第十二話 監獄での逆襲
場所は変わって、砦からは少し離れた所にある大きな街。前に勝太郎が訪れた村々と、建物の建築様式は似ているが、大きさと数は段違いである。
アドレー砦と同レベルの壁で覆われた、城塞のような街。だが囲う広さは、アドレー砦を遙かに凌ぐ。その中にある街は、恐らくは数万人単位の人間が住んでいるであろう、かなり大型の集落である。
そしてその街の中心部に、一つの大きな洋館がある。無駄に広い草原に木々が植えられ、噴水付きの池まである。
その庭園の中にある、大型の教会のような洋館。そのいかにも金持ちが住んでいそうな洋館は、このアドレー地方を統括するものが住まう領主館である。
その領主館の中、砦の司令室に劣らない、豪華な装飾が施された部屋。そこの王様のような椅子に座る、この辺一帯の領土を統治する、クーソ・ピッグ領主。
彼の前には、あの通信映像が映し出されている。今回砦から、彼に報告しているのは、あの騎士団長ではない。恐らく彼に近い地位にいるであろう、若い騎士である。
彼はついさっき寄せられた報告に、困惑したような残念そうな、妙な顔をしていた。
「しかし変な話しだよな・・・・・・。その・・・・・・カツタロウとか言ったっけ? そいつの討伐に“切り札”を持って、大部隊を出したばっかりだぞ? そしたらそいつが、いきなり自分から砦にやってきて、もう捕まったなんてよ・・・・・・」
呆れた口調のピッグ。勝太郎のことは、砦に着いた直後に、もう存在が知られていた。
その謎の敵を討つために、人を出した後での出来事に、ウィリアムが彼をここに連れてきたのである。呆れかえったピッグに、伝令をしてきた騎士が、恐る恐る問いかける。
「あの・・・・・・その送り込んだルーカス中隊長の部隊に関しては、どうしましょう? 引き返すよう念話で命じますか?」
「ううん・・・・・・しかし折角出したのに、何もせずに帰らせるってのも、何か味気ないよな~~。とりあえず、まだ村にいるかも知れないラチルを捕まえて・・・・・・後の村人達は、全員殺してもらうとするか」
「なっ!? ちょっと・・・・・・!?」
まるで今日の夕食の話しをするかのように、軽い口調で発するピッグの言葉に、その女王国兵が絶句していた。
「ちょっと待ってください! 報告によれば、あのサムライはただ自己的に部隊と衝突しただけで、村人達が反乱を起こしたわけではないはずですよ!」
「いやだってね・・・・・・いちいちそういう裁定をするのもめんどくさいじゃねえか? だったら、全部纏めて綺麗に片付けて方が、こっちの仕事も楽だろ?」
「またそんなことを! それではまた領内で、税の取り口が減ってしまいますよ!」
「うん? そんな何をそんなに慌ててるんだ? 取り口が減ったなら、他の残ってる村の税を、その分上げればいいだけだろう? 大したことない、簡単な話じゃないか・・・・・・」
「馬鹿言わないで下さい! このようなこと、何度繰り返せば良いのですか!?」
立場も忘れて、責め立てるような口調の騎士。それにピッグは、ちょっと苛ついている様子である。
「何度って何だよ? 言ってみろよ?」
「この一連の、民に対する過度の税と懲罰です! こんなことを何度も繰り返したせいで、只でさえ地に落ちた王国の信頼が、ますます落ちてます! それどころか、民の大量死・大量国外逃亡で、どんどん国から人が消えているんですよ!? このままだと国から人がいなくなります! 税の取り口が完全になくなれば、最終的に困るのは、この王国そのものですよ!?」
必死に今の国の横暴の問題点を訴える騎士。だがそれもピッグには、小うるさい戯れ言でしかない様子。
「そうは言ってもな・・・・・・王政府が指示した分の税を集めるには、こうするしかないだろう? 我々だけ税を減らしたら、こっちの取り分が全部なくなってしまう。そもそも俺たちが、今のやり方を止めたからって、お前の心配事がどうなるわけでもないだろう?」
一応その言葉は事実であった。この領地での搾取がなくなったからといって、王国全土に広がる暴政が止むわけではない。
この領地は、王国全体から見れば、実に小さな田舎の土地の一つに過ぎないのである。
「僅か一年前にこの国は、植民地を全て失った上に、魔人共が国内を彷徨いて、国の収入源が大きく減ったからな。元の収入分を取るには、今残っている民から、税を多めにとるしかないし、仕方ないんじゃないのか? それにこれはいつまでも続くわけじゃない。資金を集め、軍を整えて、そしてその力で植民地を取り戻す・・・・・・。王政府のこの政治方針に、間違いはないと思うが?」
「それは・・・・・・しかしこんな無闇に民を死なせるようなやり方は・・・・・・第一、その植民地の奪還が間に合わなかったら、どうするんですか? そもそもその植民地の方だって、以前から限界近かったと聞きますし・・・・・・」
「ううん? それは大丈夫じゃないのか? だってここは神に愛された国だしな。何があったって、女神様のご加護でどうにかなるだろうし、別に問題ないだろ?」
「そんな無茶苦茶な・・・・・・」
「もううるさいよお前・・・・・・だったら私にでなく、王政府に直々に訴えたらどうだ? まあそんなことして、お前の命が無事に済むかは知らないけどな」
嘲笑うような領主の言葉に、騎士は何も言い返さなかった。もう話すことはないのか、この領主に失望したのか、無言で彼は領主館と砦を繋ぐ通信映像を切ってしまった。
「やれやれやっとうるさいのが消えたか・・・・・・さ~て、今日はどこの子のところに遊びに行こうかな~~♫」
さて場所は戻って、砦の地下牢。そこではあの村で起きた事件と、殆ど変わらない緊急事態が発生していた。
「うっ、うわあっ! こっちに来るな! ・・・・・・ひぎゃあっ!」
一人の王国兵が悲鳴を上げると、彼は折れ曲がった足で立ち上がることができず、痛みに悶絶して倒れ込む。
この地下牢内には、すでにそうして倒された王国兵が、十人以上転がっていた。
チャリ! チャリ!
(おっ・・・・・・これは便利じゃん。手錠をかけてくれたことには、ある意味感謝だな)
王国兵達を、次々と薙ぎ倒す中、彼が動く度に、手錠にかけられた手錠の千切れた鎖が、鈴のようにしきりに鳴り響いている。勝太郎は、その音から出る反響で、周囲の様子を素早く認識することができていた。
これまでのように足音を立てたり、手を叩いたりしなくても、勝手に音が鳴るので、今まで以上に戦いやすい状況であった。
「ちょっと、見なさい! こいつがどうなっ・・・・・・ぎゃあっ!」
囚人が入れられた檻の付近で叫んでいた兵士が、そこで足が折れたのとは別の悲鳴を上げた。それと同時に、大量の新鮮な血の臭いが、その付近に発生する。
何が起こったのかというと、どうも一人の王国兵が、囚人を人質にしようとしたらしい。
それに対し勝太郎は、倒した王国兵が持っていた剣を、素早く拾い上げて、そっちの方向に投擲したのだ。
今回は前のように、うっかり人質を攻撃するというミスは犯さない。今間違いなく、人質にとろうとした女のいる位置に、剣が命中する手応えがあった。
それと同時に発せられた悲鳴も、その女の声だったので、間違いはないだろう。
「冗談じゃねえ! こんな化け物、やってられるか!」
半数ほどの王国兵を倒した辺りで、残りの者達が一斉に逃げにかかった。
牢屋の広い廊下を走り出し、先程勝太郎が通った道。恐らくは上階の砦に続く階段の方向に、十人分の足音が向かっていくのが聞こえる。
「逃がすか、ばーか!」
去る者を見逃す慈悲は見せない勝太郎。彼はあの豹もびっくりの瞬足で、その王国兵達の背後まで接近する。そして背後から、彼らを次々と蹴り倒していった。
先程まで、捕らえられていた勝太郎を、見下した口調で、言葉で責め立てていた者達。だが今は形勢逆転、あっさりと勝太郎に見下ろされる状態である。
(しかしこいつら・・・・・・前に戦ったのより、ずっと弱くねえか?)
楽勝は以前の村の時と同じだが、手応えが若干違っていることに、不思議に思う勝太郎。
あの時の王国兵達は、気功を纏った特殊剣や、魔道士による魔法攻撃など、超常能力的な力で戦っていた。あの時の五十人ほどいた王国兵は、皆そういった特殊な力を持った、能力者の兵隊であった。
だが今回戦った、この二十人ほどの王国兵に、能力者は僅か二人しかいなかった。しかも使っている剣もナマクラで、勝太郎の身体に一撃与えただけで、腐った木棒のように、あっさりと折れてしまっていた。
(実はあの時村を攻めたのが精鋭で、能力者の兵は、実は全体でほんの少ししかいないのか? まあ別にいいか・・・・・・)
敵の戦力状況など、今はどうでもいいこと。勝太郎の足下にいる、立つこともできずに呻いている王国兵達に、相変わらず静かな口調で問いかける。
「おい・・・・・・さっき目が見えない奴はゴミとか言った奴と、それに呼応して笑った奴。大体五人いたと思うが、そいつは誰だ?」
あの時笑った者達の顔を、勝太郎は覚えていない。そもそも目隠ししているので、彼らの顔を、一回も見ていない。
そしてあの戦闘の混乱の中、それぞれ誰が誰だったか、判らなくなっていた。彼の質問の意図が判ったのか、数人が緊張で呼吸が強張る。そして一人が、慌てた口調で、返答してきた。
「こっ、こいつだ! ここの奴とこいつと・・・・・・」
必死で指を差して、その発言をしたとする者を名指しするその兵士。差された指を直接見ることはできないが、手錠鎖の反響で、その方向を読むことはできる。
だが生憎この場では、それを読む必要もなかったが・・・・・・
「いや本当に酷い奴らだ! こいつら昔からあんな風に言って囚人を苛めて、俺達はいつも罪の意識で苦しんでいたんだ! 全く信じられないぜ! こんな奴が、女神ロア様の名を・・・・・・」
「ていうか・・・・・・さっき言ったのお前だろ? 顔を判らなくても、声は覚えてるんだぜ?」
自分の発言を、他人になすりつけようとした事実を、あっさりと見抜かれて絶句する王国兵。だがすぐにまた苦しい言い訳を始めた。
「違うんだ! これはその・・・・・・さっき喉を痛めて声が変わっちまって・・・・・・。本当だ! さっき盲目の奴を馬鹿にしたのは・・・・・・」
「嘘つけ! お前さっき、図に乗って喋りまくってたじゃねえか!」
「罪で苦しんでたのは、私らの方よ! あのクソみたいな領主や、あんたらみたいな奴に従わされて・・・・・・おかげで私ら皆、世界の敵になっちゃったんじゃないの!」
「何を! 貴様らだって、文句言わずに従ってたじゃないか! お前らだって、本当は楽しんでたんだろうが!?」
その場で始まる、敗残兵達の言い争い。その言葉のやり取りで、誰と誰が、あの時の言葉を発したのか、勝太郎は大体判った。
「ええと・・・・・・さっき笑ってたのは、こいつとこいつと・・・・・・そしてさっき人質取ろうとして、俺が刺した奴で全部だよな?」
「「ひいっ!」」
正確に指を刺され、四人一同一斉に小さな悲鳴を上げる者達。どうやら大当たりだったようだ。
「ちっ、違う! 誤解だ! 俺たちだって、好きでやってたわけじゃないんだ! 全部騎士団長が・・・・・・」
「騙されるな! そいつらは今まで、好き放題に仲間を殺してきた! 俺はそれをずっと見てたぞ! あれのどこが好きでやったわけじゃないだ!」
後になって、王国兵とは別の者の声が、会話に参加してきた。
その声のした方角は、この地下牢の牢獄の一カ所。どうやら囚人の一人が、一部始終の会話を聞いて、意見してきたらしい。
「そいつはここに人を連れ込んでは、散々挑発して、皆の怒りをわざと買ってきたんだ! お前の子を、高く売ってやったとか! お前の妻を、楽しく犯してやったとか! そう言って、相手が怒りの声を上げては、それを反逆罪とか言って、散々拷問にかけて、屈辱と共に苦しむ姿を見て楽しんできた! 嘘じゃないぞ! そいつは正真正銘の外道だ!」
「ええっ、そうよ! そいつに私の子供は売られて、夫は散々痛めつけられて殺されたわ! そいつは悪魔よ! アマテラスのサムライ様! 早くそいつらを殺して!」
まだ声を上げる気力のあった囚人達が、一斉に王国兵達を糾弾し始める。その声の主は、皆年配のようであった。
今まで一言も逆らえなかった分、勝太郎が現れたことで、一気に感情が噴出したらしい。
「なんか皆、殺せ殺せと言ってるが・・・・・・」
「ひあっ、やめ・・・・・・」
「安心しろ・・・・・・殺しはまではしないよ。たださっきお前が言ってた、国の役に立てないゴミになってもらうがな」
そう言って、勝太郎は指先を鳴らし、その倒れ込んでいる王国兵に、手を近づける。そして・・・・・・その後どうなったかは、とりあえず伏せることとする。
これ書いてて思ったこと。現実で、金音で反響定位って可能なんだろうか?
まあこれは違うという意見が出ても、主人公は特別な感覚の持ち主と言うことで、納得してください。




