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第十六話 二人の聖者

「何よあれ・・・・・・勝太郎さんはどうしたのよ?」


 村から少し離れた位置にある教会。間抜けにも王国兵は、その朽ち果てた教会に、捜索を行っていなかった。

 そしてその教会の、外側から石で壊された窓から、中にいたラチルが、外の様子を見て驚愕していた。ここからはかなり遠いが、数百の兵団らしき集団が、村の前に布陣しているのが、こちらからでも見えていた。


(まさか入れ違い? それともまさかまだ林の中で迷子? ・・・・・・まあこっちも、こんなに早く、敵がこっちに来るなんて思ってなかったけど。幸い敵はこっちに気づいていないし、ここは少しの間隠れて、逃げる隙を窺って・・・・・・)

「お~~い、ラチル! お前の言うとおり、ウィリアムを連れてきたぞ~~!」


 逃走の手段を考えるラチル。だがその思考を全て台無しにする陽気な声が、この教会のみならず、周辺の畑一帯に鳴り響いた。

 もしかしたら村の方にまで、声が届いたかも知れなかった。






「おい! 今の声、聞いたか!?」

「ああラチルに・・・・・・ウィリアム様の名前まで出たぞ。どうなってる!?」

「声がしたのは教会の方か? ルーカス様の言うとおりだ! あいつらこんな簡単な見落としをしやがって・・・・・・」


 その声を聞いた王国兵達が、手早く騎士団長にこのことを報告する。周囲の村に一度分隊しかけた部隊は、すぐにまた編成をやり直し、村の教会を進んでいった。






「ちょっと勝太郎さん! 何あんな大きな声で・・・・・・敵に気づかれちゃったじゃないの!」

「敵? どこに敵がいるんだ?」

「あそこよあそこ! 見れば判るでしょ!」

「うん? ああそういえばそんな話しだったな。あの沢山の足音は、村人じゃなくて軍隊か・・・・・・」

「ええ、そうよ! あなたあれ全部倒せる?」

「ああ、問題ない」

「そう、ならいいわ」


 壊れた教会の扉の前で、焦りまくって勝太郎に叫ぶラチル。一方の勝太郎の方は、一応敵軍がこっちに来ていることは知っていたが、任務成功の安堵からか、もうこの時になって忘れていた。

 それだけ彼にとっては、関心事の薄いことだったのか・・・・・・? そして最初は慌てていたラチルだが、何故か勝太郎の返答一つで、あっさりと落ち着いた。


「あのあなたは・・・・・・?」


 彼に手を引かれて、ここに連れてこられたウィリアム。立て続けに事件と新事実を突きつけられ、そして何故か見知らぬ土地に連れられて、見知らぬ女と会わされた彼は、まだ困惑から抜けきっていなかった。


「えっ・・・・・・ああ、君がウィリアム君ね! 会いたかったわ!」


 ウィリアムの声を聞いて、我を取り戻したラチル。急に笑顔に変わり、ウィリアムの手を握って、歓迎的に手を振っている。

 まるで兄妹のような外観だが、彼らの会話を聞く限りでは、二人は初対面であるようだ。


「私はラチル・パイパーよ! あなたと同じ、元ディーク神聖王国ロア教司祭で、聖者なんて地位にいたわ! いきなりこんな所に連れてきて悪かったわ・・・・・・。この勝太郎さんに頼んで、ウィリアム君を砦から救出するよう、私が頼んだの!」

「頼んだ・・・・・・? 何からです?」

「えっ? ああ・・・・・・まだ何も気づいてないのね。それはね、もう君をロア教なんてインチキ宗教に利用されないためよ! はっきり言わせてもらうけど、あいつらが言ってたこと・・・・・・ディーク神聖王国が、ロアの名の下に、世界の平和を守ってるとか・・・・・・その話しは全部嘘よ! むしろ全く逆! 奴らは野蛮な殺戮者で侵略者よ! 魔人だって、元々はあいつらが作った兵器! 今まで私らがしてきたことは、全部権威付けのための三文芝居よ! もう何もかも全部嘘よ!」


 早口で次から次へと、彼に己の知る事実を突きつけるラチル。だが立て続けに語られる言葉に、ウィリアムはすぐに話しを受け入れたわけではないようだ。


「何言ってるんですか! 副長様もあなたも・・・・・・おかしなことを・・・・・・。魔人がこの国の民を襲っているのは、私だって見ました! 何故あんな汚れたものを、王国が作ると言うんです!」

「だから言ったでしょ! あれは全部、教会の英雄を作るための、お芝居なのよ! いや最初はそうだけど、今は違うんだっけ? 確か途中で魔人を制御しきれなくなって、国中に魔人が好き勝手に動いて、それで駆除してるんだったわ。でも結局全部、これは王国が招いた・・・・・・」

「そんな話し信じられますか! いきなり知らない人に会わせられたと思ったら、そんな無茶苦茶なこと・・・・・・。ではその話が作り話でないと、どうやって証明しますか!? 何か私に納得できるような証拠でも出せるんですか!?」

「証拠なんていくらでもあるわよ! ディークのインチキはもう、国中の奴ら皆知ってるわ! 知らないのはあんたら現役聖者だけよ! 信じられないなら、そこら辺の奴らに好きなだけ聞いて・・・・・・」

「あのさ・・・・・・熱く答弁してるところ悪いが、敵の足音がもうすぐそこまで聞こえてるぞ?」


 二人が興奮して喋りあっている中、最後に冷静な口調で放たれた勝太郎の言葉。その言葉で、二人は我に返る。

 彼の前には既に、あの大部隊がもうこちらからでも、すぐに見えるところまで、接近していた。この大部隊の行進で、進路にあった作物はもう滅茶苦茶である。


「あれは騎士団・・・・・・」

「ちょっと!?」


 騎士団の姿に気づくと、ウィリアムは少し安堵した風で、そちらに走り出した。ラチルが止めようとするのを避けて、彼はその騎士団の方に向かっていくが。


「おい餓鬼がいるぞ! どうするよ殺すか!?」

「いや殺すのは駄目だ! 奴隷市場でそれなりに売れる!」

「じゃあ生け捕りかよつまんね・・・・・・あれ? あの服装は?」


 先頭にいた王国兵が、そんなウィリアムを見て、そんな物騒な会話をしていた。そしてその会話は、ばっちりウィリアムにも聞こえている。


「えっ・・・・・・? 奴隷?」


 聞こえてきた声に違和感を覚えて立ち止まるウィリアム。彼が今まで学んできた教会の教えでは、女神ロアの元では奴隷制度は禁止されているはずであった。

 だがその会話を、近くにいる王国兵の服を着た者がしているのである。


「全隊止まれ!」

「ウィリアム様・・・・・・やはりここに来ていましたか」


 ウィリアムの存在に気づいて、即座に停止する部隊。先頭近くにいる馬車の窓から、ルーカスが顔を覗かせて、彼の姿を見て少し動揺している。


「ウィリアム君! 駄目よ、そっちに言っちゃ駄目!」


 後ろから追ってきたラチルが、立ち止まったウィリアムに、ようやく追いついた。

 彼女の横には、勝太郎も共にいる。ウィリアムの元に辿り着いたラチルと勝太郎。

 目の前には、以前の十倍以上の数の、ディークの軍隊。普通ならば危機的状況であるが、以前と違ってラチルは全く恐れている風はない。今の彼女は、誰よりも強い味方が、傍にいるからである。


「うわっ、何を!?」

「いいからこっちに来て! あいつらから離れなさい!」


 ウィリアムを羽交い締めにして、部隊から距離を取るラチル。彼女たちは勝太郎の背後に回っていた。

 そして敵部隊の方も動きがある。馬車からルーカスが出てきて、部隊の前に出て、勝太郎達と向き合う。


「また会ったな、アマテラスのサムライ! 大体八時間ぶりか?」

「うん? そうだな・・・・・・もしかしてさっき俺が足を折って治した奴か?」


 さっきは圧倒的な実力差で任された相手に、何故かルーカスは余裕の表情。以前との兵力の差からの余裕であろうか?


「しかし何故ここにウィリアム様がいるのですか? お前が連れ出したのか?」

「ああ、そうだ。俺が誘拐した。どうもこれが善行らしいからな」

「善行? 何故そうなる? ウィリアム様達聖者の方々は、この国の脅威である魔人を駆除するのに必要な人材。そのために働かせているのを、非難される謂われはない。お前はただ、この国を救うための活動を邪魔しているだけにしか見えないが?」

「魔人の事はよく知らん。俺もまだこの国に来てから、一日も経ってないしな。まあこの国の後ろ暗い話しは、少し囓るぐらいは聞いていたが。少なくともあんたら善人でないことは、もう嫌になるぐらい判ったよ。そっち方面じゃ、お前よりもこっちのラチルの話しの方が、まだ信用できる。だからこいつを、お前らの手から引き離す話しにものった」


 ラチルが言ったとおりに、この国の王政府及び教会が、悪である証拠など、いくらでもある。状況的に、彼らと友好的に触れる理由などない。


「随分正義感熱いな・・・・・・これがアマテラスの武士道か?」

「いや“罪”の償いのためだ・・・・・・もう無駄話はよそうぜ。来るならさっさと来いよ」


 もう話すことはないと、彼は指を振って、挑発の動作を取る。するとルーカスが、懐から何かを取りだした。


「サムライよ・・・・・・これが何だか判るか?」

「いや、判らん。何か武器でも出したのか?」

「ああ、そうか。お前には見えないんだったな」


 ルーカスが取りだしたのは、野球ボールほどの大きさの、不思議な球状の物体。表面は黒く、艶のある物体で、黒い真珠という表現が似合いそうである。 

 その謎の物体を見せたときに、何故か勝太郎の背後に隠れている、ラチルとウィリアムが、恐れ震える反応を示していた。


「何あれ? 何かすごい嫌な感じなんだけど?」

「これは・・・・・・魔人の気配? ルーカス様、それはいったい?」


 今まで黙っていたウィリアムも、これを見てルーカスに問いかける。だがルーカスは、それに答えない。彼はその謎の黒い球を振りかざすと・・・・・・


「ぐほっ!?」


 何かする前に勝太郎に蹴り倒された。瞬足で間合いに詰めた勝太郎が、一瞬でルーカスの腹を拳で殴ったのである。

 口から気持ちのよくない液体を噴出し、ルーカスは後ろ向きに倒れ込む。

 彼が手に持っていた黒い球体は、そのままボールのように畑の中を転がり、何も引き起こさなかった。


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