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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第8話 霊峰、突破せよ -寄生魔獣ググーガ登場-
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第8話 霊峰、突破せよ (Part8)


 眠っているように目を閉じたユウをおぶさりながら、ドクマは走っていた。息はすっかりあがり、脚も大分痛んでいた。出口どころか、ハイアットの姿も見当たらなかった。


「ちくしょう……どれだけ……行けば……」


 もはや悪態をつく気力も失っていた。

 とうとう彼の脚は止まった。ゼイゼイと息を吐きながら、ドクマは屈みこんだ。


「……大丈夫?」


 ユウが、弱々しい声でドクマに話しかけた。


「あ?……ははっ、ちっと疲れただけだ」


 ドクマは、笑顔を見せて答えた。


「死にかけた事ぐらい何度だってある、その度に俺たちは生きて帰ってきたんだ、これぐらいでくたばっちまったら、機動部隊の名折れよ」

「……そう、なの?」

「そうさ、人を守るためなら、な」

「……」


 少しの間、静かな時間が流れた。


「……神様は、きっとおじさんを救ってくれるの、だから安心して」

「……そっか、ありがとうよ」


 ドクマは微笑んだ。だが、少しばかり苦みのある笑みだった。


「おーい!!」


 誰かが呼ぶ声がした。ドクマがその方に向くと、小さな光がだんだんとこちらに近づいているのが見えた。

 ハイアットだった。


「ドクマ隊員、無事でしたか!?」

「……おう、なんとかな、お前も大丈夫か?」


 ハイアットの肌には所々擦り傷や、火傷したような跡。


「はい、ちょっと転倒しましたが……それと、その子は……?」

「こいつか? この子は前に巻き込まれた、教会の巫女だよ」

「生存者がいたんですね!」

「この子だけみたいだがよ」

「……そう、ですか」


 ハイアットは暗い顔でうつむく。その様子をユウはまどろんだような目つきでじっと見ていた。


「ともかく、ここから出ねぇとな、この光に従えば出れるみたいだし」

「はいっ……ドクマ隊員、立てますか」

「ははっ、わりぃな、疲れはましになったけど、脚はまだきっついな」


 ハイアットの肩を借りて、ユウを背負いながらなんとかドクマはふらふらと立ち上がった。


「急ぐぞ、でっけぇ芋虫がのさばってるんだからな」

「はい!」

 

光の線に沿いながら、3人は急いだ。しかし、彼らの疲労はすでに限界に達しており、足取りは重い。


「ユウちゃん、しっかしろ、もうちょっとだからな」


 ドクマが話しかけたが、ユウは目を閉じたまま、ただ小さく呼吸をするだけだった。


「……ちっ、効果が切れてきたか?!」


 ドクマが舌打ちした。光の線が弱々しく点滅を始めた。それを見て、ハイアットは焦りの表情を浮かべた。


「……こんなところでくたばってたまるかぁ!!」

「うわっ!?」


 叫ぶと同時に、ドクマは駆けだした。それを追うようにハイアットも走り出した。脚の痛みも、呼吸の乱れも忘れて、2人は走る。

 そのうちに、光の線は消えてしまった。先の見えない洞窟を、2人は闇雲に走り続る。


 ……おーい、と誰かが呼ぶ声がかすかに聞こえた


「ん!? ハイアット、今の聞こえたか!?」


 ドクマの耳に、その声が届いた。


「ん、えっ、す、すみません……」

「とにかくついてこい!! あともうちょっとだ!!」


 ドクマの表情に生気が宿り、力を振り絞って、更に足を速めた。ハイアットも懸命にその後ろをついていった。

 その内、彼らの視界に、光の点が見えてきた。2人を呼ぶ声も次第に近づいている。どうも複数人であるらしい。


「うおーい!! 俺たちはここだああ!! 俺たちは生きてるぞおおお!!」


 ドクマは叫んだ。向こうからも、走る音が聞こえてきた。

 程なくして、向こうから走ってきた者達の姿が見えてきた。ソカワとイディだった。


「……ドクマ、ハイアット!! 無事か!!」


 ソカワがまず話しかけた。


「はい……なんとか大丈夫です……」

「あたぼうよ!! 俺がこれぐらいで死ぬと思うか!?」

「そうだよな、お前みたいな筋肉だるまがこれぐらいで死ぬとは思えないね」


 イディが軽口を叩いた。彼の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。


「おいおい、お前泣いてんのかよ!! マッド・アルケミストにも人の心があるんだな!!」

「うるさいな!! そういうお前こそ……!!」

「ああ、感動の御対面もいいが、ちょっといいか」


 2人の会話にソカワが割り込んだ。


「ドクマ、お前が背負っているのは誰だ?」

「ああ、こいつか、前の地震で巻き込まれた教団の巫女だ、生き残ってのはこいつぐらいしかいねぇ」

「そうか、詳しい話はここを出てからだ、ほら、肩かしてやる」

「ハイアット隊員も、ほら」


 ソカワがドクマを、イディがハイアットの肩をもつと、急いで外に向かって歩き出した。


 その時だった。


「うう……ううぅあああ……!!」

「ユウちゃん!? どうした!?」


 ユウが突然呻きだし、ドクマは慌てた。


「……皆さん、耳栓持ってきてますか!?」

「えっ、どうした……」


 ハイアットにイディが答えようとしたその瞬間。

 例の怪音がまた鳴り始めた。イディ、ソカワ、ドクマそしてハイアットの4人は顔をしかめて耳を塞いだ。


「ちくしょお!! また、来やがったな!!」


 ドクマが歯を軋ませた。


「アヌエル達の報告のあれだ!! イディ、早く耳栓!!」

「わ、わかった!!」


 ソカワとイディは急いでベルトポーチから軟金属製の耳栓を取り出して装着し、予備の分をドクマとハイアットに渡した。

 すると、突然。


「……すみません!!」

「ちょっと!! ハイアット!! 待てよ!!」

「先に行ってください、僕が奴を食い止めます!!」


 イディを振り払い、ハイアットは耳栓を詰めながら洞窟の中へと駆け下りていった。


「馬鹿!! 単独行動をするんじゃない!!」

「ドクマ、あいつは放っておけ!! 地震が来るぞ!!」

「くそ、相変わらず何がしてぇんだか……!!」


 ソカワに留められ、ドクマは歯を食いしばった。

 ソカワ、イディ、そしてユウを背負ったドクマは駆け足で出口に向かった。


「……また、あの気配がする」


 苦しげな声を上げながら、ユウはつぶやいた。



 程なくして、また地震が起きた。立つこともままならないほどの揺れで、地上にいる者は頭を抱えて伏せていた。

 そして、重たい爆発音とともに、山の中から何かが孵化した。


 巨大な蛾のような怪物だった。


 頭・胴・腹の部分はそれぞれ漆黒の岩石でできているようであり、羽は薄い鉱石のようで光を乱反射し、猛烈な風音を立てていた。角は鍾乳洞のように鋭く伸び、大きな複眼は真っ赤で、感情は一切見られない。口元の牙はまるで1対の鎌のよう。

 そして、腹の部分は半分のところで切断されたようになっており、切断面からは苔のような岩がびっしりとくっついていた。


 怪物が出現し、揺れと収まったとほぼ同時に、山の麓より、人命救助に来た十数人もの人や馬が蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 その中には、ソカワ、イディ、そしてユウを担いだドクマもいた。


「くそ、さっきまで芋虫みたいだったのに、もう孵化しやがったか!!」


 ドクマが臍をかんだ。


「なるほど、山に寄生してたってわけか……」

「余裕こいてんじゃねぇよ、マッドアルケミスト!!」

「こんな時まで何漫才してんだ馬鹿2人!!」


 2人を怒鳴りながらも、ソカワは2丁の魔装銃を何度も撃った。それに続くように、周りの者達も、怪物を攻撃する。


「ダメだソカワ!! 走れ!!」


 ドクマが叫んだとほぼ同時だった。

 胴にびっしりとついた突起物から、周囲に向かって一斉に光線が放たれた。


「うおっ!!」


 光線がソカワの耳をかすめた。周りにはそのまま火だるまとなったのが何人もいた。

 イディのコミューナから緊急の通信音。


『キリヤだ、そっちの状況はどうだ!!』

「こちらイディ、ドクマと教会の巫女は救助しました!! ハイアット隊員は……すみません、まだ生死不明です!!」

『そうか……だが今は怪物が先決だ、至急アーマッジが彗星01でそっちに向かわせている、救助者をこちらに搬送、その後体力のある者で怪物と対抗してくれ、あいつと交戦できるのは今ここには我々ぐらいしかいない』

「了解っ、ってうわ!!」


 イディが答えた瞬間に、光線が近くに着弾した。


「ちっくしょう……!!」


 ドクマは苦々しい表情で、怪物を見上げた。


 怪物は悠々と、その場で羽ばたき続け、時折光線を放って辺りを蹂躙していった。辺りの森から火が上がっている。

 その怪物に向かって、空よりフィジーが旋回するように接近していった。そして、ギリギリまで怪物の頭部に近づくと、すれ違いざまに短剣を投げつける。

 まっすぐに短剣は飛んでいき、怪物の目に当たった。ガキン、と音を立てて短剣は弾かれた。


「目に刺さんない!? ならっ!!」


 フィジーは中型銃を構えなおすと、もう一度怪物に向かって飛んでいった。その時、怪物がフィジーの方に顔を向け、牙を開くと、怪物の口から灼熱の溶岩が吐き出された。

 瞬時に横にかわすと、フィジーは魔法弾の雨を怪物に浴びせる。

 しかし、それもやはり金属音を響かせて弾くばかりだった。


『フィジー、そこを離れろ!!』


 フィジーのコミューナからキリヤの声が聞こえたとほぼ同時に、1本の矢が飛んできた。その矢が当たる直前、怪物は光線でその矢を破壊する。

 すると、空中に1対の巨大な魔法陣が怪物を挟むように展開され。そして両方の魔法陣から稲妻が放たれた。怪物はまるで稲妻の牢獄に入れられたようになった。


「貫通弾、発射!!」


 フィジーの掛け声とともに、通常よりも大きな、矢じり型の魔法弾が数発放たれた。弾は稲妻の格子をすり抜けて真っすぐに飛んでいき、怪物の胴に深く突き刺さり、そのまま破裂した。怪物の体から、瓦礫のような破片が飛び散った。

 さらに、もう1本のらせん状の炎をまとった矢が飛んできた。矢の先は炎の魔石。

 それが、稲妻の格子に触れた瞬間、ごう、と周囲に強烈な衝撃が広がり、地面が揺れた。まるで、巨大な風船が破裂したように。稲妻は周囲に散り、魔法陣はかき消えた。

 空にいたフィジーは翼と体を丸めて耐え、地上ではキリヤが地層竜の頭を抱えるように伏せている。

 揺れが収まった。


「……ちっ!」


 顔を上げたキリヤが舌打ちした。彼女の目の前で怪物が悠々と飛んでいる。

 すると突然。

 ズドンという音が、キリヤの背後からした。

 数発の砲撃が、怪物に直撃した。


『全隊員に告ぐ、ウルブ国に怪物出現による緊急救援要請を行った』


 コミューナからムラーツの声。

 それと同時に、馬群の音が聞こえた。馬の上には、大型の銃器を持った屈強の兵士。


「撃てえええええええっ!!」


 先頭の指揮官と思しき者の声と同時に、次々と弾が撃たれた。しかし、数発は着弾したものの、ほとんどの弾は怪物の光線で撃ち落された。更に、怪物は騎馬隊に光線を撃っていき、兵士たちが次々と地に伏していく。


「怯むな!!撃てっ、撃てえっ!!」


 負けじと、騎馬隊も撃ち続ける。


「俺たちも忘れんな、ソカワっ!!」

「いよっし!!」


 イディ、ソカワ、2人のワイバーン乗りが呼応する。

 イディが特製の金属球を射出し、それが怪物の眼前まで到達した瞬間、ソカワの撃った弾が命中した。金属球が爆ぜると、巨大な火の玉が怪物の目の前で広がった。

 怪物に隙ができた。その瞬間に先ほど騎馬隊が撃った弾が怪物に命中した。爆発の音と煙が怪物を包んだ。


「この調子だっ、攻めろ攻めろ!!」


 騎馬隊から快気炎があがった。

 しかし。

 怪物の目が紫に光ったと同時に、あの怪音が一帯を襲った。


「くっ、総員、警戒しろ!!きっと奴はまだ何か隠し持ってる!!」


 栓をしてもなお、耳に刺さる音に耐えつつ、キリヤはコミューナ越しに注意を促す。


「……ちくしょうめっ、こんなもので負けてたまるか、撃ち続けるんだ!!」


 騎馬隊の指揮官が檄を飛ばし、怪物に向かっていく。


『怪物より魔力反応急増!!全隊員、回避を!!』


 コミューナからアーマッジの焦った声が聞こえた。

 怪物の翅がチカチカとまばゆい光を点滅させていた。


「いかんっ……退避しろおおおおおおっ!!」


 キリヤがコミューナの拡声機能を使って騎馬隊に、必死に、呼びかけた。

 それと同時だった。

 怪物の翅の裏面から、七色の雨のような光線が放たれた。

 それは地面を焦土にしながら、騎馬隊に迫っていった。


「総員、退けっ、退くんだぁ!!」


 兵士達が慌てて手綱を引き、騎馬達がいなないた。彼らが手間取る中、光線が迫っていた。

 彼らの死は、もはや変えられない。

 皆がそう考えた瞬間。


 光の壁が彼らの前に現れた。七色の雨があたり、花火のような音が上がった。


「……へっ、相変わらずいい所でおいでなさるな」


 ソカワがそう言ってニヤッと笑った。

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