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第一話 衰える国

 とある異世界のとある国。針葉樹が中心に生えている森林の中。森林の中を整備された林道が貫き、その林道の道筋の各地や、横にそれた小さな分かれ道の先に、開けた土地が広がっている。


 そこに大小多くの町村が存在している。今の時期は春頃、雪がすっかり溶けて、農家が活発に働き始める時期である。

 そんな時期に、この林道を突き進む、数台の馬車。軍馬のような屈強な大型の馬が引く、金属の装甲が張られた重武装の物々しい馬車である。


 その馬車は、林道の分かれ道、とある村の名前が記された矢印看板のある先の道を進んだ。そしてその道筋通りに、その村に辿り着いた。

 周りを広大な田畑で囲まれており、その真ん中に簡素な柵で囲まれた住宅地がある。

 それらの家や倉は、茶色い屋根と、白塗りのレンガ造りの建物で、地球という世界の住人の価値観だと、中世西洋の村といった感じであった。

 家の数は数百戸程で、恐らく千人単位の十人が暮らしているだろう。

 その村に、まるで攻め込んできたかのように来訪する、数台の武装馬車達。見たところ、山賊のようには見えないが……


「大変だ……また王国兵達が来たぞ!」

「何でだよ!? 少し前に、ありったけ出したばかりだぞ!?」

「まさか教会を荒らしたのが、ばれたんじゃ!?」


 農地で働いていた者達は、農地を通る街道を進むそれを見て、一斉に騒ぎ出した。

 彼らの行動は二種類。大慌てで村へと戻る者と、逆に逃げるように農地から外れた林の中に駆け込む者であった。


「大変だ! 王国兵だ! 女子供は、家の中に隠れろ!」

「おいっ、何だそれは!? 武器なんか持つな! 逆に怒らせて殺されるぞ!」


 村の中でも相当な騒ぎが起こっている。村の中の商店街は、一斉に店を閉め始め、外にいた人々の半数が、家や倉の中に逃げるように入っていった。

 彼らの様子は、明らかな恐怖の感情が見える。






「何だ? 騒がしいわね・・・・・・」


 ちなみその騒ぎの中、畑の一カ所で、明らかに農作業以外の目的で、そこに居座っている者がいた。

 フード付きのローブで、全身を包んで姿を隠している、明らかに不審な人物。


 それは片手に大きな袋をもち、その中にこの畑の作物の一部を詰め込んでいた。これは正規の収穫ではない。

 その女性と思われるローブの人物は、村人達の目に入らないよう周囲を見渡しながら、作物を勝手に拝借して袋に詰め込んでいる最中であった。


 そのローブ女は、隠れるのを忘れて、その村人達の叫び声を聞いていた。皆慌てきっていて、この盗人のことなど、誰も気にとめない。

 そしてその避難を呼びかける村人の声を聞いて、そのローブ女は、状況を把握したようだ。


(王国兵・・・・・・今度はこの村を潰す気? もうこれで何度目よ・・・・・・? こんな事繰り返して、最終的に困るのは自分たちだって事に、王政府の奴らは、どうして気づかないわけ?)


 呆れと怒りが入り交じった嘆息を吐き、ローブ女は盗みを止めて、その場から騒ぎの場所に自ら進んでいった。






 そしてその恐怖を運んでいると思われる馬車達が、柵を越えてこの村の中の中に入り込んできた。

 村の中心部を突き進み、そこにある開けた土地、広場と言うには簡素で何もない場所で、彼らは止まる。


 数十人ほどの村人達が、怯えながらその場所に集まる中、その六台の馬車が、その広場と道の狭間辺りで止まる。

 そして中に乗っていた者達が、ぞろぞろと出てき始めた。それは武装した兵士達であった。


 彼らの外観は四種類。


 一つは青い塗装がされた胸当てと、同色のサークレットを頭に付けた、軽装の兵士達。


 一つは、魔道士風の青いローブを着た、魔道杖と思われる長物を持った者達。ただし頭に付けたサークレットは、最初に説明した兵士と同様で、どうも彼らと同じ身分のように見える。


 そして一つは、全身を白い塗装の板金鎧で覆った、重武装の兵士達。クローズヘルム型の兜には、鮫の鰭のような角が付いている、胸当てには、あれは女神か何かであろうか?

 何やら神々しいふるまいで手を広げている、女性のシルエット像が、赤く描かれていた。


 最後の一つは、これもまた魔道士風のローブ……というより神官の法衣のような服を着た者達。法衣には一つ前の騎士と同じ、女性のシルエットが描かれた紋様が、服の胸に描かれている。

 最初の魔道士達と違って、こちらの服は、生地がかなり上物のようだ。持っている魔道杖も、施されている装飾の品質に違いが見られる。


 前者二種類の軽装の兵士・魔道士と違って、後者二種類の騎士・神官は、明らかに装備の品質が違うと、素人でも一目で判るものであった。

 彼の人数は五十人ほど。その中の一割の数人ほどが、後者の高級そうな身なりである。恐らくは前者が階級の低い兵士で、後者が階級の高い騎士といったところであろうか?


 兵士・騎士達はロングソード型の剣や槍を持って、この村の中に挨拶なしで進入してきている。まるで戦争にでも来たかのようだ。

 騎士達の中に、一人だけ武器ではなく、旗を持っている者がいた。槍よりも長い柄に掲げられた布地には、騎士達の胸当てに付いているのと同じ女神(?)の紋章が描かれていた。


 ガン!


 その騎士は、広場の真ん中辺りに、その旗の塚頭を深々と突き刺した。村の真ん中に、堂々と立つ謎の旗。まるでその旗印しが、この辺りの全てを纏めているようだ。

 だがそれを見る村人には、その旗印に何の敬意も感じていないようだ。多くの者は、その旗印に恐怖で震えている。中にはそれには、敵意と憎悪の視線を向けている者もいた。

 その旗の一歩手前で、一人の騎士が進み出て、その場で演説するように大きく声を上げた。


「私はディーク神聖王国三等騎士のルーカス・マクファーデン! 女神ロアの名の下に、そして我が国の守護のために、この村の財の献上を命ずる! 今よりこの村の食糧・金品の全てを、この場に集めよ!」


 この言葉に村人はどよめいた。当然である。これは税の取り立てではなく、献上という名の一方的な取り立て=強盗行為であるのだ。


「ちょっと待ってください! この村は先月に、かなりの税をお支払いしました! それなのにまた払えというのですか!? これはどう考えたって、王国の法に反する……」

「税ではない! 献上だと言っているのだ! まさか貴様ら、神聖なるこの国に、税以外に何の奉仕もしないほど不忠不信心ではないだろうな!?」


 村人達の恐怖に逆らいながらの必死な意見。それに騎士=ルーカスが、それがまるでおかしい意見であるかのように、不遜に跳ね返す。

 この騎士達は豪華な鎧と乗り物に持ち、身体や顔つきも健康的で、かなり恵まれた生活を送っていることが判る。

 その一方で、ここの村人達は、長く買い換えていないであろう、古い洋服を着ており、体つきも痩せている者が殆どであった。どう見たって、彼らにこれ以上の徴収をさせるのは、無茶なことだと一目で判る。


「そんな……私達はもう、ギリギリの食糧で、何とか食いつないでいるんです! これ以上とられたら、皆飢え死にしてしまいます!」

「それがどうしたというのだ! この国の民であり、そして女神ロアの信徒であるならば、己を犠牲にして全てを捧げるのは当然であろう! まさかそんな当たり前の事ができないと、お前達は言うのか!?」

「いや……しかし……」


 ルーカスが見下すような目で、村人達を怒鳴りつける。

 彼の周りの兵士達が、その無防備な村人達を、彼と同様に見下した視線を向けながら、武器を構え始めた。今にもこの村を、皆殺しにせんばかりの動きだ。

 いや……もしかしたら最初から虐殺するつもりで、彼らは武装してこの村に来たのかも知れない。


「逆らうならば、貴様ら全員反逆罪で死刑だ! 判っているであろうが、女神ロアとそれを讃えるディーク神聖王国に背いた者は、蛮族達と同様に皆等しく、死後地獄に落ちる! だが命を賭して、ロアに奉仕し続けた者は、死後天国に上れるのだぞ! この場で死んで、地獄に堕ちるか! ここで全てを捧げて、ロアの元まで昇るか! どっちが賢明な判断であるか!? その程度のこと、低俗な平民共でもわか……」

「何が天国だ! お前らのロアとか何とかいう嘘にはもううんざ……ぎゃあっ!」


 宗教的死生観を持ち出して、この村を死滅させる行為を正当化させるルーカス。それに激怒して、一人の村人が反論しようとしたが、彼は即座に稲光と共に倒れ込んだ。


「がっ……ああ……」

「おいっ! しっかりしろ!」


 倒れ込み、全身を痙攣させて呻く村人。何が起こったのかというと、彼が言葉を発している間に、ルーカスが彼に向かって、右手の人差し指を、スイッチを押すように突き出した。

 するとその指先から、不規則に走る、白くて細いエネルギーの本流が、音速以上の勢いで撃ち出される。それは電光であった。

 空から落とされる稲妻より、遥かに低威力の電撃。だが人一人を昏倒させるには、十分なエネルギーの電力が、銃弾のように飛び、100メートル以上離れた所にいる村人に直撃したのである。


「その者を、ここに引きずり出せ!」


 ルーカスの命を受けて、兵士達が村人達を掻き分けて、その倒れた村人に詰め寄ってくる。


「何すんだ! すぐ医者に……がはっ!?」


 止めようとした村人を、まるで石を打つように、平然と蹴り飛ばす。金属製の具足で顔面を蹴られた彼は、顔が半分潰れ、鼻血を垂れ流しながら、先の村人同様に踞る。

 そして王国兵達が、先にやられた感電した村人を、足を掴み乱暴に引き摺り、ルーカスの前に突き出した。その彼をルーカス達が王国兵が、汚物を見るような不快な顔で見下ろしている。


「全く信じられん! 女神ロアを嘘だと!? このような心の汚れた者が、この平穏な村に巣くっているとは! 私がわざわざこの村に出向いてきたのは正解だったようだ。ここでまだ積んでない悪の芽を見つけたのだからな……。皆の者安心しろ! この村の汚点であり、村に危険を呼び込むこの者は、この私がここで裁断しよう! 勿論この村に、この者のような、王国に全てを捧げることができない汚物が、これ以上巣くってはおるまいな!」


 熱烈に、そして村人達を嘲笑うような口調で、再演説するルーカス。その言葉に誰一人反論する者はいなかった。ただ無言で、恐怖に震えながら頷いている。


「見たかこの外道! この村で、国に我が命を捧げられない愚か者は、お前一人だったぞ! 皆喜んで、この国に全てを捧げて死ぬことを了承している! 最も、お前のような外道には、どれだけ熱意ある説法をしても、己の罪を認めることなどできないだろうな!」


 ノリノリで倒れて動けない村人を、説法とは言えない罵倒を繰り広げるルーカス。隣にいた騎士が、剣を抜いて彼に刃先を向けようとするが。


「待て、まだ殺すな!」


 慌てて制止するルーカス。それに部下の騎士は、やや動揺する。


「何故です! このような外道はすぐに処刑すべき……」

「すぐでは駄目なのだ! まず最初は足だ。次に手を斬れ! なるべく最初は、急所を外してこのものを斬れ! この外道には、可能な限り痛み苦しんで死んでくれねばな! 現世で大きく苦痛を味わいながら死ねば、地獄に堕ちたときの罰が、少しは軽減されるだろう! これはこの者に対する、私からの精一杯の慈悲である!」

「さすがルーカス様! このような外道にまで、僅かでも慈悲をくれるとは、何とお優しい……」


 そう熱烈な台詞を、ほくそ笑みながら語らう騎士達。騎士は剣先を、村人の首から、彼の右足に向き直す。

 そしてそこに向かって、剣が振り下ろされようとした。これから起きる多くの血が流れる拷問に、村人達が一斉に目を背けた……


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