5話〜デート編・前編〜
書き溜めが無くなってきた……orz
「何処を見て周る?」
「うーん……凛音は何か見たいものあるか?」
「えっと、じゃあ……ラノベとファッション物をいくつか見たい」
「了解。じゃ、飯食ってからmoriの方に行くか」
放課後、聖夜と凛音は約束通りレイクタウンへと遊びに来ていた。駅のホームへ降り立つと、周りには彼らと同じように制服を着た人達が目立つ。
「多いね、人」
「休日だからな。そりゃたくさん居るだろ」
「まあそうだよね。……あー、カップルも一杯居る……」
「そうだな……ちっ、爆発しろ」
「私達も多分そう見られてると思うけど……というか、聖夜もいい加減彼女とか作ったらどうなの? そのルックスなんだから、口説けば大体の女子が落ちると思うんだけど」
あながち冗談でもなさそうに小さく舌打ちした聖夜と、そんな彼に呆れたような声をかける凛音。彼らのそんな様子は、凛音の言う通りまるでカップルだった。
「いやいや……そう簡単に彼女なんて出来ないって。こんな平凡な男に」
「平凡って……アマチュアレーサーでボーカリストのあなたが平凡なら、他の男達はどうなるのよ」
「いやまあ、確かにそうだけど……でもそれを知ってる人なんてほとんどいないし、学生っていう点ではやっぱり平凡だよ」
「はあ、全く……それだけイケメンなのに、そんな事言ってたら他の男に失礼でしょ?」
「……そういう事をさらっと言うなって」
幼馴染だからこその冗談じみた会話。……いやまあ、言ってることは両者とも本音であるのだが。
「ま、いいや。それより、今日はちゃんとエスコートしてもらおうかな」
「……分かったよ。具体的には?」
「んー……手でも繋ぐとか?」
「やだよ恥ずかしい……そんなこと瀬那ちゃんとしか出来ないっての」
「ホント凄まじいシスコンっぷりよね……まあいいや、じゃあ手は繋がなくてもいいよ」
いいように振り回されている聖夜。彼はやれやれと呆れながらも、そんな凛音を可愛く思ってしまってもいた。
そして凛音も、そんな彼にますます悪戯を仕掛けたくなってしまうのだ。もっとも、やり過ぎるとしっぺ返しをくらうことになるのは、彼女も承知の事だ。しかし、それも含めて楽しいと思っているのも事実である。
「その代わり……腕を組んでもらおうかな?」
「好きな人とやりなさい。俺とじゃなくて」
それこそあなたの事なんだけど……というツッコミをなんとか抑え、凛音は不満気な顔で聖夜を見る。だが、彼はもう彼女の方を見ていなかった。そして目線を合わせないまま言う。
「でもまあ、今日は混んでるし……はぐれないようにはしないとな。……ほれ」
「……へっ?い、いいの?」
「別に構わんよ。この上なく恥ずかしいけどな」
相変わらず、彼はそっぽを向いたままだ。だが凛音はそれが照れ隠しであることが分かったので、思わずにやけてしまう。
「なんだー、繋ぎたかったなら素直に言えば良かったのに」
「……やっぱやめるか」
「冗談だってば!」
早速お返しをくらいそうになった凛音は慌てて、彼が戻しかけていた手を握った。小学生の頃から馴染んでいる温もりが、彼らに広がる。
「あったかーい……ふふっ、私達本当のカップルみたい」
「それこそお前の好きな人とやらに言ってやれよな……絶対喜ぶだろ」
……自分を恨みたい、と凛音は思った。今すぐにでも、自分の気持ちを彼に伝えた方が良いのだろうか。
悩んだ末、彼女はこう口にした。
「……仮に聖夜がその立場だったら、嬉しい?」
バレるかもしれないというのは凛音も覚悟の上だ。だが悲しいかな、聖夜は恋愛的な勘違いが絶対に起きないよう気を付けている人間なのだ。そのため、まさか自分を好いているのだとは夢にも思わないのである。
「そりゃもう。凛音がそう思ってくれてるなら、男冥利に尽きるってもんだ」
「そ、そうなんだ……」
こういう時、女性は男性の鈍さにもどかしくなるものだ。しかし残念、世の男性は大体こうなのである。特に男子高校生などは、勘違いの怖さをよく知っているためその傾向が強い。勘違いしたまま玉砕する者も結構いるが。
……凛音も聖夜も気付いてないのだろうか。彼が今言ったことは、すなわち告白されたら受けるという意味だということに。まあ気付いてないからこの関係のままなのだろう。
「あ、そうだ。飯食う前にゲーセン寄っても良いか?」
「えっ?良いけど……また音ゲー?」
「むしろそれ以外やらないって。凛音もやるだろ?」
「……グルコスだったら負けない」
「maimaiは?」
「論外」
「ですよねー」
聖夜はもちろんの事、凛音も音ゲーに関してはかなりの腕を持っている。この二人はリズム感が抜群に良いのだ。ちなみに凛音はグルーヴコースター、聖夜はチュウニズムが得意である。
と、急に聖夜が俯いた。まるで、何かから隠れようとするかのように。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと知り合いが居て……」
あの子今日オフなのか……という聖夜の呟きを聞いた凛音は、無意識的に彼の視線を追う。果たしてその先には、黒髪を伸ばして眼鏡をかけた、あまり目立たなさそうな同い年くらいの少女がいた。しかし目立たないとはいえ、見た目は美人である。
「……誰?」
「……気付いたか。まあ、音楽業界での知り合いだよ。名前は言えないけど」
「それは別に良いけど……あの子の事、他に誰か知ってたりする?」
「うーん……いや、俺の知り合いじゃ誰も知らないな」
そもそも、聖夜が『Luna』のメンバーだと知っている人自体ほとんどいない。
「そう……にしても、随分な美人じゃない。あんな人と知り合いだったなんて……」
「別に良いだろー。確かにめっちゃ可愛い子だけど、恋愛的な何かがあるわけでもないしさ」
「……本当に?」
「本当だって」
凛音としては気が気でない。今もただでさえライバルが多いのに、知らない所でさらにライバルが居るとなると……。
ちなみに、聖夜にもある悩みが発生していた。さっきの少女、実は聖夜の一歳下なのだが……彼の事を非常によく慕っており、会えば十中八九絡んでくるのだ。もちろん彼はそれが嫌なわけでは無いが、今日は凛音が居る。もし会えば、美人が二人、確実に人の目を集めてしまうだろう。
そしてそうなれば、最悪正体がバレかねない。そうならないためにも、今回はなるべく避けようと思う聖夜であった。
「ほら、行こうぜ」
「……そうね。後で詳しく聞かせてもらおっと」
「だからなんでもないんだって……」
まるで浮気を疑われてるみたいだな……と聖夜は苦笑しながら思う。なんともまあ、過保護な友人が多いものだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レイクタウンkaze内部にあるゲームセンターから出てくるは、美男美女の一組のカップル。……客観的に見て、ではあるが。
「いつの間にそんな上手くなってたんだな……勝てるとは思ってなかったけどさ」
「グルコス以外じゃ勝てないけどね……」
そんな会話をしているのは、もちろん聖夜と凛音だ。
「つーか、途中からギャラリーめっちゃ居たよな」
「それは仕方無いよ。あれだけ高難度の曲ばっかりやってたんだから」
「そうだよな……しかも凛音、全部フルコンだったし」
「あれはたまたまだってば。聖夜こそ、『Marry me nightmare』でワンミスやらかしただけじゃない」
「いや、そのワンミスすらやらかさなかった人に言われても……」
愚痴を言いながらも笑っている聖夜と、それに釣られて頬が緩む凛音。ああ妬ましい、と周りの人が思うくらいにお似合いのカップルである。
そして彼らはフードコートへ。楽しそうに店を選ぶ彼らだったが、しかしここで問題発生。
「……月夜さんっ」
「うわっ……と。……久し振りだね、鈴華ちゃん」
聖夜の背中に、彼らが先程見かけた少女が軽く衝突してきたのである。もちろん、その少女は相手が聖夜だと分かった上で。
彼女の名……というより芸名は『藤鈴涼華』。有名な七人組アイドルグループ『レインボーハート』のメンバーの一人だ。
「久し振りです!……で、今デート中なんですかー?こんな可愛い人連れちゃって」
「変な詮索はやめてくれ。ただ友人と遊びに来ただけだよ」
「あ、そうだったんですか。まあ、月夜さんに恋人なんてありえなさそうですもんね」
「確かにその通りだけどさ……もう少しオブラートに包んでくれるとありがたいんだが」
「違いますよー。月夜さんにふさわしい人なんてそうそう居ないって意味です。………良いですか?」
「ああ。………撒くぞ」
仲良さ気に話していた彼らだったが、次の瞬間には小走りでその場所を後にしていた。突然の事に凛音は驚くが、聖夜はその手首を握り、涼華と共にいくつかある通路をあちらこちらへと駆け回る。
「ちょ、ちょっと!どうしたの!?」
「悪い、もう少ししたら話す!」
そうすること二分。彼らはmoriへと続く連絡通路を歩いていた。
「……で、さっきのは一体何だったの?」
「ああ……尾行られてたんだよ、鈴華ちゃんが」
「え、それって……」
「そう、いわばストーカーかな。何らかの原因で正体を怪しまれたか、それとももっと前から尾行られてたか……まあ、この業界じゃたまにある事なんだけどな。俺も経験あるし」
「でも、やっぱり少し怖くなっちゃって……それで月夜さんを頼らせて頂いたんです」
安心したように聖夜に寄り添っている涼華。それを見た凛音は、これこそ本物のカップルみたいじゃないか、と思わざるをえなかった。それに気付き、慌ててその思考を追い出す。
「……まあ、分かったけどさ。それより色々聞きたい事あるんだけど、良いよね?」
「どうぞ。……ああそうだ。鈴華ちゃん、こいつは俺が『御月零夜』だって事を知ってるから、そこんとこよろしく」
「えっ?わ、分かりました」
「じゃ、質問ね。まず一つ目、この子は誰?」
「あ、はい。えっと、あまり大きな声では言えないんですけど……『レインボーハート』の藤鈴涼華と申します」
小声で囁いてきた涼華のその言葉に、凛音は思わず声をあげそうになった。慌てて口を抑え、代わりに聖夜へと目を向ける。
「えっ!?そ、それってホント?」
「本当だよ。正直、俺よりも有名な子だ」
「やめてくださいよー、恥ずかしいから……」
……なるほど、言われてみれば似ている。眼鏡を外し髪を紫に染めたら、そのまま『藤鈴涼華』だ。彼女は聖夜ほど変装が上手くないらしい。
「あのレインボーハートの……凄い有名人じゃない」
「いえいえ、そんな……私達よりも、月夜さんの方が凄いですよ」
「なーに言ってんだか。俺達と鈴華ちゃん達とじゃ知名度が違い過ぎるだろ」
「それよそれ、その呼び名よ。『月夜』とか『鈴華』とか、何なのそれ?」
「あー、これか?簡単だよ。『御月零夜』、『藤鈴涼華』。……分かっただろ?」
「まあ何と言いますか……お互い正体をバレないように呼び合うための、あだ名みたいなものです」
そういうものなのか、と凛音は納得する。有名人は大変なんだな……と、彼女には他人事のように思えた。それと同時に、聖夜が少し遠い存在に感じてしまった。
「……で、鈴華ちゃんは今日オフなのか?」
「そうなんですよー。だから、ちょっと遠出してきたんです。帰りに月夜さんの家へも寄ろうかなって思ってたんですけど、まさかここで会えるなんて」
「ホントそれな。……じゃあ、この後うちに来るか?」
「良いんですか!?やった!……あ、じゃあ月夜さん、申し訳ないんですけど……帰る時送って頂けませんか?」
「構わんけど、どうしてまた急に?」
「月夜さんのあの紅い車に乗りたいんです。えっと……」
「ああ、RX-7にか。……そうだ。じゃあ夕飯食ってくか?」
「えっ?い、良いんですか?そこまでしてもらっちゃっても……」
「折角来てくれるんだからな。……凛音も来るか?」
「へっ?……あ、私も良いの?」
「そっちに何か用事が無ければ、だけどな。どうだ?」
「……じゃあ、お邪魔していい?」
「了解。んじゃ、買う物に食料も追加で」
「えっ?まさか、月夜さんの手料理ですか?というか、月夜さんって料理出来ちゃう系男子なんですか?」
「ばっかお前舐めんなよ?俺独り暮らしだからな?そんくらい出来て当たり前だって」
「それは知ってますよ……料理出来るって聞いて、意外だなって思ったのは認めますけどね」
「……まあ、楽しみにしといて下さいな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「聖夜、これって面白い?」
「ん?ああ、シリアスとギャグが上手いことマッチしてて俺は好きだな。持ってるけど、貸そうか?」
「ううん。自分で買うよ」
今、彼らは本屋に居る。凛音と聖夜はラノベを、涼華は雑誌コーナーを見ていた。
しかし、凛音が買う物を決めたので、二人は涼華の元へ。そこで彼女は、色々なファッション誌などを回し読みしていた。
「悪いな、待たせちゃって」
「いえいえ、お気になさらず。こういうのを読んでるのも楽しいですから」
「あ、これ音楽雑誌じゃない。……って」
「どうした?………こないだのやつだな、これ」
傍らに置いてあった雑誌を何気なく見ていた凛音が、ふとページをめくる手を止めた。その驚きの表情を見て聖夜もそのページを覗き、刹那に合点する。
そこには、『Luna』の五人が写っていたのだ。その写真の隅には紅い車……聖夜のFDも写っている。
「ああ、あのイベントの時のですか。月夜さんが車で来てて、皆驚いてましたよね」
「仮にもアーティストが、あんな改造車に乗って来たんだからな……そりゃ驚くだろうし、マスコミだって食い付くだろうさ」
それにしてもまあ、見事な角度で写してくれたものだ……と、聖夜はそのページを流し読みする。
「『私達もそれなりに有名にはなってきましたけど、メジャーデビューとかは考えてないですね』……うっわ、俺インタビューでこんな事言ってたのか……格好付け過ぎだろ」
「別に良いんじゃないですか?月夜さん達が格好良いのは事実なんですから。私達レインボーハートのお墨付きですよ!」
「ありがとな。……少し気恥ずかしいけど」
そう言って聖夜は照れくさそうに涼華から目を逸らした。それが分かっているのか、涼華も同じように照れくさそうにしている。
……何故か、凛音にはそれがつまらなかった。それが軽い嫉妬だとは、本人は気付いていないが。
「……んで、凛音はそれ買ってくるんだろ?……ほれ」
「えっ?……これって図書カードじゃない。わざわざ払ってもらわなくても……」
「良いんだよ。どうせ俺は使わないから、凛音が使ってくれ」
凛音が渡されたのは千円分の図書カード。もちろん彼女はそれを返そうとしたが、彼は頭を掻きながら言う。
「……まあ、なんだ。デートなんだから、男に払わせてくれよ」
「……そういう事なら。ありがとね」
高名な家の出身だからか、聖夜は女性に対して様々な気遣いをする。しかし、今の彼からはそんな事は感じられず、『デート』というものの中にある、ただ一つのしきたりとしてそうしてくれたのだと凛音は気付いたのだ。だからこそ、それを断るのは無粋だと彼女は感じた。
「きゃー、月夜さん優しい!」
「やめれ。……鈴華ちゃんも何か欲しい物あるか?」
「あ、じゃあ何かアクセサリーとか……大丈夫ですか?」
「了解。ただ、少しは加減してくれよ?」
「やった!大好きっ!」
満面の笑顔を浮かべた涼華は聖夜に飛びつき、そして。
「んっ……」
彼の頬に素早くキスをした。
それは、凛音にとってあまりにも衝撃的な光景だった。だがしかし、聖夜にとってはそんなでもないようで。
「……鈴華ちゃん。気持ちは嬉しいんだけど、外ではやらないで頂けると……」
「だって最近させてくれなかったじゃないですか。……もっとしてあげたって良いんですよ?」
「やめてね?目立つから」
「えー……甲斐性ないですね、全く……」
やれやれと涼華が首を振ったところで、凛音はようやく再起動。
「せ、聖夜!あなた、普段からあんな事されてるの!?」
「ちょっ、騒ぐなって!……こっちにも色々あるんだよ」
静かな書店の中だというのに思わず騒ぎかけた凛音を、聖夜は慌てて宥める。しかしそれでも、彼らは既に若干注目を集めてしまっていた。
そして彼は、その視線達が好奇から疑念に変わったのを敏感に感じ取っていた。
「やっべ……凛音、一旦別れよう。俺らは外に出るから」
焦りを含んだその声に、凛音と涼華も事態に気付いたようだ。
「……分かった。どこにいる?」
「フードコートで。……じゃあ鈴華ちゃん、行こうか」
「……了解です」
ここで彼らは一旦別れる。凛音は素知らぬ顔でラノベや参考書などを再び見に行き、聖夜と涼華は連れ立って本屋の外へ。
二人はあえて堂々と手を繋いでいる。さっきの状況を見られていた以上、いっそこうしてしまった方が怪しまれないのである。目の前のカップル然とした人達が、まさかあの人達であるわけ……という先入観を利用するのだ。
まして、聖夜は制服を着ている。有名人なら、こんなに堂々と身分を明かしている奴も居まい。
「……こうしてると案外バレないもんだな」
「ええ。ただ、やっぱり視線は集まってますけど……これ、万が一バレたら大スキャンダルですよね」
「そりゃそうだ。…………よし、じゃあ座れる所探すか」
幸い正体が明かされる事もなく、彼らは無事フードコートへとたどり着く。
そして席を探していると、運良く近くの四人席が空いた。
「よっと。……ふいー、やっと一息つけるな」
「そうですね。……で、もう一回キスしても良いですか?」
「なんでその話に戻るんですか……変な誤解されるからやめような」
「むー……」
わざとらしく頬を膨らませるその姿は可愛らしく、そしてあざとい。しかし、これは親しい相手の前でしか出さない仕草なのだ。
「はいはい。それより、何食べるか決めてきたらどうだ?俺は知ってるから良いけど、鈴華ちゃんはここにある店よく知らないだろ?」
「うっわスルーしましたね……でもまあ確かにそうなんで、ちょっと失礼します」
丁寧に椅子の乱れを直してから、涼華は店を物色しに行った。それを聖夜はぼーっと見つめる。
(……なんで、あの子はあんなに慕ってくれてるんだろうな)
ふと湧いた一つの疑問。それは、彼が半年あたり前から漠然と考えていた事であった。
どう考えても不思議だ。同じアーティストだとはいえ、本物のアイドルグループとネット中心のバンドじゃ知名度なり何なりがまるで違う。
しかも、向こうはかなりの美少女だ。いくらなんでも、自分では到底釣り合うものじゃない。……と、聖夜は思っているのだ。ましてや、頬にとはいえキスまで……。
しかし、それはごく単純な理由でしかない。涼華は零夜が『好き』だから。ただそれだけなのである。彼女には、それ以上もそれ以下もないのだ。
無論、聖夜がそれに気付くことはない。というより、彼がもしそれに気付けるような人間であれば、今頃誰かと付き合っているだろう。彼に想いを寄せている少女達は意外と多いのだ。
(そういや……鈴華ちゃんってやけに所作が綺麗なんだよな。どっか良家の子だったりするのかな)
もう一つ湧いた疑問。彼が思っている通り、彼女の所作は細かいところまで美しいのである。付け焼き刃ではなく、きちんと深く染み付いている……普通の高校生じゃまずあり得ない領域にまで。
(結構良家の人間が多いうちの学校だって、あそこまで出来てるのは汐織とか瀬那ちゃんくらいのもんだ……あまり表舞台に出てこない家の子かもな)
一瞬聞いてみようかとも思ったが、やめた。
(……ま、いずれ分かるだろ)
そういう事を安易に聞いてはいけないということを、聖夜はよく知っている。自身もその身であるからだ。
「お待たせー」
「お、やっと来たか」
彼がそんな思考をしていると、そこに凛音が合流。
さてこのデート、何やら波乱が起きそうだ。