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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第4話 大空に怒りを込めて -悦楽殺人鳥ドルグラ登場-
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第4話 大空に怒りを込めて (Part1)

 泣いている。みんな、泣いている。墓の前で、泣いている。

 なんて痛ましい風景なのだろう。なんて悲しい風景なのだろう。

 隣で、深いため息が聞こえた。フィジー隊員が、その光景に背中を向けていた。


「フィジー隊員、どうしたんですか?」

「話しかけないで」


 いつもの、快活なフィジー隊員がそこにはなかった。


「なんで……」

「そんなこと、わかってるでしょ」


 すごく、怒っていた。


「私のせいで、私が守れなかったせいで……」



 時間を遡って。

 ユジム国クレセト村、快晴の中で、エルフの一団が川べりの開けた所にやって来た。壮年の男女で4人、青年の男女で7人、そして幼い子供が男女で3人。彼らは皆、親族関係であった。

 銀髪の、少し皺の伺える男性が、全員の前に立つ。


「それではここを拠点とし、狩猟を開始する、森に入り、鹿狩りする者と、ここで魚釣りをする者で分かれよう」


 壮年の男女3人と青年の男女5人が鹿狩りに赴き、残りは魚釣りに残った。

 狩猟はエルフにとって重要な訓練であった。エルフは強い魔力を持ち、高度の魔法を扱える種族として知られるが、この狩猟では一切魔法を使うことは禁じられていた。

 あえて、魔法を使わず、通常の道具を用いて狩る事で、精神を集中させ自然と一体となるための格好の訓練となる。特に魚釣りは負担はかかる少ないため、幼年のエルフにはちょうど良かった。

 魚釣りの側は、それぞれ釣り具をもって、岩場に向かっていった。子供たちは遊びの気分ではしゃいでいる。


「こら、落ち着きなさい、転んでけがしたらどうするの」


 青年の女性に注意されたが、子供たちは特に気に留めることなく、楽しげな表情のままだった。


「はぁ、子守もやるなんてな……」

「文句をいいなさんな、これもまた、修行の一環よ」

「はいはい」


 青年の男性が壮年の女性……母親に諌められ、力の抜けた表情で釣り針を投げる。それに続くように母親、青年の女性……姉と、最後に子供たちが川に向かって釣り針を投げた。皆、岩の上で仲良く等間隔に並んで座っていた。

 皆、静かに釣り糸の先に神経を集中させつつ、岩と同化するようにじっと待っていた。しかし、子供たちはどうしてもこらえきれず、釣り糸がの先が揺れて波ができていた。元々、待つのが苦手なうえに、清流を前に水浴びをしたいという気持ちが沸いていた。

 次第に、母親を皮切りに、段々と魚が釣れだした。しかし、子供たちは一向に釣れないままだった。


「ねぇ、全然つれないよ~、つまんな~い」

「こーら、ぐずつかないで」


 集中力が完全に切れた子供たちを姉が注意する。


「水浴びしていい? 水浴びしたい!」

「さーわーがーなーいー」

「ふふ、しょうがないわねぇ……あなたたちだけ、向こうで遊んでなさい、ただし、私たちの目の届かないところに行ってはダメよ」


 母親が優しい言葉に、子供たちは大きな声で喜び、釣り具を早々に片付けて、河原の方に向かった。それを見て、青年は小さく呆れたようなため息をついた。


「ったく、しょうがないな」

「まぁまぁ、あなただってあんな時があったんですから」


 母親が青年に微笑んだ。


「ちぇっ……おし、もう1匹」


 青年はぶぜんとした表情で、魚をかごに入れる。離れたところで、子供たちが下着姿で、明るい表情で、水浴びを楽しんでいるのが見えた。

 青年が餌を付け直し、釣り針をまた川に投げ込んだ時だった。森から一斉に鳥が飛び立ち、動物たちが走る音が聞こえた。子供たちは遊ぶのをやめて、不安げな表情を浮かべ、母親と姉弟は、険しい表情であたりを見回した。


「大災害の前触れ……みんな、準備して」


 母親が冷静に指示すると、急いで釣り具を片付け始めた。


「ん、あれは大ガラス……?」


 姉が何かを見つけた。


 それは空の上から急降下していた。それは大ガラスと見るにはあまりにも大きすぎた。

 

 子供たちはそれを呆気にとられた様子で見ている。


「子供たちが!?」


 母親は急いで立ち上がり、子供たちの所へ駆け寄ろうとした。その瞬間、怪鳥から何かが放たれ、母親の肩に、姉の太ももに、青年のすねに刺さった。それは鉱物でできた、杖ぐらいの長さの針。3人はその場に倒れ、痛みに声を上げ、悶えた。

 苦しみながら、青年がポケットから笛を取り出し、精一杯吹いた。甲高い、澄んだ音が辺りに響き渡った。


「頼むっ、間に合ってくれ……!!」


 青年は心の底から祈った。怪鳥はその軌道から、明らかに子供たちを狙っていた。子供たちはすくみ上り、ただ身を寄せるばかり。


「《母なる大地よ、悪しきものから守る壁を築き給え》!!」


 母親が呪文を詠唱し終えると、怪鳥と子供たちを隔てるように岩の壁がせりあがってきた。


「《古よりなり続ける雷鳴よ、我に力を貸し給え》!!」


 姉も何とか立ち上がり、タクトを振りかざして呪文を詠唱した。タクトの先から雷が怪鳥に向かって飛んでいった。

 しかし、怪鳥は目から紫色の雷を放って相殺させ、さらに、岩の壁も破壊してしまった。振ってくる岩に当たらないよう、子供たちは小さくうずくまった。


「早くっ、早く逃げて……っ!!」


 子供たちに呼びかけながら、母親が何とか立ち上がった。しかし、まるでその瞬間を狙ったかのように、また針が飛んできて、今度は母親の膝と姉の足首を射抜いた。

 母親の声を聞き、子供たちは、震える足で何とか立ち上がり、走り出した。川の水に足を取られ、転んでも、なんとか逃げようと懸命に走った。

 しかし、怪鳥はすぐそこまで迫っていた。


「おい、いったい何が起こった……」


 鹿狩りの部隊が河原にたどり着いた。彼らの目の前で、怪鳥は3人の子供たちを捕らえ、空高く連れ去った。

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