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3話〜月影聖夜、とは〜


PM8:10 茨城県下妻市近郊。


「いやー……人生観変わりました。FRってあんな風に動くものなんですね」

「ははっ、そう言ってもらえるなんて光栄だな」


ちょうど先程、サーキット走行を終えた俺と深央ちゃんは帰路に着いていた。


……ちなみに、あの後も結構大変だった。『ハチロク姉妹』による嵐のような訪問が終わった後、約束通り柊先生……もとい、美奈子さんが来たのだが……うん、あれは気合い入り過ぎだったな。




――――――――――――――





――――――――





――――





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……聖夜君、ちょっとドッグファイトしない?」

「……いや、マジで言ってんすか?」


美奈子さんが来てから約三十分後。唐突にそう提案され、俺は少なからず戸惑う。


「別に良いじゃない。腕がなまっちゃってて仕方ないのよ」

「まあ、それには同意しますが……負けませんよ?」

「私だって。同じマツダ車同士、手加減は無しよ」


そう言って、彼女は自分の愛車をぽんと叩く。そこには、シルバーに輝くオープンカーがあった。


彼女の愛車は『マツダ ロードスター ND5RC型 NR-A』。最新鋭の直噴1.5Lエンジン『SKYACTIV-G 1.5』をフロントミッドシップに搭載し、コーナーリング性能と軽さに長けたスポーツカーだ。NA(自然吸気)なため馬力こそ俺のFDより低いが、後付けでスーパーチャージャーを搭載しているためバランスが非常に良い。そのため、コーナーの多いこの筑波サーキットでは厄介な相手である。


外装パーツとしては、ボンネットをカーボン製に、それにGTウイングを付け、そしてMAZDA SPEED製のフロントバンパーとサイドフェンダーを付けている。彼女はあまり派手な外見を嫌うため、このくらいが丁度良いとのこと。


「深央ちゃんが仕上げてくれたこのFDに勝てますかね?」

「へえ……なるほど、もうそんな腕前になってるのね」


凄いねー、と深央ちゃんを興味深げに見る美奈子さん。


「あ、ありがとうございます……」

「本当にいい子ねえ。……それにしても、うちの学校には美少女がたくさん居るわね。うちのクラスにも三、四人くらい居るし」

「まあ確かに深央ちゃんは可愛いし、うちのクラスの人達もそうですけど……流石に別格なだけだと思いますよ」


まあね、確かに美少女は多いよ? ラノベなの?ってくらいには俺の知り合いにもたくさん居るよ? ハテナ量産し過ぎて草。


まあ、お約束の展開なんて起こらないだろうけどな。俺は主人公じゃないし。何言ってんだ俺。


「って、そんな事はどうでもいいや。それより美奈子さん、路面見てきた方が良いんじゃないですか? 今日、結構湿ってますよ」

「あー、まだ残ってるの? じゃあちょっと合わせてくるわね」


意外そうに言って、彼女は素早くコースイン。……というか、車への乗り込み手慣れ過ぎだろ。明らかに若い女性の動きじゃなかった。……レーシングスーツ着てる時点で今更か。


と、袖をちょんちょんと引っ張られた。


「……ねえねえ、聖夜先輩」

「ん?」

「あの人って本当に教師ですよね?」

「ああ、そうだけど……どうしたんだ?」

「いえ、その……先輩が下の名前で気さくに呼んでいたので、ちょっと分からなくなっちゃって」


「あ、なるほどね……一応、これにも理由があるんだけど。あの人曰く、学校では生徒と教師、プライベートでは走り屋仲間、っていう関係が良いんだってさ」

「へー……なんだか変な関係なんですね」

「全くだ」


奇妙なものである。初めてサーキットで会った時は心底驚いたものだ。自分の担任が居りゃビビりもするが。


「ま、とりあえず美奈子さんを待ちましょうかね」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「じゃあ、位置に付いてくださーい」


美奈子が四周ほどこなし、セッティングを終えたころ。深央のその声に、聖夜と美奈子はスタート位置へ愛車を持っていく。ちなみにこのバトルは、美奈子の希望で先行後追い形式になっている。美奈子が先行で、聖夜が後追いだ。


(お互いオーバーの出やすいコンディション……どこまで無駄なホイルスピンを無くせるか、だな)

(どっちもFRでフロントミッドだけど……この路面なら、ハイパワーターボのFDの方が辛いはず)


お互い遊びと解っていながらも、割と本気になって作戦を考え始める。


熟考の末、聖夜はコーナーでの勝負を出来るだけ避ける事に決めた。それに対して美奈子はといえば、こちらはコーナーで攻めていくようだ。


「カウントいきますよー! 5秒前、4、3、2、1……」


深央が指折り数える中、両者のエンジン回転数が一気に上がり……


「……GO!」


お互いの見事なクラッチミートをもって、バトルはスタートした。


第一コーナーは、そんなにスピードも出てないため両者の距離は変わらない。そして次の緩いS字を軽快に抜け、第一ヘアピンへと飛び込む。


(くっ……攻めてんなあ。結構ギリギリ)


そこでのブレーキングで僅かに負け、聖夜はほんの少しだけ離された。それはたった一つのコーナーで見れば僅かなものだが、それが四つ五つと続けば目に見える差となってしまう。それが分かっている聖夜は、次のダンロップコーナーは立ち上がり重視のラインで駆け抜けた。


無論そこでも突っ込みで少し離されるが、そこを抜ければ、次の右ヘアピンまでにほんの僅かな全開区間がある。馬力(パワー)で勝っている聖夜のFDならば、その僅かな区間でも差を縮めることは可能だった。


……だが、しかし。第二ヘアピンへ入ろうとブレーキを踏んだ時、聖夜は驚く事となる。


(うわっ、一周目からあんなレイトブレーキング……)


あまりにも遅く点灯したNDのブレーキランプ。だが、それはまるで消えるかのような速さで軽くドリフトしながら理想的なラインを抜けていった。明らかにやり過ぎだと誰もが判断するスピードからでも、美奈子のNDは曲がってしまうのだ。


(やばいやばい、このままじゃ一周目で勝負着いちまう……しゃーない、あれやるか)


驚きはしたが、聖夜だってこのまま負けるつもりなど毛頭無いのである。咄嗟の判断で彼はFDをアウトから目一杯インに切り込ませ……縁石とダートの間にできている段差にイン側のタイヤを引っ掛けた。それによってほんの少し遠心力に抵抗したFDは、普段よりも数段速いスピードでヘアピンをクリアする。


ある漫画でお馴染みの『溝落とし』、その改変版だ。……まあ、サーキットの段差は大したものじゃないし、スピード域も峠とは違う。そんなに大きな効果は期待できないが、馬力差がある場合は中々に有効な策だ。


さて、そこを抜ければこのコースで一番長いストレートに入る。先程のコーナーを上手く立ち上がった二台だが、馬力差により再びテールツウノーズとなった。


(追いつかれた……? なるほど、溝落としね)


そこそこ自信あったんだけどなあ、と美奈子は感嘆する。16であの腕前……一体、彼はどんな練習をしてきたのだろう。


(……ま、いっか。それより、次の最終コーナーはギャラリーも注目するだろうし……少し魅せようかしら。もちろん、聖夜君とね)

(……了解。じゃあやってやりましょうかね……マツダ車同士の並列(パラレル)ドリフトを!)


最終コーナー前で遅めのブレーキングからテールを大きく振ったNDを見て、聖夜も美奈子のやろうとしている事を察した。その後に続いて聖夜もサイドを引きながらテールを振り、角度をつけてNDに近付いていく。


二台がコーナーに飛び込んだ瞬間、ギャラリーが大きくどよめいた。


「うわ、すげえビタビタ!」

「めちゃくちゃ速い!なのになんであんな近付けるんだ!?」

「本当にクルマなのかよ、あれ……!」


その視線の先には、接触すれすれに側面を近付けている銀と真紅のクルマ。まるでD1さながらの光景に、そこに居た人達は皆、衝撃を受けていた。


(よしよし、テンション上がってきた……!)

(ここまでされちゃあ、負けるわけにゃいかないよな……意地でも食いつく!)


そして、知らず知らずの内に二人のモチベーションも上がっていき、バトルはさらに白熱していく。




――――




――――――――




――――――――――――――





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「結局、八周しても勝負着かなかったんだよな……」

「完全に膠着してましたもんね。それに、途中からクルマのコンディションも怪しかったでしょ?」

「ああ……こっちは溝落としのやり過ぎでサスのバランスが少し狂い始めてたし、向こうはブレーキ抜けかけてたしな。タイヤもやばかった」

「途中から凄いカニ走りでしたからね……それでも速いなんて、私には理解出来ないです」


そう驚く深央ちゃんに、俺も心の中で同意する。実際、今日のドリフトは美奈子さんに引っ張ってもらった感が強いものだった。俺一人であの角度と速さが出るかと言われると、それは微妙である。


「先輩の走りも、やっぱり凄かったなあ……ナビに座った時はワクワクしましたもん」

「それは何よりだけど……怖かったりしなかったか?」

「はい、信頼してたから全然怖くなかったです!」


出会って一日も経ってないのに、まさかのドラテク信頼宣言である。まあ、弘也さんから色々聞いてたのだろうが……。というか、女の子って強いんだな。瞬とか他の男なら二周も保たないんだけども。


「……ありがたいね。信頼してくれてるなんて」

「当たり前じゃないですか。じゃなきゃ、男の人と二人でなんて出かけませんし」


……あら、ドラテクの方だけじゃなくて人間的にもでしたか。俺ってそんなに良い奴だっけ。……確かに、年下の子には妙に懐かれるけど。


「割と貞操観念しっかりしてんだな。なんかこう、男とかと遊び慣れてる感じがしてたんだけど」

「何ですか、先輩そんな風に思ってたんですか? 少しがっかりです……」

「いや、ごめん。仕草とか容姿がかなり可愛いから、中学の頃からよくモテてたんじゃないかなって思って」


何気なく飛び出した俺の本音。しかし、返事が無いので訝しく思い彼女の方を見ると、それはもう顔を赤くしてそっぽを向いていた。そして、ボソッと一言。


「反則ですよ、それ……」


……うん。残念だけど、俺って別に難聴系じゃないんですよね。つまるところ、今の呟きもバッチリ聞こえちゃってたわけで。


「どういう意味だ? それって……」

「せ、先輩には関係無いことです!」


そう必死に否定する深央ちゃんを見て、多分何か裏があるんだろうなとは思いつつも……まあいいか、と流して済ますのが俺なのである。納得はしてないが、意味が分かっているわけでもないし。


「ま、それなら別に良いか。……とまあすっかり忘れてたんだけど、夕飯は何にする?」

「あっ、忘れてました。……うーん、先輩は何が良いですか?」

「何でも良いよ。……って言うと怒られそうだから、そうだな……とりあえず、がっつり食べたいな」

「ふむふむ……あっ! じゃあ焼肉でも行きませんか?」

「おっ、いいなそれ。帰りには……ああ、いくつかある。食べ放題でも平気?」

「はい。むしろ行きたいです!」


じゃあ決まりだな、と言って俺は頭の中で道筋を立てる。……よし、あそこでいいか。割と有名なチェーン店だし、注文の仕方もそう大きくは違わないだろう。あそこなら、困るようなことも無いはずだ。


……よし、行きますか。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



……深央は、柄にもなく緊張していた。


元々彼女はあまり緊張などしない。しかし、同世代の男の人と二人きりでご飯を食べる……そんな初めての経験に、彼女はどうしたらいいのか分からなくなっている。もちろん、表には出さないようにしているけど。


そんな事を思っていながらも、彼女の目はついつい聖夜を追ってしまっている。車を降りるところ、歩くところ、店員と会話するところまで………。


(……もう、先輩ったら全ての所作がカッコいいんだから)


何故かは本人も分からないが、とにかく深央は彼に惹かれてしまっているのだ。彼の動きには全て、隅々まで教養が行き渡っているように感じた。


(不思議……普通の高校生じゃないみたい。今まで会った人達とは何かが違うのよね)


そりゃ、免許を持ってる時点で普通じゃないって事は分かってるけど……でも、それだけじゃない気がする。まるで、どこか上流階級の人間のような、そんな気がした。今までそういう人とは会ったことがないから、あくまでも想像にすぎないのだけど。


(でも、なんでそうなんだろう。私、全然先輩の事知らないなあ……)


優しくて、品があって、芯が強い……深央が分かっているのは、それだけだ。


もっとも、出会って一日目――今まで何度か話くらいはした事があるが――の気になる異性相手に曲がりなりにもデートを申し込めたこと自体、彼女にとっては大きな進歩であったが。


「……深央ちゃん、どうかした?」


声を掛けられて、彼女の思考は中断される。見ると、不思議そうな目で聖夜が深央を見つめていた。……ちょっと恥ずかしいかも。


「い、いえ。なんでもないです」

「そうか? なら良いけど」


聖夜はさして疑問を持つことも無く、彼女と共に案内された席へ着く。座る時もきちんと深央がブレザーを脱ぐまで待っていたあたり、きっちりしているなと深央は思った。ますます、聖夜の立場が気になってくる。



……昔から、深央は人の内面を見るのが得意だった。でも元々は、父親の真似をしてただけ。仕事で相手する人がどんなドライバーなのか、それを見抜いてた父親を見て、深央も無意識的にやり始めたことだ。正確だとはあまり言えないかもだけど、これがきっかけで彼女自身の人間関係が変わったこともあったくらいだから、まあそれなりに当たるのだろう。


だから、聖夜の事もすぐに信頼できた。というより、あれだけ男に対するガードが固そうな雪宮さんが懐いていたのだから、悪い人だとは思わなかった。もっとも、初めて見た時から興味はあったのだけど。


そして、今日一日近くで見ていただけで色々な事に気付けた。彼は常に些細な気遣いを忘れず、礼儀を疎かにしない。内に秘めたクルマへのこだわりは強く、爽やか系な見た目からはあまり想像出来ないような感覚的なドライビングをする。


……あと天然スケコマシ。意識はしてないのだろうけど、女性の気持ちを揺さぶるような言動を自然に出していた。もしかしたら、雪宮さんもこれにあてられたのかも。そりゃ惚れちゃうよね。イケメン過ぎるもん。


「……聖夜先輩」

「ん、どうした?」


そこまで考えた深央は意を決し、聖夜に声を掛けた。彼の事を、もっと知る為に。


「先輩のご趣味って、なんですか?」


唐突なその質問に、聖夜は再び不思議そうな目で彼女を見る。だが、さして気にも留めず。


「趣味か……朝の自己紹介でも言ったっけなあ。……まあ、クルマの運転、それと歌うこと。あとは、ボウリングとスキーかな」


どうやら、随分と多趣味のようだ。多分どれも上手なんだろうな……と、深央はなんとなく思う。それに、自分と一つ被るものがあるのが嬉しかった。


「……私もスキー、やるんですよ?」

「へえ……じゃあさ、次の冬に行ってみないか?」



えっ?



あまりにも唐突なその誘いに、深央は思わず聖夜を見返してしまった。すると彼は何を勘違いしたのか、


「ああ、安心して。瀬那ちゃんとかも居るから、決して変な事はしないよ」

「あ、いや、そういう事じゃなくてですね……私なんかで、本当に良いんですか?」


先輩と今デート出来てるだけでも奇跡だというのに、こんなトントン拍子に話が進んでしまって良いのだろうか。嬉しいことには嬉しいけど、何故か不安になってしまう深央であった。


ところが聖夜は、何を言っているんだとばかりに微笑んで。


「深央ちゃんが来て嫌がる男が居るなら、そいつは見る目がない愚か者さ」


その意味をしばらくしてから理解した深央は、顔が赤くなるのを止めることが出来なかった。当初の自分の目的を既に忘れかけており、ただただ恥ずかしいやら照れるやらの感情を必死に整理していた。


(先輩、そんなだから天然スケコマシなんですよ……)


彼女がそう心の中で毒づいたのも仕方無いと言えよう。だって今のは、女性なら誰もがときめくはずだから。


「……先輩ってモテますよね?」

「うーん……まあ、普通だな。何回かは告られた事もあるけど」


何を隠すというわけでもなく、淡々とそう言った聖夜。ああやっぱり、と深央はここではあまり驚かない。


「じゃあ、付き合っている人とかは?」

「まさか。もしいたなら、こんな風に深央ちゃんと遊びになんて来てないさ」

「あ、確かに……すみません、変な事を聞いちゃって」

「気にしないさ。……あ、でもさ」


そういうと彼はいたずらっぽく笑って、


「……FDっていう恋人ならいるよ」

「……ぷっ、あはははっ……何ですかそれっ……」


……やばい、ツボった。まさか彼からそんな発言が出るなんて……。


「どんだけFD好きなんですか、もう……」

「……今のそんなにツボったか?」

「クルマが恋人なんて、私初めて聞きましたよ」

「別に良いだろー。実際、FDのカッコよさに惚れてんだから」


まあ確かに、あのクルマはカッコいい。FDユーザーの中には、同じように思っている人だって結構居るだろう。


……とまあ、これで深央の緊張は解けた。


「……ふう、笑った」

「まさかここまで笑われるとはな……」

「で、話変わるんですけどー」

「唐突過ぎて草生えるわ。で、なんだ?」


今の応酬に深央はまた吹き出しそうになったが、とりあえずそれは飲み込んで。きっとここからは、また少し緊張することになるだろう。


彼女は意を決し、口を開く。



「………好きな人って、いますか?」



…………言っちゃった。



この思わぬ質問に、聖夜も虚を突かれたようだ。返答までに、少しの間があった。


「好きな人、ね……ごめん、恋愛はイマイチ分からなくて。気になってる人、ならいるんだけど」

「……それって、誰の事なんですか?」


恋愛は分からないとか言っときながら、気になる人はいるらしい。


「こう言っちゃアレだけど……なんというかさ、複数人いるんだよ」

「複数、ですか?」

「ああ。……こう言うと、節操無しとか思われるかもしれないけど」


自分自身に納得出来てないような顔でそう言う聖夜。


「……なにせ、俺の周りにはやけに美人が多いもんでな。気にするなって方が難しいんだよ。今日のハチロク姉妹も、深央ちゃんだってそうだけどさ」


(だから、なんでこの人はサラッとそういう事を……)


またもや頬が染まるのを禁じ得ない深央だったが、口には出さない。


「気になる人ってのは、まあその全員。その人達の誰かと付き合えるなら嬉しいだろうな、って思うわけだ」


そこまで言うと、彼は浅く息を吐いた。


「誰かと付き合うなんて事、俺には無理だって分かってるんだけどな……そもそも、俺じゃ釣り合わないだろうけどさ」

「いやちょっと待ってください」


思わず深央が突っ込む。今の彼の発言が、聞き捨てならないものだったからだ。


「遮っちゃってごめんなさい。でも……聖夜先輩が釣り合わないなんて、そんなのありえないです」


そう。こんなに良い男性が、自分は誰とも釣り合わないなんて……そんなの、謙遜を超えて卑屈なだけだ。


だからこそ、深央は……ささやかなお返しの意も込めて、彼に言ってやるのだ。緊張? そんなの知らない。


「先輩は、世の男子の中で一番カッコいいですよっ」


こっちも、いたずらっぽい笑顔が出来ただろうか。それは分からないが、言われた聖夜は若干気まずそうにしていたので、まあよしとしよう。


そして、さらに追撃。


「あ、今のは世辞とかじゃないですからね?」

「……ありがとう。じゃあ、言葉通り受け取るよ」


なおも気まずそうにしながら頭を掻いている聖夜を見て、もっと自分に自信を持って欲しいなあ……と、深央は思うのだった。







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