第十五話 裁きの進軍
「おい! ここの親玉の部屋はどこにある!? 場所を教えろ!」
「えっ!? ええと・・・・・・あの張り紙に書いてある矢印の・・・・・・」
「そんなもん判るか! 俺は見えないんだ!」
「ああ、そうでした! じゃああっちの方向に・・・・・・」
目隠ししている彼には、張り紙の有無も、それに書いてある文字・模様も何一つ判らない。ただし反響定位で、ウィリアムがどこを指差しているのかは、大体判った。
ウィリアムは、先程の件が衝撃的だったのか、勝太郎の指示に一切反抗せずに、黙って付き従っている。
「なっ、何だ!? まさかこいつが・・・・・・」
「まっ、待て! ここから先は・・・・・・ぎゃあっ!」
砦内を駆け巡る度に、バッタリ遭遇した、哀れな王国兵達が薙ぎ倒される。ウィリアムを抱えた状態でも、彼は何の問題もなく、敵を撃退していく。
かかってくる敵は全て倒す。逃げる者は面倒なら見逃すが、近い距離にいた場合は、とりあえず逃げる背中から追撃してぶち倒した。
「しかしえらい人の気配が少ないな・・・・・・この砦はこの程度の人員なのか?」
「ええと、確か今日は・・・・・・あっ! ここが団長の部屋です!」
どうやらもう目的に着いたらしい。そこで足を止める勝太郎。彼の前には、通路のない行き止まりがある。
彼にはそこが壁なのか扉なのか、すぐには判らなかったが、ドアノブがあるのを感知できたので、それが扉だと判った。
勝太郎はウィリアムを抱いたまま、そのドアノブを引いて、この砦の頭領である騎士団長室に突入した。
「失礼しま~~す!」
あれだけ砦内を乱暴に進んだというのに、何故かこの時だけ、丁寧に挨拶しながら、静かにドアノブを開ける勝太郎。
その中にある、成金趣味全開の悪趣味な部屋。だが幸いなことに、勝太郎はその部屋の全容を見ることなく済む。そしてその部屋の中にいるのは、たった一人の人間。
「お前がこの砦の騎士団長か? それとも掃除夫か?」
普通なら身なりで騎士の階級が大体判るが、勝太郎にはそれが判らないので、わざわざそう問いかける。その問いに、その気配の主は、割と冷静に、ゆっくりと答えた。
「いや・・・・・・私はここの副騎士団長で・・・・・・ぐあっ!?」
そして答えた瞬間に、その副騎士団長は、足を折られて倒れ込む。役職を言った直後の、瞬時の出来事であった。
「ちょっと・・・・・・何やってるんですか!?」
「うん? いや、敵ならとりあえずすぐぶっ飛ばしておけば良いだろう?」
蹴りつけた犯人は、ウィリアムの言葉に、何が間違っているのかと、実に不服そうに答えていた。
「ああ、副長様! 申し訳ありません! 私は負けて・・・・・・」
「いや、いいのだ・・・・・・この程度のこと、私が今までしたことを見れば、僅かな償いにもならん・・・・・・」
ウィリアムは慌てて副騎士団長の元に駆け寄り、回復魔法をかける。だが勝太郎の治癒と違って、骨折のような重傷は、そうすぐには治せない。
そしてその彼は、このような仕打ちを受けたというのに、何の怒りも見せずに、何か悟りきったような静かな口調である。
「償い? 何をおっしゃって・・・・・・?」
「すまない・・・・・・今まで私は、君のことを騙していた・・・・・・。だが今はそのことを話している暇はない! アマテラスのサムライ様・・・・・・お願いがあり・・・・・・」
「えっ? やだよ、お前らの頼みなんぞ」
「聞いて下さい! 今は一刻の猶予もないのです! もうじきアラン村が、騎士団の襲撃にあって皆殺しにされてしまいます!」
ばっさり請願を拒否する勝太郎に、力強く現状を口にする副団長。その言葉に、勝太郎もやや反応したようだ。むしろ彼の元にいる、ウィリアムの反応が大きかったが。
「アラン村? 確かそれって、勝太郎さんから騎士団が救ったっていう・・・・・・・?」
「違う! 事実は全くの逆だ! 領主からの直々の命で、この方共々、村の虐殺を命じられた! それでこの砦は、半数以上の兵をそっちに送り込んだんだ! もう村に着いたかどうかは判らないが・・・・・・。だがこのままだと手遅れになる! 頼む! もうこれ以上我々に罪を犯させないでくれ!」
必死な声で勝太郎に懇願する副団長。勝太郎はその言葉に、あまり慌てる様子もなく、倒れている副団長に問いかける。
「随分あっさりとぶっちゃけるな? 俺はこいつを連れ出すためにここに来たがよ・・・・・・王国のことを信じ切っているこいつを、どうやって説得するか悩んでた所なんだが・・・・・・あまりうまく話しを進みすぎてるな。今まで随分苦労して、こいつを騙し続けていたのに、こんな簡単にネタバラシしていいのかい?」
「私だって、好きで騙していた訳じゃない・・・・・・。それに・・・・・・いつまでも騙せるわけがないんだ。この国が世界の平和を支えているなんて・・・・・・あんな無茶苦茶な嘘は・・・・・・。王国の語る平和論と、現実の国内の違いは、外の世界を見れば、すぐに判る。この子はまだ幼いためか、まだその違和感に気づいていないようだったが・・・・・・ラチル様ぐらいの方になると、すぐに見抜かれてしまう。もうお終いなんだ、この国は・・・・・・富も信頼も、もう全てを失っていることに、未だに気づいていないほど愚かな国だ・・・・・・」
先程言ったように、急を要する事態のためか、かなり早口でそう長く語る副団長。それに絶句しているのか、ウィリアムはまた黙り込んでしまった。恐らく彼の顔は、再度困惑した様子なのだろう。
「あの・・・・・・」
「判った、じゃあ行くか。あそこにはラチルもいるし、このままじゃ約束を果たせないしな」
今まで信じてきことが、もの凄い勢いで否定されていって、未だに話しに追いつけないウィリアム。彼がようやく何か口を開いたとき、それを遮るように、勝太郎が再度彼の手を引いてそう口にする。
「えっ、ええ・・・・・・では馬車まで案内を・・・・・・」
「その必要はない。一度行ったことがある場所なら、俺の術でどこにでもいける! じゃあいくぞ! 転移!」
彼がそこで、気功治癒とは違う、第二の術を行使した。その瞬間に、彼の周囲の気配が、一変する。
反響によって感じられる、周囲の物体が全て消えた。残っているのは、彼が手を引いている、ウィリアムの存在だけであった。
「えっ!? ここって!? まさか転移魔法!?」
またもや混乱しきっている様子のウィリアム。彼は先程から、驚きっぱなしだ。
周りにあった部屋の物体は全て消えた。それどころか周囲は、狭い屋内の部屋ではなくなっている。感じられるのは、周囲に生えている木々の反響と、土と草木の匂い。
これは彼の周りの物体が消えたのではない。彼らがあの場から消えたのである。勝太郎は転移魔法で、あの砦の部屋内から、このアラン村近くの林の中に、瞬間移動したのである。
さて場所はアラン村に戻る。先程勝太郎が通った、あの林の中の街道を、とある集団が突き進んでいる。
それはあの砦に駐留している、騎士・王国兵の一団である。数時間前にも、砦の一部隊が、馬車に乗ってこの道を通ったが、今回は桁が違う。
以前の十倍以上もの兵力が、この街道を通って、あのアラン村に直通していた。何十もの武装馬車の、無数の馬の足音と車輪音が、この静かな林の中の街道を、実に賑やかに騒がせる。
この喧騒に、林の中の鳥たちも、驚いてあちこちに飛び去っている。
その大部隊は、とうとうアラン村に到着した。大部隊が道の順路など無視して畑の中を突き進み、村人達が丹精込めて育てた作物を、ゴミ同然に踏みつぶしながら、その村の片方向を囲うように展開していく。
いつでも村を攻め込める体勢で隊列を組み、そこで一時進軍を停止する部隊。斥候として、十数人の武装した王国兵達が、村の中に踏み込んでくる。
斥候と言っても、最初から剣や槍などの武器を抜いており、すぐにでも村人を虐殺しようという雰囲気である。
「おい! 誰もいないのか!? あのアマテラスのサムライはどこだ!?」
王国兵達の怒号が村内に鳴り響く。今この村は、異様な程静かであった。まさに人の気配一つ、それどころか家畜一頭もいない。
何人かの王国兵が、家のドアを蹴り破り、中を物色するが、やはり誰もいない。ただ騒がしく、家の中のものを壊す音が、村中に鳴り響いていた。
隠れられそうな倉庫なども調べたが、やはりそこにも誰もいない。倉庫の中は、物が殆ど残っておらず空っぽだった。村から逃げるときに、物資を全部持ち出したのか? それとも貧しさ故に、最初から物資が殆どなかったのかは不明である。
家畜がいる牛舎や鶏舎も、もぬけの空であった。ただ置き去りにされた牛糞や、卵の欠片が転がっているのみである。
村の中に誰もいないと知ると、斥候の王国兵達は、本体に戻っていった。その内の一人が、 部隊の中の馬車の一つに、事態を報告した。
「駄目です! やはり村には誰もいません! 恐らくは我らの裁きを恐れて、村から逃げ出したものかと・・・・・・」
その馬車の中で、窓越しに外から話しを聞くのは、この部隊を統括する騎士団長。この報告を聞いて、少し彼は考え込む。
「そうか・・・・・・さすがに低能な下民でも、逃げを打つだけの知恵はあるか・・・・・・。だが最初にルーカスの部隊が撤退してから、そう時間は経っていないだろう? そう遠くにはいないはずだ」
「はっ! 恐らくは近隣の村々に、分散して避難したものかと・・・・・・すぐに周辺の集落を兵を送り、アラン村の者が逃げ込んでいないか、捜索を開始いたします!」
「いや・・・・・・いちいち探すのもめんどくさいだろう? 他の村人と混じってたら、見分けるのも難しいし。この場合、どっちの村人とか関係ない。この辺一帯の集落の人間を、残らず殺してしまおう。その方が手間が省けて、仕事が早く片付く」
騎士団長の軽く放たれた大虐殺発言。この言葉を聞いた半分の兵士が、動揺している。
「えっ・・・・・・いや、それは流石に・・・・・・此度の事件とは関係ない者まで裁くのは、どう考えたって裁定ではなく、ただの殺人・・・・・・」
「殺人ってお前な・・・・・・相手は只の平民だろう? そんなこといちいち気にするほどのものか? さっさと行け。それであのアマテラスのサムライが出てきたら、すぐにこっちに報告しろ。こちらの切り札を、早く見せつけたくて待ち遠しいわ」
この命令の後で、すぐに部隊は三つに分かれる指示が出される。この近辺にある三つの村を、即座に殲滅する命令も一緒にだ。
「おうおう、今日は随分と沢山狩るんだな! おっしゃあ、腕が鳴るぜ!」
「いる奴は全部殺さなきゃ駄目なのか? いい女がいたら、先に犯しちまっていいかな?」
「しかし全部殺せなんて、随分持ったいないな。村三つって言ったら、売り物になる餓鬼や女は、結構いるんじゃないのか?」
この残虐な命令に、三割程の兵士が、意気揚々と命令に従っている。つい最近まで、犯罪者として追われていたり、刑務所に入っていた者達から徴収された王国兵達。彼らは実に楽しそうである。
「狂ってる・・・・・・こいつらどうかしてる・・・・・・」
「よせ! そんな言葉、あいつらに聞かれたら・・・・・・」
「俺、もう逃げていいかな?」
残りの七割は、迷いと罪悪感で、苦心しながら、部隊編成の準備を始めていた。
「そういえばあの時村の者達が、ラチルが教会に泊まり込んでると言ってましたが、そっちは調べたのか?」
その時に共に同じ馬車にいたルーカスが、そう騎士団長に、今思い出したことを口にした。




