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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第2話 光と影を追って -熱線魔獣べグス登場-
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第2話 光と影を追って (Part3)

 長い廊下を、1組の男女が歩いていた。赤い絨毯の上を歩くたびに、硬い足音が聞こえた。男女はある扉の前に立つと、男の方が軽く戸を叩いた。


「失礼するよ」


 男が一言述べてから、2人は部屋の中に入っていった。部屋は、木造の椅子が6脚とと燭台が乗ったやや大きな机が1台と暖炉が1つぐらいの簡素なものだった。


 そして、1脚の椅子にディン・ハイアットが、ぼんやりとした様子で座っていた。


「怖がらなくていい、別に君の罪を問うわけじゃないんだ」


 男はにこやかな表情で話しながら、ハイアットの正面に座った。


「どうも、僕はミロイ・イディ、【流星の使徒】機動部隊の一員さ、錬金術を学んでたら、名前ぐらいは聞いたことはあるんじゃないかな?」


 そうイディは少し得意げに語った。しかし、ハイアットの不思議そうな表情をしているのを見て、彼はバツの悪そうに咳払いした。

 続いて、女の方がイディの隣に座った。


「どうも、同じく機動部隊員のユーリ・アヌエルよ、私のこと、覚えてるかしら?ほら、あなたがラムべ町の治療所で目を覚ました時、そばにいたじゃない」


 彼女の問いかけに、ハイアットは首を小さく頷いた。それを見て、アヌエルはクスリと笑った。


「こんな形だけど、あなたとの再会、私はうれしいわ」


 アヌエルはハイアットにウィンクした。それに対してハイアットは少し困ったようだった。

 さて、とイディは一声かけて、両肘を机に乗せ、ハイアットの目を見据えた。


「さっきも言ったけど、君の罪を問う訳じゃない、君への疑いは晴れているんだ、仲間のアーマッジ隊員、それと君のいた【北斗商会】の店長さんとか、周りの人の証言で、あの人体発火は君によるものじゃないと分かったからね」

「……ありがとう、ございます」


 ハイアットはおずおずと頭を下げた。


「いや、いいよ、別に聞きたいことがあるからね、正直に答えてくれよ」


 イディのまなざしが一段と真剣なものとなった。


「まず、君がラムべ町から避難する際、何が起こったのか、憶えていないんだね?」

「はい、付き添いの看護師さんが急に眠ったぐらい、でしょうか、気が付いたら原っぱの上で寝てました」

「ふむ、それじゃもっと遡って、ルガモル鉱山で何を見たのか、憶えてないかい?」


 ハイアットがわずかながら動揺したような様子を見せた。 


「はい、ルガモル鉱山で神殿が発見されて、僕は所属するナギヤ考古学研究室のみんなと一緒に中の調査をしていました、そこで太古のレリーフなど、古代文明があったことを示す証拠をみつけたんですが……」

「例の忌まわしい事件が起きた、と」

「私も質問していいかしら?」


 どうぞ、とイディが軽く答えると、アヌエルがハイアットの方に身を寄せた。


「その神殿の中で何かあなたの触れた物ってある? それで、何が起こったとか、憶えてる?」

「……はい、その、レリーフとか、神殿内に描かれた文様などは触れましたが、特に何が起こったとかは、なかったです」

「その中でどんなことが書かれていたとか、わかったのかしら?」

「すみません、それを詳しく調べる前に、あの事故がおきてしまったので……」


 ハイアットは淡々と、何かを手繰り寄せるように答えた。それをアヌエルはじっと観察していた。


「もしかして、嫌な事、思い出させちゃったかしら」

「いえ、大丈夫です、お気遣いありがとうございます」

「特にその内容についてはよくわからないのね、ありがとう」


 アヌエルは一呼吸置いた後、柔らかい表情をハイアットに見せた。


「それじゃもう一つ、昔、怪我の治りが他の人よりも早いとか、言われたこと、なかった?」

「……わからないです、そんなこと、気にも留めてませんでしたから、」

「そう、ごめんね、へんな事を聞いちゃって」


 アヌエルは少しばかり残念そうな表情を浮かべながら、身を引いた。


「とりあえず、昔のことは一旦ここまでにしよっか」


 イディがポン、と手を叩き、2人の気を引いた。


「例の人体発火の件だけど、最初の被害者が出た時、真っ先に外に飛び出したらしいね、どうしてそんなことを?」


 再び、イディはハイアットの目をじっと見た。ハイアットはただ、視線をそらすこともなく、虚無を見る様な表情のままだった


「犯人を見たとか、かい?」

「……はい」


 ハイアットは小さく頷いた。それを見たイディは険しい表情で身を乗り出した。


「どんな奴だった?」

「それは小さなヤモリのような生き物でした、本当にごくごく小さなものです」


 ハイアットは大きさを表すように、指で小さな円を描いた。


「ヤモリ……となると魔物、か」

「それぐらいの大きさで人を急に発火させるほどの力を有しているのかしら?」


 アヌエルがイディに話しかけた。事実、彼女の言うとおり、魔物の持つ魔力は体の大きさと比例しているのが常である。


「さあてね、小さな魔物でも時々、突然変異種がいたりするからね、そいつがどうなのかはわからないけどさ」

「ひょっとしたら、この間の……」

「うん、ありうるかもね……っと失礼、ほったらかしてごめんね」


 イディがハイアットの方に向きなおした。


「あ、いえ、大丈夫です」

「それで、君が追いかけてる時に、第2の事件が起きたんだけど、そのヤモリが何をしたか、見ていたかい?」

「いえ、何かをした、とは思うんですが、よく見えませんでした……本当に、突然燃え上がったんです」

「そうかぁ、うーん」


 イディは額のあたりを搔きながら唸った。犯人は魔物であることは確信したが、どうにも実態のつかめないもどかしさをイディは感じた。


「……あの、すみません」


 ハイアットが小さな声で2人に向かって話しかけた。

「ん、何かしら?」

「これは、あくまで僕の勘なんですが、あれは皆さんの力で敵うような相手とは思えないんです」



「ふーん、なーんかいまいち良いこと聞けなかった感じだねー」


 談話室のソファーの上で、フィジーは軽い調子で答えた。


「いや、ホント困ったよ、大体のことは「憶えてない」ばっかりでね、彼についてのことはこれ以上探るのは厳しいよ」


 木造の椅子にもたれながら、イディはため息を大きくついた。その隣でドクマが、大きな声でせせら笑った。


「そりゃあ、おめーの聞き方が悪かったんだろうが、そんなもん机とかドンドンと叩くとかして、ビビらせればいいいじゃねぇか」

「そんな脅しみたいなことしたら僕らの評判が落ちるだろうが、脳筋!」

「うるせぇ、マッド・アルケミスト!!」

「でも、ルガモル鉱山で何かあった事は確かだと思うわ」


 もめる2人をよそに、まだ湯気の立つ紅茶を片手に、アヌエルが冷静に話した。


「ん、それはどうしてだい?」

「あなたがルガモル鉱山の事、聞いたとき、少しだけど反応があったのよ」

「え、本当かい!?気づかなかったなあ」

「ほーらイディ、やっぱりおめーのやり方が駄目なんじゃねえか」

「うるさいな!!」

「あーもー、あんたたちはいい加減にしなよー」


 いつものように喧嘩を始める2人にフィジーは呆れた様子で注意した。アヌエルの隣に座る、アーマッジが口を開いた。


「しかし、ルガモル鉱山はまだ復旧の途中です、それがいつ終わるのか……」

「彼の謎が解けるのは当分先とみていいわね」


 アヌエルは少し微笑みながら、紅茶のカップを置いた。


「あと、人体発火事件を起こした犯人がどんな存在なのか、新しい情報は得られたわ、ヤモリほどの大きさの魔物でいきなり対象を燃え上がらせる力を持っている、私は前の怪物と同類じゃないかと思うの、体格の違いこそあれどね」

「僕も同じ場所にいましたが、魔法の軌跡は感知することができませんでした、未知の力であることは間違いないと思います」

「あいつと同じような奴ってか、またやっかいな相手なんだろうな」


 アヌエルとアーマッジの会話を聞いて、ソファーに寝転がるソカワが顔をしかめた。


「知性もあると思います、あの時、奴が第2の被害者を出したのは追いかけてくるハイアットを巻く目的があった、そしてそれが見事に成功した」

「ちっ、聞けば聞くほど面倒くさい相手だな」


 ソカワが苦い表情で頭をぐしゃぐしゃと掻いた。その向かいでフィジーはため息をついた。


「あんな化け物と似たような奴が来るなんて、どうなってんのよね」

「わかんないよ、世界がどう変わっていくのか、全てわかる人なんて、賢者でもいやしないさ」


 イディはそう言って、コーヒーを一口飲んだ。


「それはそうと、あいつも生意気な事を言うよな、俺たちには敵わない相手?ばかばかしいぜ!」


 ドクマが大きな音を立てて机をたたいた。アーマッジはそれを落ち着いた様子で見ていた。


「ですが、もし前の怪物と同類であるならば、攻略が厳しいのは確かだと思います、対策はきちんと立てていきたいところです」

「言われなくても、前の時から俺たちは新たに訓練も積んでるし、新技術の開発もすすめてるんだろ、な、イディ?」

「もちろんさ、まだ、未完成だけどね」

「とっととしてくれよな、あ~ちくしょう、俺たちの働きをわかってねえからそんな事言えるんだ!」


 その時、部屋の外からバタバタと慌ただしい様子の足音が聞こえた。


「ホシノちゃんがまた、なんか指令を持ってきたかなっと」


 フィジーが反動をつけて、ソファーにもたれかけた体を起こした。程なく、ホシノが大きな音を立てて扉を開け、姿勢よく敬礼した。


「【流星の使徒】機動部隊総員、作戦室に集合してください!タクティア国での事件で、我々に要請が入りました!」

「進展があったようだな」


 ソカワはにやりと笑い、ソファーから飛び起きた。それと同時に、他の者も席から立ちあがり、部屋から出ていった。


「ここでばーっと仕事して、アイツの目に物を見せてやろうぜ」


 そう言ってドクマは扉をバタンと大きな音を立てて閉めた。

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