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第二十六話 春明

「ああ、そうだな・・・・・・ところで一つ聞くが・・・・・・。俺この世界に来てからしばらく経つが、本とか新聞とか読めないし、うっかり聞くのを忘れてたこともあって、まだ分からないことが多くてな。実はこの世界って、異世界のことって、結構知られてるのか?」

「異世界を? ええそうですわ。異世界とは関わることはあまりありませんが、その実在はかなり昔から信じられてました。つい最近、この大陸の各々の列強国で、異世界と交易を始めたらしいという話しが、新聞にも載ってましたし」


 勝太郎の問い返しに、水奈子があっさりと答える。その答えの内容には、以前ラチルが言っていた話しもあった。

 もしこの世界の文字が読めたなら、勝太郎も新聞や書物で、この世界の事を自力で調べることができたであろう。だが生憎、目隠ししている彼には、それはできないことであった。


「そうか・・・・・・別にこの寺が、特別な訳じゃなかったんだな。だったらもう別に勿体ぶることもないし。実は俺はこの世界の人間じゃない。別の世界から来た異世界人だ」

「そうだったんだ・・・・・・」


 今明かされる勝太郎の驚愕の正体! ・・・・・・だがその言葉に、驚く者は一人もいなかった。恐らく読者の皆様方もそうであろうが。

 前にラチルと話したとき違って、勝太郎は実にあっさりと淡々と、自分の身元を話し始める。


「実は俺は、ある魔道士との契約で、ある人体実験に協力してんだ。それが今の俺のこの肉体だ。この身体は、“春明”ていうある上位能力者のクローンでな。そのクローンの肉体に、非能力者の魂を入れて、そいつ上位能力者に生まれ変わらせる研究だよ。その研究が行けば、元がどんな人間でも、このクローンに肉体に移し替えることで、誰でも簡単に強大な能力者に生まれ変わることができる。それがあの魔道士・・・・・・カーミラという女が、今行ってる研究だよ」

「クローン・・・・・・確か、人工的に造った、人間の複製品・・・・・・そんな! そんな命を弄ぶような研究を!? それは神を冒と・・・・・・いや別に良かったのかしら? もう神なんて知ったこっちゃないし」


 命を弄ぶ=神を愚弄する行為、という比喩は、無信仰者ならば、判りやすく伝わるものだたのかもしれない。

 だがつい最近信仰を捨てた者にとっては、クローン精製が、論理的に良い行動なのかどうか、判断が付かない様子。


「そんでもって俺は、そのカーミラって女に、この身体での活動実験をさせるって言われてな。この大陸に放り込まれたんだ。勿論無宿無一文じゃないぞ。事前に寝泊まりしてくれる場所を用意してくれたしな」

「ええ・・・・・・急に異国の魔道士の方が、こちらにいらして、そんな突拍子のない頼みをしてきたときは、私も大層驚きましたわ。でもどうやらそれ、鬼神様からも推奨されていることのようなので、私も是非にと思って、そのお頼みを受け入れたのですよ」

「鬼神様? 水奈子様は、鬼神と直接会話をしたんですか? この国の神官は、皆そのようなことを?」


 ラチルが一番に興味を持ったのはそこだった。女神ロアを架空の神と断じた彼女に、それとは別に、自分は神と対話したことがあると、言い出す者が現れたのである。


「皆が皆という訳ではありませんよ。でも時々いらっしゃるのですよ。夢の中の冥界との通信で、鬼神様と親しくされる僧が。私の場合は、“小次郎”という女性の鬼神様と、よく話しをされてますね。つい1年ほど前は、随分長く、現界を旅されていたとか・・・・・・」

「夢の中で・・・・・・それは神を語った悪霊という可能性はないのですか? もしくは、幻術を使って、誰かがあなたを騙そうとしたとか?」


 ラチルが心配してそう言う。幻術で、女神ロアと対面する夢を見させて、人を自在に操る。ディークではよく行われた、インチキである。


「う~~~ん、それはないんじゃないでしょうか? 神様と話すと言っても、そんな大したことじゃないし。最近現界の流行はどんなものだとか。村の中で誰かが結婚したとか。そんな世間話みたいな感じのことばかりでしたし・・・・・・」

「世間話? 神様が? 神託とか、何かを要求するんじゃないんですか?」

「ええ、この大陸では、神様は私達にとって、とても身近な存在ですから。鬼神様は冥界に沢山いらして、皆とても個性的ですわよ。話してみると、私達人間と、あまり変わらない感じですし」

「人間と変わらない? 神様なのに?」


 一口に神様と言っても、所属する宗派や、神の種類によって、人々の関わり方は違う。

 ロア教は、女神ロアを世の絶対定理とした、威光と権威を重要視する物であった。だが鬼神教の神は、あまり威光というものにこだわらず、かなり人間の近くに寄り添って存在するものようだ。


「まあ、話しを元に戻してだ・・・・・・そういうわけで俺は、この寺を一応の拠点にして、今世の中で一番荒れている、ディークに、その実験とやらのために適当に入り込んだわけだ。後はまあ、お前も知っての通り、決まった目的もないまま、たまたまお前と出会って、そうして流れに任せて、聖者救出に協力することになったわけだ」


 散々勿体ぶった割に、実にあっさりと勝太郎の詳細が判明した。否、まだ一つ、判っていない詳細があった。


「勝太郎様はどうして、いつも目隠しを? そのクローンの肉体は、目に欠陥があったのですか?」


 それはずっと、ラチル達が気になっていたこと。何故勝太郎は、ずっと目隠しをしているのか?

 普通に考えれば、目元に傷や痕があるからと思うが、さっきまでの話しを聞くと、どうもそれとは違うようである。


「いや・・・・・・別にそいうわけじゃないな。俺が貰った肉体は、視覚もちゃんとある健常体だった。少し色々あってな・・・・・・俺は罪を償い終えるまで、この異世界の風景を、絶対に見ちゃいけないんだな」

「罪を償う・・・・・・そういや時々、そんな事言ってたわね」


 それは彼が、これまで度々口にしていたこと。それに関する疑問もあったことに、ラチルは今思い出した。


「肉体を移し替えた後にな・・・・・・冥界の鬼神の一人から、俺が過去にやらかした、ある罪を指摘されたんだよ」

「とある罪・・・・・・ていうか勝太郎さんも、鬼神と知り合いなの?」

「ああ、この世界に渡って生き返るときに、冥界からも監査を受けたんだ。“小次郎”ていう奴で、結構かわい・・・・・・いや、今その話はいいよな。とにかくその小次郎さんに、俺が過去に犯した罪を咎められてな。罪人に力を与えて、異世界で良い思いをさせるのは許さないと。そうするなら、その罪を許されるに相応しい功績を上げてからにしろってさ。それでその罪の罰として、俺は視覚を封印された。それがこの絶対にとれない目隠しよ」

「どんな罪を犯したのですか? 神様に咎められる程って・・・・・・」


 今までの話しで、一番興味を抱いているように見えるウィリアム。だがその問いに、勝太郎は、首を横に振った。


「悪いが、それは答えられないな・・・・・・・。俺自身あれは酷すぎて、あまり人に言いたくないことでな。とりあえず言えるのは・・・・・・あの時の俺は、自分が善いことをしたと思って、調子こいてた。それが間違いだったせいで、逆に自分が大罪人になってた。ある意味、お前らに近い立場だな・・・・・・」

「そうなんだ・・・・・・」


 本音を言えば、もっと問いつめたいところだった。勝太郎のかなり真剣で、やや影を感じる口調に、それ以上聞くことがためらわれたのか、ラチルもウィリアムも、それ以上は聞かなかった。

 勝太郎自身が、はっきりと酷い罪だと、後悔を口にし、誰にも知られたくないほどの罪。それはどれほどの・・・・・・


「「おはようございま~~す!」」


 場の雰囲気が、ちょっと暗い方向に行きかけたときだった。全く空気の読まない、低くて可愛い声が、数人分重なって聞こえてくる。


「えっ、何!?」


 あまりに唐突に聞こえてきた声に、ラチル達は不意を突かれた形で、動揺しきっていた。

 声の聞こえてきた方向=さっき自分が入ってきた本堂の大玄関の方に向く。この広間は、本堂の玄関のすぐ前にあるので、大きなガラス戸の扉から、外の風景が見える。

 そしてその扉は、今開け放たれており、外の境内から、本堂内に声を上げる者がいた。


「あらおはよう。君たち今日は早いのね」


 この闖入者を誰も咎めない。院主も、朗らかな笑顔で、その者達に挨拶を返した。その者達は子供であった。数人の鰐人の男女の子供が、本堂内に顔を出して、水奈子に朝の挨拶をしていた。

 年代は、大体十歳前後であろうか? 背中には、地球のランドセルと似ているようで、微妙にデザインが異なる、革製の背負い鞄を背負っている。

 そして彼らの服装は一様だった。男は水色で小さな鳥の柄がついた水色の着物の下に、青い袴を履いている。女子は、桃色で花柄の着物に、赤い袴である。この男女で統一されたこの着物は、何かの制服であろうか?


「あれ先生、この人達お客さん?」

「ええ、異国からきらした、勝太郎様のお友達だそうですよ。こちらはラチルさんで、こちらの子がウィリアムさんよ」

「どっ、どうもラチル・パイパーよ・・・・・・」


 子供達が、二人の聖者のことを質問して、それを水奈子が二人は紹介した。二人は、少々戸惑った様子を見せながら、子供達に名乗る。


「異国? それって、外ヶ浜から来たの?」

「えっ? ええ、そうですわ。さっき港について、勝太郎様の所に遊びに来られたみたいよ」


 ラチル達に目配せする水奈子。どうも口裏を合わせるように催促しているらしく、ラチルもそれに頷いた。


「この人達は、今少し疲れてるみたいだから、お話しはまたこんどにしましょうね。それじゃあ、また少し経ったら、校舎で会いましょう」

「「は~~~い!」」


 子供達は元気よく手を振って、本堂の玄関を後にし、本堂右手側にいき、その先にある境内の林の中の道を進みいく。どうもこの子らは、この寺の中にある何かに用があるようだ。


「院主様、あの子達はいったい?」

「さっき先生って、言われてましたけど、あの子らは神官の候補生なのですか?」


 訳も判らず、闖入者が去った後で、ラチル達が水奈子に問いかける。彼女らの認識では、神殿などの宗教施設は絶対的な聖域で、気軽に一般人が立ち入る場所ではない。


「いいえ、あれは村の普通の子達よ。この寺は、村の学校も兼ねていてね。あっち側に、本堂とは別の、校舎に使っている大きな館があるの。あそこで私達が、文字の読み書きとか、数学を教えてるわ」


 このアマテラスでは、日本の寺子屋に近い形で、宗教施設で一般人の子の、教育を請け負うことが多い。このアマテラスや、日本人であれば、普通に納得できる話しであるが、二人にとっては不思議な話しである様子。


「学校って、貴族以外の子も通うものなのですか? 別にアマテラスで、ここだけが特別というわけでもないわよね?」

「ええ、そうですわ。ゼウスでは違うんですか?」

「ええ、多分・・・・・・私も祖国のことを、あまりよく知ってるわけではないですけど・・・・・・」

「とりあえず、お前ら休んでおけ。さっきから疲れた顔が、どんどん酷くなってるぞ。これからまだ、次々とガキ共がここにくる。そいつらに質問攻めにされたら、またしんどくなるぜ・・・・・・」


 最後の方、実体験なのか、結構真剣に忠告してくる勝太郎。見ると門から見える、境内の先の門の方から、また別の子供らの、明るい話し声が聞こえてくる。どうやら今は、学校の登校時間の真っ只中らしい。

 そしてそれを聞いている二人は、疲れていると言うより、少し眠そうな感じだ。今日一日で、様々な体験をして、精神的にも疲れているであろう。

 それに今の時間は、ゼウス大陸の時間帯ではもう夜。ディーク人の睡眠の時間が近づいてきている。もしかしたら少し、時差ボケも入っているかも知れない。


「そうね・・・・・・じゃあ、いきなりこちらに押し寄せてきて、また厚かましい頼みをしますが・・・・・・」

「ええ、いいですわ。お部屋をご用意しましょう。こちらの者達に、案内させますので、是非ごゆっくりと・・・・・・」

「待て、その前にお前、風呂に入れ。俺みたいに鼻が利く奴には、お前のその臭い、きついんだよ・・・・・・」


 急に入る、勝太郎からの突っ込み。これにラチルも、ハッとする。

 彼女は神殿から脱走してからの一月間、一度も湯で体を洗っていないのである。一応川の水などで、簡単に体を洗ったりしているが、それも臭いを取るのに、十分とは言えなかった。

 この場にいる僧達の中にも、それを気にしていた者がいたようで、何人かがその突っ込みに頷いていた。


「ええと・・・・・・また厚かましいことを付け足しますが・・・・・・」

「ええ、勿論良いですよ。女の子は、そういうのにとりわけ気を付けなくてはいけませんからね・・・・・・」


 そう言ってラチルは、僧達に連れられて、本堂から離れた所にある、寺の浴場に行く。

 そしてウィリアムは、別の僧に連れられて、この寺の休めるところに向かっていった。だが勝太郎は、その二人のどちらにもついていなかった。


「あれ? 勝太郎様は? 一緒にお休みにはならないので?」

「ああ、俺はさっき充分寝たからな」

「でも今日一日で、一番働いたのあなたじゃない? もしかして無理してるんじゃ?」

「別に無理はしてないよ。本当にもう身体は全然平気なんだ。まあ、これから少し暇だから、これから何するかは、今から考えるけどな」

「本当に? ・・・・・・じゃあ、私達はここへ・・・・・・本当に無理しないでよ」


 先程の魔人との戦いで、あれだけ全身傷だらけになりながら、全力で戦い続けた勝太郎。だが今の彼は、あれから数時間寝ただけで、傷も疲労も完全回復しているという。

 それに俄には信じられない気持ちでありながら、とりあえず二人は勝太郎と別れていった。


「あっ、判ってるけど勝太郎さん、洗っている間の、私のこと覗いちゃ駄目よ・・・・・・」

「しねえよ、そんなこと。そもそもこの目で、どうやって覗くと?」



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