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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第8話 霊峰、突破せよ -寄生魔獣ググーガ登場-
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第8話 霊峰、突破せよ (Part5)


「一体どういう事なんです!!」


 救護部隊の臨時基地であるテントの中で、アヌエルが机を激しくたたき、救護部隊長のユーリンに詰め寄る。ユーリンはそれに驚く様子もなく、ただアヌエルの目を見ていた。


「どういう事も、さっき言った通りだ、ピルティア領付きの騎士団とギルド3団体が撤退する、ただそれだけだ」

「それだけ、ですって!? まだ、誰の救助もできていないんですよ!!?それに、ハイアット君とドクマ隊員だって……」

「まあまあ、アヌエル君、君の気持ちは痛いほどわかる、だが……」

「じゃあ、なんで引き留めるために尽力してくれなかったんですか!!」

「だからアヌエル君、落ち着いて私の話を聞いてくれないかね……」


 ユーリンはなんとかアヌエルを宥めたが、それでも彼女は収まらないといった様子だった。


「考えてもくれたまえ、いつまた地震が起きて、自分たちが同じ轍を踏むことになってしまうかわからない状況なんだ、更に、地震が起きた時のあの音、枯れてゆく木々、とんでもない何かがうごめいている状況なんだ、この状況で撤退するなと指示する方が酷ではないかね」

「しかし、まだまだ途中なのに……隊長は悔しくないのですか!?」


 アヌエルの訴えを聞いて、ユーリンが苦々しい表情を浮かべた。


「ああ、私だってくやしいさ、さっきも言ったろう、気持ちは痛いほどわかるって……だがね、人を助ける事ができるのは自分の命が無事であってこその話、我々救助側が事故に巻き込まれるようじゃ救助の意味がないんだよ……それぐらい、アヌエル君だってわかってるだろう」


 ユーリンの言う事を、アヌエルは歯を食いしばり、押し黙って聞いていた。言い返したくても、言い返す言葉が全くでなかった。


「悲観はしないでおくれ、現に一部ギルドは引き続き協力してくれるし、救助用のゴーレムも貸し出してくれているんだ、後は我々が如何に努力し、空いた穴を埋められるかだよ……」

「……失礼します」


 体を震わせながら、アヌエルは一礼し、その場を立ち去ろうとした。


「アヌエル君」

「……はい、なんでしょうか」


 出入り口の前で、アヌエルは止まった。


「私は最後まで諦めんよ、人を助けることが我々の使命だからな、だが無茶は禁物だ、それは忘れないでおくれ」


 ユーリンの話を聞き終わると、アヌエルは黙って臨時基地の外に出た。ユーリンはそれを見届けると、溜息をついて、机の上の珈琲を一杯、飲んだ。



「あ~あ、本当に去っていっちゃうのねぇ」


 枯れ木の上に座って、フィジーは不満げに言った。彼女の視線の先には、下山する騎士団や、ギルドの人達。皆、一様に暗い面持ちをしていた。


「みんな、悔しそうだね」

「それはそうでしょう、人を助けるために来たのに、その半ばで諦めざるを得なくなったんですもの」


 フィジーのちょうど真下に、憂いた様子のアヌエルが木にもたれていた。


「アヌエル隊員はまだ納得いってないのかな」


 ひょこと、アヌエルの顔を覗き込むように、フィジーが木の上から頭を出した。


「当たり前でしょう? 自分の仲間が目の前で巻き込まれたんですもの……仕方のないことだと思うけど、悔しさの方が勝るわ」

「それは同感、でもさ、悔しい悔しいばっかり言わないで気持ちを切り替えようよ、救護部隊字体が引くわけじゃないし、うちらも副隊長以下みんな来てくれるんだよ、ここで暗くなって手を止めたら、元も子もないよ」

「わかってる、わかってるわ、でもまだ、落ち着かないのよ……」


 アヌエルは深くため息をついた。視線を崩落現場の方に移すと、数体のゴーレムが、ぎこちない動きで礫をどかしているのが見えた。


「絶対……生きているよね」


 その光景を見ながら、アヌエルはポツリとつぶやく。


「大丈夫だよ、ドクマは馬鹿みたいに頑丈だし、ハイアット君だって前におんなじ目に合って生きてたじゃん、生きてるに決まってるよ」


 フィジーはにこやかな笑みを浮かべている。ただ、その笑顔には不安げな様子が幾分伺えた。


「ただ心配は……何がこの下にいるか、だよね」


 フィジーの一言に、アヌエルは小さく頷いた。


「何かがいる、それも強大なものが……今のところ、それしかわからないわ……」


 アヌエルが溜息を吐いた。

 その時、アヌエルのコミューナから着信音が鳴った。


『こちらアーマッジ、アヌエル隊員、応答願います』

「こちらアヌエル、アーマッジ君、どうかしたの?」

『諜報部隊より情報が入りました、最初の地震より数週間前より、小さな地震が2回ほどピルティア領で感知されていたようです、更にその地震があった時期より、急速に枯れ木、魔物の死体、減少が観測されるようになったとのことです』

「それって、以前から魔力の減少が始まっていたってこと?」

『そうなります、以前よりこの山で何者かが取りついていたと考えられます、しかし……』

「しかし?」

『周辺を捜索しても、魔力の流れを調査しても、エルレクーンに向かうような洞穴は見つからなかったんです、唐突にその魔物がエルレクーンの中に住み着き始めたとしか言えないんです』

「……どういう事!?」


 アヌエルが驚愕の表情を浮かべた。


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