第十八話 初ダメージ
「ええ・・・・・・この醜い化け物が魔人よ。もしかしてもう別のに会ったの? しかし何て強さの邪気なのかしら、こいつ・・・・・・」
「そうなのか? 俺には醜いかどうかも判らん。呼吸音が変なの以外じゃ、人間が立っているようにか感じないな」
ラチルが少し敵に気押しされた風で、対称的に勝太郎は特に動揺せず楽観的な様子で会話をしている。
そして近くにいたウィリアムは、何とも青ざめた様子で驚愕していた。
「ルーカス様・・・・・・これはどういうことですか? その魔人・・・・・・今あなたが召喚したように見えますけど?」
その悲観に満ちた問いに、ルーカスはただめんどくさそうに舌打ちする。
「面倒な奴だな・・・・・・ここに来てまだ判らないのか? さっきその女が言ったとおりだよ。この餓鬼が・・・・・・今まであんな下手くそな芝居に、よく疑いもせずに従ってくれるから便利だと思ったが・・・・・・ここまで行くと邪魔なだけだな。もうお芝居は終わりだ、お前は首だ、このポンコツ聖者が!」
これまでウィリアムの上司として、そしてまるで父親のように彼に優しく接してきたルーカス。だが今の彼の、吐き捨てるような態度に、ウィリアムは絶望しきっていた。
最もそんな彼の心情は、彼のこれまでの暮らしを見たことがない勝太郎達(&読者)には、極めてどうでもいいことで、無感動な様子であったが・・・・・・
「おう・・・・・・どんな顔してるのか判らんが、すごいショック受けてるっぽいな。信じてた人に裏切られたって感じ? まあこれでもう面倒な説得はいらないな」
「ええ、そうね。向こうから全部話してくれて、こっちも手間が省けるわ」
ショックを受けているウィリアムの傍らで、少し喜んでいる風の二人。後はこの魔人とルーカスを倒せば、今回の件は片付く。
仕事が手早く進むのは結構なことで、早速勝太郎は、目の前の敵を倒すため、ウィリアムの脇を通り抜けて、その魔人と対峙した。
「グルルルッ~~~!」
猛獣のような唸り声を上げて、斧を小刻みに振るわせながら、目の前の勝太郎を睨み付ける魔人。その傍らにいるルーカスは、この魔人を喚びだして、随分と余裕の表情で勝太郎を見やる。
「さっきボロ負けして逃げ帰った奴が、随分と落ち着いてるなって、思ったら、理由はこれか?」
「おおっ、そうとも! このオーガ型三式魔人は、僅か十日前に大神殿で新開発された、最強格の魔人よ! 貴様がどれだけ頑強な肉体を有していようと、これには敵わんよ! さあやれオーガ! こいつを影も形もなくミンチにしてやれ!」
「グオオオオオオーーー!」
さっきまで興奮気味に身体を震わせて、暴れたいのを我慢した風の魔人。だがここでルーカスから命令を受けて、その興奮が一気に解放された。
狼すら逃げ出すほどの唸り声は、隣の村まで聞こえてきそうだ。そして持っていた二つの斧の内の一つ、右手の武器を、勝太郎に向かって横薙ぎに振るった。
「無駄だ無駄だ・・・・・・そんな魔法の力も宿ってない武器で、俺を倒そうなんて・・・・・・ぐほっ!?」
ドン!
魔人の持つ巨大な刃が、勝太郎の小さな身体を、思いっきり斬りつけた。いやこれは打ったと呼んだ方がいいだろうか?
巨体と豪腕で繰り出された斬撃が、彼の胸の辺りを横向きに直撃。そしてその強大なパワーで、勝太郎の身体が、風船人形のように軽々と、そして野球ボールのように勢いよく吹き飛ばされていった。
(あっ・・・・・・)
飛んでいく勝太郎の身体が、ラチルのすぐ脇を通っていった。その高速で飛んだ風圧で、ラチルの髪の毛が揺れる。
そして勝太郎は、その背後にあった教会の壁に激突した。
ドン! ガラガラガラ!
二度目の轟音。教会の石造りの壁に直撃した勝太郎。
その直撃部位の壁は、まるで包装箱のように簡単にぶち破られ、勝太郎の身体が砲弾のように壁を突き抜けて、教会の中に飛び込んでいった。
その後で聞こえてきた音は、中にある机や椅子が壊れた音であろうか?
「教会が・・・・・・」
そう呟くウィリアムは何を思っていただろうか? 元々もボロボロだった教会の壁に、見事な風穴が空き、砕けた石材と塗料が霧となって辺りを漂う。
中に突入した勝太郎はどうなったであろうか?
「ええと・・・・・・勝太郎?」
「うう・・・・・・」
まさかやられたのかと不安になったラチルが、教会に足を一歩踏み出したときに、中から机を押しのける音と共に、勝太郎の声が聞こえてきた。
すぐにその壁から、身体中すすだらけの勝太郎が、姿を現して来る。
「おおっ・・・・・・これがダメージを負う感覚か・・・・・・。結構きついわ・・・・・・」
先程斧の刃で叩かれた胸元を手で摩りながら、言葉の通り痛そうな様子の勝太郎。刃で叩かれた服は破れていないし、出血もない様子。
だが防弾チョッキの上から銃弾を浴びたように、彼の身体には結構な衝撃が通り、それなりの痛手を受けていたようであった。
今までどんな攻撃を浴びても、全くの無傷であった勝太郎。だがここで初めて、彼自身がダメージを与えられる敵が現れたのである。
「驚いたな・・・・・・あれを受けても、まだ痛いで済む程度なのか? あれは巨岩すら、紙のように簡単に斬る一撃だぞ・・・・・・。だが少しでも攻撃が通るのであれば問題ない! この私の勝利だ!」
「何これで勝った気なんだよ? ようは喰らわなきゃ良いんだろうが!」
勝利を確信して嘲笑うルーカスに、少し腹を立てた勝太郎。確かに痛手は受けたが、これ一発で戦闘に支障がある程のものではない。
そしてそれほどの攻撃を繰り出せる敵ならば、攻撃を避ければよいだけのこと。今までだって、練習目的で、敵の攻撃を避けることはしてきたのである。
勝太郎は教会の壁の穴から、前方飛びで外に勢いよく飛び出し、その場で勢いよく走り込む。馬より早い走力で、再びラチルのすぐ脇を通り抜け、また風圧で彼女の髪を揺らす。
即座に間合い近くに詰め寄り、勝太郎は魔人を睨み、拳を握りしめた。
「グルァ!」
魔人の斧が、真正面から突っ込んでくる勝太郎に、勢いよく振るわれた。勝太郎はその攻撃の直前に、瞬間的に急停止し、素早い身のこなしで右横に身体の位置を逸らす。
ドン!
右側の斧が、勝太郎の足を踏み込もうとした地面に、勢いよく直撃。地震が起きたかのような地響きと共に、斧はその畑の地面にめり込んだ。
いや、それどころか衝撃で、その箇所の地面が少し陥没。更に振り下ろされた斬撃の威力で、斧方向の地面に、地割れのような亀裂が十数メートルにわたって、一瞬で発生した。
しかも衝撃の風圧が、数十メートル先のラチルのいる所まで、緩やかながらも届いている。
(何なのあのとんでもないパワー!? ていうかあれを受けて、痛いで済む程度の勝太郎さんって、何者!?)
まるで空から小型ミサイルを撃ち込んだかのような、凄まじい威力。だが勝太郎は、その程度では怯まない。
彼にはあの小さな身体に、この魔人と同等以上の怪力を秘めているゆえに。
「おりゃあああっ!」
魔人が地面にめり込んだ斧を引き抜き、そしてもう片方の斧を振り下ろす前に、勝太郎の蹴りが魔人の片足に炸裂した。
今までも何度も行ってきた、足を潰して敵の動きを潰す手段。ただし今回は加減が違っている。
今までの敵では、人間を相手であったために、攻撃威力をかなり弱めていた。もし全力で蹴っていたら、敵は骨折どころじゃ済まない、足そのものが砲弾を受けたかのように、粉々に吹き飛んでいたであろう。
そして今回は、敵が魔物であり、そして自身に痛手を与えるほどの強敵。そのために、一切の加減なしの、全力の攻撃であった。
メリッ!
勝太郎がこの村に姿を現して以降、初めて本気で放った攻撃。その威力は、敵の身体に通じたようだ。
魔人の電柱のように太い足の踵が、反対方向に少し曲がっている。まるで紙筒のように、変形した魔人の足。
その変形の度合いは、外面からすれば僅かであるが、通常の人体破壊とすればかなりのもの。もしこれが人間であったら、骨も神経も、相当深刻な状態であろう。
「グゥウウウッ!」
だが魔人はその攻撃に一瞬で怯むが、転倒には至らない。少し曲がった右足を、数歩後退したが、すぐに臨戦態勢をとる。
しかも驚いたことに、その曲がった足が、まるでゴムのように元の形に戻っていく。
「ウガァアアアッ!」
「ううん!?」
再び振るわれる斧の攻撃。しかも一撃ではなく、さっきより威力を少し落とした斬撃を、複数回連続して繰り出す。
その連撃を、勝太郎は機敏に動いて躱していった。
(あんま効いてないのか!? なら今度は本気の本気!)
敵は怪力だが、速度と機敏性において、圧倒的に上である勝太郎には、回避など容易。もしかしたら純粋な腕力でも、この魔人より上かも知れない。
だがその攻撃を当てても、瞬間再生する敵は倒れない。勝太郎は拳を握りしめると、その拳が淡い青に光り出した。
あのディークの兵士が使っていた、武器に身体強化型の魔力=気功を、武器に纏わせた時と、全く同じものである。
実は勝太郎も、あの気功の力が使えたのである。今まで使わなかったのは、それを使うに値する敵が、今までいなかっため。
そして身体能力だけでなく、気功という特殊能力で、更に威力を増幅させた殴打が、魔人に繰り出された。
ゴスッ!
その殴打は魔人の股間部分、人間でいう人体急所の金的がある部分に、見事直撃した。
「グウッ!」
金的の弱点が魔人でも同じなのか知らないが、それに先程以上に魔人は怯んだ。それと同時に、勝太郎の拳と服が、泥状の何かで少し汚れる。
金的を殴った拳は、その部位にめり込んでいた。魔人の身体の一部が、肉が削ぎ落とされるように損壊し、砕けた欠片が泥状の物体になって飛び散る。
それが返り血を浴びるように、勝太郎の身体に付着したのである。
(うわっ! 何か汚いのがついた!? でも血の匂いがしないが・・・・・・)
勝太郎が即座に金的にめり込んだ拳を引き抜き、数メートル後方飛びして、魔人と距離を取る。
そして土を払うように手を振って、拳についた敵の欠片を跳ねようとする。だがその必要はないようであった。
(うん? 手から勝手に血がとれて・・・・・・うわっ!?)
何と先程金的を潰された魔人が、もう攻撃を繰り出してきたのだ。人間のように苦悶を上げたりもしない。
そして勝太郎が攻撃を避けている最中に、その魔人の身体に、明らかな変化が起きていた。何と破損した金的部分が、見る見る修復しているのだ。
砕け散った欠片も、自動でそっちに戻っている。勝太郎の身体に付着した欠片が、勝手にとれて、シャボン玉のように中を飛び、その破損箇所に接近・接触・吸収されていく。
そして先程の足と同様に、その砕けた金的は、あっというまに元の形に再生されてしまった。




