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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第4話 大空に怒りを込めて -悦楽殺人鳥ドルグラ登場-
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第4話 大空に怒りを込めて (Part6)

 ダスフ国グラドー町で。


「こちらキリヤ、地上班1は特に異常は見ていない」

『こちらドクマ、地上班2も同じく見ていない』

『こちらソカワ、空中班も見ていない』

『こちらホシノ、こちらも異常は確認されません』


 機動部隊は1つの都市で、3つの班に分かれて警備を行っていた。キリヤ、アヌエル、ハイアットの地層竜、馬に乗って警備にあたる地上班1、アーマッジ、ドクマの彗星01に乗る、そしてワイバーンに騎乗するソカワ、イディと、有翼人のフィジーによる空中班である。加えて、ホシノの式神があたりを飛び回っている。

 街中はやはり物々しい空気が漂っていた。家族で出歩く姿は全くと言っていいほど見られず、【流星の使徒】と共に警備する人ばかりであった。皆が、今度こそ、敵を見つけるという強い意志をもっていた。警備する者同士が顔を合わせるたび、敵がいたかどうか頻繁に確認しあったが、ドルグラの消息はまだ分からなかった。


「気が滅入りそうです、ほとんど手掛かりなし、しらみつぶし気味に見回るばかり、皆も気を張っている、嫌な空気です」

「仕方あるまい、ドルグラを討たない限り、この状況は晴れぬよ」

 暗い表情のアヌエルに、キリヤは努めてにこやかに語った。

「はい、これに負けるほど意思は弱くはありません」

「その意気だ、ハイアット隊員も気を強く持てよ」

「はい」

「ルトラの期待に答えるためにもな」


 キリヤの予期せぬ一言に、ハイアットは一瞬、動揺した。


「えっと、それは、どういう……」

「前にハイアット隊員が言ったではないか、ルトラは、我々のことを見てる、我々がルトラの期待に答えてあげれば、ルトラも我々の期待に答えてくれるってな」

「ふふっ、あれには勇気づけられたわ」


 アヌエルが微笑んだ。ハイアットは恥ずかしそうにうなじ辺りを掻いた。


「……今日は、ルトラは現れるのだろうか」


 キリヤがぽつりとつぶやいた。その言葉は2人にも聞こえた。


「副隊長、それはどういう意味でしょうか?」

「ルトラは……ハイアット隊員の言うことが真とするならば、人々に求められた時に現れるのではないか?あの少女が連れ去られた時こそ、彼が現れるべき時だったのではないか?」

「……副隊長は、ルトラを信頼してはいないのでしょうか」

「彼の力に関しては信頼しているが……存在に関してはいささか疑問が多い、我々を守ってくれるのは確かだが、どうにも神出鬼没である所は気になってな……彼にも、何か事情があるのだろうか?」

「そう……ですね」


 アヌエルは顎に手をやり、思案する。

 少し後ろの方で、キリヤの疑問を、ハイアットは悲し気な目でうつむいたまま、静かに聞いていた。

 あの時、ドルグラの強襲により、体を強く打ってしまい、しばらく動けない状態だった。人間であるハイアットの体は、例え人知を超えた能力を持っていたとしても、「邪」の尖兵から人々を守るには、あまりにも貧弱だった。


「ハイアット隊員、どうしたの?具合でも悪い?」


 声をかけられ、ハイアットが正面を向くと、アヌエルが後ろを振り向いてこちらを見ていた。


「あ、いえ、それは大丈夫です……」

「そう、しんどかったら早めに私に言ってね」


 アヌエルはハイアットにウィンクすると、また正面を向いた。ハイアットは困ったような表情で、それを見るばかりだった。

 ふと、気配がして、ハイアットは横の方を向いた。小さな影が、家の陰から陰へと移っているのが見え、小さな声で、のろま、と叱責するのが聞こえた。


「副隊長、どうも子供が抜け出して外出しているようです」

「何っ、それは本当か!?」

「さっき、子供らしき影が見えました、ちょっと追いかけていきます」

「了解、私たちは警備を続ける、子供を保護したら、すぐ連絡してくれ」

「了解」


 ハイアットは子供たちが去っていった方に向かって馬を軽く走らせた。それをアヌエルは半ば呆れ交じりの笑みを浮かべて見送る。


「ホント、子供ってダメって言われたことほどやりたがりますわね」

「大人は判ってくれない、なんて詩の1句があるが、その逆もまた然りだな」

「それに、家にこもってばかりで退屈だったんでしょうね……気持ちはわかりますわ、私も昔はじゃじゃ馬でしたから」

「しかし、今はこの状況だ、早急に保護したいところだが……」


 その瞬間、キリヤのコミューナから着信音が鳴った。起動すると、アーマッジの姿が映った。


「キリヤだ、アーマッジ隊員、何があった」

『こちらアーマッジ、不審な鳥を発見しました、見た目は普通の黒い小鳥ですが、彗星01の魔力探知機の反応が通常の魔物と比べてもかなり強い反応を示しているんです、現在、彗星01と他警備に当たっているもので、向こうに感づかれないように追尾しております』

「了解、私たちも合流する、その鳥はどこに向かっている」

『北東に向かってます、小さな山がある方向ですね』

「副隊長、先ほどハイアット隊員が子供たちを追いかけていった方向です」

「了解、それではその山のあたりで落ち合おう」

『了解!』


 コミューナを閉じると、キリヤは臍をかんだ。


「……悪い予感っていうのはなんでこうも良く当たるのだろうな!」



「あー、やっと巻けたよ」

「ちっくしょう、お前のせいで追いかけられてるんだからな!!」

「うう、ごめん……」


 3人のまだ幼い男の子が、広葉樹の茂みの中でへたりこんでいた。

 そこはグラドー町にある、小さな山の中腹だった。

 この山の頂付近には開けたところと川や大きな洞のある大木があり、町の子供たちには絶好の遊び場だった。そして、山には木の根っこを梯子代わりにする、ほとんど崖に近い急な坂である子供たちの「秘密の登山路」があり、彼らはそれを使ってハイアットから逃げたところだった。


「後はいつものとこにいこ、あいつは余所者だし、まずバレないでしょ」

「今日、確か流星群がくるんだよな?」

「そうだよ、天気が良ければあの場所で空いっぱいに見れる、こんな機会、めったにないよ」

「で、でも……」


 1番遅れてきた、小柄で線の細い子が、おずおずと2人に話しかける。


「今、とっても怖い怪物が来てるんでしょ? 襲われないかなぁ?」

「なーに心配してんだよ、弱虫、怪物ぐらい俺たちで倒せるよ」

「そ、そうかな」

「っていうか、あいつはのろまな弱虫を狙うんじゃねーの? ははははっ!!」


 丸っこい体のやんちゃな子に囃され、気弱な子はすでに泣きそうになっていた。長身の1番しっかりした印象の子はすでに立ち上がって、先に行こうとしていた。


「おーい、そんなことしてたらあいつに追いつかれちゃうよ、早くいこ」

「ダレニオイツカレルンダイ!?」


 突然、聞いたことのない声が聞こえてきた。子供たちは不安げに、辺りをきょろきょろと見回す。


「ココダヨ!! バア!!」


 黒い小さな鳥がいきなり3人の目の前に現れた。子供たちはびっくりして腰を抜かした。


「アハハハハ!! ビックリサセチャッタ!? ゴメンネ!!」

「と、鳥が、しゃべってる!?」


 長身の子が目を丸くしていた。一方で、やんちゃな子が興奮した様子で鳥を見ていた。


「ソウ!! ボクハキミタチトオシャベリデキルンダ!!」

「すっげー!! 俺、こんなの初めて見た!!」

「魔物、なのかな?」

「ボクハソンナヤバンジャナイ!! モットカシコイヨ!!」


 鳥が、長身の子に威嚇にするように近づいた。


「ご、ごめん、それで、僕らに何か用があるの?」

「ボクハキミタチヲタスケタインダ!! キミタチハオトナ二オイカケラレテルンダロウ!?」


 3人は頷いた。


「ミンナソトデアソビタイノニ、オトナタチハトジコメチャウ!! シカモ、キョウハリュウセイグンノヒ!! コドモハマンテンノソラヲミレナイノニ、オトナハミレル!! ナンテカワイソウナコドモタチ!!」


 立て板に水といった調子で、鳥はまくし立てる。長身の子と、やんちゃな子は食い入るように話を聞いていた。

 1人、気弱そうな子は訝しげにしていた。


「ソレデ、ボクハキミタチヲズルイオトナタチカラマモロウトオモウンダ!! キミタチハアンシンシテ、ソトデアソビホウダイアソベルヨ!! ドウダイ!!」

「ホントに!? いやったー!!」

「……ね、ねぇ、なんか変じゃないかな、すごい嫌な予感がするんだ」


 無邪気に喜ぶやんちゃな子の腕を、気弱な子が引っ張った。


「うるさいな、何を心配してるんだよ、お前だって俺たちと一緒に遊びたいんだろ?守ってもらうに越したことないじゃないか」

「ソウダヨ!! キミモコワガラナイデ、アンシンシナヨ!!」


 周りの空気に、少年は頷くしかなかった。


「でも、君、随分と小さいけど、本当に僕らを守れるのかい?」

「ハハハ、キミタチハシンパイシスギダヨ!! オトナタチガキタラ、ボクノチカラヲミセテアゲルヨ!!」

「なんだよー、今見せてくんねーの?」

「オタノシミハ、アトニトッテオクモノサ!!」


3人の周囲を黒い鳥が得意そうに飛び回った。


「ソレデサ、ボクハキミタチトトモダチ二ナッテ、モットモットナカヨクナリタインダ!! キミタチ、コレカラアソブツモリナンダロウ? ボクモマゼテヨ!!」


長身の子が腕を組んで、考える仕草をした。


「うん、いいよ!」

「ヤッター!!」


 黒い鳥は嬉しそうにくるくると螺旋を描いて飛び、2人の少年はそれを見てニコニコと笑った。1人だけが、不安な様子で鳥をじっと見ていた。

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