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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第5話 溶けゆく村 -侵食魔獣デ・イー登場- 
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第5話 溶けゆく村 (Part3)

 道から少し外れ、林の中で天幕は張られた。その中で3人は先ほどの村で購入した、卵とベーコンのサンドを食べていた。


「みんな、事件のことは知っていても、詳細については知りませんでしたね」

「ええ、この辺りはすでに得ている情報と同じです、しかし、村の店で少し気になる事がありました」


 ノーグが話し始めたのに対し、アーマッジが答えた。


「品揃えがこの規模の村にしては良すぎるんです、あの道具屋の薬草や消耗品の種類にしても、武器屋、防具屋で取り揃えてる品物にしても、この辺りで考えるには妙に性能が良いものばかり揃っていました」

「確かに、僕も印象には残りましたけど、アーマッジ隊員、それはこの辺りで前から強力な魔物がいたりとか、近くに高位のダンジョンがあるからではないですか?」

「いえ、事前に調べましたが、この数十年で目立った討伐依頼はないですし、近くのダンジョンというと、山間の狩猟場ぐらいです、確かにマクス国の方がやや強力なものが出るみたいですが、安価な銅剣でも退治可能です、それにここで売るにしても客が少ないとかなり苦しいはずですよ」

「必要のない、優秀な物が数多く置いてある、という事は、商売として考えると相当な赤字が必然的に出る、という事……」

「いくら、小規模の村での商売とはいえ、そんなこと考えないで営業するなんてことは無いはずです」

「確かに、そう考えると、妙ですね、むぐっ」


 眉間にしわを寄せつつ、ノーグはまた一口、サンドを頬張った。


「……僕もいいですか?」


 ハイアットがアーマッジの方を見ながらおずおずと手を上げた。


「ん? なんですかハイアット隊員?」

「最初、あの村に入ったとき、誰も僕たちのことを見ていなかった、でもあの女性が話しかけてから、皆がこっちを見るようになったんです、監視するみたいに」


 傍で聞いていたノーグは、サンドを飲み込み、首を傾げた。


「んー、それって変な事かい?村に余所者が入ったらだいたいそういう反応はされるよ?」

「でも、話しかけるときはみんな、親しそうにしてくれるのに、どうにもこちらの様子をうかがっているみたいで」

「それは人によるかな、余所者を快く思っていない人の方が多いんだし、しかたないさ」


 そう言って、アーマッジはハイアットに向かって微笑んだ。しかし、ハイアットは納得しかねる表情のままだった。

 唐突に、ノーグのコミューナから受信音がなった。布を取り払い、ノーグはコミューナを起動させると、人間の女性の姿が浮かび上がった。


『こちらナルビー、ノーグ隊員、応答願います』

「こちらノーグ、ナルビー隊員、何かありましたか?」

『調査の結果だけど、両国の気象観測士に聞いたらさ、ここ数週間この地域でこれといった異常気象や異常な魔力の発生はなく、至っていつも通りだってさ』

「外部的な要因はない、という事ですか……目新しい情報ではないなぁ」


 ノーグは軽く落ち込んだように、小さな溜息を吐いた。


『だけど、色々と聞き込みしてら、ちょーっと気になる証言があったんだよね』

「……教えてくれない?」

『うん、衛兵とか町の人たちの証言なんだけど、最近、今ノーグ達が訪れてる地域の住人達が全然こっちに来てないってさ、前はこっちに農作物の販売とか狩りの案内人派遣とかで来てたみたい』

「……なるほど、情報ありがとう」

『あくまで証言だけなんだけどね、それじゃ、ノーグ、アーマッジ君、それと、ハイアット隊員だっけか、頑張ってね』


 そう言って、ナルビーが手を振ると、コミューナは閉じた。横でアーマッジが腕を組んで考え込んでいた。


「……急に村から市街地に出なくなった、ですか」

「これは……やはり、村人自体に何かある、という事ではないですか?」

「うん、ノーグ隊員、どうも村人が何かを隠しているという前提が成り立つ可能性が高そうです」

「では、この事件の鍵をあの村人たちは知っているという事……!!」

「こうなると、先ほどのハイアット隊員の話も気になります、単に閉鎖的という話では収まらなさそうです」

「あの村に戻りますか?」

「いや、次の村……問題の3番目の村に進みましょう、目撃情報が全くなくなっていることを鑑みると、やはりそこに最も重要なものが隠されていると……」


 いきなり、天幕の外から音がした。

 ハイアットがすぐに立ち上がり、天幕から飛び出た。


「誰だ!!」

「うへぇ、あぁ、すみません!!」


 中年の男が驚いて後ろに飛びのいた。年季の入り、綻びがいくつか見える格好で、ぼさぼさの黒髪と、青髭が目立っていた。


「この辺りで何をしていたんですか」

「いやあ、俺は山菜取りをしていただけだ、あんたこそ、天幕を張ってこ何してるんだ?」

「僕らは旅の途中です、えっと、この辺りで鹿がよく出ると聞きましたので、ここで出るのを待ってたんです」


 少したどたどしく答えるハイアットを、男は訝し気に見ていた。


「ま、いいや、あんまり変なことしなさんなよ」


 男は振り向きそのまま立ち去った。それを見て、ハイアットは天幕の中に戻ろうとした。


「あんたはもう守れていないんだから」

「……!?」


 動転して、ハイアットが振り向くと、既に男の姿はなかった。天幕の入り口部分が捲れて、アーマッジが顔をのぞかせた。


「ハイアット隊員、何かありましたか?」

「あっ、はい、山菜取りに来ていたという男がこちらを気にしていた見たいです、もう去ってしまいしたが……」

「山菜取り……今こういう騒ぎになっている時に、ですか」

「……監視しているかもしれません」


 3人ではなく、僕を、とハイアットは心の中で呟いた。


「アーマッジ隊員、次の村に行きましょう、ここに留まっているのは危険です」

「了解、ノーグ隊員、行きますよ」



 日が赤みがかってきた時間に、3人は3番目の村に着いた。山に囲まれた、いわゆる盆地となっている所にあり、牧草畑が周りに広がっているのがよく見えた。建物は先の村よりもさらに少なく、それぞれが離れた位置にポツポツと立っているばかりだった。

 そして、町の外れたところに、1本の大木が立っていた。

 入り口付近に着くと、ハイアットは布越しにコミューナを耳に寄せる。


「……特異な魔力反応はありません、一見は普通の村のようですね」

「入って話を聞いてみましょうか」


 アーマッジがそう言うと、3人はゆっくりと馬を歩かせた。外に出ている人は全くおらず、まるで、誰もいないかのようだった。カラスの鳴き声だけが聞こえていた。

 いきなり、ハイアットが建物の方を振り向いた。ノーグ隊員はそれに気づくと、彼に合わせてその方に向いた。窓のカーテンが閉まっていた。


「どうしたんですか、ハイアット隊員?」

「……建物から、人が見てた、と思います」

「警戒しているのかな……余所者だからか、それとも……」


 3人はそのまま進んでいく。周りを見渡すが、やはり人影はなかった。

 そして、はずれにある大木のところに3人は着いた。大木は青々と茂っており、静かな村の中で、風に揺れる音が際立って聞こえていた。

 その根元に、老婆が1人、大木をじっと見ながら立っていた。3人は静かにその老人に近づいた。


「すみません、ちょっとよろしいですか?」


 ハイアットが話しかけると、老婆はゆっくりと彼の方を見た。彼の顔を見た途端、どこか無愛想だった表情がにこやかなものになった。


「おや、なんでしょうか?」

「この木は何でしょうか、随分と立派で……」

「この村の御神木だよ、ずーっとこの村を見守って下さってる、私は毎日、ここにきて彼に話しかけているんだよ」

「へぇ……今日はどういう話をなさったのですか?」

「どうも最近騒がしくなってるみたいで、みんな安心できないでいるという事を話しましたよ、きっと彼も心配しているでしょう」

「皆さんも、御神木も、安心できるようになるといいですね」

「本当にねぇ……」


 老婆はにこやかな表情のまま、ゆっくりと頭を下げる。

 アーマッジがハイアットのすぐ横についた。


「行きましょうか、これ以上の情報はもうないでしょう」

「了解、それではお元気で」


 3人は神木と老婆に背を向けると、再び街中に入っていった。


「もう日が暮れますし、宿に入りましょう、そこでも十分に情報が得られるはずです、別の店はまた翌日伺いましょう」


 ハイアットの提案に、ノーグとハイアットは小さな声で了解、と答えた。

 神木の傍で、老婆はまだ3人を見ていた。にこやかな顔がまだ彼女に張り付いていた。既に3人の姿は遠く小さくなっていた。


「安心、できるといいね」


 いきなり、老婆の体中に、黒い血管のような模様が浮かび上がってきた。模様は徐々に増えていき、ついには老婆の体全体が真っ黒になった。すると、今度は黒い霧が体が噴き出し、彼女の体を包み込み、ぐちゃぐちゃと音を立てて形を変えていった。

 そして、霧が散ると、老婆の姿はなくなっていた。代わりに、黒づくめの服を来た、若い女性が立っていた。


「……可愛い、ハイアット君」


 女性は……シルヴィエは背筋が寒くなるような笑みを浮かべた。

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