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第二十話 神聖魔法

「勝太郎様、後ろ!」

「判ってるわ!」


 相手の会話を待ってくれる気遣いのない魔人が、二人に詰め寄っている勝太郎に、背後から斧の一撃を喰らわせようとしている。

 だが勝太郎は事前に敵の攻撃を読み、既に気の力を貯め込んだ足で地面を地面を蹴り、そこから勢いよく、背面目掛けて回し蹴りを魔人に加える。


 ドン!


 これまで何度も聞こえてきた、勝太郎の強力な気功格闘技。その蹴りは敵の斧が振り下ろされる前に、魔人の脇腹を直撃した。

 その脇腹の部位が大きく砕け、無数の破片と共に魔人の巨体が、勢いよく吹き飛んでいった。


 地面を転がりながら十数メートルほど距離を開けられた魔人。だがすぐに起き上がる。人間なら確実に死んでいるであるレベルの脇腹の損傷も、あっという間に再生されていった。


「あれは・・・・・・そうだった。魔人は通常攻撃だと、すぐに生き返るんだった・・・・・・ごめんなさい勝太郎さん。こっちは見なくても、決着はすぐつくものと・・・・・・」

「お前な・・・・・・もういい、お前の神聖魔法を頼む!」


 話している間にも、再生した魔人が、またこちらに突撃してきた。勝太郎も同時に突撃し、敵の拳を突き出した。


 ドン!


 勝太郎の鉄より固い拳と、魔人の豪腕で繰り出される斧の一撃が、真正面から衝突した。その力と力のぶつかり合いは、勝太郎の勝利。斧の刃が少し砕け、魔人は数歩後退した。

 これに対し、ラチルとウィリアムが、援護のために神聖魔法の光の魔力を溜め始めた。


「何だウィリアム! 結局お前も裏切るのか? 全く頭が悪いだけでなく、恩知らずの困った餓鬼だ。お前の愚かさに、女神ロアも呆れているぞ!」


 二人の聖者が臨戦態勢に入った直後に、これまで傍観していたルーカスが、相変わらず相手を見下した下卑た声で、ウィリアムに向かって声を上げた。


「ふざけないで下さい! 先に裏切ったのはあなたです! 今までよくも、私を騙してくれましたね!」

「裏切った? はん、それが何だと言うんだ! お前には昔から、こう教えられたはずだ! 世界の礎を守るこの国のために尽くせ、とな! お前はその教えの通りに働いてきたんだぜ! 今更それを否定して、どうするよ!?」

「ふざけないで下さい! ロアの教えなんて、全部嘘じゃないですか! それで皆を騙して、女神の教えと言えば、何しても許されるというんですか!?」

「皆を騙す? おいおい何を言ってるんだ? この国が今までしてきたこと。他国を攻め込み、富を奪い、人を殺し、捕らえ奴隷として働く行為も、全部この国の民は承諾していたんだぜ! 我が国の軍が、国を喰い、蛮族を殺しまくる度に、お前が守ってきた民は、それを絶賛していたんだぜ! ロアの教えにより、存在を許されぬ化け物共を討伐した英雄としてな!」

「なあ、話しはなるべく短く・・・・・・ぐげえっ!」


 今度はウィリアムとルーカスの間で始まる、シリアスで長い会話。それに突っ込んでいる間に、勝太郎はまた斬られて生傷を増やしていた。


「そっ、そんなこと・・・・・・」

「残念だけど本当よウィリアム君・・・・・・この国の民は、そういう腐った奴らばかりだったのよ」


 否定したがっているウィリアムに、傍にいるラチルが、やるせない顔でそう語りかけた。


「今ディークの民の多くが、王政府から虐げられているけど・・・・・・それはつい最近まで、この国が他国の人々にしてきたことそのもの・・・・・・。そしてそうして得た富で、奴らは潤って生きてきた。そしてそのしっぺ返しを、今受けている最中なの・・・・・・。この国を正すには、ただ王政府を倒すだけじゃ駄目。この国のいる全ての人を、根本から叩き直さなきゃいけないのよ!」

「はん、威勢のいいことだ! それで自分が正義の味方になったつもりか? この世で最も高貴なこの国に尽くすことは、ロアによって定めたこの世の者全ての義務だ! 私もその教えの元に国に付くし・・・・・・」

「バーカ! あなたはディークのために、働いてすらいなかったじゃないの! 皆知ってるわよ、あなたの馬鹿みたいに汚い経歴を! 元は王都の高位の家の生まれだけど、軍に入隊直後に暴行沙汰を起こして、この田舎に左遷。そしてそこでも軍の金を横領したことが発覚し逃亡。その後20年間、近辺を荒らし回る盗賊として暴れ回ってお尋ね者生活。そして王国が兵員不足になると、王政府から・・・・・・」

「もういい、黙れ小娘!」


 彼の過去を丁寧に解説し始めたラチルに、ルーカスが激怒の声を上げる。逆鱗に触れることだったのか、先程の余裕に満ちた、相手を下卑た表情は消えている。


「もう貴様らと、これ以上話すことはない!」

「ああっ、そうしてくれよ頼むから!」


 勝太郎から大賛成の言葉を浴びながら、ルーカスは今勝太郎と格闘している魔人に指示を出した。


「ラチルという女は、必ず生かして連れてこいと王政府から言われていたがもういい! オーガ型三式、この場にいる“全て”を殺せ! 一人も逃がすな!」

「グォオオオオッーーー!」


 ルーカスから新たな命令を受けた魔人が再度咆哮。勝太郎一人を相手していたのが、急に動きを変えて、彼以外の者を標的にし始めた。

 そして彼の斧が振るわれる。今彼に命令を下したルーカス目掛けて・・・・・・


「えっ・・・・・・」


 その瞬間、ルーカスの視界が急に上昇した。まるで自分が宙を浮いたかのように、周りの風景と、敵であるラチル達の姿が、一気に下の方に遠のいていく。

 さっきまで同じ高さで睨み合っていた者を、急に見下ろす形になっている。そしてその彼女らの顔は、先程までのシリアスな雰囲気はなくなり、口をあんぐり開けて唖然としてこちらを見ていた。


(あれ・・・・・・私は空を飛んで・・・・・・いや、何か身体の感覚が・・・・・・)


 それを最後に、ルーカスの思考は闇の底に沈んでいった。


 ドサッ!


 ルーカスの身体の一部が、赤いシャワーを撒き散らしながら、畑の中に着地する。踏み荒らされて潰された白菜の上に、まるで皿に載った肉料理のように、彼の頭が勢いよく設置された。

 魔人は新たな命令の直後に、ルーカスの首を斬り落とした。頭と胴体が一瞬で破局した彼は、そのままこの畑に倒れ込み、二度と動かなくなる。


「何で!? まさか暴走!?」

「どうかしら? 奴の命令の“内容”を忠実に守ったようにも見えたけど・・・・・・」


 自分を謀ってきた憎い相手の、あまりに意外な形の死に、ウィリアムは怒りも喜びも悲しみも湧いてこない。


「グオオオオオッ!」


 そして状況を把握する暇もなく、魔人が次の行動に出る。ウィリアムの血で汚れた斧を振り上げながら、ある方向に突撃する魔人。

 彼が向かう先には、先程の戦闘で、勝太郎に倒された王国兵達が転がっている場所であった。


「うわぁあああああっ! こっちに来るなぁ!」

「いやぁ! 死にたくない!」


 倒れている数百人の王国兵達で、意識がある者達が一斉に叫び出す。先程の斬首は、彼らも目撃していた。そしてその脅威が、今まさに自分たちに向かってきているのだ。


「待てよ!」


 だがそれを止めに入るものがいた。勝太郎が、王国兵達に向かう魔人を後ろから追いかける。

 魔人より足の速い勝太郎は、すぐに彼に追いつき、その巨体の背中を蹴りつける。その衝撃で、魔人は前のめりに転倒して、顔を畑の土に埋めた。


「お前ら逃げ・・・・・・は無理か! くそっ!」


 先程以上にボロボロの状態の勝太郎。全身に走る痛みを堪え、まだ残った力を振り絞り、彼は魔人を王国兵達から引き離しにかかった。

 倒れた魔人の片足を掴み、彼を畑の地面を引き摺って、王国兵達の倒れている位置から遠ざける。


「グォオオッ!」


 だが魔人も大人しく引き摺られ続けてはくれない。勝太郎が掴んでいる足を振るい、勝太郎を蹴り飛ばす。

 その衝撃で勝太郎は、また吹き飛ばされた。地面を水切り石のようにバウンドして、ラチルのいる付近に転がっていく。


「勝太郎さん、何してるの!? まさかあのゲス共を助けたの!?」

「だったら何だ! しょうがないだろ・・・・・・」

「しょうがないって、あいつらが今まで何をしてきたか・・・・・・」

「待って、こっちに来ました」


 自分を掴んだ勝太郎を蹴り飛ばした後、魔人はすぐに立ち上がった。どうやら討ち取りやすそうな倒れた王国兵でなく、先に自分を邪魔する勝太郎の排除を優先事項としたらしい。

 魔人は再度、勝太郎に向かって走り出す。


「「ホーリーレーザー!」」


 魔道剣を引き抜いたラチルと、魔道杖を構えたウィリアム。二人はこちらに向かってくる魔人目掛けて、神聖魔法の白い光線を二人同時に撃ち放った。


 ボン! ボン!


 二つの白い筋の攻撃。特撮ヒーローの必殺技に似合いそうな外観の遠距離攻撃二つが、その真正面から突っ込んでくる魔人に直撃した。

 避けもせず防ごうともせずに、知性のない魔人に攻撃を当てるのは実に簡単である。だがそれで倒せるかどうかは別問題であった。

 魔人の身体には、多少皮膚の表面が削れる程度の傷を負ったが、それは敵を倒すにはあまりにも小さすぎるダメージ。実際魔人が、その攻撃で苦しんだ様子はない。せいぜいいきなり水をかけられた程度であろう。


「効いてない!」

「こっちに来ましたよ!」


 攻撃を受けて魔人は一旦足を止めたが、それは神聖魔法の効力が効いたからではない。自分に攻撃を仕掛けたもう一つの勢力に目を向けて、そっちにヘイトが溜まったようである。

 魔人は神聖魔法の光線を受け続けながら、魔人は今度はラチル達に突っ込む。そして彼らを守るように、勝太郎が立ちはだかった。


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