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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第5話 溶けゆく村 -侵食魔獣デ・イー登場- 
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第5話 溶けゆく村 (Part6)

 ハイアットは只管に駆けていた。

 時折、後ろを振り向き、自らに迫る脅威に向かって、右手から光の弾を放った。光の弾を受けた部分は、バチンと大きな火花を上げてはじけ飛んだ。

 しかし、ハイアットとしてのその力は、このあまりにも大規模な怪物の前には、時間を少しばかり稼ぐのが精いっぱいであった。

 すでに、呼吸するたびに喉が痛くなるほど、ハイアットの息は荒れていた。ふらついてきた足を一心不乱に動かし、走り続ける。ふと前を見ると、ある建物の大きな扉が開いていた。ハイアットは飛び込むように、その扉をくぐり、力を振り絞って扉を閉めた。

 そこは、村のはずれにある建物だった。

 そこは、三神教の教会だった。

 教会の中は木造のベンチが並び、真正面には慈愛の神、自然の神、文明の神を模った彫刻があり、周りには三神のそれぞれの果たす役割と起こした所業が描かれた、何枚もの大きなステンドグラスが装飾されていた。

扉はガタガタとなりはじめ、ステンドグラスは見る見るうちに黒く覆われた。そして、建物全体からミシミシと音が鳴り、ステンドグラスにひびが入ってきた。教会はすでにスライムに飲み込まれたようになっていた。

 教会の中央で、ハイアットは扉に向かって、目をつぶりながら立っていた。三神の像が、彼の背中を見ているようだった。


「……来い、私が相手だ」


 ハイアットの髪は橙に燃え、開いた眼は金色に光っていた。


 ついに扉は壊れ、ステンドグラスは割れて、黒いスライムが一斉に教会内に侵入してきた。教会内部は、瞬く間にスライムで充満されてしまった。

 そして、それに耐えきれず、教会は崩壊していった。鐘が瓦礫にぶつかり、いびつな響きを月の見えぬ夜空に向かって放った。教会が完全に崩れ去ると、静寂だけが残った。


 すると、スライムに包まれた瓦礫の中心から、光が漏れだした。その次の瞬間、スライムが弾け飛び、光が飛び出した。光は空中で静止すると、人の形へと姿を変えた。


 ルトラが地に降り立った。


 スライムはすぐに集合すると、ルトラを飲み込まんと大きく伸びあがるようにルトラに飛びかかる。

 ルトラは両手掌に光をためると、押し込むようにスライムに両掌を叩き込んだ。まるで雷のように、光と音が起き、スライムの体は大きくバラバラに千切れ飛ばされ、黒い霧となって消えた。


 ふと、ルトラは何かに気づいた様子を見せた。ルトラの視線の先は、村の神木の根元で倒れているアーマッジがいた。大量の黒いスライムが彼にすぐそこまで迫っていた。

 ルトラは指先から光の弾をアーマッジに向けて放った。光の弾は間一髪、スライムに飲み込まれる直前にアーマッジに命中した。すると、アーマッジの周りは薄い光の障壁に包まれた。スライムはそれに触れると、火花が飛び散り、触れた部分が飛散していく。引き潮のようにスライムは下がっていった。


「ん……なんでしょう、か……!?」


 アーマッジが起き上がった。そして、自分の周囲の異変に驚愕した。


「この光、僕を守ってくれているのか!? 向こうには……ルトラ!?」


 すぐにアーマッジは、ルトラが自分を守ってくれていることに気づいた。アーマッジとルトラの視線が合った。唐突に、彼の脳裏に言葉が浮かび上がる、初めて、あの巨人と出会った時と同じように。

 

『逃げろ、それも長くはもたない』


 アーマッジは少しの間、呆然としていた。気が付くと、また黒いスライムが彼の周りを取り囲んでいた。今か今かと、光の障壁が解けるのを待っている。向こうで、ルトラは戦闘姿勢のまま、周りをうごめく巨大なスライムの塊を睨んでいた。


「……今回も任せるよ、ルトラ!」


 苦々しい表情を浮かべ、ルトラに向かって叫ぶと、アーマッジは光の障壁をまとったまま、村の外に向かって走り出した。スライムもその後を追いかけていった。


 ルトラとスライムのにらみ合いはまだ続いていた。スライムはルトラの周囲を回っていき、徐々に、周りからまたスライムを取り込んでいき、ついには輪になって、ルトラを取り囲んだ。

 ルトラはぐるぐると周りを見渡した。どこを見ても、スライムがうごめき、どこから攻めてくるのか、彼には判別できなかった。

 いきなり、スライムの一部が分離すると、ルトラの後頭部めがけて飛びかかった。その気配に、ルトラは振り返ると同時に、右手の光弾を叩きつけようとした。その瞬間、ルトラの足元に、スライムがまとわりつき、ルトラを引き倒した。うつぶせになったルトラに周囲のスライムは一斉に覆いかぶさっていく。

 ルトラは必死にもがいた。もがいてももがいても、スライムがまとわりつき、脱出できない。息ができず、更に溶かされる苦しみが彼を襲った。蒸気の出る音ともに、青白い煙がルトラの体から上がった。


 ついに、ルトラはもがくのを止め、体は完全にスライムに包まれた。まるで、水槽の中に浮かぶ溺死体のように、ルトラは力なく漂っていた。


 だが、ルトラは動いていた。ゆっくりと、ゆっくりと、その腕を動かしていく。そして、その腕を胸の上で交差させると、拳を力強く握った。

 次の瞬間、ルトラの体から閃光が放たれ、大きな爆発音とともに、彼の体を包んでいたスライムが吹き飛んだ。


 ルトラは立ち上がる。しかし、足元はおぼつかなく、今にも膝から崩れ落ちそうだった。あれは、ルトラにとっても賭けだった。彼の目の、金色の輝きは、消えかかった蝋燭のように、不安定に明滅していた。

 しかし、スライムの1群はまだ、活発に動き回っていた。再び、1つの塊になると、素早くルトラの方に突っ込んでいった。ルトラは両腕を前に構え、受け止める姿勢を取った。

 そして、スライムはまるで球のようになって、ルトラの腹部にぶつかった。

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