第十九話 聖者の真実
「タフな奴だ! うりゃああああああっ~~~!」
その再生の様子を視認することができなかった勝太郎。彼は敵の身体が予想以上に頑丈だったと認識し、あの気功の殴打と蹴りを、次々と魔人に喰らわしていった。
ドン! グシャッ! メチャッ!
空襲を受けた大地のように、勝太郎の攻撃を受け続けた魔人の身体が、何度も変形・粉砕していく。
腹にクレーターのような窪みができたり、脚部が砕けて足と胴体が切り離されたりもした。だがどんなに攻撃を受けて、どれだけその身体が砕けても、魔人はあっという間に再生し、反撃を繰り返していく。
(これは前の奴と同じ、再生しているのか!?)
ここでようやく、敵の再生能力に気づく勝太郎。一度拳の気功力を高めて、必殺の殴打を喰らわせた。
ドン!
魔人の腹部に向けて、直撃した必殺拳。それによって、今までにない大量の肉片が、後方にシャワーのように飛び散る。そしてその腹部に、まるでライフル砲が貫通したかのように、大きな風穴が空いていた。
後ろの風景が、前の方からも見えるほどの、大型の風穴を腹に開けられた魔人。だがそれでも魔人は死なない。それどころか腹の風穴が、どんどん小さくなっていき、あっというまに傷が塞がってしまった。
(おいおい・・・・・・こんなのどうやって倒せば良いんだよ!)
ここまで来て、初めて焦り出す勝太郎。身体能力などあらゆる面で、魔人より勝太郎の方が、圧倒的に上の筈。
だがどんなに攻撃を与えても倒せない敵では、そんな能力差など意味がない。
「ふはははははっ! 無駄だ蛮族! お前がどれほど頑健な肉体を持っていようと、魔人は神聖魔法でしか倒せないのだよ! 最もこれほど上位の魔人、聖者が十人いても、浄化する前に惨殺されて終わりだろうがな!」
また上げられるルーカスの高笑いと、ご丁寧な魔人の能力説明。今までは勝太郎自身の余裕ぶりから、敵にどんな挑発をされても冷静だった。
だがこの状況になると、敵の言葉に若干苛ついてくる。
(神聖魔法でしか倒せない? それじゃあ・・・・・・)
生憎勝太郎は、その神聖魔法という技の心得がない。そしてこの場にいる、味方側の使い手がいる方向に、攻撃を避けながら振り向くが・・・・・・
「そんな・・・・・・全部が嘘だったなんて・・・・・・それじゃあ僕が今まで倒した魔人も全部? 僕は今まで何のために?」
「ウィリアム君・・・・・・」
「おい! こいつはお前らの魔法じゃないと倒せないんだと! 悪いが力を・・・・・・げふっ!」
勝太郎と格闘中の魔人と、ほくそ笑みながら傍観しているルーカスを見て、へなへなと病人の弱々しく膝をつくウィリアム。
そんな彼の傍らに寄り添うラチル。そしてこっちに気をとられている間に、叩き飛ばされる勝太郎。
「ごめん・・・・・・でもこれが現実なの。いきなりこんなことを突きつけて、悪いとは思ってるわ。でもこれは君のためにも、必ず向き合わなければ行けないことなの! 私も君のためだと思って、勝太郎さんに君を連れてくることを頼んだわ! これは決して、余計なお世話ではないと・・・・・・」
「それじゃあ僕はどうすればいいというのですか!? こんなことを急に教えてきて、僕に何をしろと!? 僕はもうどうすれば・・・・・・僕が今までし来たことが善行ではなく、罪だというなら・・・・・・」
「ウィリアム君! 気をしっかしりして・・・・・・大丈夫、君は何も悪くないわ! 悪いのは全部私達を騙してきたディーク神聖王国の奴らよ!」
「そういえば全てが許されると言うんですか!? あの時、砦で会った人達は、僕のことをもの凄い恨んでおいででした! 僕があの人を救った気でいて、砦に渡したせいで・・・・・・どれほど酷いことが行われたと・・・・・・。これを何をして償えと・・・・・・!? そもそもどうして僕がこんな目に・・・・・・」
「ウィリアム君違うわ! そんな目に遭ったのは君だけじゃない! 君以外にも大勢の聖者が・・・・・・いえ正確に言えばこの国の人間全てが背負ってしまった罪なのよ!」
「熱く語ってるとこ悪いんだが、こっちも結構やば・・・・・・ふがっ!」
怒りとやるせなさで、涙を流しながら、ラチルに当たるように声を上げるウィリアム。そんな彼に、まるで本当の聖女のように優しく諭すラチル。
そして二人に無視されている間に、脳天から斧を叩きつけられて、その衝撃で足下の地面が抉れ、何かの罰ゲームのように、下半身が地面に埋まった勝太郎。
「聖者・・・・・・そういえばあなたも・・・・・・」
「ええ、そうよ。私もあなたと同じ、かつては魔人を滅する国の英雄として、ディークのために働いていたわ。今の君は少し前の私と同じ・・・・・・。外の見えない鳥籠の中で育てられて、何も知らずに国のために尽くしてきた哀れで愚かな女よ。私も自分がしてきたことが、人々を守るためでも、女神からの使命でも何でもない。この国の強欲な権力者の利益のための悪行だと知ったときは、いっそ死んでしまいたい気持ちになったわ・・・・・・」
「でもあなたはまだ生きています・・・・・・もう過去は捨てたんですか? 今まで自分がしてきことを、全部国のせいにして、自分の罪を無視すると?」
「そう考えてるというなら聞くわ。では今この国で起こっていること。あなたが助けた気でいたという人達に、この国がしたこと・・・・・・それは全部私達のせいで、ディークの方は何も悪くないと?」
「何ですかその理屈は!? 別に僕はそんなこと・・・・・・」
「同じようなことよ! 本当の悪が何なのか知ったのに、そうウジウジしていたら、ますますディークの下郎達に嘲笑われるわよ! あなたはそれでもいいの!? 事実を知った今、君が次にすべきことは何!?」
「僕がすべきこと・・・・・・それは・・・・・・しかし・・・・・・」
「あの・・・・・・そろそろ俺の話を・・・・・・ぎやっ!」
最初は優しく、そして次第に厳しい口調で、ウィリアムを叱責するラチル。そんな中、二人から無視され続けた勝太郎。
先程脳天から攻撃を受けて、身体が半分埋まった上程で、更に上から、モグラ叩きのように何度も思い斧の攻撃を受け続けていた。
一発受けるごとに、身体が更に地面に埋まり、更に一帯の地面が陥没し始める。持ち前の怪力で、身体が埋まった地面を蹴り上げて壊し、黒ヒゲ危機一髪のごとく、地中から脱出。
だがその直後に、また魔人の横薙ぎの一撃を受けて吹き飛び、地面を数回バウンドして転がっていく。
「僕はやり直せるのでしょうか? 私がこれまで多くの人達にしてきたことを・・・・・・」
「これまでのことより、今のことを考えろ! こっちは大変なんだよ! いい加減、話しを聞きやがれ! ・・・・・・ほごっ!」
散々無視されて、ついにキレた勝太郎。そんな状態でも、魔人は無慈悲に、勝太郎を斧でタコ殴りにしていく。
ラチルとウィリアムの二人の聖者の語らいは、この後しばらく続いた・・・・・・
そして五分ほど経ち・・・・・・
「判りましたラチルさん! 僕ももう決心がつきました! 僕の祖国であるこの国が、大きく間違えた道を辿っているというなら・・・・・・僕がそれを正すために戦います!」
「ええっ、そうね! 勿論私も協力するわ! 私だけじゃない、この国にはまだ、何も知らずにディークに利用されている仲間が沢山いるわ。まずはその人達を救い、そして皆でこの国を変えましょう!」
「ええ・・・・・・ありがとうございますラチルさん・・・・・・。あなたがいなければ、もしかしたら僕は生きる希望さえ見いだせなかったかも・・・・・・」
「何もそこまで悲観にならなくても良いわよ。あなたは自分が思っているよりずっと強いわ。それとラチル“さん”てのはやめてね。何か余所余所しいし・・・・・・これからはラチルでいいわよ」
「いえ、年上をそのように呼び捨てなんて・・・・・・」
ラチルの説得により、ようやく現実を見つめ直し、そして立ち上がったウィリアム。つい最近まで、祖国の本性を何も知らなかった二人の聖者が、ここで一つの絆を作り上げ・・・・・・
「いい加減しろや、てめえら! 話し聞かんなら、この場で俺が神の元に送ってやろうか!?」
「「!!!???」」
・・・・・・ている最中に、火山噴火のごとく凄まじい怒気を上げて、二人に叫び上げるものが一名。
話しに集中していて、勝太郎を無視していた二人も、すぐ側から耳元近くで叫ばれた声に、ようやく振り向いた。
「勝太郎さん、急に何・・・・・・」
「勝太郎様、その傷は!?」
振り返った二人が見た、あの目隠し少年の姿は、もはやボロボロであった。着ていた値打ち物っぽい着物は、血と泥で汚れ、各部が破れ、既に使い古した作業着のように、見る影もない。
そして着物布地から見える肌や、彼の手や足からは、僅かだが血が流れている。見ると彼の頭からも、出血が酷い。ボロボロに乱れた髪の頭から、顔に向かって、血が滝のように流れて、彼の顔を赤く汚す。
目隠しの鉢巻きも、彼の血のせいで、すでに真っ赤に染まっていた。そんな顔を、突然至近距離で向けられた二人は、当然驚きまくり。
そのゾンビのような形相に、ラチルは一瞬腰の剣を抜きかけていた。
ラチル達が語らっている数分間の間、勝太郎はずっと、延々と魔人の相手を続けていた。殺してもすぐに生き返り、どんなに戦ってもキリがない敵。だからといって、ここから逃げることも許されない。
ここにはまだ周りが見えず、二人だけの世界で会話をしている世間知らずの坊ちゃん嬢ちゃんがいるために。本当なら退却するべきだが、勝太郎はラチルとウィリアムのために、この場で留まって、倒せない敵とずっと戦い続けていたのだ。
「勝太郎さん、どうしたっていうの!? あなたほどの方が、これほどの傷を負うなんて・・・・・・」
「誰のせいだ、誰の!?」
この時の彼の激昂は、これまでの敵に向けたものより、ずっと激しかったかも知れない。




