表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第10話 ジョアーキン伯爵領内異常あり -土塊魔獣イーヴァ登場-
71/80

第10話 ジョアーキン伯爵領内異常あり (Part1)

 それは、僕が自主訓練を終えて部屋に戻る時。


「ハイアット隊員」


 【流星の使徒】本部の廊下で、僕は呼び止められた。

 振り返ると、僕の目の前で、キリヤ副隊長が腕を組んで仁王立ちしている。

 表情は、とても険しかった。


「ここで、少し時間をとってもいいか」

「……はい、僕は大丈夫です」


 廊下には僕と副隊長以外、誰もいない。


「単刀直入に聞く、ハイアット、お前、人間じゃないだろう?」


 副隊長の声には、威圧感が込められていた。

 しばらく、沈黙が続いた。


「何故、そう思うの、ですか?」

「正直に言おう、まず、その回復能力だ、言うに及ばず常人ではありえん、何かきっかけがあったとはいえな、次にお前は不審な行動が多すぎる、いくら頑強とはいえ無謀な行動ばかりするじゃないか、そもそも、お前が我がギルドに入る前から奇妙な行動が多いのだよ、そしてだ……」


 副隊長が、一呼吸置いた。


「ルトラは、お前が出撃したときにしか出てこない……違うか?」

「……」

 

 僕はただ、副隊長の顔を黙って見るだけしか、できない。


「お前が出撃した時に必ずというわけではない、しかし、ルトラが現れるときには必ずお前が出撃してるのだ……さらに言えばルトラがいるときには、お前の姿が見当たらんのだ」

「……」

「ハッキリ言うが、お前とルトラとの間で何らかの関係があると私は確信している、故に知りたいのだ、お前がルトラにとっての良き者か悪しき者か、それとも……」


 副隊長はそこで言葉を切った……あえて。


 僕は、私は、答えることは、できなかった。

 そして、副隊長の表情は、変わらず険しい。


「なあ……お前は、本当は何者なんだ?」



 時は数日遡り、カトク国のネルガの村から伸びる道中にて。


 幌馬車が1台、それと人を乗せた馬が6頭、その周りに小さな猟犬が5頭が木々の間の道を進んでいる。幌馬車には狩りで仕留めた大人の身長よりも大きな牡鹿1頭と小鹿3頭。


「まことに、本日の狩猟は大成功であったな!」


 その先頭の馬にまたがる男が笑いながら大声を張った。男の姿は、灰色のオールバックの髪を除けば、青年と呼んでも差し支えない若々しさ。ガタイも良く、一見して腕の立つ戦士だとわかる。


「私もそう思います、当主殿、今回の獲物は子供共々よく肥えております」


 少し後ろ側についている、壮年の男が応える。


「うむ、今宵の夕餉が楽しみだな!」

「それに、彼奴等はここら一帯の麦を荒らしてた鹿共です、ネルガの村の者どもも喜んでおりましたな」

「そうであった!! いやあ、ああいうのを見るとやった甲斐があったというものだ!!」


 そう言って、当主と呼ばれた先頭の男がまた豪快に笑った。つられる様に周りの皆も声を上げて笑った。晴れた空に、騒がしい声が響く。


「……ん?」


 唐突に、当主の男が笑うのをやめ、前方をにらんだ。


 道の真ん中に、3人の鎧を着た兵士が武器をもって立っているのが見えた。


「皆の者、止まれ」


 当主の号令と共に、皆が歩むのをやめた。緊張感が、静寂を生む。


「当主殿、どうかされたので?」

「あれを見よ、まるで検問しているかのようだ」

「……確かに、この辺りはガボルの村、特に何かもめ事があったという話は、」


 壮年の男が話している最中だった。

 その3人の兵士がこちらに向かってきた。どこか、よたよたとした様子で走っている。


「ちょうどよいですな、何があったのか聞きましょうか、当主殿」

「……ああ」


 当主は、怪訝な表情を浮かべていた。

 3人の兵士は、1団のすぐ近くまで来ていた。周りの猟竜達が威嚇している。


「いやあ、皆さまお疲れ様、この辺りで何かあったのですか?」


 壮年の男が、前に出て兵士たちに声をかけた。


 その時。


 兵士の1人が、剣を振り上げた。


「いかん!!」


 当主が壮年の男の服を急いで引っ張った。それと同時に、剣が振り下ろされる。

 切っ先は、馬の側面をかすめた。馬は前足を振り上げ、嘶きがあたりに響く。馬の左肩部からは血。


「何だ貴様たちは!! この御方を誰と心得」


 やや中年の男が前に躍り出た瞬間、別の兵士が槍で一突き。槍の先は男の下腹へ。槍が抜けた瞬間、男はどさりと地面に落ち、乗っていた馬は怯えた声を上げて逃げ去った。


「誰か急いでそいつを拾え!! こいつら、話が通じんぞ!!」


 当主はそう言いながら、相手の剣撃を短剣で受け止める。

 その間にも、槍兵と残る1人の剣兵も当主に向かって武器を構えていた。そこに、猟竜達が牙を向けて飛びかかり、兵士達の手首にかみついた。だが、兵士たちは、それを何ともないかのように振り払うと、竜達の首を突き刺し、あるいは切り落とした。

 その間に、槍をさされた男は幌馬車の中に入れられた。


「救助完了しました!!」

「よし、道を引き返すぞ!!」


 当主はそう叫ぶと、兵士を蹴り飛ばし、馬を操って向きを変える。そしてひびができた短剣から、魔装銃へと持ち替えた。アタッチメントの色は緑。間髪入れずに引金を引く。

 弾は3人の兵士の足元へ。そこに魔法陣が広がり魔力の蔦が兵士達に絡みついた。

 兵士たちが絡めとられている間に、1団はその場から全速力で逃げ去った。


「当主殿、あいつらは一体……!?」

「さあな!! ただ一つわかったことがある!!」


 風を切る音に負けぬよう、当主は大声を張る。


「奴らは人間ではない!! 顔がなかった!!」

「何ですと!?」


 壮年の男が目を大きく開いた。


「通りで……」

「皆の者!! 我が城にはもどらんぞ!! 鹿共を手土産に、例の奴らの所に向かう!!」


 当主が後ろに振り返り、皆に聞こえるように叫ぶ。

 それを聞いて部下達も大きな声を張り上げる。


「承知しました!! ジョアーキン伯爵様!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ