第6話 神無き知恵 (Part9)
「まだ、こらえろ!! イディ、ハイアット両隊員が揃ったら人口魔石による魔法弾で一斉に攻撃だ、いいな!」
ユシーム学院を囲む塀の上で、キリヤは機動隊員たちに檄を飛ばす。彼女の周りにはドクマ、アヌエル、アーマッジ。すでに、塀は所々崩れていた。
そして、すぐ目の前にはエインティアの巨体が迫っていた。その体には、激しい攻撃の跡は全くと言っていいほど見られなかった。周囲には、フィジーとワイバーンに乗ったソカワが飛び回っている。地面には負傷した、もしくは殉死した兵士が何人も倒れていた
「大口径砲の魔力安定!! あと1発ぶち込んでやるかっと!!」
ドクマが、彼にとっては何代目かの、大口径砲を肩に担ぎ、銃口をエインティアに向ける。
「フィジー、ソカワ両隊員、一旦、私達の後ろまで下がって!!」
『了解!!』
『了解、アヌエル隊員、頼むぞ!!』
アヌエルの指示に、コミューナ越しでフィジー、ソカワが順に答えると、2人はエインティアから離れ、塀の内側まで退いた。
「アーマッジ君、合わせるわよ」
「了解!!」
アヌエルは両手で印を結び、アーマッジはタクトを構える。
「《神聖なる風よ、空より吹き、木の葉を散らせよ》」
2人は同時に詠唱した。すると、2人の頭上には巨大な古代文字が浮かび上がり、猛烈な突風がエインティアに向かって吹いた。その風の力で、エインティアは前に進めなくなった。
「いくぜ……発射ぁあ!!」
ドクマの大口径砲から、雷の弾が爆音を立てて撃ちだされた。弾は風に乗って、猛烈な速度でエインティアに突っ込んでいった。
弾は、エインティアの首元に当たり、尋常ではない量の火花が飛び散った。それでも、エインティアの体にはほとんど傷はつかない。
「まだまだ!! 奴の足元に魔法陣を張るんだ!!」
キリヤの指示に合わせ、機動隊員皆が魔装銃を構える。キリヤも弓をギリギリと音を立てて引いた。
「撃て!!」
キリヤは叫ぶと同時に、矢をエインティアの足元に向けて放つ。それと同時に、機動隊員の皆も同じ地点に魔装銃を撃った。エインティアの足元には6つの魔法陣。
程なくして、魔法による突風がやんだ。エインティアの体は前方にぐらついた。
「伏せろぉ!!」
キリヤが大声で指示と同時に、エインティアは魔法陣を踏んだ。
6つの魔法陣から大きな爆炎が上がり、黒煙がエインティアを包んだ。猛烈な煙にせき込みながら、機動部隊はエインティアの様子をうかがった。
『危険です!! エインティアは動いてます!! 塀から離れて下さい!!』
全員のコミューナからホシノの声が聞こえた。
「ちっ、マジか……ってどあっ!?」
ドクマが舌打ちした瞬間、強烈な揺れが襲った。煙が晴れると、エインティアがすぐそこまで迫っており、壁をその槌のような腕で破壊せんとしていた。
「ドクマ、アヌエル、アーマッジ!! 塀から降りるぞ」
キリヤが必死の形相で指示し、ベルトについた箱から伸縮鉤縄を取り出し、3人も同様に取り出す。4人は急いで塀から降りていき、目いっぱい走ってその場から離れた。
そして、エインティアの更なる一撃で、塀は破壊されてしまった。ゆっくりと、地響きを立てながら、エインティアは学院の境内に侵入した。
まだ、緊急事態を告げる鐘は鳴ったままで、避難する人々が混乱している声が聞こえていた。エインティアは、その声を潰すかのように、光線を放ち、学院の建物を破壊していった。
「副隊長、みんな、大丈夫!?」
「くそっ、やっぱあれがねぇと足止めすらできねぇか!」
4人の下に、フィジー、ソカワも合流した。6人は急いでエインティアの進行方向に入らないように、更にその場から離れた。
「すまない、私が不甲斐ないばかりに……!!」
キリヤの表情には悔しさがにじんでいた。
その時だった。
「おおーい!!」
イディが彼女たちの下に、大声を上げながら駆け寄ってきた。そして、キリヤに向かって深々と頭を下げた
「遅くなって申し訳ありません!!」
「謝罪はいい、ハイアット隊員はどうした!?」
「はっ、彗星01でアルマント博士を本部まで移動させております」
「了解、人口魔石は?」
「それはこちらに、それぞれ1個づつぐらいですが……」
イディは腰に付けた絹の袋を外し、キリヤの前に見せた。
「よし、全員にそれを配ってくれ、これより人口魔石による攻撃を開始する、攻撃する回数は限られている、それとドクマの大口径砲は最後まで温存するように、いいな!!」
キリヤが指示する間にも、エインティアは悠々と前進していた。
*
ユシーム学院より少し離れたところに、針葉樹の森の中で、彗星01は停まった。
「……すみません、しばらくここで大人しくしてくれますか?」
ハイアットは運転席から後部座席に座るアルマントに聞いた。アルマントはゆっくりと顔を上げ、ハイアットの後頭部を見た。
「……ここで殺すつもりか?」
「あ、いえ、そう言うつもりではないです、ただ、ここで待ってほしいだけなんです」
ハイアットの答えに、アルマントは怪訝そうな顔を浮かべた。
「多分、ですが……僕の事で、何か勘づいているのでしょう?」
「……ああ、あそこから出てくることができた時点で、貴様がただの間抜け面でないことは、な」
「……今から、起きることですが、口外、しないでほしいんです」
ハイアットの頼みを聞き、アルマントは鼻を鳴らしてそっぽを向いた
「勝手にしておれ、わしが何言おうと、誰も信じぬわ」
「……」
寂しげな表情を浮かべながら、ハイアットは運転席から出た。
そして、木々がざわめく中で、静かに立っていると、ハイアットの髪が橙色に代わると、彼は光の粒子となって、風に乗っていってしまった。
「これで、終い、か……」
彗星01の中、アルマントは1人で呟いた。




