第4話 大空に怒りを込めて (Part8)
夜、【流星の使徒】本部、救護施設の病室で、フィジーは退屈そうに窓を見ていた。彼女の全身は包帯で包まれていた。診断では、腕をはじめとする、体のあちこちの骨が折れており、しばらくは出撃はおろか、訓練すらできない状態とのことである。
扉を叩く音が聞こえた。
「いいよー」
フィジーが答えると、ハイアットを先頭に機動部隊の皆が部屋に入ってきた。
「なになに~、お見舞いにしちゃ随分と豪勢じゃないの~」
フィジーはおどけた笑みを浮かべて見せた。
「フィジー隊員、この度の健闘は【流星の使徒】全体に知れ渡り、ギルド長の耳にも入った、君の武勲を称え、特別報酬が与えられることになったよ」
ムラーツは穏やかな笑みを浮かべていた。
「ホントに!! やった……たたた」
「バーカ、何やってんだよ」
ソカワがぽん、と彼女の頭を叩くと、皆の笑い声が、病室内に響いた。
「しっかし、あの力、ドクマでも厳しいだろうな、改良しないとな……」
「おいおい、こんな所で研究の話すんなよ辛気臭い」
「もー、こんなところで喧嘩しないでよー?」
イディとドクマに、いつものようにフィジーが諌めた。
「報酬は、回復してからバーッて使えばいい、休暇も与える、好きなようにしたまえ」
「ありがとうございます!!」
眩しいくらいの笑顔を浮かべて、フィジーはキリヤに頭を下げた。
その時だった。
「ちょっと見て下さい!!」
アーマッジが窓の方を指した。空いっぱいに流星が降っているのが見えた。
「まるで、我々の勝利を祝しているみたいですね」
「あら、ホシノちゃんもロマンチックな考え方をするのね」
「えええええ!?」
アヌエルに指摘されて、ホシノは顔を赤らめ、機動部隊の皆がまた笑いあった。
「……私、頑張って皆を守ってるよ」
流星を見ながら、フィジーはポツリと呟いた。それが聞こえたハイアットも、力強く頷いた。
*
墓の前で、僕とフィジー隊員は、黙祷をささげている。あの少女の、あの時の顔が、僕の脳裏をよぎった。でも、すぐにそれは笑顔に変わり、すぐに消えていった。
「……ごめんね、ハイアット君にもつきあわせちゃって」
「いえ、僕もあの子の魂に、報告したかったので」
「あはは、やっぱりどっか変な言い回しをするねー」
「そ、そうです、か……」
フィジー隊員に笑われてしまった。前と変わらない、すごく明るい笑い方だ。
「さて、町によってご飯食べよ!私がおごっちゃうよ~!」
「……ありがとうございます」
フィジー隊員の様子を見て、僕も笑みを零してしまう。
前方に、黒い服を着た女性が来ていた。
「あ、フィジー隊員、人が来ますよ」
「おっとっと、すみません」
「……いえ、大丈夫ですよ」
……体温が下がる感じがした。何だ、この感じは。あの人の顔、見覚えがある。あの人を、僕は知っている?
「おーい、ハイアットくーん、どうしたのー?」
「あ、いえ、なんでもありません!」
そうだ、思い出した。あの人は、僕の、ディン・ハイアットの憧れの人だ。
あの人は……シルヴィエさんだ。




