の、背の高い赤髪の若者だ。そいつは違うかい?」

「性別不詳? さっき見た手配書じゃ、赤髪の男って書いてありましたぜぇ?」


 これに伊助が、疑問の声を上げた。さっき彼は、勝太郎に掲示板や手配書に書かれていた特徴を、勝太郎にそのまま伝えている。だがその時は、手配犯は男性であると明言されていたはずだった。


「いや、こっちも色々と、不手際があってね。あの人相書きでも判るだろうが、そいつは髪が短い上に、顔つきが女にも男にも見える感じだったからね・・・・・・。そいつとやりあった警官が、その時聞いたそいつが口調が、男みたいな感じだったから、本部に男と報告したそうよ。でも後になってから、そいつがね、今思い直せば、声色からして、あれは女だったかも知れないと言い出してね・・・・・・。こちらも後から、手配書に修正を入れる予定よ」


 どうやら警察の方で、手配犯の特徴の記述に、修正があったようである。つまり現在判っているのは、今日和が口にしたように、背の高い若い性別不詳の異人であるということである。


「それで聞くが、その二人の異人は今どこにいる?」

「いえ・・・・・・先程村の方に観光に行かれましたわ。しばらく待てば、戻ってくるとは思いますが・・・・・・」

「いやいい・・・・・・じゃああなたの口から、その二人の特徴を聞かせてもらいませんかね?」

「ええまあいいですが・・・・・・その方々は、異国のガルム王国の出でして。ラチル・パイパーさんとウィリアム・ギャレットさんと言います。ラチルさんは18歳の金髪の女性でして、ウィリアムさんは13歳の銀髪の少年です。どちらも髪は短く揃えていまして。ラチルさんの方は、背丈は年頃の女性としては、普通な方ではないかと。お二人は以前、異国の神殿で働いていたそうで、今でも神官服をお召しになっていますが。どちらも、今日和様が言われていたのとは、全く違う見た目でございますよ・・・・・・」


 ディークの名前を出すと厄介なので、ここは津軽の交易国の名前出して、彼女達の素性を一部誤魔化して伝える水奈子。ただ彼女たちが必要としている、二人の外観の特徴は、偽りなく伝えている。


「そうか違うのか・・・・・・急な来訪失礼した。では私にこれにて・・・・・・」

「えっ? もういいのですか!?」


 おおよその特徴を伝えたら、もう用はないとばかりに、さっさと本堂から出ようとする日和。これには水奈子ら僧達だけでなく、共の警官達も少し驚いている。

 異人の指名手配犯がこの付近に逃げ込んだ直前に、見知らぬ異人が突然寺に上がり込んだ。普通に考えれば、どう考えたって怪しいし、これは詳しく調べる必要がありそうだが・・・・・・


「さっきも言ったが、私は忙しくてね・・・・・・できるだけ早く署に戻りたいのよ。まあ村の方にも、私の部下達が、警備に回っているので、後からその者達にも聞けばいいでしょう。だからそれでいい・・・・・・」

「いいわけないでしょうが! 犯人は他にもう一人いたって話しでしょうが! それに日和様が忙しくなされてるのは、ただ宿に戻ってテレビゲームとやらをやりたいだけでしょうが!」


 本人はそれでOKだが、部下の方は駄目だったようだ。共の警官の一人が、怒りと共に、上司にそう叫ぶ。


「署内で奈々心国の娯楽に浸っているだけでも大問題だというのに・・・・・・仕事にまで手を抜くとは何事ですか! 仮にもあなたは・・・・・・」

「ちょっとちょっと・・・・・・神聖な寺で、そんな叫んじゃ駄目よ。それに私は署で遊んでいるわけじゃないわよ。異世界の文化を研究しているだけで・・・・・・」

「あれのどこが研究ですか!? どう考えたって、遊んでるだけですよ! しかもあなただけでなく、部下達まで大勢巻き込んで! おかげで署で、仕事をさぼる奴が、一気に増えたんですよ! 王政府に叱責にされる前に、すぐにどうにかしないと・・・・・・。すぐに村の方に行って、その二人を探して、話しを聞き出しましょう! そんな大きくない村ですから、異人がいれば目立つし、すぐに見つかるはずです!」

「だから叫ばない・・・・・・すみません院主様。こちらがご迷惑をおかけして・・・・・・」


 部下に説教されて、水奈子に頭を下げる日和。どうも彼女は、さほど生真面目な警官では無ないようである。


「いえいえ・・・・・・別に気にしてませんから。・・・・・・ただそちらが気にすることは、何もありませんよ。あまり疑いをかけられると、あの方にも不都合ですから、ここで言ってしまいますが・・・・・・あのお二人は、鬼神様と、奈々心国のカーミラ様からご依頼の関わりで、こちらにお泊まりさせることになったのです。ですから、去年のディーク侵攻の件とは、関わりはないかと・・・・・・」

「鬼神様とカーミラが!? 何故!?」


 この国の国教の崇拝対象である鬼神だけでなく、カーミラという名前にも驚く日和。それは彼女を叱責していた部下も同様であった。


「あの方の魔道研究の一環だそうで。その研究の被験者である、異世界人の方が、向こうの国で行き場がなくなった方を、今朝転移でお連れしたのですよ。昨日までゼウスの方にいた方なので、去年から国内を逃げ回っている方とは無関係かと・・・・・・」

「ああ、成る程・・・・・・あの研究、ここでやってたのね。じゃあそいつらはシロね。あなたもそれでいいよわよね?」

「えっ、ええ・・・・・・下手に追及すると、カーミラの研究を邪魔したと、奈々心国からあれこれ言われかねませんからね。仕方ありませんか・・・・・・」


 どうやら例のカーミラの研究の話しは、警察の方にも伝わっていたらしい。その話しであっさりと納得した。そして日和ら警官達は、そこで再度水奈子に頭を下げる。


「では私らは、これで失礼します。ですがお気をつけて下さいよ・・・・・・。カーミラと関わっているというなら、こちらも公表してない情報を言いますが・・・・・・どうもその赤髪の手配犯に、手助けしてしたものがいるらしいわ。まだ憶測で、確証はないけれど・・・・・・」

「手助け? 何故そのようなことが?」

「実はその犯人・・・・・・今朝方私の召喚獣で追跡していてね、あと一歩で捕まえられそうなところまで言ったみたいなの。でもそれが急に怪我をして、こっちに戻ってきたのよ。その時の傷は、剣で斬られた傷じゃなくて、何か鈍器で叩かれたような傷跡があったわ。そもそもあの手配犯に、私の召喚獣を倒せる程の力なんてなかったはずだし・・・・・・。それで共犯者の存在が、疑われ始めているのよ」


 どうやらこの日和という魔道士警官は、召喚士であったらしい。召喚獣とある程度、意思を通わせられる彼女が、その召喚獣から得た情報から、そのような話しになっていたらしい。

 これに水奈子達は、少し考え込むが、それはどちらかというと、日和に対する疑惑の考えであった。


「あんたの召喚獣を見て、誰かが魔物が人を襲ってると、勘違いして助けたんじゃないですかぁ? 前に新聞で、そんな話しがあったし。確か“黒犬”って、言いましたっけ? 新聞の写真で見たけど、あれは誰だって勘違いしまいすわな・・・・・・」


 真っ先に口を開いたのは伊助であった。直球で警察の不手際を疑う発言を、日和に投げかけており、それに他の僧達が、苦々しい顔を見せていた。


「それはないわ! 前の失敗の反省から、私の黒犬には、津軽警察の紋章を、目立つように付けているわ! あれを見れば、誰だって一目で、黒犬が警察の者だと判るはずよ! だからもう、前のような失敗はあり得ない!」


 茶化すような伊助の発言に、日和はかなり真剣に、そして確信的にそう告げる。以前したらしいという失敗が、相当気にかかっているのだろうか?


「では改めて、私らはこれにて失礼しますね。今私の部下達が、先程も言いましたが、くれぐれも気をつけて下さいね・・・・・・」

「ええ、お話ししてくださり、ありがとうございました。ではお勤め頑張って下さいね」


 そうして日和達警察は、その場から立ち去っていく。彼女らも、しばらくこの辺りで、犯人捜索に協力するはずだ。

 まあ先程の発言を聞くと、どうやら村でとった宿に、テレビゲームを持ち込んでいるようだが・・・・・・

 そして警察が去り、僧達が元の読経に戻ろうとしたときだった。伊助がある事を思い出した。


(あっ、そういえば勝太郎様、まだ俺が言った犯人が男だって話しを信じたままだったな・・・・・・。まあ後から手配書に修正が入るっていうし、それ見りゃ判るだろうし・・・・・・。わざわざ伝え直す必要もないか)


 この時伊助は、勝太郎が目が見えないことを、すっかり忘れていた。



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