第二十一話 勝利と夢
「おらおらおらーーー!」
ドドドドドドドッ!
突撃する魔人の一閃を紙一重で躱し、勝太郎は魔人の身体に、拳を機関銃のように無数に叩き込む。
叩き込まれる度に、魔人の被弾箇所が、粘土のように凹み、形が変わっていく。そしてその殴打の数々に、魔人はまた突撃の勢いを止められていた。
ドン!
だがその連撃の勢いが弱まった辺りで、また魔人の反撃を受けた。彼の肩の肉に食いこむ斧の刃。今まで百発以上も攻撃を受けて、既にボロボロの身体に、また新たな傷がつく。
これまでのダメージの蓄積のせいか、その傷は今までになく深い。
「おりゃぁああああっ!」
だが深手を負っても、勝太郎は怯まない。更に勢い込めて、魔人の腹に反撃の拳を叩き込む。その一撃で、魔人の腹の肉は凹むどころか、爆発するように砕ける。
更に勝太郎は攻撃を緩めずに、その損傷して弱まった腹に、更に必殺の拳を叩き込んだ。
グシャァアアアッ!
大量の肉片が飛び散り、再度魔人の腹に風穴ができる。ラチルとウィリアムが話している間に、何度も行われた光景。
だがこの損傷もしばらくすれば、また再生してしまうのだが・・・・・・
「ウィリアム君! あいつの欠片を撃ちましょう! 欠片なら、私達でも浄化できるかも!」
「はっ、はい!」
ラチルの提案の元に、二人は今の攻撃で飛び散った、魔人の肉片に、光線を撃ち始めた。再生を始めようと、まるで虫のように動き出す欠片に、二人の浄化の力が襲い来る。
ジュァアアアッ!
まるでステーキを焼くような音が聞こえてきた。光線の光を受けた肉片が、その光に包まれると同時に、一瞬で色が変わってしまった。
まるで水が蒸発するように、黒い霧が噴出して消滅し、後には茶色い泥の破片が残っているだけである。どうやら本体に直接撃っても効かないが、欠片なら二人の魔法でも倒せるようである。
「ホーリーライト!」
大きめの欠片を幾つか浄化させて、ただの泥に変えた。二人は欠片が飛び散った場所に走り寄り、そこで第二の魔法を放つ。
それは先程までの一直線の光線とは違い、広範囲に広がる発光の照射。光属性の殲滅系範囲魔法である。
太陽のように一帯の地面に照射された、聖者二人分の光が、本体に戻ろうとしていた無数の肉片を、瞬く間に浄化していく。
「グガガガッ・・・・・・」
一方の魔人の方は、砕けた肉片は戻らないが、身体の損壊の箇所の再生は終わっていた。だが先程までは、再生してすぐに襲いかかってきたのに、今は何故か苦しんでいるような動作をして動きが鈍い。
気のせいか、魔人の身体が、さっきより小さくなった気がする。そんな力の弱まった魔人の一撃を、勝太郎は難なく避ける。
「勝太郎さん! とにかくそいつを攻撃して! 欠片を飛び散らして! それを私達が浄化すれば、いずれ倒せるわ!」
「おっ、おう!」
敵への対処法が判れば話しは早い。勝太郎は魔人目掛けて、再び渾身の一撃を与えた。
勝太郎の蹴りが、魔人の足を砕く。そしてその破片や損壊部位に、ラチル達が神聖魔法で攻撃を加えていく。
この先の戦いは、もう驚くほど呆気なく終わった。今までの勝太郎の苦戦が嘘のように、一方的にやられていく魔人。
浄化される度に、その身体が空気を抜かれた風船のように、どんどん縮んでいく。そしてとうとう、魔人はこの小柄な勝太郎と、同じぐらいの背丈にまで縮んでしまった。
「おらおらおらおらーーー!」
その見るからに弱体化した魔人を、勝太郎が容赦なく連撃を加えた。十数に及ぶ格闘ゲームの技のような乱撃を受けて、魔人の身体が、幾重に砕かれ、分散して散らばっていた。
「ギギ・・・・・・」
グシャッ!
無数の破片と共に、地面に転がっている、魔人の一つ目の首。それを勝太郎が、容赦なく踏みつぶした。頭部が更に細かく分散され、一帯にくす玉のように飛び散っていった。
「ホーリーライト!」
「ホーリーライト!」
そしてその無数の破片を、二人の聖者達が、神聖魔法の浄化の光で、ほぼ全て無力化した。
既にこの場に、魔人の力の面影はない。只の泥となった、かつて魔人だった物の残骸が、ただのゴミとなって散らばっているだけであった。
「ふう・・・・・・全部やれたのか?」
魔人の形をした者を感知できなくなったことで、勝太郎が二人に問いかける。それに二人は、喜んだ様子で答える。
「ええ、やったわ。あの化け物は、私達でやっつけたわ! はははっ、見たか外道共! これであんたらの切り札は、もうないわよ!」
上機嫌でラチルは、倒れた王国兵達に叫ぶ。その言葉に、王国兵達は黙り込んでいる。もうどうにでもなれと言った感じであった。
「はあ・・・・・・とりあえず、俺は休むな・・・・・・」
「・・・・・・勝太郎様?」
ラチルがまだ何か叫んでいる中、勝太郎はその言葉の後で、畑の上の地面に、大の字で倒れ込む。そしてそのまま、動かなくなった。
「えっ、ちょっと勝太郎様!? ・・・・・・寝てる?」
全身傷と血と泥だらけの姿で動かなくなった勝太郎。ウィリアムがまさかと思い、彼に回復魔法をかけようとするが、すぐに彼の耳に静かな寝息が聞こえてきた。
戦いに疲れ果て、眠り込んだ勝太郎。彼のその中で見た夢は、彼の感覚からすれば、ほんの二月ほど前の過去の記憶だった。
ただしそれは、生きている間の記憶ではない。
『あれ? ここは?』
その中で目覚めた勝太郎。いやこの場合、目覚めたという単語が適切かどうかは判らない。何故なら彼は、目どころか身体と言える部分が、何一つなかったために。
この時の勝太郎は、何と人魂だった。丸いボール状の淡い光の塊の姿で、風船のようにふよふよと浮いている。もはや生き物とは言えない、見るからに霊体状態の勝太郎。
肉体の感覚がなく、ただ周りが“見えて”いるだけの状態の勝太郎。
『あれ? 俺どうなったんだ? ああ、そうかここはあの世か・・・・・・。しかし死後の世界ってのは、思ってたのと大分違うな。そしてあれが閻魔か?』
自分が人魂となっている状況に、勝太郎は意外と冷静だった。何故なら彼には、この姿になる前に何があったか、全て覚えているために。
今勝太郎の人魂がいる場所は、随分おかしな場所である。例えるならそう、特撮やファンタジーに出てくる、悪の科学者の研究室のような部屋。
結構広めな部屋で、学校の教室数個分はありそうだ。各方面の壁には、窓が一つもなく、障子のような形状のアンバランスな扉が一つあるのみ。
外の光はなく、天井からの電灯で、部屋内が明るくなっている。その部屋の真ん中には、理解できない文字が、何万と細かく書かれた、大型の魔方陣がある。
西洋風の五方陣とは微妙に違う、円形の幾何学模様が組み合わさった魔方陣。何とも豪勢で、細かく描かれた円陣で、ここから本当に魔王でも出てきそうである。
その魔方陣の真ん中に、勝太郎の人魂が浮いていた。その部屋のある箇所には、いくつかの安っぽい机が設置されており、その上にいくつかのパソコンと思われる機械が設置されている。
パソコンはこちらからは後ろを向いており、パソコンが今起動しているのかどうか、起動しているとしたら、今画面には何が映っているのか、何も判らない。
そしてその机から、中央の魔方陣を軸に反対側の場所には、大型の円筒状の水槽が複数設置されていた。一日取り分は余裕で入る大きさの、SFの培養槽のような大型水槽。
案の定その中の一つには、培養液なのか判らないが、透明な液体で満たされており、その液体の中に、ある者が浮かんでいた。
「ふむ初めましてだな、我に選ばれ召喚された幸運なる者よ。私の名はカーミラという」
『随分可愛い閻魔だな。俺の名は山田 勝太郎だ。よろしくな・・・・・・』
そしてその部屋には、勝太郎意外にも誰かがいて、語りかけてくる。その人物は、勝太郎と違って、生身の人間であった。
その姿はまさに魔女ッ子。頭には西洋魔道士風の三角帽子。呪術の紋様のようなマークがついた黒ネクタイのシャツ。赤と黒の縞模様のミニスカート。そしてシャツの上に、黒っぽい上質な布地でできたローブを纏っている。
まだ十代半ばと思われる、黒髪黄色系の少女であった。
「ふふっ、可愛いか・・・・・・まあその評価も悪くないな。だが生憎私は閻魔ではない。私は冥界の者よりも遥かに偉大なる力を持つ存在にして、今は人を作るという外道にして偉業といえることさえ可能とした者。そしてかつてとある世界を、荒廃と滅亡の淵から救済したこともある、世界を渡り歩く高貴なる大魔道士カーミラであるぞ!」
『はあ・・・・・・。俺がこうしているってことは、別に只の中二病じゃないんだよな・・・・・・?』
無理して偉ぶっている口調のカーミラに、勝太郎は無感動な反応であった。それに彼女は何やら不満そうであった。
「つまらぬ反応だな・・・・・・わざとで良いから、もっと驚いてくれないと、こっちも張り合いがないぞ・・・・・・」
『そうか? ・・・・・・・・・・・・うわあ、ここはどこだ!? お前は誰だ!?』
「前言撤回、やはりわざとでもつまらん・・・・・・」
そっちから言っといて、また不満そうな素振りのカーミラ。だが勝太郎としても、ここがどこで、自分がどういう状況か判らないのも確かなので、とりあえず彼女に聞いてみる。
『それで・・・・・・本当にお前は誰なんだ? 魔道士ってのは信じるが・・・・・・それで俺に何の用だ?』
「うむ・・・・・・実は私は今、先程言った人を作るという大いなる魔術を研究していてな。その研究に被験者になる死霊の魂を探していたのだ。そして今、私が適正ある魂を召喚した。それによって選ばれたのが、お前なのだよ! さてここからお前に申し出だ。お前は私の研究に協力してみないか? さすればお前に、研究の実験体として作った新しい肉体を与えて、生き返らせてやるぞ」
カーミラは説明しながら、先程見たあの謎の培養槽の方を見やる。
その培養槽の中には、羽や鶏冠といった、鶏のような特徴を持った、一人の少年が眠るようにじっとして、ホルマリンの標本カエルのようにプカプカと浮いていた。




