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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第9話 サイ・ホシノ、参る -幻魔獣ホウラン登場-
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第9話 サイ・ホシノ、参る (Part1)

 森の小道は、真上に辿り着いた太陽からの木漏れ日が煌ている。

 本部の傍らの森、時々、ソカワ隊員とかドクマ隊員とかと鹿狩りに来るけど、改めて1人で来るとこの風景と音が改めて快く感じる。


 ……私も、随分と人間らしくなってきたのかな。


 そう考えながら歩いていると、程なく湖畔についた。

 気配を感じて、上を見上げた。


 真っ白な烏が数匹、よつばみたいな軌道で飛んでいる。

 その内1羽が、湖に向かって急降下すると、水面をかすめるようにして再び急上昇。足には魚が1匹。

 その魚をふわりと投げ出すと、もう1羽がすかさず嘴でとらえる。それを持ちながらしばらく滑空すると上空高く投げ出した。

 それをさらに3羽目が足でとらえると、また湖に急降下。そして水面についた瞬間に、そっと魚を離した。

 ……しまった、見とれてしまった。探さなくちゃ。


「ホシノ隊員、ホシノ隊員!!昼食の時間になりましたよー!!」


 大声を上げながら、僕は辺りを見渡した。大きな石の上に誰か座っている。

 ホシノ隊員だ。


「ホシノ隊員!!」


 すぐに僕は彼女に駆け寄る。ホシノ隊員は不思議な足の組み方で、目をつむりながら座っている。

 僕がホシノ隊員のそばまで来ると、空を飛んでいた烏たちが一斉にホシノ隊員の下に集まった。

 そして、烏たちが消えていくのと同時に、ホシノ隊員は目を開けた。


「おっと、すみませぬ、ハイアット隊員、わざわざ呼びに来ていただきまして」

「いえ、こちらこそ、邪魔してしまったみたいで」

「ふっふっふ、よろしいですよ、見とれていただいたみたいでございますから」

「あっ……」


 どうやら、式神の目から見られていたらしい。


「それでは食事に行きましょうぞ!」


 そういってホシノ隊員は石から降りると、駆け足で本部に向かっていった。

 僕も彼女を追いかけるように、本部に戻っていった。



 同じ日の真昼。

 クルガ国ディヌーズの森。

 1人の犬系獣人の男が木々を縫うように緩やかな傾斜を駆け下りている。


「ひいっ、ひいっ、誰か……誰か助けてくれぇ!!」


 男は必死の形相で叫んだ。森の中を叫びが木霊した。森には男の姿しか見えない。

 

 男の姿、しか。

 

 それでも、男は何かから逃げていた。時折、後ろに振り返りながら、悲鳴を上げながら、何も見えない空間を見ていた。止まることのできない脚をなんとか制御し、木々をかわしながら男は走り続ける。息は荒く、汗は止まらない。


「ひああっ!?」


 唐突に、男の後ろで唸り声がした。それは、地底から湧き上がってきたかのような、低く巨大な唸り声。

 その声を聞いた拍子に、男は脚をもつれさせて転倒した。体勢を立て直そうにも、気が動転して男は体勢をうまく立て直せず、焦りばかりがたまっていった。


「やだ……死にたくねぇ、死にたくねぇよぉ……!!」


 腰の抜けた男は、四つん這いになって懸命に逃げた。唸り声が、どんどん男に近づいていた。

 そして、唸り声が男の真後ろまで迫ってきた瞬間。


「ぎゃっ!!」

 

 男の腹部に大きな穴が開いた。そして、男は手足をジタバタさせながら空中に浮かび上がった。

 男の腹部から流れ出す血が、何も無いはずの空間に伝って落ちた……いや、その伝って言った部分はよく見ると、よく磨いた硝子のようなものがあった。

 その硝子のような、大きな楔のようなものが男の腹を刺し貫いていた。


「ああっ、嫌だ!! 嫌だっ!! だすげてくれええええええええ!! 死にだくねええええええ!!!」


 激痛に見舞われ、血を吐きながら、男は泣き叫ぶ。男はぐうんぐうんと空中で何かに振り回された。鳴りやまぬ唸り声は、どこか楽し気だった。

 そして、男はぴたりと静止した。

 

「嫌だっ、嫌だっ、嫌だああああああああああああ!!!!」


 男の目の前で、真っ黒な空間が広がった。



 パクリ。

 キノコの束を豚バラ肉で巻いてソテーしたものをホシノは食べた。喜びに満ちた表情で咀嚼すると、ごくりと喉に通した。


「うむ、やはりここの調理師は実に腕が立ちますな」


 満面の笑みを浮かべてホシノはハイアットは話しかけた。


「そう、ですね、僕もおいしいと思います」

「ふむ、ハイアット殿、その様子を見るに、なかなかに贅沢な舌でございますな」

「え、あ……そういう訳では、ないです」


 どうにも自分のすべき表情を間違えたことに気付き、ハイアットは顔を赤らめた。

 2人は【流星の使徒】本部の食堂……かつては城の大宴会場だった……で昼食をとっている最中だった。事実、食堂で調理を担当している者達は、本部がまだ「伯爵家の城」として機能していた時代より仕えている者が中心となっており、その料理の味は折り紙付きであった……といってもかつてのように見た目重視よりは栄養と量重視となったが。


 さて、話を食事をしている2人に戻す

 恥ずかしがるハイアットを見てホシノはクスクスと笑った。


「まぁまぁ、舌が肥えていることは決して悪いことではありません、ただし自分の舌を過信しちゃいけませんですぞ、そういうのは嫌われる原因ですからな」


 そう言って、ホシノはまた一口。


「……と、言うと?」

「うむ、不肖、私がそうでありましてな、むぐ、私が【流星の使徒】に入る前の事でありますが、ある食堂で出された料理がなにぶん初めて見る物でして、私が食わず嫌いをしましてな、そこで常連だったおじさんと口論となったのでありましてね、いやはや我ながら痛い経験でございますよ」

「あぁ……ホシノ隊員はシグレ出身でしたね」

「さすがにもうこちらの料理に慣れましたよ、その分故郷の味が懐かしくなってまいりましたが……」


 ホシノはどこか寂し気に微笑んだ。


「懐かしい、ですか」

「もちろんでございます、子供の頃に親しんだ味は忘れはしませぬよ」


 ハイアットは手を止めた。自らの……ディン・ハイアットとしての記憶を探る。確かに、人の子であるディン・ハイアットには故郷があり、親がいて、その料理を食べていた。

 しかし、それを食べた時の感情は、彼……ルトラにはわからなかった。


「時に、ハイアット殿」

「えっ?」 


 ハイアットはキョトンとした表情を浮かべた。


「私は……皆の役に立っているのでしょうか?」


 不安げな声で、ホシノは口にした。


「えと、それは……?」

「遠慮など結構でございます、正直に、答えていただきたいです」


 ホシノの眼差しは、真っすぐにハイアットを捕らえている。ハイアットの方は、キョトンとしたまま、ホシノの真剣な顔を見ていた。


「……もちろん、役に立ってます、ホシノ隊員の支援が無ければ、もしかしたら、危機を脱せなかったかもしれません、それに、隊長が僕達の動きを見えないじゃないですか」


 話しながら、ハイアットは微笑みを浮かべた。それを見て、ホシノは安堵の息をついた。


「ありがとうございます、ハイアット殿、急にこんな問いをかけてしまい、失礼しましたな」

「いえ、そんな……でも、いきなりどうしたのですか?」

「深いわけはございません、先ほどの故郷の味について話しましたら、ふと、今の自分のことで、少々不安を感じまして……」

「それは、どういうことですか?」

「……しばし、私の身の上話となりますが、よろしいですか?」

「うん」


 何か、覚悟を決めたように、ホシノは口を開いた。


「私は陰陽師の一族として厳しく育てられました、ですが、今の陰陽術の殻を打ち破るために、西方にてホシノ家の名を上げて見せる、なんて大きなことを口にして家を出ようと決心したのですが、当然、周りからは猛然と反対されました」

「……どうして、ですか?」

「我がホシノ家は長い歴史を持ちます故、伝統には厳しいのであります、それに、1人の陰陽師として世に出るには、私はまだまだひよっこであります……それで、まことに偶然ながら私の伯母上とジョアーキン殿が旧知の仲でございまして、『出稽古』という名目でこちらに参ったのです、ですが」


 ホシノは視線を軽く落とした。


「今の私は、3年経って【流星の使徒】に名を連ねるまでは行きましても、まだオペレーターの身であります、それもジョアーキン殿の縁のおかげと言われても仕方ないでしょう」


 また、ホシノは間を置くように息を吸う。


「私は、まだ成果を出せておりません」


 そう言って、ホシノは笑みを見せた。ハイアットは、表情を出さず、ただただホシノを見ていた。


「……まだ、じゃないですか」


 ハイアットの言葉を聞いて、ホシノはふっと目線を上げた。


「ごめんなさい、なんで、そんなに落ち込んでるのか、僕にはわからないです、まだ成果を出してないことに、悩んでることが」

「ですが、一族に大言を放った以上は……」

「ゆっくりで、良いと思う……僕は、きっとその、ホシノ隊員の周りも、ずっと待ってくれると思いますよ」


 ホシノ隊員は口をつぐみ、また下を向いた、感情を抑え込むように。


「でも、僕は今のホシノ隊員も、すごいと思ってます……少なくとも、【流星の使徒】の中で、式神を使えるのはホシノ隊員だけですから」


 ハイアットはホシノ隊員に微笑みかけた。しかし、ホシノの方はハイアットに顔を向けられなかった。


「……改めて、ハイアット殿、こんな話をしてしまい、申し訳ないです」

「えと、あ、いや、僕も、ホシノ隊員が悩みがわからなくて、ごめんなさい」


 ハイアットは慌ててホシノ隊員に向かって頭を下げた。それをちらと見て、ホシノは軽く噴き出した。


「ありがとうございます、ハイアット殿、少し気持ちが晴れました」

「それは……何よりです」

「おっと、もうそろそろ時間ですな……ハイアット殿、大分残っておりますぞ」

「えっ、うわっ、今日見回りの担当なのにっ」


 ハイアットは急いでナイフとフォークを動かして、料理を口に詰め始めた。それを見て、ホシノは声を上げて笑った。


 少しばかり、翳りのある目をしながら。


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