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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第1話 蘇る神話 -鉱石魔獣アグルド登場-
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第1話 蘇る神話 (Part7)

 空一面に広がっていた光の粒子は集束し、塊になると、ゆっくりと形を変えながら地上に降り、重低音を立てて着地した。


 そして、その光が静かに消えた後、現したその姿に見る者全員が息をのんだ。

 怪物と同じぐらいの大きさの人間がそこに立っていた。


 頭から、指先、つま先に至るまで、白銀の薄い鎧を着ているようであり、その所々に赤い線の模様をあしらっていた。身体は細く、女性的に感じられた。頭からは橙に輝く、獅子のような長髪がのびていた。顔は口に当たる部分は見えず、両目部分にそれぞれ細長い平行四辺形の穴があり、その奥から黄金色の光が見えていた。


「神……なのか?」


 彗星01の中、アーマッジが呟いた。

 その直後、怪物が咆哮をあげ、彼の者に突っ込んだ。彼の者は怪物の頭を挟むようにして、真正面から受け止める。


「ドクマ、アーマッジ、一旦退くぞ!!」


 巻き添えを受けまいと、キリヤ達は急いでその場を離れた。


 巨人は、怪物を受け止めた状態から首根っこめがけて膝を数発打ち込み、更に顔面めがけて拳を振りぬいた。連撃に怪物の巨体がぐらついた。

 しかし、巨人の方に向くや否や、怪物は紫の炎を吐きつける。巨人はそれを側転するようにかわすと、右手から円盤状の光を怪物に投げた。

 怪物に当たるとそこから火花が上がった。跡には亀裂ができ、そこから青黒い煙が漏れ出ていた。一瞬、怪物はひるんだが、再び巨人に向かってとびかかり、巨人もそれを必死に受け止める。


 闘いの現場より離れた場所で、アヌエルがコミューナを起動させていた。


「こちらアヌエル、ムラーツ隊長、応答願います!!」

『こちら、ムラーツ、そっちで何が起こった』

「新たに未知の存在が現れました、先の怪物と同等の大きさの巨人です!!」

『未知の巨人……そいつは何をしているんだ?』

「現在、怪物と交戦しています!!」

『……そいつは幸いだな』


 ムラーツはにやりと笑うと、すべてのコミューナに通信をつなげた。


『諸君、一旦奴らの戦いの様子を見ておけ、チャンスがあれば先に出現した怪物を撃退せよ、その後、巨人がこちらと敵対するならば、そいつと戦闘だ……その時は私も前線にでる』


 ムラーツの指示に、6人が口をそろえて了解した。


 怪物の2度目の突進を受け止めてから、2体の膠着は続いていた。しかし、巨人が腰をひねりながら反らすと、怪物は円弧を描いて投げ飛ばされた。

 そのまま巨人は立ち上がると、右手に光をため、横に転がった怪物にたたき込む。雷が落ちたような音と共に、一際大きな火花が怪物の顔から上がった。更に、怪物の上にとびかかり、馬乗りになるとそのまま連続で殴りつけたあと、首根っこをもって頭を地面に叩きつけた。

 更に頭を叩きつけようとした瞬間、怪物の顔が巨人の方に向き、紫の炎を吐いた。正面から直撃し、巨人は怪物から離れ、もだえた。

 今度は逆に怪物が巨人に馬乗りになると、口を大きく開け、巨人の顎の部分からかみついた。

 ギリギリと何かが削れる音。巨人は怪物の上下両顎を持って、必死にこらえている。


 そこに1体のワイバーンが飛んできた。乗っているのはソカワだった。


「おらよ、さっきのお返しだ!!」


 魔装銃から1発、怪物の額に打ち込むと、着弾点に魔法陣が広がりそこから一瞬にして魔力でできたツタが無数に生えた。ひるんだ怪物の隙をみて、巨人は怪物を殴り飛ばし、距離をとる。


「まだまだお返しはあるよ!!イディ!!」

「おう!!」  


 フィジーとイディが旋回しながら現れると、イディが怪物の顔面に強酸入りの球を放った。怪物の顔が焼けただれる音がすると、間髪入れずフィジーが雷魔法の弾丸を連射した。


「3人とも無理をするな、すぐに離れろ!!」


 コミューナを通じて、キリヤが攻撃を加える3人に命じる。そこに馬に乗ったアヌエルが合流した。


「副隊長、無事でしたか!?」

「アヌエル、こっちは大丈夫だ、あいつらはもう元気なようだが……」

「目は完治しました、また、ホシノ隊員の式神も治癒しましたので、じき、現在の状況が隊長に伝わるものと思われます」

「そうか、ご苦労だった」

「副隊長、あの巨人は味方、なんでしょうか?」

「わからないな、今のところはそう見えるが……」


 怪物が3人に気が散っている隙に、巨人が両手を力強く握り、開くと、そこから光球が出てきた。巨人はその球を怪物に投げつけると、重たい衝撃音が辺りに鳴り響いた。更に巨人は次々と光球を放っていくと、波状攻撃に徐々に怪物は体中から青黒い煙を漏らしながら後ろに下がっていった。


「怪物が炸裂魔法陣に近づいてます!」

「よーし、そのままやっちまえ!!」


 アーマッジの報告を聞いて、ドクマが拳を突き出して叫んだ。それに応じるかのように、巨人は両手の光球を合わせ、一つの巨大な光球にして、怪物に向かって力強く投げつけた。先ほどまでと比べ物にならないほどの重低音が響き、怪物が魔法陣のラインに向かってよろめいた。


 そして怪物の体が魔法陣に到達した。


 その瞬間、まるで怪物の体を包むように爆音と黒煙があがった。その衝撃で、まるで跳ね返ったかのように怪物が転がってきた。怪物が停止すると先ほどと同じようにうずくまった。


「あれが来るぞっ、総員、閃光を直視しないよう態勢をとれ!!」


 怪物の様子をみたキリヤが急いでコミューナを通じて全員に指示する。すぐに地上にいた4人はゴーグルに遮光板を装着してかけて、乗り物としている獣と共に顔を伏せるようにしゃがみんだ。空中にいた3人もすぐさま地上に降りて同様にした。

 そしてまた、閃光が周囲を真っ白に染めた。


 光がおさまった。痛む目をこらえて、機動部隊の隊員達が顔を上げると、あの巨人の姿が消えていた。その場にいた者は皆、彼の姿を探した。機動隊員全員のコミューナが突然起動した。


『空からだ!』


 ムラーツの声を聞き、見上げると、ホシノの式神たちがいる高度よりもはるか高く、太陽を背にしたあの巨人がいた。

 巨人の右腕からは光の剣が真っすぐに伸びていた。巨人は怪物に向かって速度を上げて降下していき、一気に右腕を突き出した。

 そして、周りを揺るがすほどの地響きをたてて、巨人は着地した。右腕からの剣は深々と、怪物の真ん中を刺し貫き、怪物の口から黒い液体がドロドロと流れ出た。巨人が右腕を抜くと、そこから青黒の煙がまるで噴火したかのように勢いよく噴き出した。少し経つと、怪物は完全に力を失い、横に倒れた。


「目標の体温、魔力、減少中、生体反応が鈍化……目標の生命活動が完全に停止!!」


 彗星01の操縦席で、アーマッジは逸る気持ちを抑えきれぬ声で皆に伝えた。それを聞いてドクマと、離れた場所にいたイディがほぼ同時に握りこぶしを引いて、歓声を上げた。


「ちょっと、見てよ、あれ!」


 その時、怪物に起こった変化に向けて、フィジーは指さした。

 怪物は青黒の煙を噴出させたまま、徐々に、徐々に縮んでいった。怪物が小さくなるのに比例して、煙が噴出する勢いも小さくなっていった。そして、怪物の体を構成する結晶も砕けていき、怪物が吐き出した液体も気化し、その全てが風の中へ消えていった。

 残っていたのはあの巨人だけだった。


『総員、まだ油断するな、戦闘態勢をとれ』


 ムラーツの声を聞き、機動隊員全員がそれぞれの武器を構え、巨人を睨んだ。

 巨人はただ、その場に立ったまま、周りの様子を見るような仕草をしていた。時折、その金色の目が、機動隊員のそれぞれの視線に合わさったように見えた。

 

 突然だった。

 機動隊員の脳裏に言葉が浮かび上がった。まるで頭の中に直接、文字が飛び込んできたかのような錯覚に襲われ、機動部隊の7人は驚愕で武器を落とし、立ちすくんだ。


「私の名は……ルトラ……?」


 頭の中に入り込んだ言葉を、アヌエルは恐る恐る呟いた。

 巨人は、また光の塊へとその姿を変えると、そのまま霧散した。


「……行っちまったのか?」

「みたい……ですね」


 呆然としながら、ドクマとアーマッジは顔を見合わせた。そのそばでキリヤとアヌエルはじっと、巨人の立っていた場所を睨んでいた。


「ルトラ、か」


 イディは興味深げにその名を口に出した。


「はーあ、結局、なんだったのよアイツ」

「さあな」


 大きくため息をつくフィジーに対してソカワはどっかと寝ころびながら答えた。



「隊長、あの巨人、我々の味方なのでしょうか?それとも何かを企んでるんでしょうか?」

「わからんね、奴があの化け物を退治してくれた以外、わからんからな」

 【流星の使徒】本部で、ムラーツはホシノの問いに対して答えると、パイプをくわえ、火をつけた。

「ただ」


 ムラーツは口から煙を吐き、にやりと笑った。


「多分だが、あいつは我々の敵じゃないんじゃないかな?」



 戦いの場となった平原より少し離れた岩場。霧のような淡い光が、段々と集まっていく。弱々しい光が集まり、発光が収まった跡には、ディン・ハイアットが立っていた。

 ハイアットはふらふらとした足取りで、岩のそばによると、そのまま岩にもたれるように座り込んだ。彼の呼吸は随分と乱れ、彼の顎、あの巨人――ルトラが怪物に嚙みつかれたところと同じ箇所から、血が流れ落ちている。


「これが、限界、なのか……この体の……」


 息を切らせながら、ハイアットは天を仰いだ。空はやや赤みがかっていた。


「やはり、不完全だった、か……」


 そう言って、彼はそっと目を閉じた。



 平和な世界、だった。

 しかし、それは今やもろくも崩れ去ってしまった。その事を察した者は極僅かであった。

 この世界に生きる者たちはそれに抗えるのか。それは、神すら知りえぬ事だった。

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