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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第6話 神無き知恵 -怪魔ゴーレムエインティア登場-
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第6話 神無き知恵 (Part1)

 城壁の上で、イディ隊員が空をぼーっと見上げていた。その視線の先には、雲と青空しかない。


「イディ隊員、何を見てるんですか?」

「……ああ、なんだ、ハイアット君か」


 僕が隣に来て、話しかけると、すぐにいつもの飄々とした笑みで答えてくれた。

 でも、いつもと違って、なんだかとても寂しそうだ。


「何でもないよ、ちょっと風に当たりたかっただけさ」

「やっぱり、あの人の事、ですか」


 イディ隊員の顔がまた一層、寂しげな雰囲気になった。

「……バレバレだったかな」

「ずっと、憧れだったって、熱くおっしゃっていたので」

「そう、本当に憧れだったんだよ、例え晩節を汚したとしてもね」


 僕は先の事件を思い出していた……きっと、イディ隊員も思い出しているのかもしれない。


「本当に嫌いにはなれないよ、曲がりなりにも、僕にとっては最高の師だったんだ……悪魔に魂を売った奴だったとしても、尊敬していたことは変わりない」


 イディ隊員は深くため息をついた。

 尊敬する師……僕は、ディン・ハイアットにはナギヤ教授という師がいた。だけど、それはあくまでディン・ハイアットの記憶だけで、心から尊敬していた師は、僕には……私には存在しない。

 でも、イディ隊員の悲しさは……痛いほどに、伝わった。



 その日のイディが大変に浮かれていたことが、誰の目から見ても明らかだった。1枚の大判の羊皮紙を片手に、鼻歌を歌いながら、軽い足取りで【流星の使徒】本部の廊下を歩いていた。

 そして、イディは談話室の前についた。


「おはよう諸君!! 今日もいい天気だねぇ!!」


 談話室に入るや否や、イディはやたらと大きな声で機動部隊の皆にあいさつした。そのまま踊るように、日課である朝のコーヒーを注ぎ、いつも座る席に座った。

 多くは気にも留めない様子であったが、1人、ハイアットだけは驚いた様子でイディを見ていた。


「お、おはようございます、イディ隊員、その、なんか、あったんですか?」


 ハイアットはミルクティー片手にイディに話しかけた。ドクマは、しまった、というような様子で、顔を手で押さえた。


「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれましたね!! 皆さんにとっておきの報告があるんですっ!!」


 イディは自慢気な様子で立ち上がった。ハイアットとホシノ以外の皆は、半ばあきれた様子でイディの方を見ている。


「まずはこれを……見てくれ!!」


 イディは大仰に羊皮紙を開いて見せた。


「えーと……ミロイ・イディ殿、この度は、私たちエンヤ錬金術学会の厳正なる審査の結果、貴殿の論文『新規属性魔力を有する人工魔石について』及びその成果である人工魔石を正式にエンヤ錬金術学会の新理論及び新技術として認定する、つきましては9の月、12の日に開催されますエンヤ錬金術学会研究発表会にご参加願います……ですか」

「どうだ!! この前開発した人工魔石が学会に認められたんだ!! すごいだろ!! な、すごいだろ!!」


 ハイアットが文章を読み上げると、イディは興奮した様子でまくし立てる。ただ、ハイアットはきょとんと、それを見てるだけだった。


「だあ、もう!! なんでこう、ハイアット君って反応薄いのかなぁ!!」

「すみません……ちょっと、どれだけのことかわからなくて」


 そっと、アヌエルがハイアットの耳に口を近づけた。


「そうね、この【エンヤ錬金術学会】っていうのは、イディ君みたいな錬金術師たちのなかでは最高の権威をもっている組織なの、この組織の動きがこの世界の錬金術のすべてを決めていると言っても過言ではないわ、だから学会で新理論、新技術として選ばれること、学会で発表できるという事は、全錬金術師の目標なのよ」

「へぇ……それはすごいですね!!」

「そう!! そういう反応が欲しかったんだよお!! アヌエル隊員、僕に代わって説明ありがとう!!」


 イディは心の底から喜んだ様子を見せた。


「ともかくっ!! 今回、発表するのは僕なんですけどもね、研究自体は我らが【流星の使徒】の成果でもあるんですよっ!! それなのに、なんでもっと称賛の声をあげてくれないんですかね~」

「すげぇのはわかるんだけどよぉ、お前うるせぇし、明らかに調子乗ってるし、なんか手放しで褒めたくねぇんだよ」

「なんだと、この学の無い野蛮人!!」


 ドクマの一言に、イディが食って掛かった。


「まぁまぁ、2人ともよしなさいよ、実際に栄誉あることなんだから」

「おやおや、私と、副隊長を差し置いて、なーに楽しそうにしているのかね?」


 アヌエルが柔らかな口調で2人を諭したのとほとんど同時に、ムラーツとキリヤの2人が談話室に入ってきた。


「おおっと、隊長、副隊長!! あのですね……」

「学会の話だろう? さっき研究部隊長から聞いたよ、おめでとう、我々にとっても誇らしいことだよ」

「は、はいぃ……」


 キリヤに出鼻をくじかれて、明らかに調子が乱れたイディを見て、ドクマとフィジーは小さく噴き出した。


「それでその学会のことなんだが、例年通り我々【流星の使徒】機動部隊にその警備、護衛が依頼された、権威ある錬金術師たちが集まる場だ、気を引き締めるように」


キリヤの凛とした声が、一瞬で場に緊張感をもたらす。


「例年……と言う事は、毎年依頼されてるんですか」

「その通りだ、ハイアット隊員、年に1回、この発表会が行われるが、その度に我々【流星の使徒】を含め、数多くのギルドが警備と護衛を依頼される、この会には大陸中の名だたる錬金術師が一堂に会する、その中には各国の重役や有力ギルドの主要構成員も数多くいる、もちろん未来の錬金術を担う者達も視聴しにくる、厳重に厳重を重ねた警備体制が必要なんだ……わかったか」

「はい、ありがとうございます」


 ハイアットはキリヤに小さく頭を下げた。


「そ・れ・で、今回、僕はその発表会の参加者になるわけだ、みんな心して守ってくれよ~」


 イディは胸をふんぞり返らせながら、ニヤニヤと笑った。


「……隊長、こいつに1発撃ってもいいか?」

「掠める程度なら許可する」

「ちょっと隊長!! ソカワ!! 今のはほんの冗談だから!!」

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