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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第4話 大空に怒りを込めて -悦楽殺人鳥ドルグラ登場-
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第4話 大空に怒りを込めて (Part3)

 唐突に、大きな音が聞こえた。ハイアットを含め、町の警備に当たっていた人達がそちらに振り向くと、ある家の屋上が吹き飛ばされていた。

 その中から、巨大な鳥が飛び出し、地上に降り立った。黒い体に、不気味な紫の模様、そして毒々しいまでに真っ赤な目が爛々と輝いている。


「こちらハイアット!! 町の中でドルグラが出現!! 家の中からいきなり飛び出してきました!!」

『はぁ!? 家の中から!? それ、どういうこと!?』


 フィジーの困惑した声がコミューナから聞こえてきた。

 ドルグラは空へ飛ぼうと大きく羽ばたき始めた。騎士団の者達はすぐに整列し、弓矢や魔装銃を構える。


「ちょっと待て、あれを見ろ!!」


 矢が放たれようとしたその時、傭兵の男がドルグラに向かって指さした。

 ドルグラは少女の小さな体を咥えていた。少女が助けを求める声が、空間を切り裂くように響き、皆が絶句した。


「……何をしている、あいつが逃げるぞ!! 撃て!! 咥えている子に注意して、撃てーっ!!」


 騎士団の上級兵が、自分を奮い立たせるように、大声で指示した。騎士団の者と、地元のギルドの傭兵たちから、矢と魔法弾が嵐のようにドルグラに放たれた。

 ドルグラはそれを軽くかわすと、ドルグラは目から紫色の雷を放つ。雷が騎士団や傭兵たちの近くに当たると爆発が起き、その衝撃で多くの人が倒れた。さらにドルグラは少女を咥えたまま飛び立つと、攻撃した者たちに向かって、真正面から突っ込んできた。

 その風圧により、多くの者が地面を転げまわり、発生したつむじ風で体に切り傷をつけられた。


 ハイアットも巻き込まれ、近くの建物に激しくぶつかった。しびれる様な痛みが、彼の全身に走った。血を流し、息を切らしながら、ハイアットはコミューナを起動させる。


「こちらハイアット、ドルグラは女の子を咥えて、空へ飛んで行きました……絶対に逃がさないで、ください……!」


 ドルグラが飛んで行ったあと、吹き飛んだ家の前で、少女の親らしき人物が泣き喚いているのが見えた。



 ハイアットからの通信を聞き、フィジーは神妙な面持ちで連射式の大型魔装銃を構えていた。視界の先には少女を咥えたドルグラが飛んでいた。その怪物の所業を見て、周りの者全員がどよめいた。


「みんな、怪物の退治するよりもまず、あの女の子の救出を優先すること!! いいね!?」


 フィジーの指示に、皆がが力強く応答した。

 数人のワイバーン騎士がドルグラの後ろにつけた。ドルグラがそれに気づくとそれを突き放そうとおもいきり旋回するが、ワイバーンもそれにしっかりとついて行き、騎士たちは魔装銃を構えると、一切に魔法弾を撃つ。ドルグラは難なくそれをかわした。

 次の瞬間、ドルグラの右の横腹に水系の魔法弾が着弾し、その衝撃でドルグラがふらついた。右方向のやや離れたところで、フィジーが銃を構えていた。後ろ、左、右、上、下、そして前方にも銃を構えた者達がいた。ドルグラは完全に囲まれていた。

 しかし、ドルグラは焦るそぶりすら見せず、目を光らせ、雷を前方の2人のワイバーン騎士に向かって放った。いきなりの攻撃に対応しきれず、2体のワイバーンの翼が焼け、地面に落ちていった。包囲網の隙間に向かって、ドルグラは速度を上げて一気に突破した。


「逃がしてたまるか!!」


 威勢よく、有翼人の男がそれを追いかける。周りの者もそれに続いた。

 しかし、ドルグラは急速に方向展開し、翼をぶつけるように先ほどまで囲んでいた者達に向かって飛んできた。あまりの速さに、先に飛び出した有翼人はかわし切れずに直撃し、遠くに向かって飛ばされ、際どい所でかわした者たちも、突風によって安定を崩し、ぐるぐると回りながら落下した。ドルグラの目つきはまるでニヤニヤと笑っているようだった。

 いくら攻撃しても、かわされるか、相殺されるかのいずれかに終わり、ドルグラには一切の傷も与えられなかった。それどころか、次々と返り討ちに合い、空に残ったのはフィジーと女性のワイバーン騎士の2人だけとなった。


「あれだけ、いたのに、なんで……なんで……」


 ワイバーン騎士は完全におびえてしまい、目に涙がたまっていた。彼女の乗る、ワイバーンも疲弊がひどく、口を大きく開けて呼吸していた。


「あなたはもう逃げて」

「えっ……」


 フィジーが話しかけた。


「いいから!! 後は私だけでやる!!」


 彼女の鬼気迫る表情に、騎士はただ従うしかなかった。その間にも、ドルグラは最後に落とす標的に狙いを定めて、ぐるりと旋回していた。

 そして、ドルグラがフィジーに向かってくると、彼女は一際大きく翼を羽ばたかせて、ドルグラから逃げるように飛んでいった。フィジーはジグザグに動き、ドルグラの放つ雷をかわしつつ、逃げていく。しかし、飛ぶ速さは明らかに、ドルグラが上だった。

 程なく、フィジーはドルグラのすぐ目の前までに追いつかれてしまった。


「今だっ!!」


 フィジーはいきなり速度を落とすと、すれ違いざまにドルグラの首にしがみついた。異変に気付き、ドルグラは彼女を振り落とそうと首を振り回した。フィジーは茨のような羽毛を握りしめ、必死にこらえた。

 そして、腰から短剣を取り出すと、勢いよく怪物の後ろ首に刺した。ドルグラはさらに激しく頭を振り回す、まだ、少女を咥えたままだった。フィジーは離れずさらに、もう1回、短剣を突き刺し、あらん限りの力を込めて、深く、深くさしていく。

 ドルグラは大空に向かって、断末魔を上げた。それは天を切り裂くような鳴き声だった。

 それと同時に、怪物は少女を口から離した。フィジーは急いで短剣から手を離すと、先に落下する少女に向かって急いで飛んでいった。フィジーは必死に手を伸ばし、少女の足をつかむとそのまま抱き寄せ、ふわりと態勢を立て直した。あと少しで、少女は民家の屋根に激突するところだった。その間に、ドルグラは遠く彼方へと姿を消してしまった。


 フィジーは地上に降りると、そのまま少女と一緒に地面に倒れ込んだ。遠くから、フィジーの名前を呼びながら、ハイアットが駆け寄ってきた。ハイアットも、頭から血が出ており、足が不自由な様子だった。


「フィジー隊員、大丈夫ですか!? すぐに救護を呼びます!!」

「ありがとう、ハイアット隊員、それより……この子は、無事、かな?」


 少女は、まるでフィジーに添うように寝ていた。


「ねぇ、君、大丈夫かい? 返事してごらん?」


 ハイアットは少女の肩を軽くたたきながら呼びかけた。少女は反応しなかった。


「ねぇ、君のお母さんが心配してるよ?」


 ハイアットは軽く少女の体を揺らすと、少女は力なく仰向けになった。その時、ハイアットは愕然とした。それを見て、フィジーも少女の顔を覗くと、彼女の顔色が一気に青ざめた。


「そんな、ねぇ……噓でしょ? 生きてるんでしょ?」


 フィジーは話しかけながら少女を揺り動かした。彼女の目から涙がたまるにつれて、揺り動かす手も激しくなっていく。


「ねぇ!! 私、助けたんだよ!! どうして!! どうして返事してくれないの!!」

「フィジー隊員!!」


 ハイアットがフィジーを抑えた。彼女はただ言葉にならない言葉を漏らし、嗚咽するばかりだった。

 そして、ハイアットは恐る恐る少女の手首を手に取った。脈は無かった。少女の体にはドルグラに加えられた跡が痛々しく残り、少女の顔は恐怖に歪み、瞳孔は完全に開いていた。

 少女の体は、あまりにも脆かった。

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