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第十七話 魔人

「何をする気だったか知らんが、させないぜ♫ ・・・・・・今回はこれでいいよな?」

「ええ、今回はいいわよ」


 敵が何をしようとしているかも知らずに攻撃した勝太郎。以前人質を間違って蹴った時のように間違いがないかどうか、ラチルに確認し、無事OKを貰っていた。


「てめえっ! やりやがったな!」

「上等だ! やっちまおうぜ!」

「おおうっ! でもあの女をやるのは、たっぷり犯してからな!」

「ひゃっはあ~~! やるぜやるぜ!」


 もはや軍隊と言うより、単なるならず者の集まりとしか思えない、王国兵団の言葉。彼らは一様に、下卑た目をそちらに向けている。


「なっ・・・・・・何なんですかこの人達? 何かいつも以上に、雰囲気が汚いような・・・・・・」


 国が吹聴する神聖なる軍隊からは、あまりにかけ離れた雰囲気に、ウィリアムはまたもや絶句していた。王国兵達は騎士団長の指示すら待たず、一斉に武器を持って、勝太郎に突撃してきた。


 その後の展開は・・・・・・正直あまりに単調で、いつもどおりの展開なので、詳しい説明は省こう。


 数分後にその荒らされた畑跡の大地には、大部隊の半数にも及ぶ、数百人の兵達が倒れ込んでいた。皆気絶、あるいは苦悶の声を上げながら、地面に俯せになっている。

 皆勝太郎に、殆ど相手にすらならず、撃退されていったのである。


「ひゃぁああああっーーー! 何だこの化け物は!?」

「にっ、逃げるぞ! こんな屑共と、心中なんてごめんだ!」


 残った兵達も一斉に逃げだした。撤退命令もなく、撤退とも呼べない好き勝手な逃亡。蜘蛛の子を散らすように、四方八方へいと逃げ去っていった。


「おいっ! お前ら、逃げるな! ・・・・・・くそっ、馬車を飛ばせ! 我々も逃げるぞ・・・・・・」


 ドン!


 馬車の窓から様子を見ていた騎士団長。すぐに自分も逃げようと指示を出すが、即座にそれは敵わなくなった。

 勝太郎が瞬足でその馬車に接近し、馬車の車輪を蹴り砕いたのである。片側を崩されて、勝太郎のいる側に傾き倒れ込む馬車。これに驚いた軍馬が、勝手に走り出す。

 車輪が壊れた馬車を、引き摺るように進む馬車。その速度は亀のようにのろい。そして勝太郎が、その馬車の御者の席に乗りこんだ。


「ちょっとま・・・・・・ふげっ!」


 手綱を引いていた御者を蹴り飛ばし、更に馬と馬車を繋いでいた、轅をへし折った。馬車の束縛から解放された軍馬が、そこから走り去り、畑を突き進み、彼方の林や草原へと姿を消していく。


「おうっ! お前が親玉か?」

「そうです! この人が騎士団長です! ではおさらば!」

「えっ!? おいっ!?」


 馬車の中に乗りこんだ勝太郎。御者の席から、馬車内の前席に、飛び込むようにして上がり込む。その中にいた護衛が、即座に騎士団長を売って、その場から逃げだしていく。

 騎士団長もそれを追って、馬車の扉から外に飛び出そうとするが、勝太郎に腕を掴まれて止められた。


「いてててっ、ぎゃああああーーー!」


 鉄塊すら握り潰せそうな握力で、腕を掴まれる騎士団長が叫び出す。そんな彼に勝太郎が、少し困った風に話しかけた。


「さて、捕まえたはいいが・・・・・・これからどうしようか? 俺の目的はあいつをラチルの元に送ることで、お前らを倒すことじゃなかったんだが・・・・・・」

「そうか・・・・・・だったら見逃してくれ! 何なら金だって払う!」


 呟くようなその言葉に、一時の救いを感じて、騎士団長はそう声を張り上げた。だがその次の一言が余計だった。


「欲しい分だけいくらでもやるよ! またそこら辺の村から、搾り取って・・・・・・ぎゃああああっ!」


 話しを最後まで聞かずして、更に握力を強めた勝太郎の行為に、また騎士団長は悲鳴を上げた。


「お前に遺恨はないが・・・・・・何かむかつくな。とりあえず、あの牢の時と同じく、少し“お仕置き”しておくか?」






 さて馬車の中で一仕事終えた勝太郎。早速ラチルの元に戻るが、そこではちょっとした騒ぎになっていた。


「何してんのよウィリアム君! そいつは・・・・・・」

「近づかないで下さい! 撃ちますよ!」


 いつの間にかラチルの腕を引き剥がしたらしいウィリアム。彼は今、ラチルと数メートルの距離で向き合い、彼女に右掌をかざしている。

 その掌からは、あの神聖魔法の魔法の光が、電球のようにうっすらと輝いている。彼はラチルに、攻撃魔法をいつでも撃てる体勢で、彼女に向き合っているのだ。

 そしてそのウィリアムのすぐ足下には、先程勝太郎に殴られて昏倒したルーカスがいた。


「ウィリアム君・・・・・・もうやめて。私はあなたの敵じゃない。ただあなたをこいつらから救いたくて・・・・・・」

「いいから黙って下さい!」


 右掌の魔法をラチルに向けた体勢で、彼はかがみ込み、倒れているルーカスの元に手を寄せる。そして左掌を、先程殴られたルーカスの腹に向けた。


「ヒール・・・・・・」


 そう静かに呟くウィリアム。左掌から魔法の白い光が放たれる。それはラチルに向けている攻撃魔法とは、少々雰囲気が違う、温かい太陽のような輝き。それは回復魔法であった。

 右掌で攻撃魔法の射撃体勢を、左掌で回復魔法をと、二手同時に魔法を行使しているウィリアム。だがやはり二つ同時は負担が大きいのか、ラチルに向けた攻撃魔法の光が、大分弱まっている。

 だがそれにラチルは何も言わずにいる。勝太郎もまた、黙って事の成り行きを見ていた。


「ごほっ・・・・・・ぐは・・・・・・」


 一分ほど回復魔法を当て続けたルーカス。その回復魔法の力が効いたのか、ルーカスが意識を取り戻し咳き込んだ。


「ルーカス様! ご無事ですか!?」

「ウィリアム・・・・・・ううっ・・・・・・はっ!?」


 倒れているルーカスを、心配そうに顔を寄せるウィリアム。目が覚めたルーカスが、倒れた姿勢のまま、周りを見渡すと、一帯にいる倒れた騎士・王国兵達の姿が、彼の目に飛び込んできた。


(結局全員やられたのか!? くそっ!)

「ルーカス様? ・・・・・・うわっ!?」


 その場でいきなり立ち上がるルーカス。少し足下がふらつかせながらも、強い意志の感じられる動きで、ある方向に早歩きで移動し始めた。


「ちょっと待って下さいルーカス様! 内臓に酷い損傷がありました! いくら治癒したとは言え、そうすぐに・・・・・・」

「黙れ! 邪魔だ!」


 体調宜しくない状態で歩き出すルーカスを、止めようとしたウィリアム。だがルーカスは、自分を気遣って止めようとする少年を、乱暴に蹴り飛ばした。

 腹を蹴られて、昏倒して地面に倒れるウィリアム。倒れる彼の顔は、痛みよりも困惑の感情が強いようである。


「あった・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・これさえあれば・・・・・・」


 ある地点である物を拾い上げたルーカス。それはついさっき彼が何かしようと取りだした、あの黒い球であった。


「何してるんだあいつ? 野菜でも盗んだか?」

「いえ・・・・・・拾ったのは野菜じゃなくて、さっきのあの球だわ。あれが何なのか知らないけど、この状況で今更・・・・・・」


 何かしようとしているルーカスに、勝太郎とラチルは、特に動揺する様子はなく、黙って様子を見ている。

 既に勝利を確信しているためか、先程のように先手必勝で動いたりはせず、かなり余裕の様子である。


「はああああっ・・・・・・はあっ!」


 ルーカスは黒い球を手に持ち、何か妙な掛け声を上げた。その行動の意味を、ラチルはすぐに分かった。


(球に自分の魔力を注いでいる? じゃああれは何かの魔道具?)


 そして彼は、その黒い球を放り投げた。一瞬手榴弾かと勝太郎は身構えた。だがそれはルーカスのすぐ足下に、叩きつけるように放られる。

 ルーカスの足下から、勝太郎達のいる方角目掛けて、コロコロと数メートルほど転がっていく。不発かと思いきや、その球の様子が、急変した。突如その球が溶けたのである。

 球状の形だった物が、不定の液状の物になって、その地面に水溜まりのように広がっていく。そしてその溶けた液体が、急に増量・膨張し始めたのだ。


「これは!?」

「何だ? 何が起きてる?」


 その液体は数メートルほど広がり、そしてアメーバのように液状態の形を変え始めた。

 水溜まりのように広がっていた物が、急に一カ所に集まり、何かの形をなす。そしてその形は、ぐんぐんと変形し、それは動く人型の物体に変形した。


「何か人型の何かが出てきたみたいだが・・・・・・それに動いてる? 誰か転移でもしたのか?」

「転移じゃないわ。ルーカスが投げた変なものが人に・・・・・・いえ魔人になったのよ!」


 この現象を視認できない勝太郎に、ラチルが傍らからそう説明する。ルーカスが投げた謎の黒い球。それが今、魔物に姿を変えたのである。


 身長は二メートルをちょっと越えた辺りで、人間と比べるとかなり大柄である。

 足にはブーツ状の何かを履いているようだが、それ以外は完全に丸裸の状態。プロレスラーのように、屈強そうな太い体つきだ。

 そいつの皮膚は、全身が濃い紫色のゴムのような質感の表皮に覆われている。

 頭には後ろ向きに伸びている、灰色の髪が生えている。

 そして顔の口には、口裂け女のように頬がなく、口の中が丸見えになっている。その口内には、まるで鰐や鮫のような、鋭い犬歯が、鋸のようにずらりと生えている。


 そして顔の小さな鼻の上に、巨大な目がついていた。ただしそれは一つだけ。顔の中央にある一つ目小僧のような目。その大きさは、顔の比率的に、人間の倍ぐらいはありそうだ。

 睫などはない、ギョロリとした一つ目が、近くにいる勝太郎を見下ろしている。その目には、眼球を守るための防具なのか、透明な膜で包まれていた。

 ヘルメットのバイザーのような、透明な薄い物体が、その目玉含めた顔の上部分を包み込んでいる。


 そしてその上の頭部には、水牛のような大きな角が生えている。その色も肌と同じ紫色で、角と言うよりこれは、頭の一部が変形してできた突起に見える。


 明らかに人間とは異なる特徴を持ったこの大男。そいつは服を着ていないが、武器は持っていた。

 両手に一つずつある、片手に持てるサイズの戦斧。鉞のような形状の片刃の斧は、刃も柄も、全体がこの大男の皮膚と同じ、濃い紫色であった。

 刃にも金属的な輝きは一切ない。これは武器と言うより、この大男の身体の一部のように見える。


「そういえば前にあったのと同じで、こいつも呼吸音が変だな。これが魔人か・・・・・・」


 その大男は、今現在このディーク神聖王国全土を、国の圧政とは別方面で苦しめている化け物=魔人の一種に違いなかった。

 ちなみにウィリアムと会う直前に、勝太郎が戦った魔人は、これよりも遥かに小柄で、体色は黒色の、雑魚魔人であった。

 だがここにいる魔人は、見た目の雰囲気も、放たれる邪悪な気配も、それとは格段に強い。かなりの力を持った魔人であることがうかがい知れた。


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