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第二十九話 異国の品

 少しして勝太郎は寺に戻った。ジェーンは己の事情故に、人前に出たくないと言ったため、あの林に置いてきたままである。


(寺に泊まれって、何度言っても、妙に断るからな。俺、まだ信頼されてない? それとも寺に悪い思い入れが? まあ、これからじっくり話しをして、信頼関係を築けばいいか。折角この世界で会えた、二人目の女だし・・・・・・)


 意外と下心の大きい勝太郎が、そんなことを考えながら、寺の境内を進む。今は寺の学校がまだ行われている時間。

 この寺に勤める僧の半数以上が、その学校の教員として働いている。そのためこの時間は、寺も人の数が少ないものだ。


(そういやラチル達は、まだ寝てるかな? ちょっと見てくるか・・・・・・)


 勝太郎が宿坊の方へと進んでいったときに、本堂の方にいたらしい人の気配が、こちらに駆け寄ってくる。恐らくこの寺の僧の一人であろう。


「あらあら~? 勝太郎さん。帰ってこられたんですか? まったくどこ行ってたんですかい? こんな時に・・・・・・」

「うん? まあ、そうだが・・・・・・何かあったのか?」


 まるで今まで自分を探していたような様子の僧に、勝太郎は不思議に思いながら問う。どうやらそれは当たりだったようである。


「へえ、警察の方から、速報でお達しがありましてね、村中に話しが伝わっていますぜ。チラシも配られてますが、勝太郎様はご覧になられないでしょうから、急いで伝えないと思いましたが、余計でしたかねぇ?」

「いや教えてくれるとありがたい。そうか。すまんな探させて」


 言うまでもないが、勝太郎は新聞も掲示板も見れない。そしてテレビもラジオもないこの世界では、世間の情報を得るには、人から話を聞くしかないのだ。

 この僧は、それを判って、勝太郎に話しをしに来たようである。


「それで何があったんだ?」

「ええ、実はこの辺りに、指名手配犯が逃げ込んだらしくてねえ、今村中で警戒態勢がとられてるんですよ。今王都の方からも、応援の警察隊が駆けつけてるとかなんとか・・・・・・」

「指名手配犯だと? どんな奴だ?」

「どうも去年この国に攻め込んできた、ディーク兵の残党らしいんですぜぇ。あの事件の後、海岸の打ち上げられた後、警察隊に囲まれる前に脱出して、今日まで逃げ回っている者がいたようで・・・・・・。目撃証言に寄れば、剣を持った赤髪の若い男とか・・・・・・。確かそいつを追った警官が、何人も大けがを負わされてるそうで、相当危ない奴みたいですわぁ」

「そうか・・・・・・」


 この言葉で少しホッとした勝太郎。この辺りでコソコソしてる奴で、ついさっき会ったばかりの者がいるのだ。

 だが男性であるという話しで、それは違うと判って、ホッとしたのだ。髪の色までは判りようがないが、あのジェーンという人物は、声色や、反響定位で感知した大体の体つきからすれば、間違いなく女性であるのだ。何故か一人称は男っぽかったが。

 ちなみにこの僧、緊急事態を報告してくれたという割には、全く緊張感のない、えらく落ち着いた口調であった。この事態をあまり大事と思っていないのだろうか?


「そうかありがとう伝えてくれて。でも俺なら大丈夫だ。俺に与えられた肉体は、滅茶苦茶強いからな。たかがディーク兵の一人、会ったら即捕まえてやるよ」


 事実、勝太郎はディーク本土で、大勢のディーク兵を素手で撃退している。たかが一人の逃走犯になど、恐れる理由もない。


「そうなのですかぁ? まあ勝太郎様がそう言うなら、言われた通りに心配しませんぜ。そんじゃこれで・・・・・・」

「ああわざわざ教えにて来てくれて、ありがとうな・・・・・・」


 勝太郎の力のレベルを知らないようだが、本人の言葉にあっさりと納得して、その僧は去って行く。そして勝太郎も、目的の場所へ、再び歩みを始めた。






 勝太郎は迷うことなく、その宿坊のラチル達が寝ている部屋に辿り着いた。

 この寺の構造は大体覚えているため、特に迷うようなこともない。だが辿り着いた所で、また勝太郎は、やることをなくしてしまった。


(時差ボケのせいか? ぐっすり寝てやがるな・・・・・・)


 部屋の中の、おそらく布団の中にいると思われる二人分の呼吸音。ラチルとウィリアムの物と思われるそれは、現在熟睡中だ。

 特に理由なく様子を見に来たが、これをこちらの勝手で起こすことはできないだろう。


(さて、これから何をするか? ただだらけてるのも癪だし、寺の仕事でも・・・・・・でもやり方が判らないな)


 視覚なしで戦う方法はほぼ覚えたが、視覚なしで掃除・洗濯する技能は、まだ身につけていない。今のままでは、勝太郎は戦い以外では、ほぼ役立たずであろう。


(しょうがない・・・・・・俺も少し寝るか)






 それから一時間ほどして、勝太郎は昼寝から目を覚ます。目の前には、変わらず寝息を立てている。現状は何も変わっていない様子。


(こんなことしても無駄だな・・・・・・やっぱり仕事の仕方を、寺の奴から教えて貰おう)


 そう決意をして、勝太郎は宿坊から出る。現在彼の周りには、人の気配はない。現在暇している僧はいないのだろうか?

 この状況に、勝太郎はますます孤立感を覚える。とりあえず人を探しに、彼は耳を澄まして、周りの音を聞き入ると・・・・・・


(これは・・・・・・音楽? 学校の方で音楽の授業を・・・・・・て感じでもないな)


 彼の耳に、特定のリズムで発せられる音が聞こえてきた。これに勝太郎は、大きく関心を引く。

 無視覚の者ができる娯楽というと、一番に音楽が上げられる。だがこの村に楽団はいないし、この世界にはラジオや蓄音機といった道具はない。この世界は日本と違って、音楽というものを、いつでも好きなときには楽しめないのだ。

 だが今の彼の耳には、まるでレコーダーから発せられたような、綺麗な音が聞こえてくるのだ。勝太郎はその音を追って歩き出す。





「あれ? 勝太郎様?」

「どうしたんです? もしかして勝太郎様も学校に?」


 勝太郎が行き着いた先には、寺が運営している小学校がある場所であった。恐らくは校舎と思われる大型の建物の存在が、近くに感じられる。

 そしてその校舎のすぐ隣には、校庭と思われる何も生えていない広間があった。彼にはこの世界の学校風景を見ることはできないが、恐らく日本の学校と、似たような感じなのだろう。


 その校舎近くにある林の中で、先程聞いた音楽が流れていた。そこには数人の、生徒と思われる小柄な人間が、輪を作って集まっていた。その音は、数人の子供らの手元から聞こえてくるようだった。

 また通学時間なのに外にいると言うことは、今は休み時間なのだろうか?


 ちなみにその音楽は、先程から頻繁に変わっていた。最初は、ホラー映画のような、不気味さをアピールする感じの音楽だった。だが今は、テンポの良い明るさと快活さを感じさせる音楽になっている。


「なあ、この音楽は何だ? お前らが鳴らしてるのか?」


 子供がやっているにしては、随分よくできた音楽。だが外にいる子供らは、音楽の練習をしているようには見えなかった。


「ええ、違うよ。この音はこの“ゲーム機”てのから流れてるんだ。ほらこんな感じ」

「ゲーム機?」


 その子供は、手に持った長方形の板状の何かを、勝太郎に向けるが、当然彼にはその具体的な外観を見ることはできない。


「ああ、そっか・・・・・・勝太郎様は見えないんだっけ。これって異世界の“奈々心国”って国から、こっちに来た異世界の玩具なんだって。これって凄いよ。この変な板に窓みたいなのがついてて、そこに魔法の鏡みたいに色々映ってて、そこに映ってる人を操って、戦ったりして遊ぶんだよ!」

「うん、凄いよねこれ・・・・・・私最初、この板の中に人が入ってると思ったし・・・・・・」

「しかもこれ、色々映ってて、人を動かしたりするだけじゃないよ! 勝手に音が流れてきたりするんだよ。途中でこの機械の中の人が、喋ってる声が出てきたりするし!」

「やっぱ異世界って凄いよね・・・・・・。何日か前にカーミラさんが買ってくれたんだけど、異世界の子供は、こんなのでいつも遊んでるんだって!」


 何やら興奮気味に説明する子供達。どうやらこの子供らは、そのゲーム機という異世界の道具に、すっかり熱中しているようだ。そして勝太郎は、その不思議な機械の正体を、ある程度察した。


(成る程電子ゲーム機か・・・・・・。アマテラスの列強国が異世界と交易してるって話しは聞いたが。俺が思った以上に、高度な文明国家だったみたいだな。しかしカーミラの奴、随分ここのガキ共を可愛がってるな)


 度々この寺に出入りしている、あの異界の魔道士のことを思い出して、勝太郎は軽くため息をついた。そこでふと、あることに気づく。


「お前さっき、買ってもらったって言ったな? 最初からカーミラが持ってきたんじゃなくて。もしかしてこういうのって、ここらで売ってるのか?」

「うん。前に弘後っていう町に連れて行って貰ったときに、そこで勝手もらったの。あの町も凄い面白いよ。異世界の不思議な道具とか乗り物とかあって、勝太郎様も一度見に・・・・・・ああ、ごめんなさい」

「気にするなよ。俺も少し興味がある。今から行ってみるわ」


 異世界の道具が沢山売られているという弘後町。その町に勝太郎はあることを思いついていた。






 さて場所は戻って、数時間前にジェーンと会った森の中。彼女はまだそこにいた。

 勝太郎にはその表情を窺い知ることはできないが、彼と同様にやることがなく、呆けているのかも知れない。


「何だまた来たのか? 今度は昼飯か?」

「それも持ってきたが、本題はこれだ」


 勝太郎は先程、遠出をして買ってきた品物を、ジェーンに差し出した。それは平たい袋に包まれた、金属の棒と布地が中に入っているらしい何か。それをジェーンに渡した。


「これは何だ? 成るほどテントか・・・・・・」

「ああ、これがあれば、ここで隠れて暮らすのも楽になるだろ? 俺には判らないが、それにちゃんと使い方が書いてある紙が入ってる筈だが・・・・・・」

「ああ、テントなら判るさ。軍事訓練の時に・・・・・・いや! ともかく説明はいらん!しかし変わった布地だな? 触った感触も何か・・・・・・これは何でできてるんだ?」

「さあ? 何でもこれは、異世界で造られたやつで、この世界の普通の天幕よりも遥かに丈夫で温度調整も利くだそうだ。お前がこんな林の中で、ずっと雨風に晒されて野宿なんて、かなり酷いと思うから、こっちも無理して買いに行ったんだぜ。慣れない町に入って右往左往して、恥を忍んで人に道を聞きまくって・・・・・・」

「少し黙れ。今説明書を読んでいるところだ」


 勝太郎がまるで武勇談のように、これを買った経緯を話しているのを、邪険に扱うようにあしらうジェーン。

 それからしばらく、彼女は無言で立ち続けている。どうやら説明書を、つぶさに読んでいるらしい。


「まあ、使用方法は大体判った。この辺りに敷いてみるから、お前一旦どけ・・・・・・」

「いや、待て! ここはやめた方がいい!」


 早速この場でテントを張ろうとするジェーンを、勝太郎は慌てて制止する。さっきまですかり忘れていたが、勝太郎は彼女に対して、話しておくことがあったのだ。


「実はこの辺りに、警察に追われている指名手配犯が逃げ込んでいるらしくてな。もしそいつがこの辺りの林に逃げ込んだら厄介だ。下手すりゃお前、借金取りより怖い奴らに襲われるぜ。俺が転移で、もっと見つかりにくい所に運んでやるよ。まあ、こことあまり変わらない林の中になるけど・・・・・・」

「指名手配犯? それはどんな奴だ? 逃げることを勧めるあたり、ただのこそ泥じゃないよな?」

「ディークの残党兵だよ。赤い髪の若い男で、剣を持っているらしい。どうもかなり物騒な奴だな」

「そうか・・・・・・」


 犯罪者にこの辺りにいるかもしれないという事実に、ジェーンは特に怖がっている様子は見えない。むしろ安堵しているように見える。


「(何だ? ジェーン今、少し笑ったような?)・・・・・・とにかく行くぞ。お前の事は他の奴から黙っておくから、少しの間隠れてろ。じゃあ行くぞ・・・・・・」

「ああ、それはありがたいが・・・・・・お前、どうしてここまでしてくれる?」

「うん?」


 勝太郎が首を傾げたそれは、恐らく誰もが疑問に思うところだろう。勝太郎は彼女のために、朝と昼とで食糧を与えただけではない。

 大枚をはたいて、彼女に寝床を与えた上に、人目のつかないところに送って、匿おうとしているのである。

 いくら可哀想な身の上の女子とは言え、これは尽くしすぎではないだろうか? 最もそれは、今寺で寝ている、ラチルに対して行ったことも、同じ事であるが。


「まあ、そうだな・・・・・・俺はちょっと訳ありでな。何でもいいから、沢山善行をしなきゃいけないんだよ・・・・・・。今回のことなんか、軍に喧嘩売るより、よっぽど判りやすい善行だしな。・・・・・・それにいい女と、秘密の場所で会いにいくとかって、何かそそられる展開だしな♫」

「そうか・・・・・・どんな訳ありなのか、全く想像付かないが、何か企んでるわけでもなさそうだな。まあ、お前がそう言うなら、頼らせてもらおう」


 若干下心があるとは言え、素直に人助けのために、ジェーンに手を貸す勝太郎。

 そんな彼にジェーンは、感謝の感情など全く感じられない、まるでそうするのが当然のような口調で答えを返している。

 そして勝太郎は、彼女の手を取り、ここと少し離れた所にある林へと、転移魔法で飛んでいった。


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