第6話 神無き知恵 (Part10)
「3、2、1、撃て!!」
地上ではキリヤ、アヌエル、アーマッジ、ドクマ、イディが、空中ではフィジーとワイバーンに乗るソカワが、一斉に魔装銃を構え、キリヤの合図で撃った。その反動で、みな後ろに仰け反る。
白い光弾が、エインティア目掛けて飛んでいき、頭部に命中すると、光弾は大量の火花を上げながら弾けた。エインティアはまるで痙攣しているような挙動を示した。
「よし、効いている!!もう1発行くぞ……うわっ!?」
キリヤ達が銃を構えようとした瞬間、4つの光線が彼女たちに向かって放たれた。キリヤ達はそれを間一髪でかわした。すると、今度は槌のような腕が地上の5人と、空中の2人目掛けて振り回された。
「今の一発でこっちを敵と認識した、らしいな!!」
「でもどうすんの!? ここまで暴れられると、狙いが定まんないよ!!」
ソカワとイディが会話している間も、エインティアは腕を振り回し、光線を撃ち続け、ユシーム学院の中を前進していた。
「くっそぉ、まだまだ止められねぇ……か」
ドクマはあるものを見た。空から光がこちらに向かってやって来た。
「……来たか」
キリヤがぽつりとつぶやいた。
光はエインティアの方に飛来すると、そのままルトラに姿を変え、エインティアを蹴り飛ばした。その衝撃で、エインティアは地面を削りながら後ろに滑った。
エインティアは反撃として、4本の光線を収束させた光線をルトラに放つ。ルトラは腕を交差させて、その光線を受け止める。そして、ルトラがおもいきり交差を解くと、光線は跳ね返され、エインティアに命中し、爆発が起きた。
その隙に、ルトラはエインティアの方に走ると、エインティアの頭部に手をつき、そのまま身体を捻りながら飛び越えて、後ろに回った。そして、エインティアの腕と足を抱え込むと、腰を落とし、ゆっくりと、その重さに耐えながら抱えあげ始めた。エインティアの関節部から、自身の重みで軋む音が鳴った。
「今だ!! 撃て!!」
ルトラがエインティアを完全に抱え上げた瞬間、機動部隊が一斉にエインティアに向けて魔装銃を撃った。
エインティアの頭部でまた、爆発が起きた。そして、それと同時にルトラはエインティアの片足を抱えたまま、塀の外に向かって、頭部から叩きつけた。
うつぶせに倒れるエインティアに向かって、ルトラは両手に光を溜めて振り上げると、エインティアにとびかかり、頭部めがけて両腕を振り下ろした。金属同士がぶつかり合う音が、大きく響くと同時に、光が弾ける。
「見て!! あそこにひびが!!」
アーマッジがエインティアに向かって指を指した。エインティアの頭部に小さなひび。前に傷ついた場所と同じだった。
「……あと、もう少しだ、ドクマ、大口径砲の準備を!!」
「了解!!」
キリヤの指示に、ドクマは威勢よく答えた。
ルトラは更に追撃を加えんと、エインティアの頭部を抱えて、起こそうとした。
その瞬間を狙ったように、エインティアはルトラの腹部を殴りつけた。ルトラが怯むと、何度も何度も、腹や肩口、そして頭部に向かってエインティアは腕を振り回す。
そして、ルトラの顎を打ち砕くように、腕を振り上げた。ルトラは飛ばされ、塀を崩しながら倒れた。
ルトラはすぐに立ち上がると、両手から同時に光弾を、エインティアの頭部めがけて放った。それが命中すると、エインティアはその動きを停めた。
ルトラが左足先に魔力を込めて、軽く飛びあがる。そして、エインティアのひびが入った部分めがけて、首を刈るように左足を振りぬいた。落雷のような音を立てて、蹴った部分が爆発した。ひびがまた少し、広がった。
それでもエインティアは倒れなかった。
ルトラが着地した瞬間、腕をルトラの胴に巻き付けて持ち上げると、そのままルトラを締め上げた。体がねじ切られるような痛みに、ルトラはまるで空に叫ぶように、悶えた。
それでも、必死でこらえながら、ルトラはエインティアのひびの入った部分めがけて、光の楔を突き刺した。腕の力が緩み、エインティアはルトラを離した。
しかし、ルトラが体勢を立て直そうとした瞬間、今度は手に当たる部分でルトラの頭部を挟み、無理やり立ち上がらせると、逃げられない状態のまま、4本の光線をルトラに浴びせた。ルトラの身体全体に電流が走り、ルトラはもがいた。
さらに、ダメ押しとばかりに、光線をルトラに浴びせると、ルトラの体の表面で爆発が起こり、ルトラの体を焦がした。
その時、6つの光弾が、エインティアの右側頭部めがけて放たれ、命中した。ひびはさらに大きくなり、そこから黒い霧状のものが漏れ出、エインティアはルトラを離した。
地上でキリヤ達が、空中でフィジー達が銃を構えていた。
「副隊長、これで魔装銃の分の魔力は切れました!」
アヌエルの報告を聞き、キリヤが小さく頷いた。
「後はドクマ、任せたぞ!!」
「了解!!」
ドクマが大口径砲を担ぎ上げ、その周りを、キリヤ、イディ、アヌエル、アーマッジが支えた。
すると、いきなりエインティアから、またあの異音が騒々しく鳴りだした。
「あいつ、また逃げるつもりだよ!!」
フィジーが叫ぶ間にも、エインティアの脚は爪状の物に変わった。
それをルトラは逃さなかった。
立膝状態のまま、ルトラは手首をしならせるように右腕を振るうと、右手から薄い板状の光弾が放たれ、エインティアの股関節部に突き刺さった。エインティアの爪は回転できなくなり、痙攣したように動くだけだった。
「よし、ドクマ、行け!!」
「発射あああああっ!!」
キリヤの合図に合わせて、ドクマは引金を引いた。すさまじい爆音と反動と共に、巨大な光弾が動けぬエインティアの右側頭部に向かって発射された。それに合わせるように、ルトラは構えながら一歩踏み込んだ。
そして、大口径砲の弾が当たると同時に、魔力ため込んだ右の裏拳をエインティアの右側頭部に叩き込んだ。
凄まじい爆発と爆音、そして、金属が破壊される音。ルトラの右拳が、完全にエインティアにめり込んでいる。
ルトラが拳を抜くと、エインティアは半壊した部分から黒い霧を出しながら崩れ落ちていった。それぞれの部品がばらばらになっていき、巨大な黒い岩塊の1群のようになると、接合部分からドンドンと黒い霧が噴き出していった。そして、黒い霧が晴れると、岩塊は明るい茶色……本当に、ただの岩塊になってしまった。
それを見届けると、ルトラは光の粒子となって、何所へともなく、消えていった。
「いよっしゃああああ!!!! 2台、ボロにしちまった甲斐があったぜ!!」
ドクマが叫ぶのに、合わせて、周囲も喜んだ。遠巻きで見ていた他の兵士たちも、大きな喝采を上げた。
「……博士」
1人、イディだけが、残された岩塊を複雑な表情で見ていた。
*
彗星01の元に、光の粒子が集まってきた。そして、ハイアットの姿に変わると、そのまま彗星01に寄りかかるように倒れた。全身の痛みで、ハイアットは顔をゆがませた。
「……早く、本部に戻らないと」
それでも、痛みに耐えながら、ハイアットは何とか立ち上がった。その時、後部座席の様子が目に飛び込んだ。
「……アルマント博士!!」
後部座席で、アルマントが血を吐きながらぐったりと倒れていた。ハイアットは力を振り絞って、後部の扉を開けた。
「アルマント博士、どうしたんですか!!一体、何、が……」
ハイアットが揺り動かすと、アルマントは力なく倒れた。彼の手から、ガラスの小瓶が落ちた。
ハイアットは驚愕の表情を浮かべていたが、やがて、悲し気な表情を浮かべた。ハイアットはコミューナを起動すると、通信先をキリヤに合わせた。
「こちらハイアット、副隊長、応答願います」
『こちらキリヤ、どうしたんだ、エインティアはもう撃破されたぞ、アルマント博士はどうしたんだ』
「申し訳ありません、博士は……」
*
「なんで、生き続けようとしなかったんだよ……」
城壁から下を見降ろしながら、イディ隊員がつぶやいた、悔いに満ちた表情を浮かべて。
「生きて、償えばよかったじゃないか……それすらも、拒むほど、この世界が嫌いになってしまったのかよ」
声が少し震えていた。
「イディ隊員、大丈夫ですか……?」
「……すまない、柄にもなく感傷的になっちゃったよ」
そう僕に笑いかけたけど、イディ隊員の目の周りは赤くなっている。
「それだけ……すごい、非難された、という事なんでしょうか?」
「……重傷者が出たからね、ほとんど犯罪者の扱いだったよ、それに、耐性物質の開発はあの人の悲願だったからね」
「人生の結晶、と言ってましたね」
「僕がいた時もしきりに語ってたさ、人生最大の目標だって、それさえ作れば、ありとあらゆる脅威から守ることができる、本当に平和な世界が実現できるって、熱をあげてたよ……それを、破壊兵器として使うなんて、ひどい冗談だよ」
イディ隊員がニヤッと笑った。とても悲しい笑いだった。
ふと、耐性物質の事で、僕はある事が引っかかった。
「あの、イディ隊員」
「ん、どうしたい?」
「どうして、博士以外だと、重傷が出るほどの事故ばかりだったんでしょう? 博士は何度も生成に成功したと言ってましたし、現物もありましたし……」
「ああ、原因はおおよそだけど、察しは着いてるよ」
イディ隊員は城壁に寄りかかりながら、僕の方を向いた。
「触媒に博士の髪の毛が使われてたんだ、髪の毛を触媒にすること自体は錬金術では非常によくあることなんだけどね、髪の毛の色とか質って人によって違うでしょ? それに、シグレでは呪術をかける際に、その対象の髪の毛を用いることもあるらしいんだ、一般的な触媒ではある、でも人によって性質は全く異なるものなんだよ」
「つまり、博士だけが成功できたのは、博士だけの特質をもったものを……それが髪の毛、だった」
「そう言う事さ、その時の論文で、何を用いているか書いてあったけど、それ以外は抽出した物質とか薬品、鉱物とかだったよ」
「なんで、博士は、気づかなかったんでしょうか……」
「さっきも言ったけど、髪の毛は普通に使われる触媒なんだ、人によって違うと言っても、普通はそれで結果が変わることはない……耐性物質の時は、普通と違ったんだ」
そう言って、イディ隊員はまた、感傷的な表情で、空を見上げた。
「博士は、偶然に翻弄された、そして、神を裏切る様な暴挙に出た……結局、博士は被害者なんだよ、だから……」
そう言って、イディ隊員は軽く勢いをつけて、城壁から離れた。
「博士の無念を晴らすためにも、僕は人口魔石の研究を続けたいんだ、あれは原理自体は全属性耐性物質に近いんだ、博士の理論を継いでるようなものさ」
その時、イディ隊員の表情は少し晴れやかになっていた。
「こないだの発表の時はボロクソ言われたけど、今度はぐうの音も言わせないぞ、ようし、なんだかやる気が出てきたぞ!」
すっかり、元の飄々と明るいイディ隊員に戻っていた……と思ってたら、いきなり僕の肩に手を置いた。
「えと、なんですか?」
「元気が出てきたのも、君が話しかけてくれたおかげだよ、ありがとうっ」
「は、はぁ……」
ニカっと笑う、イディ隊員の勢いに、僕はちょっとついていけない。
「おっと、もう休憩時間もおしまいだ、よし、ハイアット隊員、戻るぞ!」
「は、はい!!」
走っていくイディ隊員に、僕は慌ててついていった。




